第 9 章 主要投資インセンティブ
3. 投資にあたっての留意点
(1) 労働者の確保
工場のワーカーレベルはマレーシア人にあまり人気がない。常夏のマレーシアでは、ク ーラーの効いた場所が好まれる傾向にあり、また3Kの仕事は敬遠されている。そのため、
外国人労働者に頼らざるを得ない状況である。しかし外国人労働者に関しても、ビザ取得 が厳格化されており、労働者の確保が課題となっている企業は多いようだ。
また、技術者や中間管理職以上の人材は、企業間で取り合いとなっている。ワーカーレ ベルではタイよりも賃金が安いのに、技術者や中間管理職になるとマレーシアの方が高賃 金なのは、そのためである。
(2) 治安の悪化
直近では日本人を狙ったひったくりや強盗事件、婦女暴行被害、日本人の多く住む地域 での誘拐未遂事件などが発生している。治安の良いと言われているクアラルンプールでも そうとは言えなくなってきており、大使館などは注意を呼び掛けている。
また、銃の規制は厳しいものの、2013年は銃を使用した襲撃事件や殺人事件などの報道 が増えている。市場調査会社GfKが8月に発表したアンケート「アジア・太平洋地域消費 者の経済面での懸念事項調査」では、マレーシアの回答者67%が犯罪・法規面で懸念を抱 いているとの結果が出ている。
(3) 最低賃金制度の導入、最低退職年齢法施行
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リンギであった最低月額賃金が 900 リンギに引き上げられた。外国人労働者を多く雇用す る企業では負担になっている。
同年7月には最低退職年齢法が施行され、これまでEPFの引き出しができる55歳が定 年という考えが一般的であったが、60歳が定年ということになった。55歳以上の従業員に 対する賃金の設定や、採用計画の変更など、苦慮しているとの声が聞かれた。
ひとくちメモ (31): マレーシア人労働者と労務管理
現地の日系駐在員の中には、中国や他の ASEAN 諸国での駐在経験がある人も多い。また、出張者から他 国の労働者の話を耳にして、比較する機会もある。そこで、マレーシア人労働者の評価や、マレーシアで の労務管理について、日本人駐在員のコメントをいくつか紹介する。
① 優秀である
・タイやインドネシアの労働者と比較すると、マレーシア人労働者は優秀。特に、幹部クラスの中国系の 能力は高い。この背景には、マレーシアで大学に進学するには人種の枠があり、中国系は相当努力をす るか、海外の大学への進学を目指さなくてはならない事情がある。
・マレーシアは教育水準が高い。国民も勉強熱心。また、決められたことをきちんと行う。ある企業では、
仕事と私事が重なった場合、仕事を優先する従業員もいる。
・中国では、労働者が図面通りに作業せずに勝手に創意工夫することがある。一方マレーシアでは、決め られた工程をきっちりこなす。部品製造は品質管理が重要。勝手に工程を変更されるとそれが後の工程 にどのような影響が及ぶか分からないので、指示通りに作業してくれるマレーシア人はありがたい。
② コストは安いが効率はやや落ちる
・エンジニアの賃金は日本より安い。その代わり、効率はやや落ちるため、日本人 1 人でこなす工程をマ レーシアでは 2 人で担当。しかし、それでも固定費を下げることができた。
③ 地元で働くことを希望
・マレーシア人の多くは、地元での就職を希望する。そのため、会社が通勤バスを用意することはあって も寮を準備する必要はない。専門学校も各地に設立されており、エンジニアを含め、労働者は会社の近 辺から採用できている。但し、優秀な中間管理職は絶対数が足りないので、企業間で取り合いとなって いる。
④ 社会、文化に配慮する
・赴任当初は宗教を理解するのに苦労した。イスラム教にとって金曜日は大切な日なので、礼拝のために 昼休みを少し長めの 1.5 時間としている。
・マレーシアは複合民族国家で、過去に大規模な人種衝突の経験もある。そのため、人種や政府の話はタ ブーである。
⑤ 中国本土の中国人とは違う、インド人も同様
・中国本土の中国人と、マレーシアやシンガポールの中国系には違いがある。マレーシアから中国本土へ 多数の中国系企業が進出したが、成功せずに帰ってきた企業も少なくない。
・ある企業のインド系社員は、インドへの出張はこだわらないが、駐在は拒否している。この背景には、
カーストの問題があるようだ。
ひとくちメモ (32): 汚職は減ったか
アジア新興国でビジネスを始めようとすると、「汚職はひどいのだろう」と心配する人も多いだろう。実 際、過去 3 年間、ASEAN 諸国の「投資環境シリーズ」で出張した際にも、会社設立手続き、営業ライセン ス、通関手続き、税務調査等で、メニューにない手数料を求められた経験があると答えた日系企業も少な くなかった。
大手監査法人アーンスト&ヤング(E&Y)の「アジア太平洋汚職調査 2013」(Asia‑Pacific Fraud Survey Report Series 2013)では、「汚職が国内で広く行われている」との質問に対し、マレーシアは 39%と、
インドネシア(79%)よりは低いものの、ベトナム(36%)や中国(21%)を上回る結果となっている。
しかし、今回(2013 年 9 月)に約 2 週間の現地取材を行った際に、汚職が事業運営上の問題点と挙げた 企業はなかった。マレーシア政府は汚職撲滅のため、贈収賄の取締りを強化していることがあるようだ。
中には、「スピード違反の取り締まりではまだ賄賂は残っているみたいだけどね」との声も聞かれた。
車線が多く整備されている高速道路では、スピード違反に注意
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第22章 主要産業の動向と AFTA 及び FTA の影響
1.マレーシアの主要産業
マレーシアでは、1990年から2000年にかけて、製造業の名目GDP比は24.2%から30.9%
へと 6.7%ポイント上昇した。しかし、2001 年には主要輸出相手国である米国で同時多発
テロ事件が起こり、マレーシアの主要産業である電機・電子セクターへの需要が減少。ま た、家電製品の生産拠点が相対的に人件費の安い中国、タイ、ベトナムにシフトし始めた ことで、製造業の名目GDP比率は徐々に低下してきている。代わって2000年以降は、原 油や天然ガスが含まれる鉱業や卸売・小売業の比率が上昇している。
次項では、①マレーシアの工業化を牽引してきた電機・電子機器産業、②近年の政策転 換により外資企業の成長が見込まれる自動車産業、③天然資源を背景にした石油・天然ガ ス関連産業、④成長サービス業の代表例である卸売・小売業、の4産業を取り上げる。
図表 22‑1 名目 GDP に占める産業の構成比
0%
5%
10%
15%
20%
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30%
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50%
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 第1次産業 第2次産業 (内、製造業) 第3次産業 (暦年)
(出所)Department of Statisticsより作成
図表 22‑2 主要産業の名目 GDP 構成比
2002 2012 (年率) 2002 2012 (差分)
全体 3,832 9,412 9.4% (100.0%) (100.0%) (+0.0%)
第1次産業 344 946 10.6% (9.0%) (10.1%) (+1.1%) 第2次産業 1,609 3,625 8.5% (42.0%) (38.5%) (-3.5%)
鉱業 342 980 11.1% (8.9%) (10.4%) (+1.5%)
原油 189 519 10.6% (4.9%) (5.5%) (+0.6%)
天然ガス 147 450 11.8% (3.8%) (4.8%) (+0.9%)
その他 6 11 6.9% (0.2%) (0.1%) (-0.0%)
製造業 1,121 2,281 7.4% (29.2%) (24.2%) (-5.0%)
食品・飲料、タバコ 111 291 10.1% (2.9%) (3.1%) (+0.2%) 繊維、革製品、衣料 37 33 -1.1% (1.0%) (0.4%) (-0.6%) 木材・木製品、印刷 80 139 5.7% (2.1%) (1.5%) (-0.6%) 石油製品・プラスチック・ゴム製品 243 795 12.6% (6.3%) (8.5%) (+2.1%)
石油製品 100 373 14.0% (2.6%) (4.0%) (+1.3%)
化学製品 74 272 14.0% (1.9%) (2.9%) (+1.0%)
ゴム製品 34 70 7.5% (0.9%) (0.7%) (-0.1%)
プラスチック製品 35 80 8.5% (0.9%) (0.8%) (-0.1%)
非鉄金属 94 298 12.3% (2.4%) (3.2%) (+0.7%)
電機・電子製品 391 472 1.9% (10.2%) (5.0%) (-5.2%) 機械・設備 36 63 5.9% (0.9%) (0.7%) (-0.3%)
PC等 84 39 -7.4% (2.2%) (0.4%) (-1.8%)
家電製品 23 47 7.3% (0.6%) (0.5%) (-0.1%)
テレビ・ラジオ・通信機器 248 323 2.7% (6.5%) (3.4%) (-3.1%)
輸送機器 165 253 4.4% (4.3%) (2.7%) (-1.6%)
建設業 147 364 9.5% (3.8%) (3.9%) (+0.0%)
第3次産業 1,986 4,739 9.1% (51.8%) (50.4%) (-1.5%) 電気・ガス・水道 120 220 6.3% (3.1%) (2.3%) (-0.8%) 卸売・小売 423 1,279 11.7% (11.0%) (13.6%) (+2.6%) ホテル・レストラン業 90 254 10.9% (2.4%) (2.7%) (+0.3%) 運輸・倉庫業 151 302 7.1% (3.9%) (3.2%) (-0.7%)
通信業 131 295 8.5% (3.4%) (3.1%) (-0.3%)
金融業 318 527 5.2% (8.3%) (5.6%) (-2.7%)
保険業 70 177 9.7% (1.8%) (1.9%) (+0.0%)
不動産業 69 128 6.4% (1.8%) (1.4%) (-0.4%)
公的機関 102 342 12.9% (2.6%) (3.6%) (+1.0%)
その他民間サービス 238 417 5.8% (6.2%) (4.4%) (-1.8%) 政府サービス 275 798 11.3% (7.2%) (8.5%) (+1.3%)
輸入関税 66 102 4.4% (1.7%) (1.1%) (-0.6%)
(間接的に計測される金融仲介サービス) -173 -(4.5%) (0.0%) (+4.5%)
金額(億リンギ) 構成比
(出所)Department of Statisticsより作成