■國
W. エポーモル 1993 斬新、大胆、想像力、リーダーシップ、持続力などを活用する o済主体
出展:清成忠男編訳『企業家とは何か』東洋経済新報社,1998年,171頁.
「しかしながら、これらの(形質アプローチによる=筆者注)努力によって は、起業家と他者の間の個性的局面に関する相違を見いだすための研究者は、
起業家と他の人々の間に明快な相違を明確にすることができなかった。」11ので ある。それは、ハットン(Hatten)が指摘するように、「30年間に及ぶ研究の結 論は、成功する起業家はどのような人々であるのかを予測可能とする性格特性
はないことを示している… 。成功的な小規模ビジネスの所有者と起業家は、
あらゆる形、大きさ(の企業)、そしてあらゆる肌の色、背景から現れる。」12と 考えられるからである。
カーソン(Carson)らは、アントレプレナーシップを理解するための、形質 アプローチの限界の理由を、次のように示している13。
1 形質アプローチによっては、起業家的な小規模ビジネスの所有者と、よ り確立された組織において、同様に成功している専門的経営者を明確に 区別することは不可能であった。例えば、成功している専門的経営者の あるグループは、起業家的な小規模ビジネスの所有者に匹敵するレベル の達成動機あるいは危険負担傾向を表している。
2 形質アプローチの使用は、特に起業家的であると思われる人の性格的な 側面を識別するだけであって、それらに優先順位を付けることが困難で
ある。
3 形質理論においても、アントレプレナーシップが動的で、絶えず変化し ているプロセスであることを認識する必要がある。あるひとびとが、常 にそして永久に起業家であるわけではない。さらに、起業家的ベンチャ ーの異なった段階においては、さまざまに異なる起業家的資質が必要と される。
4 形質アプローチに頼ると、起業家は起業家に必要とされる全ての知的能 力、動因や生まれつきの特質を持っており、後になって、ある適当な経 営環境において後それらの資質を単に利用する機会だけを必要とする、
という安易な結論に導かれてしまう。もし本当にそうであるなら、それ は多くの起業家向けのトレーニング・センター、サイエンスパーク、そ してそれに限らず近代的なビジネス・スクールの多くの部門にとっては 大打撃となるであろう、というのである。
U Ibid., p.63,
匡2@1bid., p.63.
t3@1bid., pp,63へ64。
以上、アントレプレナV−・一・シップ、および起業家に向けた形質アプローチの限 界をみてきたのであるが、筆者が、アントレプレナーシップ、および起業家と はどのような人々なのか、如何なる特性を持つ人々なのか、その能力は何か、
などを検討する際、 「起業家はどう考えるか」の視点を忘れてはいけないとい う警告として、これらの指摘は重要である。
1 起業家の能力
(1)アントレプレナーシップの意味するもの
アントレプレナーシップ(entrepreneurship)という用語は、わが国では一 般に、 「企業(起業)家精神jと訳す場合と「企業(起業)家活動」とする二 つの方法がある14。しかし、ビジネスの現場一一般においては、この2つを厳密に 区別して使用する必要性は感じない。
ところが、訳語としての用語法の検討としてではなく、「起業家に必要とさ れる能力の構成要素」という見地からこれを考えようとするとき、この議論は 重要な意味を持つ。それは、アントレプレナーシップは起業家にとって単に「精 神」だけを意味するものでもなければ、具体的な「活動」そのものでもなく、
両者を包含した「精神活動と捉えなければならないと考えられる。
ビョルン・ビエルケらは、 「我々は、アントレプレナーシップは単にマネジ メントの局面、あるいはビジネス・リーダーシップの局面を表すだけではない ばかりか、(これらの双方から、多くのことを応用することはあろうが)それら 両方のベストな結合でもないことを主張したい。マネジメントは基本的に仕事 であり、ビジネス・リーダーシップは役割のひとつであるが、しかし、アント レプレナーシップは生活観(ライフスタイル)と呼ぶのが、ふさわしいものであ る。」15と指摘している。
一般に、起業家に必要とされる能力として多くの論者が挙げるものとして「チ ャレンジ精神」と「創造力」がある。 「チャレンジ精神」についていえば、そ れはビジネス社会における何らかの変革に向けた挑戦の源泉であるといえよう。
チャレンジの対象となるものは、事業・製品(無形財を含む)それ自体や市 場環境、あるいはそれらを取巻く社会、経済、法律、政治などの環境の「現状」
14 エ成忠男教授は「entrepreneurshipはしばしば「企業家精神」と訳されているが、正確には精神をも含めた 企業家の全体的な行動を指しているので、本書では「企業家活動」と訳した。企業家精神に相当する言葉は、
entrepreneurial spiritである。欧米の多くの研究者は、 entrepreneurshipとentrepreneurial spiritを使い わけている。」と指摘している。J, A,シュムペーター, Unternehmθr(Handworterbuch der
Staatswissenschaften)1928.清成忠男訳編『企業家とは何か』東洋経済新報社,1998年。
ts@Bjδrn Bjerke, Claes M. Hultman. oP. cit., P.15・
であり、チャレンジ精神は、それらの現状を否定して新しいことを行ったり、
新しい物を生み出したりすることに向けた挑戦的な精神活動である。
このチャレンジ精神を持つことこそが、起業家にとって必要欠くべからざる 資質であることは疑いの余地はないと考えられる。
しかし、それだけでは十分とはいえないのである。何故ならば現状に対する 不満、不足を指摘し、現状の破壊、変革を希求し目論んだとしても、次に構築 すべきものの呈示がなされなければそれは単なる「破壊」にすぎないからであ
る。ここで創造力の有無が重要な意味を持つのである。
また逆に、いかに独創性を備えた知識、技能を持っていても、それを実現し ようとする意志、すなわちチャレンジ精神に基づく活動、行動なくしては、実 際のイノベーションには結びつかず宝の持ち腐れとなってしまうからである。
このように、チャレンジ精神と創造力は密接不可分の関係を持っている16。
このような理解に立ち、「新しいことを行ったり、すでに行われてきたことを 新たな方法でおこなったりする」ことをイゾベーションとするならば、チャレ
ンジ精神は「革新マインド」17と言いかえることが可能である。
チャレンジ精神=革新マインドは、起業家あるいは起業チームの中心的役割 を果たすひとびと個人に必要とされる個人的な資質、能力であると同時に、起 業家的であろうとする組織の組織文化、あるいは判断基準の基礎になければな
らないものである。
もちろん、独創的で有名な、発明家や技術者には、経営能力や事業能力が欠 けていることが多いという指摘もあるように、事業の具体化とその後の運営に はその他のさまざまな能力、すなわちリーダーシップやマネジメント能力をは じめとする、いわゆる経営管理能力が必要となるはずである。起業家個人にそ れらの能力が不足する場合、多くの成功した起業の事例に見られるように、そ れを補う人材、チームも必要となろう18。
・n。ApPlication・fP・r・h・1・gical r・sting to En treprenettrial Pot・ntゴ・116Michael Palme ., ・C・1if・rni・
Management Rev iew, Vo1.13, No. 3, P.32.起業家を研究した研究者によれば、人々の中には起業家の精神的轡
鷲霧驚轡蕎灘魏瓢轟論蔚懲難鰐,鵬磁1繍
(3)これらの決定から生ずる具体的成果に対する関心、 (4)金銭的誘引ゆえに励むのではない、精神的操 作を要する仕事に励む傾向、 (6)先を読む傾向、 (7)個人的な友人よりも専門家と働くことを好む傾向、
である。
11「革新マインドjとは、「事業・製品とそれを取り巻く市場環境又は、それらを包括するζころの、社会・経 済状況の現状に対する改革に向けた強烈な希求心」である。拙稿「事業・製品の革新アイテア創出メカニズム 試論」『商学研究論集第11号』明治大学大学院,1999年を参照せよ。
18優秀な発明による独創的なアイデアであっても、その事業化が困難であることはAndre Millard, Edison and the Business of lnnovetion.橋本毅彦訳『エジソン発明会社の没落』朝日新聞枇且998に詳述されている。
また、起業の成功の陰に補佐役が重要な役割を持った例として、ソニー一における井深大と盛田昭夫、ホンダの 技術者社長、本田宗一郎と経営の藤沢武夫の例が代表的である。ソニー一広報センター編著『ソニー自叙伝』ワ
ック出版部,1998年。佐藤正明著『ホンダ神話、教祖なき後で』文藝春秋,正996年。
75
しかし、現状破壊のための「チャレンジ精神=革新マインド」と、破壊のあ とに構築すべき新たなものの呈示のための「創造力」の融合であるアントレプ レナーシップが、起業家ないしは起業家的企業であろうとする組織にとって最 低限必要な要件であることは、次の図で示す起業家能力の特性によって理解さ れるであろう。
ただし、この分類においては、前述のカーソンらが、アントレプレナーシッ プを理解するための形質アプローチの限界を示す中で述べ、同様に企業者史の 研究者である瀬岡誠氏も指摘するように、起業家であるか否かはその人の一生 において固定したものではなく、ある時点において革新者であるか否かによっ て判断されるべきものである19。
したがって、筆者はアントレプレナーシップを、
「事業者個人または組織による、イノベーションに向けたチャレンジ精神す なわち『革新マインド』と、独創性あふれた『創造力』の融合としての精神活 動であり、起業家および起業家的企業の行動規範となるものである。」と定義 するのである。したがって、生来備えているのか後天的に獲得可能なものなの かの議論はともかくとして、このような内容を持つアントレプレナーシップは、
起業家および起業家的企業、すなわち、ベンチャー指向型企業に必須の内部能 力ということになるであろう。
図表皿一2 起業家能力の特性20
発明家 研究開発者
低 (経営管理能力=人、金、物の獲得と運用能力)
(2) 起業家能力の重層構造
置9 」岡誠『企業者史学序説』実教出版株式会祉1991年,11頁。「だれでも『新結合を遂行する』場合にのみ基 本的に企業者であって、したがって彼が一度創造された企業を単に循環的に経営していくようになると、企業 者としての『資格を喪失』し、慣行の軌道にはまった静態的世界の創造的破壊者から、もっぱら調整機能の遂 行に従事する『単なる事業主』もしくは『「経営管理者」』となるのである。」
20この図は、右記訳書42頁の図をヒントに新たに作成したものである。Jeffrey A. Ti㎜ons, IVem Yenture Crea tion,千本倖生他訳『ベンチャー創造の理論と戦略』ダイヤモンド仕1997年。
76