セクション 5 :オリジナルケーススタディ
5.3 オリジナルケーススタディ 2 :ヒトゲノム
5.3.1 オリジナルケーススタディ 2 :ヒトゲノム( DE )
エピソード1:染色体22、1999年12月1~7日(DE)
染色体 22 の話に関するドイツのサンプルには、日刊紙 Rheinische Post、Berliner Zeitung、 Süddeutsche Zeitung、およびBild、大衆日曜紙Welt am Sonntagおよび一流週刊紙Die Zeitの報道 など 10 件の記事が含まれます。大衆日刊紙 BZ には報道はありませんでした。11 月 29 日に一 流週刊紙Die Zeitに2件の大きな記事が掲載され、11月30日にはBerliner Zeitungに1件の記事 が掲載された。それらの記事は上述の期間に書かれたものではなかったため、その後の分析は 行われませんでした。
12月1日に2件、12月 2日に3件、3日、4日5日および7日にそれぞれ1件の記事が掲載さ れました。5 件の記事は科学ジャーナリスト、3 件はドイツの報道機関であるドイツ通信社
(dpa)の記者、および1 件はドイツ学術振興会(DFG)会長のErnst-Ludwig Winnacker 氏が執 筆したものでした。
サンプルには2件の1面記事(“Buchstaben, die unlesbar sind”、Süddeutsche Zeitung 2000年12月 1日付、p 1、MCS.GEN-DE-2;“Menschliches Chromosom vollständig entschlüsselt”、BILD 1999年
12 月 2 日付、p.1、MCS.GEN-DE-3)が含まれ、両記事とも染色体 22 の解読を強調しています。
その他の記事はほとんどが、健康・科学特集面に掲載されています(Rheinische Post、Welt am Sonntag および Süddeutsche Zeitung)。週刊紙 Die Zeit の報告は、「多くのコード、わずかなセ ンス」という見出しで、「政治」面に掲載されています。どの新聞にも、この主題に関する社 説記事は掲載されていません。
報道の最初の 2 日間では「英国のゲノム研究者らの躍進」(BILD 1999 年 12 月 2 日付、p. 1,
MCS.GEN-DE-3)および Nature 誌における発表が強調されています。その後は、この研究にお
けるドイツの関与に焦点が移ります。同時に「商業的研究との競合」が強調されています
© European Network of Science Communication Teachers (ENSCOT) 2003年6月 68
(“Was die HUGO-Forscher ‚danach’ tun“、Südddeutsche Zeitung 1999年12月7日付、p. V2/9、
MCS.GEN-DE-10)。すなわち、データを広範囲に無料でインターネットに公開している公的資
金によるヒトゲノムプロジェクト(HGP)と、Craig Venter 博士を筆頭とする民間企業である
Celera Genomics社との間で生じるであろう対立が詳細に考察されています。
ヒトゲノムの解読は、人類に「遺伝性疾患との闘いにおける勝利に向けた大きな 1 歩」をもた らす「科学研究における一里塚」として称えられています(“Chromosom entschlüsselt” 、 Rheinische Post 1999年12月2日付、MCS.GEN-DE-4)。著者らは、ゲノム研究が医学を大きく 改善するだろうと暗示しています。この考え方は分析を行ったサンプルの中で極めて無批判に 報告されています(“Was Chromosom 22 der Medizin bringt”、Welt am Sonntag 1999年12月5日付、
p. 43、MCS.GEN-DE-9)。
直接の引用文が 5 件あります。直接引用されたのは、ヒトゲノムプロジェクトに関係する科学 者や医療専門家です。2 件の記事で、ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)会長の Mike Dexter 博士が引用されています。Celera Genomics社のCraig Venter博士は 2 件の記事で言及さ れていますが、直接引用している記事はない。5 件の記事が情報源として Nature に言及してい ます。4 件の記事がヒトゲノムプロジェクト(HGP)におけるドイツのイニシアチブを指摘し ています。
エピソード2:染色体21、2000年5月8~22日(DE)
「染色体21」の話に関するドイツのサンプルには、日刊紙Berliner Zeitung、Süddeutsche Zeitung、 Die Welt、Rheinische Post、Bild、BZ、および一流週刊紙Die Zeitに掲載された30件の記事が含 まれます。大衆日曜紙 Welt am Sonntag には報道がありませんでした。一流日刊紙 Süddeutsche
Zeitungに7件の大きな記事が掲載され、Die Weltに8件の記事が掲載されました。
ほとんどの記事は 5 月 9 日および 10日に掲載されました。直接引用が 34 件あり、ほとんどが ヒ ト ゲ ノ ム プ ロ ジ ェ ク ト に 直 接 関 係 す る 科 学 者 や 医 療 専 門 家 を 引 用 し て い ま す 。Celera
Genomics社のCraig Venter博士は12件の記事で言及されていますが、直接引用されたのは1件
のみです。9件の記事が記事の情報源としてNatureに言及しています。
約 15 件の記事がヒトゲノムプロジェクト(HGP)におけるドイツのイニシアチブについて記載 しています。英紙の報道とは異なり、ドイツでは染色体 21 の解読におけるドイツの寄与を特に 強調しています。このニュースを2000年5月9日付の1面トップの見出しにさえしている新聞 もありました。Berliner Zeitung 紙で「ドイツの科学者がゲノム研究の成功を祝福」(“Deutsche Wissenschaftler feiern Erfolg in der Genforschung”、Berliner Zeitung 2001年 5 月 9 日付、p. 1、
MCS.GEN-DE-11)と書いています。
同時に、多数の記事がドイツにおけるゲノム研究に資金を提供するプロジェクトの不足を取り 上げています。「ヒト遺伝子に関する患者の苦闘」がもう 1つの目立ったトピックです(“Streit um Patente auf Menschengene” 、Rheinische Post 2000年5月10日付、p. 1、MCS.GEN-DE-25)。
大衆紙 Bild は、1 面の見出しに「研究者ら、悲しみの遺伝子を解読」を選びました。この新聞 は、ヒトの医療に関する潜在的な意味を描き出しています。すなわち、ダウン症候群、アルツ ハ イ マ ー 病 、 て ん か ん 等 の 疾 患 の 分 析 に お け る 飛 躍 的 進 歩 に 対 す る 期 待 を 述 べ ま し た
(“Forscher entschlüsseln Traurigkeitsgen”、Bild 2000年5月9日付、p. 1、MCS.GEN-DE-13)。
© European Network of Science Communication Teachers (ENSCOT) 2003年6月 69
たった 1 日後に、この新聞は「ヒト遺伝子の秘密」を明らかにしています。紙面半分を占める 1 つの記事でイラストを使って「人間の設計図」について説明しています。「十中八九、統括 している染色体の奇形が原因で起こると考えられる」全疾患を列記しています。以下の例に示 すように、染色体21の解読に先立つ競争が仰々しく描かれています。
「食事?時間の浪費だ。睡眠?この 3ヵ月は地獄のようだった、と Andre Rosenthal教授は述べ ています。同教授とそのチームは、我々を生命そのものの秘密に導く新情報への扉を開けるこ とに成功しました。それはまた、民間の遺伝子会社対大学研究者間で繰り広げられた何十億 ユーロ(何千億円)という金を賭けた競争でもありました。その目的は、誰が染色体 21を解読 できるか?勝ったのは日本の研究者らの支援を受けたドイツのチームだった」(“Das Geheimnis des Lebens“、BILD 2000年5月10日付、p. 5 、MCS.GEN-DE-23)
Süddeutsche Zeitungは、科学面のシリーズ記事の中で「遺伝子のカウントダウン」について報告
しています。2000 年 5月 9 日付の同紙は「遺伝子検査とオーダーメード薬を用いた治療」を取 り上げています。米国企業 Celera 社と公的資金を得たヒトゲノムプロジェクトとの間の競争に ついて詳細に記載しています(“Weitere Etappe im Wettlauf um das Genom”、Süddeutsche Zeitung 2000年5月9日付、p. V2/13、MCS.GEN-DE-18)。
驚くべきことに、研究結果そのものについてはほとんど解説されていません。分析を行ったサ ンプルで見つかった解説は3件のみです。Rheinische Post は染色体21の解読を「ドイツゲノム 研 究 に お け る セ ン セ ー シ ョ ン 」 と し て 称 賛 し て い る 一 方 (“Mit deutscher Gründlichkeit”、 Rheinische Post 2000年5月10日付、Meinungsseite、MCS.GEN-DE-26)、Süddeutsche Zeitungは
「今週の染色体」に以下に示す通り、懐疑的な見解を述べています。
「正確に言えば、すべて昨日のニュースだった。月曜日にドイツと日本の共同研究グ ループがヒト染色体 21 の解読を宣言した。しかし、いずれにせよ、すでに数週間前に このニュースが市場に流布されていたことを思い出せる人がいるだろうか。4 月 6 日に 米国に本社を置くCelera 社のCraig Venter 博士が『完全なヒトゲノムの解読』を報告し たとき、ドイツの科学者らは単に我を忘れて、自分たちが染色体 21 を解読したことを 早まって宣言してしまった。
「発表より前に印刷する。これは学術研究の最古のきまりの 1 つである。確認済みの データのみを特別な雑誌および最終的にメディアに発表するべきであり、研究の品質基 準を保証するにはこれは非常に有用な手段である。しかし Craig Venter 博士は自分たち のゲノムデータを秘密にしており、博士らの研究の質に関して実際に知る人はいない。
公的資金によるゲノムプロジェクトに参加している Craig Venter 博士の競合研究者たち は、多かれ少なかれまだ科学のルールを固持しており、その染色体 21 に関する論文が
Nature に発表された。しかし、彼らでさえ、広報活動や経済的利益を重視する研究の要
求にますます屈するようになってきている。
「一般市民にとっては、このすべてが専門外の人にはその意味を理解することが難しい ゲノム、遺伝子、染色体に関して成功したという報告の増加に終わるだろう」(“Das Chromosom der Woche”、Süddeutsche Zeitung 2000年5月10日付、p. 4、 MCS.GEN-DE-28)
© European Network of Science Communication Teachers (ENSCOT) 2003年6月 70
エピソード3:ヒトゲノムのドラフト配列、2000 年6月26~28日(DE)
ヒトゲノムシークエンシングの完了を公表するドイツの記事サンプルには、Berliner Zeitung(10 件の記事)、Bild(3 件)、BZ(3件)、Rheinische Post(9件)、Süddeutsche Zeitung(12 件)、
およびDie Welt(19件)に掲載された合計56件の記事が含まれます。Die Zeit には、2000年6 月 29日にも2 件の長い記事が掲載されましたが、発行がサンプリング期間外であったためにこ れら2件はその後の分析の対象としませんでした。大衆日曜紙Welt am Sonntagには報道があり ませんでした。
6月26~28日の期間に合計56件の記事が見つかり、11件は発表当日(6月26日)、32件が翌
日(6月27日)、13件が6月28日に掲載されていました。
これらのうち 3 分の 1 を超える記事(21 件)が科学面に掲載されました。残りの記事は、新聞 のニュース面(13 件)、意見面(11 件)、経済面(2 件)、文化面(1 件)およびその他の区 分(8件)に分布していました。
情報源およびインタビューを受けた人の分布を以下の表に示します。
情報源およびインタビューを受けた人の分布は、明らかに科学者および科学研究機関が多く なっています(全情報源の 66%)。これらの中で、ヒトゲノムプロジェクト(HGP)およびこ のプロジェクトのドイツ部門の代表者またはこの研究の完了について解説している人が多数を 占めました。Celera Genomics 社および Craig Venter 博士が実施したプロジェクトの関係者の引 用頻度は低いものでした。
2 番目に大きなカテゴリーは政治家です(14%)。トニー・ブレア首相とビル・クリントン大統 領が開いた大西洋横断記者会見はほとんどの新聞が記事にしました。ドイツの連邦教育研究大
臣の Edelgard Bulmahn 氏は 8 件の記事で言及されました。もっと小さなカテゴリーに、特許専
門家などの「その他の職業」およびグリーンピースや教会などの種々の組織を代表する「NGO および活動家」があります。もう 1 つの大きなグループは、情報源として引用されたメディア です。専門誌とは別に、自身の報道の取材範囲とともに境界線を越えて調査を行っている他の 欧州の新聞も情報源として言及されています。
情報源やインタビューを受けた人の種別 情報数
科学者および科学研究機関 合計 114(66%)
HGP科学者 18
ドイツのHGP 科学者 23
Celera社の科学者/ Craig Venter博士 20
ウェルカム・トラスト 1
その他の科学者 52
政治家/政治機関 合計25(14%)
Bill Clinton 6
Tony Blair 4
Gerhard Schroeder 3
Edelgard Bulmahn(ドイツ連邦教育研究大臣) 6
その他のドイツ政府大臣 6
© European Network of Science Communication Teachers (ENSCOT) 2003年6月 71