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第 5 章 ゲーミフィケーションを活用した自発的コラボレーション支援の検証

5.5 考察

第 5 章 ゲーミフィケーションを活用した自発的コラボレーション支援の検証 

開始後の 1 週間に形成されたフィードバックネットワークは,ネットワーク密度が 0.9,

凝集性を表すクラスタリング係数が 1.00 となり,密なネットワークが形成されていた.

フィードバックをするユーザ,フィードバックされるユーザに偏りはなく,1 週間のうち にほぼ全てのユーザが他の全てのユーザに対してフィードバックを行っていた.その後 2 週目から 4 週目までも同程度のフィードバックが存在し,ネットワーク密度が 0.8,クラ スタリング係数も 0.87 となっている.しかし,5 週目から 12 週目までは,行動したユー ザが 1 名減少し,フィードバック数はほぼ半減した.ネットワーク密度は 0.5 となり,ク ラスタリング係数は 0.8 となった.参加者へのインタビューから,1 ヶ月をすぎたところ から,身の回りでツイートできることが限られてきたため,ツイートの継続が難しくなっ たというコメントが得られた.これは,5 週目以降のネットワークがそれ以前と比べて参 加者数の減少とフィードバックが疎になっていることとも整合している. 

 

以上の結果から,9 件のゲームの中で,最も行動が多かった「褒め褒め」では,最初の 1 か月間は参加者が積極的に行動とフィードバックを行うことができており,活動の設計 が成功していたと言える.また,相互に活動の意味付けを行い,正しく活動できているこ とをフィードバックすることで,行動の持続が見られた.さらに,そのようなフィード バックにより,密な社会ネットワークの構築も行えていたことがわかった. 

第 5 章 ゲーミフィケーションを活用した自発的コラボレーション支援の検証 

タビュー結果をふまえ,目的の共有,活動の設計と意味付け,社会ネットワークの構築の 点から考察する. 

 

(a)目的の共有 

実証実験では,課題を共有する参加者が,対話によって目的や活動内容を設計するワー クショップを行った.このように課題当事者が自らゲームを設計することは,Deci [35] の いう「どのようにすれば他者が自らを動機づける条件を生み出せるか」に応えるものであ る.インタビューからは,「自分自身で課題を設定し,解決に向けた行動を自ら設計し実 行するゲームであると感じている.自分にとって意味のあるテーマであることが重要であ り,さらにその行動を続けていくことが重要であると思う」というコメントが得られた.

参加者は自ら設計するゲームに参加することで,行動の意味を納得し,自ら持続したいと 思える行動を実践することができる.それにより,自らの喜びや希望に沿った行動が設計 できたと考えられる. 

一方で,活動の短期的な目標設定がうまく機能したとしても,その目標が長期的に機能 するとは限らない.そのため,行動の長期的な目標設定に関しても考慮する必要がある.

長期的な目標とは,個々の行動に対する目標ではなく,それらを集約した全体の目標であ り,より困難な目標である.図 5-13 褒め褒めゲームにおける累積ツイート数変化で示した ように,「褒め褒め」では初期は多くの行動がなされていたが,その後の行動量は減少し た.インタビューでは「(褒め褒めは)1 ツイート 1 件なので,1 話完結のように感じる.そ の先の状態をイメージしていなかった」というコメントが得られた.「褒め褒め」の長期 の目標は,世界平和に寄与することがあげられていたが,その達成度の評価が難しい.そ のため,活動が長期間にわたった場合に,参加者の行動と目標の結び付きが弱くなり,最 適経験とはなっていなかったことが示唆される.これは,図  5-2 の連関図で示すツイート やフィードバックによってゴールへの近接度が高まり,それによってモチベーションが高 まるという循環関係がみられなかったケースである.このように,行動に必要な能力と達 成する挑戦のバランスが崩れることで,不安や退屈といった経験となってしまい,動機づ けが弱まることが考えられる.その意味でも,達成する目標は活動を通じてその難易度な どを変化させていく必要があると考えられる. 

 

(b)活動の設計と活動の意味付け 

活動の設計は,対話ワークショップを通じて参加者によって決められた.そして,個々 の行動が目的に即したものかどうかを参加者同士のフィードバックによって評価すること で行動(貢献)の意味付けを行うこととした.これらの行動と評価の関係や評価基準など は,ゲームのルールという形で参加者によって作成されたものである.そこで,活動の設 計に関して,このゲームルールの視点から,持続的な行動が見られたルールと,見られな かったルールを考察する. 

内発的動機づけされた状態をもたらすフロー体験には,ルールを持ち,目標を設定し,

フィードバックが得られる最適経験の設計が重要である.実証実験では,最適経験が得ら れるように活動に必要な行動と評価ポイントをゲームルールとして実装し,実際に意味の ある行動であるかはフィードバックを通じて評価される設計とした.行動が持続した「褒 め褒め」や「Good  Deed  Story」では,それぞれ人の良いところを褒めること,世の中の

第 5 章 ゲーミフィケーションを活用した自発的コラボレーション支援の検証 

良い行いを広めるという目的のもと,その内容をツイートし,その内容に共感した他の ユーザはリツイートというフィードバックを行うルールであった.このフィードバックに よって,その行動が確かにテーマに沿っていることをユーザは認識できる.図 5-14 で示し たように,「褒め褒め」では行動したユーザは多くの他のユーザから行動に対するフィー ドバックを得ていた.行動が持続したこれらのゲームでは行動とフィードバックによって,

正しく振る舞っていることをユーザが即時に把握でき,行動と目標の結び付きを感じるこ とができていたと考えられる.これは図  5-2 で示した,ツイートしフィードバックを受け ることで行動が意味づけられ,モチベーションが高まるという循環関係がみられたケース である. 

一方,行動が持続しなかった「エコサバイバル」では,日本の電気使用量を削減すると いう目標のもと,より快適な節電方法をツイートし,そのアイデアが良いと思った場合に リツイートというフィードバックを行うルールであった.図  5-12 で示したように,この ゲームではツイートされた行動に対して,フィードバックがあまり起こらなかった.これ は,節電方法と電気削減量との関係を他の参加者が評価しにくかったためではないかと考 えられる.フィードバックがないことから,行動したユーザは,行動と目標のつながりを 感じにくかったことが考えられる.その結果,自身の目標が明確にならず,自分が適切に 振る舞っているかが分かりにくくなり,最適経験が実現しなかった可能性が考えられる.

これは図  5-2 で示したツイートとフィードバックの循環関係がみられなかったケースであ る. 

今回ゲーム作りの枠組みとして示した図  5-2 の連関図では,個々のツイートやリツイー トに対してポイントは固定としており,同じゲームをプレイしている他ユーザからの フィードバックの回数で行動の良し悪しが判断され,それに応じたポイントが加算される という仕組みを取り入れていた.しかし,この関係性では適切に表現できないケースがみ られた.それは節電のような個々の行動を定量化しやすいテーマである.この場合は,行 動に対するフィードバックの量ではなく,個々の行動内容に応じて,たとえば実際の節電 量を行動の良し悪しの指標としてツイート時のポイントとして付与することが考えられる.

それにより他者からのフィードバックではなく行動自体の良し悪しが直接モチベーション に寄与する可能性が考えられる.すなわち,行動の良さをフィードバックの回数によって 得られるポイントだけではなく,行動自体の良さを直接ポイントとして表現できる仕組み を取り入れることでより多くのゲームを表現できると考えられる. 

活動設計のルールは,それを実装するプラットフォームの設計と密接に関連する.本章 で実装したシステムでは,活動の意味付けや全体への貢献が明確となること,正しく振 舞っていることがフィードバックされることを目指し,行動に対するポイントの集計とラ ンキングの表示機能を実装した.「褒め褒め」参加者へのインタビューからは,「ランキ ングは傍観的にみていた」というコメントや,「ランキングは気にしていなかったが,気 づいてみると,あ,3 位だと思って,上位に入っていてちょっとうれしい」といったコメ ントが得られた.すなわち,直接ランキングの順位を上げることや,他者との競争は行動 の目的にはしていないことがわかる.一方で,一定期間の行動の成果として,他者と比較 して上位にいることを知ることが,一連の行動が目標に対して正しく振る舞っていること のフィードバックとして機能していたのではないかと考えられる.とくに 1 つ 1 つの行動