第 2 章 エネルギー整形非線形制御の制御性能の検証(台車型倒立振子を対象とした検証)
2.6 シミュレーション
前節で示した設計法を用いて導出したIDA-PBC制御系を,従来研究のもの[93] とシミュレーションに より比較する.Table 2.2に示す3種類の制御系を使用する.Case 1は従来研究と同じパラメータを用い た制御系を表す.Case 2 は運動エネルギーの整形による過渡応答の速さの改善を検証するためにMcの みを調整し,他のパラメータはCase 1と同様とする.Case 3ではIDA-PBC制御系の全てのパラメータ を調整して制御性能を検証する.重力加速度はg9.81 m/s2とする.Table 2.1に示す台車型倒立振子の 物理パラメータは従来研究[93] と同じものである.
(a) Pendulum angle (b) Displacement
(c) Input force (d) Total energy of the closed-loop PH system Figure 2.6 Regulator performance the IDA-PBC controllers of Cases 1 and 2
[rad][rad]
0 5 10 15 20
-0.05 0 0.05 0.1
time [s]
Case 2 Case 1
[m]
0 5 10 15 20
0 0.05 0.1
time [s]
Case 2 Case 1
0 5 10 15 20
-1 0 1 2 3
time [s]
Case 2 Case 1
[N]
0 5 10 15 20
0 1 2 3
time [s]
Case 2 Case 1
2.6.1 運動エネルギー整形による過渡応答への影響の検証
Case 1とCase 2を比較し,Mcを調整すること(Mcを調整することと等価)の有効性を検証する.
シミュレーション結果をFigure 2.6に示す.初期状態は振子角度に0.1 rad を与え,他の値は全て0とし た.目標台車位置はq2q*2 0 m とした.Figure 2.6 (a),(c) はそれぞれ,振子角度および式 (2.45) 中 の台車への物理的な制御入力の時刻歴である.これらはどちらのCaseも類似した過渡応答を示してい る.一方,Figure 2.6 (b) は台車位置の応答の結果である.従来研究のCase 1はCase 2よりも応答が遅 いことがわかる.Figure 2.6 (d) は閉ループPHシステムの全エネルギーを表し,常に正値で単調非増加 となっており,理論通りにLyapunov関数となっている.以上より,Mcを調整することによりIDA-PBC の過渡応答を改善可能であることが明らかになった.しかしながら次項で示すように,Mcの調整は欠 点も有する.
2.6.2 引き込み領域の比較
シミュレーションで用いる3つの制御系に対して,2.5.5項で述べた方法を用いてIDA-PBC制御系の 引き込み領域を計算し,それらを比較する.振子角度の引き込み領域をTable 2.3にまとめた.LQRの 最適フィードバックゲインは次項で示すが,その引き込み領域は振子角度のみに非 0 の初期値を与え,
これを徐々に大きくしていき,安定化を達成可能な最大角度をシミュレーションにより算出した.従っ て振子角度以外にも非0の初期値を与えた場合,Table 2.3のLQRの引き込み領域は変動すると考えら れる.
Case 2の引き込み領域はCase 1よりも小さくなっており,Mcの調整による過渡応答の速さの改善と引
き込み領域の大きさにトレードオフが見られた.しかしながら,引き込み領域の縮小は適切に制御系パラ メータを選択することで防ぐことができることを次項で示す.
(a) Pendulum angle (b) Displacement
(c) Input force (d) Total energy of the closed-loop PH system Figure 2.7 Regulator performance of IDA-PBC and LQR from q10.1 rad
[rad][rad]
0 2 4 6 8 10
-0.05 0 0.05
time [s]
Case 3 LQR Case 1
[m]
0 2 4 6 8 10
0 0.05 0.1
time [s]
Case 3 LQR Case 1
[N]
0 2 4 6 8 10
-2 0 2 4
time [s]
Case 3 LQR Case 1
0 2 4 6 8 10
0 0.02 0.04 0.06 0.08
time [s]
Case 3
2.6.3 適切な制御系パラメータによる過渡応答の性能と引き込み領域の両立
制御系の全てのパラメータの調整を施したCase 3のIDA-PBC制御系をCase 1 およびLQRと比較す る.Case 3のパラメータは,Kdiが減衰効果のゲイン,およびP22は式 (2.83) より台車位置q2に対する ゲインとして働くことを考慮して決定した.Mcは試行錯誤的に決定した.LQRは台車型倒立振子の非 線形運動方程式 (2.38) の全体にml2を掛けたものを倒立状態近傍で線形化し,状態方程式の状態ベクト ルを
1 2 1 2
q q q q T
x として設計した.最適フィードバックゲインと,閉ループ系の固有値をTable 2.4に示す.評価関数は状態ベクトルへの重み行列をQ4 4 ,制御入力への重みをRとして次式と した.
2
0
J
xT t Qx t R t dt (2.94)初期状態は振子角度に0.1 rad を与え,他の値は全て0,目標台車位置はq2q*20 m としてシミュ レーションを行った結果をFigure 2.7に示す.Figure 2.7 (a),(c) から,IDA-PBC制御系は振子角度と制 御入力において LQR よりもやや大きいオーバーシュートを生じている.また,全ての制御系で振子角 度の収束の速さは同程度である.Figure 2.7 (b) の台車位置に関してはCase 3のIDA-PBC制御系が最も 収束が速く,Figure 2.6 (b) に示したCase 2と比較しても速いことがわかる(時間軸の幅が異なることに 注意されたい).Figure 2.7 (d) はCase 3のIDA-PBC制御系を使用したときの閉ループPHシステムの全 エネルギーも理論通りにLyapunov関数となっていることを示している.
Figure 2.8はCase 3のIDA-PBC制御系の引き込み領域を検証した結果である.Table 2.3に示した値を
考慮し,初期状態としてq11.4589 rad を与え,他の初期状態は全て 0 とした.目標台車位置は Table 2.3 Domains of attraction of the pendulum angle
Case 1 ( Previous Study )
Case 2 ( With Tuned Mc)
Case 3 ( Suitable Selection )
Linear Quadratic Regulator 2 q1 2
1.001q11.001 1.459q11.459 1.073q11.073
Table 2.4 Feedback gain of the LQR controller LQR Gain FLQR
31.2 3.16 5.17 4.11
Eigen Value 7.09 j0.52, 1.45 j0.86
(a) Pendulum angle (b) Displacement
Figure 2.8 Regulator performance of IDA-PBC from the edge of the domain of attraction
[rad][rad]
0 2 4 6 8 10
-1 0 1
time [s]
Case 3
0 2 4 6 8 10
0 2 4 6
time [s]
Case 3
[m]
*
2 2 0
q q m とした.システムは安定化されており,過渡応答の速さも初期角度をq10.1 rad とした
場合と同程度である.
以上より,Case 3のIDA-PBC制御系の引き込み領域は従来研究で水平上半面を保証した q1 2 rad のものよりもやや小さいが,過渡応答の速さは LQR と同程度である.制御系パラメータと制御性能の 明確な関係は現時点で明らかではないが,Mcの調整により運動エネルギー整形を従来研究よりも積極 的に行うことで,これまで問題が指摘されていた IDA-PBC の収束の遅さを改善可能であることが明ら かになった.