Gas inlet to carbon rod
6.3 結果と考察
6.3.1 グラファイトへのアニオン(PF 6 )の電気化学インターカレーション
本項の「充電」および「放電」という用語は、それぞれグラファイトへのPF6のインター カレーション(または酸化)、デインターカレーション(または還元)を意味する。
1 M-LiPF6/EC+DEC電解液中の初回のグラファイトの定電流充放電曲線をFig. 6.1に示す。
1 M-LiPF6/EC+DEC電解液中の初回の充電時、酸化反応4.7、5.0 V vs. Li/Li+に近い電位で2 つのプラトーが観察された。一方、初回の放電時に還元反応4.5、4.7 V vs. Li/Li+に近い電位 で2つのプラトーが観察された。還元時に観察されるプラトーは、グラファイトからのPF6 のデインターカレーションを示し、還元時4.7 Vに観察されたプラトーは酸化時5.0 Vのプ ラトーに、還元時4.5 Vに観察されたプラトーは酸化時4.7 Vのプラトーに対応している。
これらの結果は、グラファイトに PF6が電気化学的にインターカレート/デインターカレー トされていることを示唆している。
次に、1 M-NaPF6/EC+DEC電解液中の初回のグラファイトの定電流充放電曲線をFig. 6.2 に示す。1 M-NaPF6/EC+DEC電解液中の初回の充電時、酸化反応4.5、4.7 V vs. Na/Na+に近 い電位でプラトーが2つ観察された。一方、初回の放電時の還元反応4.3、4.5 V vs. Na/Na+ に近い電位でプラトーが2つ観察された。電解液1 M-LiPF6/EC+DECを使用した場合と同様、
酸化還元反応時に観察されるプラトーは、グラファイトへの PF6のインターカレーション/
デインターカレーションを示している。酸化時4.7 Vに観察されたプラトーは還元時4.5 V のプラトーに、酸化時4.5 Vに観察されたプラトーは還元時4.3 Vのプラトーに対応してい る。この結果は、グラファイトへの PF6 のインターカレート/デインターカレートが 1
M-NaPF6/EC+DEC電解液中でも行なわれていることを示唆している。
グラファイトの充電(インターカレーション)と放電(デインターカレーション)の容量を Fig. 6.3に示す。これらの容量は、3.5 ~ 5.0 V vs. Li/Li+、3.2 ~ 4.7 V vs. Na/Na+間での時間から 算出できる。1 M-LiPF6/EC+DECあるいは1 M-NaPF6/EC+DEC電解液を使用した場合は、両
方ともに23 mAh g-1の放電容量(デインターカレーション)を示しほとんど同じであった。サ
イクルが進むにつれて1 M-LiPF6/EC+DEC電解液を使用した場合、1 M-NaPF6/EC+DEC電解 液を使用した場合より若干低くなったが、これは、セルを組立てて測定した時のグローブ ボックスの露天などの環境による影響で生じたものであり、誤差の範囲であると判断した。
グラファイトにPF6をインターカレートした際に第2ステージ構造まで挿入できると仮定し た場合の理論容量(186 mAh g-1)[86, 87]に対して、容量が非常に低い。この理由に関しては、
第2 章の「2.8 デュアルカーボンアロイセルの電池特性評価」の項で述べた実験条件では
詳細は不明である。本研究で得られた容量(23 mAh g-1)からPF6をグラファイトにインター カレートした時のステージ構造を仮定すると、第 2 ステージ化合物形成時の理論容量 186 mAh g-1を本研究で得られた容量23 mAh g-1で割ると8.08(=186 / 23)となり、この数値をステ ージ数に掛けると高次ステージの化合物が得られることが容易に予想できる。両方の電解 液で初回の放電容量が充電容量より減少したことについては、充電時にグラファイトにイ ンターカレートされたPF6が放電時に一部デインターカレートされなかった、つまり不可逆 なPF6がグラファイトの層間にあったためと推察した。このような初回の不可逆容量が大き かったことについては、カチオンをグラファイト、B/C/NおよびB/C材料にインターカレー トさせた場合と類似している。しかし、カチオンを材料にインターカレートさせた場合の ように電極上にSEIが形成されたものであるかは不明である。
B/C/NおよびB/C材料に対してもPF6を電気化学的にインターカレートさせることを試み
たが、充放電容量が全く得られなかったため、PF6はインターカレートされなかった。その ため、本研究ではデュアルカーボンアロイセルの正極にB/C/NおよびB/C材料を使用せず、
グラファイトを使用した。
Fig. 6.1 First charge/discharge curves of graphite by the galvanostatic method using a current density 100 μA cm-2 in 1 M-LiPF6/EC+DEC.
Fig. 6.2 First charge/discharge curves of graphite by the galvanostatic method using a current density 100 μA cm-2 in 1 M-NaPF6/EC+DEC.
Capacity / mAh g-1 Potential / V . Na / Na+ vs
0 10 20 30 40 50 60
3.5 4.0 4.5
Capacity / mAh g-1 Potential / V . Li / Li+ vs
0 10 20 30 40 50 60
3.5 4.0 4.5 5.0
Cycle number
Capacity / mAh g-1
1 M-LiPF6/EC+DEC elecrolyte solution 1 M-NaPF6/EC+DEC elecrolyte solution
1 2 3 4 5
0 10 20 30 40 50 60
Cycle number
Capacity / mAh g-1
(a)
(b)
1 M-LiPF6/EC+DEC elecrolyte solution 1 M-NaPF6/EC+DEC elecrolyte solution
1 2 3 4 5
0 10 20 30 40 50 60
Fig. 6.3 (a) Charge (intercalation) and (b) discharge (de-intercalation) capacities of graphite measured by the galvanostatic method using a current density 100 μA cm-2 in 1 M-LiPF6/EC+DEC and 1 M-NaPF6/EC+DEC.