第 4 章 FOXSI 試作検出器の開発と性能評価 19
4.7 キャリアの拡散と2ヒットイベント
図4.23: シャドーイメージ取得に用いたタングステンプレートと配置図
図4.24: タングステンプレートのシャドーイメージ。左上の部分に幅100µmのスリットが映っ
ている。133Ba線源を使用し、ADC値が最大のストリップで20 keV ∼40 keV のエネルギー損 失があり、かつ隣接するストリップでのエネルギー損失が5 keV 以下のイベントのみを使用。測 定温度は–20 、バイアス電圧 300 V。
イベント、x= 0上がその隣りのストリップでのシングルヒットイベントを表す。傾き–1の直線 上に位置するイベントがこれらのストリップ間で生じた2ヒットイベントである。
図4.25: p side の隣接ストリップのエネルギーの相関。線源には241Am を用いている。測定条 件は温度–20 、バイアス300 V。
4.7.2 シミュレーションによる応答の再現
DSSD の素子内部での電荷の振る舞いを調べるため、電子雲・ホール雲の広がりをシミュレー タに組み込み、実験結果との比較をおこなった。シミュレータにはGeant4を用いた。入射光子 のelectron trackingによる電荷雲の広がりの評価にはGeant4のライブラリを用い、さらに電荷 が電極に到達するまでの散逸を再現するため、ガウシアンに従う電荷の広がりをシミュレータに 取り入れた[24]。図4.26に、σ = 0 µm,10µm, 20 µmとした時のシミュレーション結果および 実験結果を重ねて示した。ただし解析にあたっては、マルチヒットイベントと見なす条件を、各 面で最大のエネルギーデポジットを示したチャンネルの隣接ストリップでペデスタルの幅の 5σ (p side 0.9 keV、n side 2.9 keV )以上の信号が読み出される場合とした。このようなしきい値 を設定すると、ヒットのあったストリップの隣接5ストリップの範囲でいずれかのストリップの ペデスタル値が、しきい値を超えてしまう確率を2×10−4%以下に抑えられる。最大のエネル ギーデポジットのあったストリップの隣接5ストリップで、しきい値を超えたストリップのエネ ルギーを足しあわせることで入射光子のエネルギーとしている。図4.26でσ = 10µmとしたと きに最もよく実験結果と一致し、14 keV と 60 keV の二つのエネルギーの入射光子に対する応 答をよく再現している。参考までに熱拡散による典型的な電荷の広がりを計算すると、
√2Dt%
#
2×µkT e × d
µE = d
$2kT
eV = 6.0 µm
となる[18]。ただしここで、D:拡散係数、t:キャリアのドリフト時間、µ:キャリアの移動度、
T:温度、d:検出器の厚み(= 0.5 mm)、E:電場、V:バイアス電圧 (= 300 V)である。
2ヒットイベントの割合は、12 –16 keV の入射光子に対して、p side で 20.0%、n side で 13.8%、60 keVの光子に対しては両サイドとも40%ほどのイベントが2ヒットイベントとなる。
少なくともどちらかのサイドで2ヒットイベントが読み出される確率は14 keV の入射光子に対 して33.4%、60 keVの入射光子にたいしては 60%にのぼる。
一方で3ヒット以上のイベントに目を向けると、いずれのエネルギー帯でも全体の1 %以下で あり、また FOXSIの狙う 15 keV以下のエネルギー帯では 0.1%以下にすぎないので、解析で は3ヒット以上のイベントは無視してよい。
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図4.26: マルチヒットイベントの割合。p sideでは 0.9 keV、n sideでは 2.9 keVをヒット判定 のしきい値とした。黒の破線が実験結果、測定条件 –20 、バイアス 300 V での実験結果。灰 色:σ = 0µm、青:σ= 10µm、緑:σ= 20µmでのシミュレーション結果。
4.7.3 2ヒットイベントのスペクトル性能
2ヒットイベントが発生した際に達成できるエネルギー分解能について考える。
図4.27に、2ヒットイベントについて、ヒットのあった隣接ストリップのエネルギーを足しあ わせて得たスペクトルを示す。比較のためにシングルヒットイベントのみを抽出したスペクトル も合わせて示す。60 keVにおける2ヒットイベントのエネルギー分解能は p sideで 0.87 keV、 n sideで 2.55 keV となり、1ヒットイベントのエネルギー分解能に比べてそれぞれ1.5 倍ほど 悪化している。
分解能悪化の主な原因は、イベントが二つのストリップから読み出されることによって、電子 回路ノイズが別個にのるためである。この影響により、2ヒットイベントではエネルギー分解能 が√
2倍悪化することが予想され、図4.27に示した結果と概ね一致する。
図4.27: (左)1ヒットイベントを用いて作成したスペクトル (右)2ヒットイベントのみを用
いて作成したスペクトル。
次にエネルギーしきい値について考える。5 keVの入射光子が2ヒットイベントになった場合、
それぞれのストリップで読み出されるエネルギーは5 keVに満たない。さらに2ヒットイベント の場合はエネルギー分解能が悪化するため、シングルヒットイベントに比べて光子の反応位置の 決定が困難になる。それぞれのストリップに2.5 keVのエネルギーをデポジットした場合を考え ると、反応位置決定を誤る確率を計算すると∼10%となる。
以上、それぞれの面でマルチヒットが起こる確率と、達成される性能をまとめると4.1のよう になる。
表4.1: 5 keVの入射光子に対して予想される応答
multiplicity (p side,n side) 発生する確率 位置決定を間違える確率 エネルギー分解能 (FWHM@60 keV)
(1hit,1hit) 66.6% 0% 0.58 keV
(2hit,1hit) 16.5% 0% 0.87 keV
(1hit,2hit) 13.4% ≤10% 0.58 keV
(2hit,2hit) 3.4% ≤10% 0.87 keV
その他 0.1% – –
第 5 章 FOXSI 実験にむけた検出器の性能試験
実際の太陽観測においては、観測時間を最大化するとともに検出器の不感時間を精度良く見積 もることが、有意な科学的成果を引き出すために重要である。本章では以上2点に着目して、デッ ドタイム補正モジュールの開発と検証、および検出器のバイアス印加のタイミングについて検証 をおこなう。