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イタリアの中古住宅取引における情報と専門家の役割

8.1 本章の目的と方法

中古住宅の流通促進を目指し、住宅取引における情報の非対称性を解消するため、住宅 検査や簡易診断の必要性が指摘されている。買主責任を強化した体制の整備である。本研 究では、既に買主責任体制がとられているアメリカ、イギリス、オーストラリアの取引制 度と実態、それを支える社会システムを明らかにしてきた。また、住宅取引の基本となる わが国の民法に影響を与えたフランス・ドイツの取引制度も明らかにし、そこでは買主責 任体制に加え、契約時の公証人の立会い、契約書の公正証書化が行われることを明らかに した。こうした諸外国の中古住宅取引制度のメリット・デメリット、成立するための社会 システムを明らかにし、わが国の中古住宅取引体制の改善策を取引時の情報と専門家の役 割を考察することが本研究全体の目的である。

本章では、大陸型であるフランスやドイツと似た取引形態をもつイタリアについて中古 住宅取引制度と専門家の役割を分析する。フランスやドイツとの相違、それが生まれる背 景を考察する。調査は2010年3月ミラノで不動産協会、不動産業者、研究機関、行政等 で聞き取り調査及び資料収集を行った。

なお、イタリアは人口6100万人(2014)、住宅数2653万戸(2001)、年間新築住宅建 設戸数約20万戸(2008)、既存住宅流通量59.9万戸(2009)1で、2008年では既存住宅 の流通が住宅取引の約8割を占める。日本と比べると、人口が約2分の1で、住宅流通量 が同じという住宅市場である。

8.2 中古住宅売買取引制度(図 8-1.表 8-1)

消費者が住宅を購入する場合、新聞広告、インターネット、情報誌等で第一次情報を把 握する。その後消費者が不動産業者の店舗に出向き物件紹介を受ける場合と、売主に直接 交渉する場合がある。不動産業者が関与する取引は全体取引の約半数2である。また、中古 住宅取引は住宅取引の8~9割3と、年々増加傾向にある。

不動産業者は売主から販売依頼を受けると調査・査定・広告し、購入希望者を案内する。

買主は購入希望物件を見つけ、不動産業者を通じ、不動産業者が関与しない場合は直接、

購入意思を伝える。合意が成立すると、買主は売買価格の1~10%の手付金を支払って「申 込み」を行い、手付金額、売買価格、支払日を明記した書類を作成する。買主は公証人

(notaio)4を選ぶ。次に「仮契約」を行う(compromesso)。売買価格の10~15%の手付

1篠原二三夫:基礎研レポート 欧州住宅市場の現状と今後~ EU 危機は米国を上回るのか ~ 2012.6.29 より。

2 参考資料5 p.13では約50%となっているが、年々増加傾向にあり、不動産業者、不動産協会での

聞取り調査(2010)によると、約9割である。

3 現地での聞取り調査による。

4 公務員公証人や弁護士公証人ではなく、専業公証人である。

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金を追加し、契約に必要な全情報を確認し、公証人が契約書を作成する。予約権利者保護 のためその内容を登記する5

仮契約が終わると、買主の銀行融資の手続き、公証人の調査が行われ、問題がないと「本 契約」になる6。公証人が調査する内容は、売主・買主は契約行為の資格者か、建物が抵当 権の目的物でないか、エネルギー証明書があるか等である。契約には公証人が立会い、契 約書は公正証書とする7ことが多い。買主が公証人に支払う費用は売買価格の0.5~0.6%程 度である8

住宅売買では買主側と売主側を別の不動産業者が担当する場合はほとんどなく、多くは 売主が依頼する1社が売主・買主側を仲介する。契約が成立すると、不動産業者は売主と 買主から手数料を得る。手数料は、売買価格の2~3%程度である。売主は払わず、買主が 払う場合もある。金額は法律で制限されていない9

買主は住宅購入を決める前に、自ら建築士等の検査員を雇用して建物調査を行うことは 少ない。銀行は融資のために不動産の評価を検査員(perizia)に依頼する。

日本のようにあらかじめ不動産業者が重要な事項を説明する制度はない。しかし、仮契 約で契約内容を相互に確認し、公証人も内容を確認する。契約時には、一般的に前回の売 買契約書、エネルギー証明書、売買契約の本人確認のための身分証明書、業者への仲介手 数料の小切手、正規に登録されている図面が添付される。このうち、エネルギー証明書の み州により添付が義務化されている。そこで、本契約までにエネルギー証明書を売主が用 意する。作成期間は1週間程度である。

図 8-1 中古住宅売買の関係者の関係

5 2007年財政法により仮契約から20日以内に登録し税金等を支払う制度が強化された。

6 本契約まで約90~180日かかる。融資手続きに約2カ月かかる。

7 物権変動は意思表示のみで生じる(民法1376条)ことが原則であるが、不動産所有権の移転は、

書面で契約内容を取りきめられないと無効となる(書面契約主義:民法1350条)。公正証書まで必 要とされていないが現実には公正証書が作成されることが多い。

8 費用規則に従って決められている。

9 商工会議所には基準表がある。

① 買主が申込みをする

② 仮契約をする

③ 売主がエネルギー証明 書を用意する

④ 公証人が調査をする(物 件および当事者など)

⑤ 本契約を結ぶ

⑥ 代金授与・清算・引渡し

⑦ 登記を移転する

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表 8-1 イタリアにおける中古住宅の取引費用

5000万円の物件の場合は、不動産手数料(2.5%×2)250万円、公証人雇用費用25万円+エネルギー証明書13.4 万円(1000ユーロ)で、概ね日本同等かやや高くなる。ゆえに、不動産業者が関与しない取引も多い。

本契約が終われば公証人は所有権の移転登記を行う。「登記の申請に公正証書か私文書で も署名の真正を担保するために公証人(または権限のある公務員)の公証手続きが必要とな る(民法 2657 条)。そこで実務では公正証書を作成することが多い」10。登記は日本と同様 に公信力はなく、対抗要件として同一の前主から同一不動産を 2 重に譲り受けた当事者間 の紛争を解決する機能を持つ。登記は所有権等の登記(trascrizione)と抵当権等の登記

(iscrione)で構成される。土地台帳(catasto)には平面図等が登録され、修繕や大規模 改善工事の際に内容が更新され、固定資産税と連動している。

8.3 中古住宅売買取引上の問題

中古住宅売買取引上の問題として、消費者からみれば、瑕疵の問題がある11。基本的に は買主が自分で性能等をチェックする「買主責任主義」であるが、瑕疵が見つかると、裁 判になるケースもある。その際には所有者がその事実を知っていたかが争点となるが、買 主が「売主が知っていた」ことを証明することは事実上困難である。

表 8-2 公証人が確認すること

1. 売主、買主の確認(売主に権利があるか、共有関係がないか等) 2. 建物が役所に届けられているものか

3. 買主に支払い能力があるのか

4. 住戸が修理・改良で行政の認可を受けているのか 5. 担保になっていないか(20年前までさかのぼる)

6. 税(不動産所有登記、担保税、不動産登記税)を支払っているか 7. 書類内容に不備がないか

10 参考文献6 p.273

11 瑕疵担保責任は、中古住宅は2年、新築住宅は10年である。

費用 雇用者・支払者 金額

不動産業者手数料 売主と買主 または買主

売買価格のそれぞれ2~3%

または買主が4.5~6%

公証人雇用費用 買主 売買価格の0.5~0.65%

エネルギー証明書 売主 1000ユーロ程度

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8.4 住宅売買取引に関与する専門家とその役割

①住宅取引に関与する不動産業者(仲介人)

不動産業(仲介)には免許がいる。国家試験に合格する必要がある。試験内容は法律(憲 法、民法)、登記、税、融資、議決権割合の設定方法等である。ただし、2010年末にはEU 間の決まりから免許制度を廃止する予定である。

②公証人

公証人は不動産公示手続や取引時の権限を調査する専門家であり、契約の有効性と実効 性について助言義務を負う。売主・買主の取り決めに対する法的助言、文書の作成、リス クや注意事項を説明し、条件が整っていない場合には契約を中止させる。義務を果たさな いことで、売主や買主に損害が生じれば民事責任、個人賠償責任を負う。そのため、保険 の加入が義務付けられている。

③エネルギー証明書発行者

2002年のEUレベルの方針12 に基づいて2005年から導入された。消費者が建物のエネ ルギー効率を評価した上で、不動産取引を行うためである。消費するエネルギーを段階別 に示す。資格を取得した個人や認可を受けた団体がエネルギー効率査定を行い、そのデー ターから計算を行い、証明書を作成する。有効期限は10年であり、2009年7月から全て の不動産売買、2010 年 7 月から全ての不動産賃貸の際の公正証書作成に必要となってい る。法で義務化し、公証人が関与することから普及している13

12 EU Richtlinie 2002/91/EG [EPBD Energy Performance of Buildings Directive]

13ドイツではほぼ同様の内容の エネルギーパスが住宅売買・賃貸の際に提示することが義務付けら れているが、これに公証人が関与しないことから普及はまだ十分でない。