第 4 章 ディジタル制御に基づくスイッチング電源のフィードバック制御実験 33
4.2 外乱オブザーバに基づく内部モデル制御 (DIMC) 法
4.2.1 内部モデル制御 (IMC) 法
内部モデル制御(IMC)はM.Morariによって提唱されたプロセス制御系に対する制御法である。
これはH2制御やスミス予測制御に関連しており、Youlaのパラメトリゼーションを基本とした具 体的なプロセス制御系の設計法としてまとめられている。
この内部モデル制御系のブロック線を図4.3に示す。P(s)、Pn(s)は制御対象とそのノミナルモ デルを表す。ここでsはラプラス演算子を表す。F(s)は定常ゲインが1のローパスフィルタであ り、IMCコントローラF(s)×Pn−1(s)を物理的に実現させるため、この伝達関数がバイプロパー となるように選択する。例えば、Pn(s)の相対次数をnとすると、
F(s) = 1
(τis+ 1)n (4.4)
となる。この場合、制御対象が既知とすると、IMCの設計パラメータはフィルタの帯域幅1/τi[rad/s]
のみであり、設計および調整が容易な点が利点である。また、この制御構成からわかるように、IMC ではモデル化誤差がなく、かつ外乱が存在しなければ、目標値rから出力yまでの伝達関数はF(s) となる。すなわち、フィードバックループがなく直列補償器によるオープンループ駆動である。こ れに対して、モデル化誤差や外乱dが存在する場合にのみ、P(s)とPn(s)の出力の差分を利用し、
フィードバックにより誤差補償が行われる。
+
-+
+
- d
r y
F(s)
・・・・
Pn-1(s) P(s)Pn(s)
controller Plant
Nominal Plant
図 4.3: 内部モデル制御系のブロック図
4.2.2 外乱オブザーバに基づく内部モデル制御 (DIMC) 法
外乱オブザーバ
制御対象が積分特性を有している場合、IMCではステップ外乱に対して常に追従誤差が生じて しまう。本節では、IMCに外乱オブザーバを導入する[16][17][19]ことで、上記した問題を解決す る。この手法の特徴として、制御対象の逆特性を利用したオープンループ駆動ベースの制御系で構 成され、モデル化誤差と外乱に対してのみフィードバック補償が行われる。これにより、目標値に 対してオーバーシュートが皆無であり、かつ制御対象のノミナルモデルさえ高精度に同定できれば 制御帯域を極めて広帯域化することができ、安定化、ノイズ特性にも優れるという特徴を有する。
外乱オブザーバは、制御入力と出力情報から制御対象に加わる外乱を推定でき、それをフィード バックすることで外乱補償を行うことが可能である。
外乱オブザーバのブロック図を図4.4(a)に示す。ここで、外乱をd、入力をiref、制御対象の伝
達関数をP、そのノミナルモデルをPn、出力をyとすると、
d=iref−Pn−1y (4.5)
となるため、入力と制御対象の逆特性から外乱dが計算できる。しかし、制御対象に積分特性を含 んでいる場合、出力の微分演算が必要となるためその実現は難しく、仮に可能であったとしても、
高周波でハイゲインとなるため、観測ノイズの影響を非常に受けやすくなる。そこで一例としては 次式に示すように、dにローパスフィルターを通して得られる出力dˆをその推定値とする。また、
nはF×Pn−1がプロパーになるように決定する。
dˆ=Fd·d= 1
(τis+ 1)nd (4.6)
これを図示したものが図4.4(b)である。この点線で囲まれた部分は、制御対象への入力および出力 から外乱を推定するため、外乱オブザーバと呼ばれる。このとき、外乱オブザーバの極は式(4.6) のローパスフィルタの極に相当するため、フィルタの時定数をできるだけ小さくすることで遅れの 少ない推定値を得ることができる。しかし、実際にあまりに小さくしすぎると、観測ノイズや制御 対象のモデル化誤差などの影響を受け、正しい推定が行えなくなるためその決定にトレードオフは 避けられない。また、本手法では、図4.4(b)の等価ブロック図として図4.4(c)を用いる。
P Pn-1
iref y
d +
+ − d
− P
Pn-1
iref y
d +
+ − d
− y
P Pn-1 iref d
+ + −
Fd dˆ
− y
P Pn-1 iref d
+ + −
Fd dˆ
− y
P Pn-1 iref d
+ + −
Fd dˆ
− y
P Pn-1 iref d
+ + −
Fd dˆ
−
P Pn
iref y
d +
+ −
Fd×Pn-1 dˆ
− P Pn
iref y
d +
+ −
Fd×Pn-1 dˆ
−
(a) (b) (c)
図4.4: 外乱オブザーバのブロック図
外乱オブザーバに基づく内部モデル制御(DIMC)法
外乱オブザーバに基づく内部モデル制御(DIMC)法のブロック図を図4.5に示す。このDIMC の構造は極めてIMCに類似している。モデル化誤差および外乱が存在しない限り、フィードバッ ク補償が働かない。したがってDIMCはオープンループ駆動型という特長を有している。フィー ドバック部分を外乱オブザーバとみなすことができ、DIMCと同様の制御性能を得ることができ る。さらに外乱オブザーバのフィルタをFdとしたときの入出力関係は、
y= F(s)P(s)Pn−1(s)
1−Fd(s) +Fd(s)P(s)Pn−1(s)r+ (1−Fd(s))P(s)
1−Fd(s) +Fd(s)P(s)Pn−1(s)d (4.7) P(s) =Pn(s)のとき
y=F(s)·r+ (1−Fd(s))P(s)·d (4.8) さらにフィルタを、
Fd(s) =(n+ 1)τdos+ 1
(τdos+ 1)n+1 (4.9)
と置くことで伝達特性は1つの微分特性が残る。したがって、ステップ外乱に対して定常偏差は補 償される。
+
y
r
++−
Disturbance observer +
d
F(s)・ P
n-1(s)
F
d(s)・ P
n-1(s) P(s) P
n(s)
(v
ref) (u
pwm) (v
out)
u
図4.5: 外乱オブザーバに基づく内部モデル制御系