77 第3節 発達神経心理学検査の有用性
1、 スクリーニングテストとしての発達神経心理学検査
これら5種の発達神経心理学検査のうち、早期に、わが国に紹介 された描画テスト(ベンダーゲシタルトテスト)や人物画テストは、
わが国でも、多くの追試研究がなされ、他の標準化された知能検査 との相関が確認されている。また、文化的水準を考慮し、わが国の 子供に適用しやすく、評価基準が一部改訂されたりしている。他の 検査については、発生的尺度として、わが国で用いられた研究が、
わずかしかない。
今後、多くの症例について検査していくことによって、さらに改 善され、その有用性は増すと考えられる。筆者は、わずか40名あま りの被験児を対象に検査した結果では、ありますが、スクリーニン グテストとしての発達神経心理学検査の有用性を考察する。
「非言語性学習障害」をもつ子供を識別する目的で、今回これらの 検査を実施し、比較的知能の高い情緒障害児や、知能の低い精神遅 滞児と、学習障害児とが、どのように発美的に違うのかを比較した。
WISC−R知能検査では、それぞれ3者3様に、バラついたプ
ロフィールであったが、発達神経心理学検査のプロフィールでは、
精神遅滞児や、情緒障害児が、比較的平均した発達段階を示した のに対し、 「非言語性学習障害児」は、バラついた発達段階を示し
79 2 検査活用の手軽さ
ここで採用した発達神経心理学検査は、立派な検査装置を備えた 実験室を必要としない。検者と被験者の間に、机が1個と各々が着 席するための椅子が2個あり、広さも両者が両手をひろげて、ぶっ からない程度であれば十分である。特別の防音装置も必要としない。
検者が準備する用具も、検査の紹介の所で述べたように、記録用 紙とカードとストップウォッチなど手軽に持ち運びできる物である。
実施時間は、25分から40分で(筆者の経験では)、他の標準化さ れた検査に比較して短時間で実施ができる。それでも、まだまとまっ た時間がとれなければ、これらの5種の検査を1っずっとりだして、
実施することが可能である。実施時間の設定という面からも有用で
ある。
検査される子供の側からの検査についての感想は、まるでゲーム でもしているかのごとくに思うのか、検査を嫌がることは、あった にない。ある女児(7:2)は、筆者が、検査したあと、顔を合わ す毎に、 r今日、私、検査してもらえるか』と、テストを受けるこ とを楽しみにしている。
検査する側から言えば、MBDのテストバッテリーに認められる 様な、医学的な専門知識を必要としないので、手続さえ、覚えれば すぐに実施できる。実際、筆者が、子供を観察させてもらっていた
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学級担任の先生は、初めは、筆者が実施しているのを見ていたがそ の翌日、筆者に代わって、他の子供の検査を自分でしたいと言い、
実施した。多分、勉強を嫌がる子でも、これらの検査では、意欲的 に取り組んでいる姿を見て、やってみたくなったのである。
しかし、実際に検査した後では、その教師は、 『労れました』と 言っていた。それはこれらの検査では、検者が、細密に子供の反応 を書きとあておかねばならないからである。この細かな観察こそが、
子供の発達を見極わめるポイントとなるからである。
これらの検査では、最終的な成功、失敗はもちろん必要であるが、
同じように成功しても、それがちゅうちょした反応であるか、失敗 から成功への訂正反応であるかによって、その課題による発達の段 階が違ってくる。従来の標準テストでは、成功か失敗による数字的 指標によって段階が決定される。下位検査項目によっては、課題遂 行に要した時間を考慮して得点が加算されるものもあるが、やはり、
ベースは、量的なもので測定している。図を描いたり、物をつかん だり、机を叩く動作などを観察することによって、その子供の、利 き側を予測できたり、随伴運動など微細な運動機能の発達もとらえ
ることができる。
このように発達神経心理学検査は、検者にとっても、被験者にとっ ても、手軽に検査場面に臨めるという利点からも有用である。
参 考
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あとがき
私が症例1のA・Y君に出会ったのは、今年の6月であった。
それまで「非言語性学習障害」をもっと思われる子供達を対象に、
精博学級や情緒障害学級や病弱学級や普通学級で、発達神経心理学 検査を実施し、診断基準に、該当する子供が見つからず、正直言っ て困まっていたのである。
幸いなことに、担任の先生が、本児の毎日の学校生活での問題行 動をメモして下さっていて、本児の行動について詳しい報告を聴く ことができたのである。私は、その報告を聴きながら、内心、 「今 度こそ、そうではないか」という意気込みと、 「いや、また、違う かも知れない」という複雑な気持であった。それと、その様な気ま
ぐれな子が、検査を素直に受けるだろうかという不安な気持ちもあっ
た。 .
しかし、その翌日の放課後、検査室に入ってきた本児は、初めは、
怪認そうな面持で、やや緊張気味であったが、私と、面談している うちに、表情は、和らいできた。きっと、私の方でも顔がひきつっ ていたのではないかと後で苦笑したものである。
まず、ベンダーゲシタルトテストから始めた。用紙の真中に大き な円を描いた。続けて小さなひし形を横に描く。ちらっと私の顔を 見た。私は微笑んで、次のカードを提示した。今度は、用紙の左上
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に小さな円を並べて描いた。約30分間で検査は終った。続いて翌日、
WISC−Rの検査を実施する為に、三児に会った。本児は、 r姉 ちゃんから、怖い先生やいうて、聞いたけどそんでもないな。何ん で、俺を検査するんや』と言った。前日と違い、大分情報を仕入れ てきたせいか、余裕のある態度だった。 「君の、ええとこを知るん や。」『ええとこ知って、どないするんや。』「ええとこは、放つとい て、弱いとこ強しょう思うて、先生、難かしい勉強しとるんやが な。」rふうん、俺の弱点良うなるか。』「さあ、君の心がけ次第や。
検査始めよか」と苦しい答弁をしながら、 「今日の検査は、1時間 半もかかるし、この子注意が続くかいな」と思っていた。本児は、
一一カ懸命に取り組んだ。担任が、5時に、検査室に、様子を見にやっ てきた。本児が、真険に検:査を受けているのを見て安心して、そおっ と去った。本児は1時間45分、退屈した様子も見せず、終了した。
もう6時前だった。本児を車にのせて、家まで、送り届けた。母親 が、心配するといけないので、検査の目的を簡単に説明し、生育歴 や既住歴を聴取した。母親は、三児の家庭での問題行動も話してく れた。約1時間、母親と私は、応接室で話し合った。その間、本児 は、母親の横に並んで座り、二人の話を聞きながら、私を観察して
いるようだった。
ある時には、発達検査を実施した。また、ある時は、別の検査を