第4章 総合的考察
第3節 キャリア教育のあり方
(1)ライフキャリアとワークキャリアの視点によるキャリア教育
これまで、重複学級におけるキャリア教育の現状や課題について述べてきた。ここで は最後に、聾学校の重複学級においてキャリア教育を行う上で、どのような視点を持ち、
キャリア教育の意義を踏まえた指導・支援を進めていくことが重要なのか検討する。それ こそが、この研究で重複障害児童・生徒への指導内容の一貫性や系統性の検討と共に、
卒業後の就労や生活を踏まえた教育内容の見直しにつながるものと考える。
研究を通して見えてきたことは、今後、重複障害児童・生徒へのキャリア教育のあり 方として、ライフキャリアとワークキャリアの視点によるキャリア教育の重要性である。
まず、ライフキャリアとワークキャリアについては、松為(2007a)がキャリアは職業 生活を含む様々な生活場面で個人が果たす役割を踏まえた働き方や生き方を指す「ライ
フキャリア」と、職業経歴や仕事そのものを意味する「ワークキャリア」に大別される と述べている。
では、聾学校の重複学級において、ライフキャリアとワークキャリアがどのように取 り組まれているのか、それを知るために質問紙の中の聾学校重複学級におけるキャリア 教育の取り組み内容の回答に注目してみる。
以下、学部ごとのキャリア教育の取り組み内容として上位3つを挙げると、小学部で はr教育活動全般」が73%、噸域・教科を合わせた指導」が60%、r領域・教科外活動」
が58%であった。中学部ではr進路指導」が74%、r領域・教科外活動」が66%、「領域・
教科を合わせた指導」が51%であった。高等部では「進路指導」が80%、「領域・教科 外活動」が68%、「領域・教科を合わせた指導」が61%であった。
さらに、そのキャリア教育の取り組み内容の詳細として上位4つを挙げると、小学部 では「日常生活学習」が28学部、「生活単元学習」が23学部、「自立活動」が20学部、
r特別活動」が15学部であった。中学部ではr職場体験」が27学部、r先輩・卒業生 の話」が23学部、「自立活動」が21学部、「職場見学」が19学部であった。高等部で は「職場体験」が27学部、「先輩・卒業生の話」が23学部、「職場見学」が22学部、
「自立活動」が22学部であった。
また、「個別の教育支援計画など」の活用については、小学部で35%、中学部で34%
であったが、高等部では49%だった。これは高等部段階になると卒業後の就労や生活を
暖計画等の活用が増えていたことがわかった。さらに、キャリア教育を「教育活動全般」
を通して取り組んでいる学部は、小学部で73%と多く、中学部では53%、高等部では 59%であった。
これらより、各学部でのキャリア教育は、小学部段階では「日常生活学習」、「生活単 元学習」、「自立活動」などの教育活動の中で基礎的な生活面や学習面等を重視したライ フキャリアを中心に、教育活動全般を通して取り組んでいることが示唆される。また、
中・高等部段階では「職場体験」、「先輩・卒業生の話」、「自立活動」または「職場見学」
などの教育活動の中で卒業後を意識し、より実践的な生活力や就労に必要な作業学習や 職業体験等を重視したワークキャリアを中心に、進路指導などを通して取り組んでいる
ことが示唆される。
石原(2010)は、聾学校におけるキャリア教育について、多くの聾学校ではキャリア教 育を進路指導のなかに位置づけており、高等部、専攻科の指導領域であるという認識が みられ、そのために各種研究会などでは主に勤労観、職業観、社会性の育成や進路選択 および就労レディネス育成に関する具体的指導などが報告されていると指摘している。
ここでも、中・高等部においては進路指導といった傾向が強く、ワークキャリアの視点 を重要視していることが示唆される。
また、菊地(2010)は、「ライフキャリアの視点で捉えると、キャリア教育は就労の場 の決定のみを目指した取り組みといった狭義のものではなく、卒業後の働く生活を中心 とした「市民」「余暇人」「家庭人」等の様々な役割の充実を目指したもの、生涯にわた るものであることが理解できる。」と述べている。
以上より、今後、聾学校におけるキャリア教育において、職業生活のためのワークキ ャリアの視点だけでなく、将来の家庭生活や地域生活を踏まえたライフキャリアの視点 にも重点を置き、ライフキャリアとワークキャリアの両方の知見を取り入れたキャリア 教育を進めていくことが重要であると考える。
今後、これらの2つの視点を児童・生徒の実態に応じて、指導・支援に取り入れ、進 路指導の充実と共に、改めて児童・生徒一人一人のキャリア発達を支援するというキャ
リア教育の視点に基づき、小学部段階から教育活動全般を通して組織的、系統的な取り 組みを進めることや、家庭や地域の関係機関との連携・協働を充実させていきたい。そ れにより児童・生徒一人一人の今の生活が豊かになり、将来の自己実現に向けた主体的
(2)特色あるキャリア教育の取り組みと今後の展望
特色あるキャリア教育の取り組みについて、小学部では、「学部独自の取り組み」が 6学部、順列の指導計画の活用」が2学部、「知的の特別支援学校と連携」が2学部で あった。中学部では、「学部独自の取り組み」が3学部、「施設などの進路先と連携」が 2学部、「知的の特別支援学校と連携」が2学部、噸別の指導計画の活用」が1学部で
あった。高等部では、「知的の特別支援学校と連携」が5学部、「施設などの進路先と連 携」が3学部、「学部独自の取り組み」が1学部、「個別の指導計画の活用」が1学部で
あった。
詳細をまとめると、「知的の特別支援学校と連携」という回答が小・中・高等部の合 計で9学部あった。内容は、「学校見学、交流会、作業学習、体験学習、職場体験、校 外学習、教員による進路指導の連携」等であった。
その中に、ある聾学校の高等部の意見として「本校は、県内で1校の聴覚特別支援学 校であるため、知的の特別支援学校から情報をもらうようにしている。各地域で進路指 導やキャリア教育の実態があるので、できるかぎり県内すべての学校より情報をもらう ようにしている。」という回答があった。今後、さらにこのような連携が求められてい くと示唆される。
さらに、この知的の特別支援学校との連携については、小・中・高等部の重複学級にお ける学部間連携が「行われてない」場合、今後、必要かどうかという質問に対し、ある聾 学校の高等部が、「指導方法や内容の再検討のため」に必要という回答している。そして、
その具体的な内容として、「聴覚特別支援学校内だけでなく、特別支援学級やその他の特 別支援学校との連携によって、教育内容が充実する。」であった。
その他、国立特別支援教育総合研究所(2011c)は、全国の知的の特別支援学校等と共 に、先駆的な取り組みを行っている。それは、キャリア教育全体計画の作成に基づき、
学校教育目標や学部目標等を再確認し、現在行っている指導の目標や内容等について、
知的障害のある児童生徒の「キャリアプランニング・マトリックス(試案)」の4能力領 域や各観点との関連をチェックすることなど、キャリア教育の充実のための様々な取り 組みが進められている(国立特別支援教育総合研究所,20!1c)。
そして、聾学校の校内組織における活動内容においても、キャリア教育の推進や取り 組みが行われていることがわかっている。今後、さらに聾学校と他の特別支援学校など