第 1 章 温室効果ガスおよびオゾン層破壊物質などの状況
1.3 エーロゾル
大気には、雲粒のほかに固相、液相またはこれらが混合した半径0.001μm程度から10μm程度の 粒子が浮遊しており、これをエーロゾルと呼んでいる。エーロゾルには、人為起源・自然起源のガ スから粒子変換で生成される硫酸(塩)、海水の波しぶきが大気中で乾燥してできる海塩、風による 巻き上げで発生するダスト(黄砂)、化石燃料やバイオマスの燃焼によるすす(黒色炭素および有機 炭素)などがある。また、大規模な火山噴火は大量の噴煙や火山ガスを成層圏に持ち込み、成層圏 で大量のエーロゾルが滞留する原因となる。
エーロゾルは、太陽放射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させることで、気温を低 下させる効果をもつ一方で、地球からの赤外放射を吸収・再放射するという保温効果ももっている。
また、例えばすす(黒色炭素)の増加は太陽放射を吸収し大気を暖める。さらに、これら直接効果 のほかに、雲粒の核となる微粒子(雲核)として雲粒の数や粒径分布を変化させることで、地球の 放射収支を変えるという間接効果もある。これら相反する複数の効果が絡むため、エーロゾルの増 減と組成の変化がどの程度気候に影響するかを量的に評価することは難しいが、エーロゾルが増え ると地球全体の気温が下がると考えられている。
1.3.1 日射放射観測による大気混濁係数の経年変化
気象庁では、気候変動を監視し、また地球温暖化予測の不確実性を低減するため、全国5地点(図
3.1-1)において精密な日射放射(直達日射、散乱日射、下向き赤外放射)観測を行っている(コラ
ム「精密な日射放射観測の開始」参照)。このうち、太陽から地表面に直接入射するエネルギーであ る直達日射量からは大気の濁り具合に関する指標であるホイスナー・デュボアの混濁係数(以下、
「大気混濁係数」)を算出することができる。大気混濁係数は、エーロゾルのほか、水蒸気、オゾン、
二酸化炭素等の日射の散乱・吸収に寄与する種々の物質を含む現実の大気の光学的厚さ(日射に対 する大気の不透明さ、濁り具合)が、酸素や窒素などの空気分子以外の物質が存在しないと仮定し た大気の光学的厚さの何倍であるかを表している。つまり大気混濁係数が大きいほど大気を濁す物 質が多いことを示している。
1960~2010 年について、季節変化およびそれより短い周期成分を除いた大気混濁係数の経年変
化を図3.1-18に示す。ここでは、日々大きく変動する水蒸気や黄砂の影響を除くため、大気混濁係
数の月最小値を用いて全地点の平均値を求め、年平均値を算出している。1963年から数年継続して いるやや高い値、1982~83年と1991~93年にみられる極大は、それぞれ1963年2~5月のアグ ン火山噴火(インドネシア)、1982年3~4月のエルチチョン火山噴火(メキシコ)、1991年6月 のピナトゥボ火山噴火(フィリピン)によって火山ガスが成層圏に大量に注入され、成層圏が長期 間にわたって混濁した結果である。ピナトゥボ火山噴火以降は大規模な火山噴火が発生していない ため、日本における大気混濁係数はアグン火山噴火前のレベルまで戻っている。
図3.1-18 大気混濁係数の経年変化(1960~2010年)
○1991年のピナトゥボ火山噴火以降大規模な火山噴火が発生していないため、日本におけるエー ロゾル等による大気の混濁は1963年のアグン火山噴火以前のレベルに戻っている。
○ライダー観測によると、2009年のサリチェフ火山噴火によるエーロゾルが2010年冬まで成層 圏に滞留していたと考えられる。
図3.1-17 北西太平洋亜熱帯域(北緯11~30度、東経130~165度)における大気-海洋間の正味の二酸化炭素交
換量の (a)月ごとの積算交換量及び (b)年間積算値(1996~2009年)
単位は炭素に換算した重量(億トン炭素)で、海洋から大気への放出を正としている。(b)の破線は、1996~2009年 の平均−0.63億トン炭素を表している。
図3.1-19 綾里、南鳥島、与那国島における1998~2010年の波長500nm
と862nmのエーロゾル光学的厚さ
2007年3月までは1日3回の定時観測値を集計し、それ以降は連続観 測値を集計している。2010年は速報値で、後日修正される場合がある。
1.3.2 サンフォトメータ観測によるエーロゾル光学的厚さ
気象庁では国内3地点(綾里、南鳥島、与那国島)でサンフォトメータを用いて、波長別のエー ロゾルによる大気全層の濁り具合を表すエーロゾル光学的厚さやエーロゾルの粒径分布の観測を行 っている。図3.1-19に、それぞれの観測地点における1998~2010年のエーロゾル光学的厚さの月 平均値の経年変化を示す。
綾里ではエーロゾル光学的厚さ が春に極大、冬に極小となる。春 の極大の原因として、アジア大陸 から飛来する黄砂などによる影響 がある。なお、春は日本全域でア ジア大陸の大気汚染によるエーロ ゾルが黄砂と同程度の影響を与え ているとする研究もあり、春の極 大はこれらが重なり合っている可 能性がある。2003 年 5 月にエー ロゾル光学的厚さが例年の約2倍 となっているのは、シベリアでの 森林火災の煙による影響である。
これについては、気象庁「気候変 動監視レポート2003」で詳しい解 説を行った。また、2006年の春の 大きなエーロゾル光学的厚さは、
大規模な黄砂の影響によるもので ある。
南鳥島では、ほぼ年間を通して 綾里や与那国島よりもエーロゾル 光学的厚さが小さい。これは、陸 上起源エーロゾルの発生源である アジア大陸から遠いためと考えら れる。しかし、他の季節に比べる とアジア大陸の影響を受けやすい 春で平均した南鳥島のエーロゾル
光学的厚さは、ハワイの年平均値よりはるかに大きくなっており、黄砂や大気汚染の長距離輸送の 影響も示唆される。この期間で最大の値となった2006年4月のエーロゾル光学的厚さは、後方流 跡線解析(空気塊がどこから来たのかを気象モデルを用いて時間を遡って追跡する解析方法)によ ると月の前半にアジア大陸からの空気の流入が多かったため、アジア大陸起源のエーロゾルの影響 を受けていたことが考えられる。また、南鳥島では500nmと862nmのエーロゾル光学的厚さの差 が綾里や与那国島に比べて小さいことが多い。これは綾里や与那国島と比べて、エーロゾルの中で 粒径が大きい部類に入る海塩エーロゾルが相対的に多いことを示している。南鳥島のエーロゾル光 学的厚さは、春に極大、秋に極小をとることが多い。
与那国島ではエーロゾル光学的厚さは、春に極大となり、夏から秋にかけて極小となっている。
春に極大になるのは綾里と同様、アジア大陸から黄砂や汚染大気および森林火災の煙などのエーロ ゾルが運ばれるためと考えられるが、混濁の程度は綾里より大きい。特に、2007 年 3 月にエーロ
1.3.3 ライダー観測によるエーロゾル鉛直分布
ライダー(レーザーレーダー)は、レーザー光を上空に向けて発射し、大気分子やエーロゾルに よって後方に散乱された光を望遠鏡で受信することで、エーロゾル濃度に相当する量の鉛直分布を 観測する装置である。また散乱される光の特性の違いを利用して、硫酸塩エーロゾルのような比較 的に丸いエーロゾルと黄砂のような角張ったエーロゾルを区別することができる。気象庁では、岩 手県大船渡市三陸町綾里の大気環境観測所で観測している。
黄砂や硫酸塩エーロゾル、すすなどの対流圏エーロゾルは、気候変動に対して大きな影響を与え る。一方、火山噴火により火山灰や火山ガスが成層圏に大量に注入されると、成層圏エーロゾルと して数年の期間にわたって気候に影響する。空間的にも時間的にも、また発生源も大きく変動する エーロゾルの把握は、気候の監視や地球温暖化の予測精度を上げるために重要であり、ライダーは その動態を明らかにするための有力な観測手段となっている。
図3.1-20に2009年12月から2010年11月までの間を3か月ごとの季節別に平均したエーロゾ ル鉛直分布を示す。成層圏(季節によっても異なるが、おおむね高度10km以上)のエーロゾルの 量は、対流圏と比較して極めて少ない。対流圏内のエーロゾルの量は変動が大きいが、地面に近づ くほど多くなっている。これらは、エーロゾルの発生源が主に地面付近に存在していることによる。
春(3~5月)は、ほかの季節に比べて特に対流圏中層7km付近のエーロゾルの量が多い。これら は主に、アジア大陸から飛来する黄砂によるものである。
2010年冬に高度8km~15kmで見られるわずかな極大については、月別に見ると成層圏において 散乱比が大きい状態が2009年7月から2010年2月まで月の経過と共に高度を下げながら継続し ていた。このエーロゾルは、火山活動の状況や衛星観測などから、2009 年 6 月の千島列島のサリ チェフ火山の噴火によって発生したエーロゾルが成層圏に滞留していたことによると考えられる。
図3.1-20 綾里における2010年のエーロゾル鉛直分布の3か月平均値(冬、春、夏、秋)
赤実線は晴天時に波長532nmのライダーで測定した散乱比(エーロゾル濃度に相当する量)の3か月平均値。そ の両側の青い影は標準偏差の範囲を示す。
図3.1-19 綾里、南鳥島、与那国島における1998~2010年の波長500nm
と862nmのエーロゾル光学的厚さ
2007年3月までは1日3回の定時観測値を集計し、それ以降は連続観 測値を集計している。2010年は速報値で、後日修正される場合がある。
1.3.2 サンフォトメータ観測によるエーロゾル光学的厚さ
気象庁では国内3地点(綾里、南鳥島、与那国島)でサンフォトメータを用いて、波長別のエー ロゾルによる大気全層の濁り具合を表すエーロゾル光学的厚さやエーロゾルの粒径分布の観測を行 っている。図3.1-19に、それぞれの観測地点における1998~2010年のエーロゾル光学的厚さの月 平均値の経年変化を示す。
綾里ではエーロゾル光学的厚さ が春に極大、冬に極小となる。春 の極大の原因として、アジア大陸 から飛来する黄砂などによる影響 がある。なお、春は日本全域でア ジア大陸の大気汚染によるエーロ ゾルが黄砂と同程度の影響を与え ているとする研究もあり、春の極 大はこれらが重なり合っている可 能性がある。2003 年 5 月にエー ロゾル光学的厚さが例年の約2倍 となっているのは、シベリアでの 森林火災の煙による影響である。
これについては、気象庁「気候変 動監視レポート2003」で詳しい解 説を行った。また、2006年の春の 大きなエーロゾル光学的厚さは、
大規模な黄砂の影響によるもので ある。
南鳥島では、ほぼ年間を通して 綾里や与那国島よりもエーロゾル 光学的厚さが小さい。これは、陸 上起源エーロゾルの発生源である アジア大陸から遠いためと考えら れる。しかし、他の季節に比べる とアジア大陸の影響を受けやすい 春で平均した南鳥島のエーロゾル
光学的厚さは、ハワイの年平均値よりはるかに大きくなっており、黄砂や大気汚染の長距離輸送の 影響も示唆される。この期間で最大の値となった2006年4月のエーロゾル光学的厚さは、後方流 跡線解析(空気塊がどこから来たのかを気象モデルを用いて時間を遡って追跡する解析方法)によ ると月の前半にアジア大陸からの空気の流入が多かったため、アジア大陸起源のエーロゾルの影響 を受けていたことが考えられる。また、南鳥島では500nmと862nmのエーロゾル光学的厚さの差 が綾里や与那国島に比べて小さいことが多い。これは綾里や与那国島と比べて、エーロゾルの中で 粒径が大きい部類に入る海塩エーロゾルが相対的に多いことを示している。南鳥島のエーロゾル光 学的厚さは、春に極大、秋に極小をとることが多い。
与那国島ではエーロゾル光学的厚さは、春に極大となり、夏から秋にかけて極小となっている。
春に極大になるのは綾里と同様、アジア大陸から黄砂や汚染大気および森林火災の煙などのエーロ ゾルが運ばれるためと考えられるが、混濁の程度は綾里より大きい。特に、2007 年 3 月にエーロ ゾル光学的厚さが大きな値となったのは、後方流跡線解析の結果などからインドシナ半島北部の野 焼き等によるエーロゾルと考えられる。