4.3節で得られたモデル (4.3) をもとに,将来の消費電力量について完全な予測シミュレ ーションを行う.また,過去の消費電力量について予測シミュレーションを行い,モデル
(4.3) の検証を行う.
4.4.1 完全な予測
2010年度のデータから推定したモデルの係数(表 4.9)を用いて,2011年4月から2011 年9月までの半年間における 5号館の消費電力量を予測する.使用するデータは気象庁の 統計データ(2010年4月1日から2010年9月30日まで)と2011年度に発行「後楽園キ ャンパス空調運転予定表」にもとづいている.2011年4月以降のデータについては,「電 力量」の時系列は推定値のみなので,2010年度とは「残差」および「ノイズ」を推定する 方法が異なり,
(残差推定値) (電力量) { (気温) (曜日) (空調) (行事) } (ノイズ推定値) (電力量) (電力量推定値) 年 月 日から 年 月 日まで
(4.5)
および
(残差推定値) ( )(残差推定値) ( )(ノイズ推定値) (ノイズ推定値) 年 月 日から 年 月 日まで
(4.6) -1.0
-0.5 0.0 0.5 1.0
1 6 11 16 21 26 31 36 41 46
自己相関係数
ラグ -1.0
-0.5 0.0 0.5 1.0
1 6 11 16 21 26 31 36 41 46
偏自己相関係数
ラグ
図 4.26 モデル (4.3) による予測
で与えられる.これにより2011年4月1日から2011年9月30日まで逐次計算すること ができるが,予測する期間において「ノイズ」をゼロとおいているので,予測期間が長く なるにつれ,「残差」の効果もゼロに収束していく性質がある.
この結果を 図 4.26 に示す.図中の赤実線は推定した 2011 年度の消費電力量を表し,
赤点線は 95% の信頼区間,すなわち,95% の確率でこの上下区間内に実測値がおさまる 幅を表す.参考として,2010年度における消費電力量の実測値を黒実線で示す.
4.4.2 モデルの検証
ノイズをゼロとおいた場合
モデル (4.3) の係数を用いて,2009年度における5号館の消費電力量を予測する.使用 するデータは気象庁の統計データ(2009年度)および2009 年度の「受変電日報」にもと づいている.2010年3月以前の「残差」についてはこれまでのように,過去の値から推定 することができないので,ここでは後ろ向きの予測,すなわち,翌日,2日後,… の値か ら今日の値を予測することを考える.式 (4.2) に対応する式は
(電力量) (定数) (気温) (曜日) (空調) (行事) (残差)
(残差) ( ) ( ) (4.7) である.2010年度のデータをもとに「残差」の最適な次数およびパラメタを推定した結果,
2009年度における「残差」と「ノイズ」の推定するためのモデルとして (残差推定値) ( )(残差推定値)
( )(ノイズ推定値)
(ノイズ推定値)
年 月 日から 年 月 日まで (4.8) 0
4000 8000 12000 16000
4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1
2010年度 2011年度
図 4.27 モデル (4.3) による予測値と実測値の比較(前半)
図 4.28 モデル (4.3) による予測値と実測値の比較(後半)
を得た.これにより2010年3月31日から1日ずつ戻っていき2009年4月1日まで逐次 計算することができる.この結果を図 4.27 および図 4.28 に示す.図中の赤実線は推定し た2009年度の消費電力量を表し,黒実線は2009年の実測値である.この図を見ると,予 測開始して半年間の3月31日から10月1日までの予測値は,冬休み期間である年末年始 を除いて,波形の山のピークをうまくとらえている様子がわかる.しかし,2010年度予測 における要因の占める割合を調べた(図 4.20 および図 4.21)際に,自己回帰および移動 平均成分の大きかった6月から8 月までについては,図 4.27 からわかるとおり,山のピ ークが大きくずれている.これは,2009年度予測ではノイズをゼロとして計算を続けたこ とによって,自己回帰成分および移動平均成分の影響がほとんど現れなくなったためであ る.上記期間を除いては,おおむねあてはまっているように見える.決定係数は 0.733 で ある.
ノイズを逐次更新した場合
2009年度のデータについては「電力量」の実測データが得られているので,「電力量」
の推定値を
(電力量推定値) (気温) (曜日) (空調) (行事)
( )(残差) ( )(ノイズ) (4.9) 0
4000 8000 12000 16000
4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1
実測値 予測値
0 4000 8000 12000 16000
10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1
実測値 予測値
により求め,式 (4.5) と同様に
(残差推定値) (電力量) { (気温) (曜日) (空調) (行事) } (ノイズ推定値) (電力量) (電力量推定値) 年 月 日から 年 月 日まで
(4.10)
として「残差」の推定値および「ノイズ」の推定値を計算していくことで,より精度の高 い予測値を得ることができる.この結果を図 4.29 および図 4.30 に示す.図中の赤実線は 残差およびノイズを逐次更新しながら推定した 2009 年度の消費電力量を表し,黒実線は 2009年の実測値である.この図を見ると,図 4.27 および図 4.28 では実現できなかった 夏場のピークをうまく表している様子がわかる.予測開始から11か月後である4月におい ても,不規則な波形をとらえられている.決定係数は,ノイズをゼロとおいたモデル (4.8) と比べ,0.733から0.797まで向上している.
2010 年度のデータより得たモデル (4.3) は,消費電力量の変動が比較的大きい時期や,
ピークの安定しない時期については,つねに新しいデータを入手しながら「残差」「ノイ ズ」を更新する必要がとくにあるものの,2010年度以外の年度においてもうまく予測する ことができると考えられる.2011年度の予測に関しても,4月1日からの消費電力量のデ ータを入手できれば,さらなる予測値の向上が期待できる.
図 4.29 モデル (4.3) によるノイズを修正した予測値と実測値の比較(前半)
図 4.30 モデル (4.3) によるノイズを修正した予測値と実測値の比較(後半)
0 4000 8000 12000 16000
4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1
実測値 予測値
0 4000 8000 12000 16000
10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1
実測値 予測値
第 5 章 授業時間の変更による節電対策
本章では,前章で推定したモデルを用いて,授業時間が 5 号館の消費電力量に与える影 響を調べる.さらに,4つの節電対策を提案し,それらを比較検討する.