第 2 章 スイッチング電源の制御器による知能化
2.3 ディジタル制御によるスイッチング電源のシミュレーションおよび制御実験
2.3.3 シミュレーションおよび制御実験での応答比較
38
39
図2.30 DIMCブロック図
図2.31 各制御器でのシミュレーション結果
表2.3 各制御器でのオーバーシュート、整定時間
オーバーシュート(%) 整定時間(ms)
DIMC 0 0.13
積分+ノッチフィルタ 8.76 0.18
積分 23.6 2.27
40
次に制御帯域を4 kHz、外乱を2 msに目標電圧の50 %相当の320 digitとしてシミュレー ションを行った。積分器のみでは発散するために、DIMCと積分+ノッチフィルタでのシミ ュレーション結果を図2.32に示す。また、表2.4には定量的な数値を示している。
2つの制御器の応答を比較すると、表2.3、2.4より積分+ノッチフィルタでは帯域を上げ るとオーバーシュートも増加してしまうが、DIMCでは変化せず0 %のままであることが確 認できる。整定時間は制御帯域が高くなっているため、どちらの制御器でも早くなってい る。また、DIMCでは外乱オブザーバが働くために、積分+ノッチフィルタに比べ外乱に対 するドロップ量が抑えられている。
図2.32 外乱を考慮したシミュレーション結果
表2.4 2つの制御器での各値 オーバーシュート
(%)
整定時間 (ms)
ドロップ量 (%)
外乱に対する 整定時間(ms)
DIMC 0 0.10 46.8 0.26
積分+ノッチフィルタ 19.3 0.16 67.9 0.26
41
積分+ノッチフィルタには積分器がついているため、ノッチフィルタの次数を1つ下げて もシステムはバイプロパーとなる。そこで(2.40)式において𝑛 = 1としてシミュレーショ ンした結果を図2.33に示す。またDIMCの結果も重ねて示す。シミュレーション条件は帯
域を4 kHzとした。ここで積分+ノッチフィルタのオーバーシュートはフィルタが2次の時
よりも改善されて4.53 %となっていたが、次数を下げてもDIMCの方が良い結果が得られ ていることがわかった。
図2.33 フィルタの次数を下げたシミュレーション結果
42
シミュレーションによる各制御器の有効性を確認したため、次に実験を行うことで有効 性の検証を行う。実験条件はシミュレーションと同様に制御帯域を4 kHz、目標値を639 digit、
入力電圧を12 V、サンプリング時間を3.41 s、ノッチフィルタの次数はn = 2、無負荷とし た。制御対象モデルは前節のオフライン同定実験で導出したものを用いた。ステップ応答 実験の結果を図2.34に示す。またオーバーシュートと整定時間を定量的に求めたものを表 2.5に示す。
図2.34より、目標値に対していずれも定常偏差なく追従していることが確認できる。波 形もシミュレーション結果とほぼ同じ形になっている。また、表2.5よりオーバーシュート、
整定時間ともにDIMCでは改善されていることがわかる。表2.4と比較するとオーバーシュ ートが増加しているが、これはシミュレーションを行う際にシステム同定を行いモデルの 低次元化をしたために、実験ではこのモデル化誤差が生じからであると言える。
シミュレーションや実験結果の波形で、DIMCでは制御入力にアンダーシュートが見られ る。これは不安定零点がある場合に見られるものであるが、アンダーシュートの大きさは 許容できる範囲であるため問題ないと考える。
図2.34 ステップ応答の実験結果
表2.5 オーバーシュート、整定時間
オーバーシュート(%) 整定時間(ms)
DIMC 2.82 0.08
積分+ノッチフィルタ 31.9 0.26
43
2つの制御器において、制御帯域を1、2…5 kHzとしたときのオーバーシュート、整定時 間を視覚的に見やすく棒グラフにしたものをそれぞれ図2.35、2.36に示す。図2.35より、
DIMCでは帯域を広げても、積分+ノッチフィルタに比べオーバーシュートが相対的に非常 に小さいことがわかる。
また図2.36より、整定時間において広帯域にするとDIMCでは整定時間が小さくなるこ とがわかるが、これは定常ゲインが大きくなるからである。一方で積分+ノッチフィルタで は一度減少した後に増加している。これは、広帯域にすると応答速度は上昇するが、オー バーシュートが大きくなりすぎて定常状態になるのに時間がかかるためである。
このことから各帯域においてオーバーシュート、整定時間ともにDIMCの方で改善され ており、DIMCの有効性が確認できた。
図2.35 各帯域でのオーバーシュート
44
図2.36 各帯域での整定時間
45
2.3.4 抵抗負荷での制御対象の変動を模擬した制御器のシミュレー
ション結果
出力端に抵抗を付加すると制御対象の周波数特性、特に減衰率が変化することが2.2.3項 のシステム同定結果から確認できる。そこで本項では、制御対象の負荷変動を模擬して数 式モデルの減衰率を変化させてシミュレーションを行うことで、制御器のロバスト性を確 認する。
制御対象の減衰率を+20 %としたときの2つの制御器でのステップ応答のシミュレーショ ン結果を図2.37に示す。逆に減衰率を-20 %としたときのシミュレーション結果を図2.38 に示す。また、減衰率を-40 %~+40 %まで20 %刻みでシミュレーションした時のDIMCで のオーバーシュート、整定時間を表2.6に、積分+ノッチフィルタでの結果を表2.7に示す。
なおシミュレーション条件は制御帯域を4 kHz、サンプリング時間を3.41 sとした。
図2.37、2.38より、負荷変動によるモデル化誤差を模擬した時の出力応答は、赤線のDIMC
の方がオーバーシュートが小さく、立ち上がりも早いため応答の良さが確認できる。また 表2.6、2.7より、減衰率をそれぞれ変化させた時、DIMCではオーバーシュートが0~2.34 %、
整定時間が0.09~0.12 msという振れ幅で変動している。一方で積分+ノッチフィルタではオ ーバーシュートが18.6~27.8 %、整定時間が0.15~0.25 msという様にモデル化誤差により 変動している。つまりDIMCの方がモデル化誤差に対するオーバーシュート、整定時間の 変動が小さく、ロバスト性の高い制御器であると言える。
図2.37 減衰率を+20%としたときのシミュレーション結果
46
図2.38 減衰率を-20%としたときのシミュレーション結果
表2.6 DIMCのオーバーシュート、整定時間 減衰率(%) オーバーシュート(%) 整定時間(ms)
-40 2.34 0.12
-20 0.65 0.11
0 0 0.10
+20 0.33 0.09
+40 1.10 0.09
表2.7 積分+ノッチフィルタのオーバーシュート、整定時間
減衰率(%) オーバーシュート(%) 整定時間(ms)
-40 18.6 0.15
-20 20.7 0.16
0 22.5 0.22
+20 25.4 0.24
+40 27.8 0.25