-「全 ての 子供 に質の 高い 就学 前教育 を 」とい う目 標を 掲げ義 務化 -
1 . 実 施 形 態 の 特 徴
( 1 ) 制 度 の 概 要 1 ) 基 本 的 な 構 造
フ ィ ン ラ ン ド に お い て 就 学 前 教 育 は , 6 歳 児 を 対 象 と し て 就 学 前 の 1 年 間 提 供 さ れ る 教 育 プ ロ グ ラ ム の こ と を 指 す 。 原 語 で は , エ シ コ ウ ル (Esikoulu), エ シ オ ペ ト ゥ ス
(Esiopetus), エ ス カ リ (Eskari) な ど と 呼 ば れ て い る 。2000年 に 制 度 化 さ れ ,2001 年 度 よ り 無 償 の 就 学 前 教 育 制 度 が ス タ ー ト し て い る 。さ ら に ,2015 年 1 月 に は ,基 礎 教 育 法 の 一 部 が 改 正 さ れ ,2015 年 度 よ り 義 務 化 さ れ る こ と と な っ た 。
制 度 化 さ れ た と は い え , 就 学 前 教 育 は , 独 自 の 教 育 機 関 を 有 し て い る わ け で は な い 。 通 常 は ,デ イ ケ ア( パ イ ヴ ァ コ テ ィ :Pӓivӓkoti,パ イ ヴ ァ ホ イ ト :Pӓivӓhoito,ラ ス テ ン タ ル ハ :Lastentarha 等 と 呼 ば れ る 乳 幼 児 保 育 施 設 ) 若 し く は 基 礎 学 校 ( ペ ル ス コ ウ ル : Peruskoulu) に お い て 提 供 さ れ る 。 実 施 場 所 の 決 定 権 を 持 つ の は 自 治 体 で あ る 。 例 え ば , ヘ ル シ ン キ 市 で は , フ ィ ン ラ ン ド 語 を 教 授 言 語 と す る 就 学 前 教 育 は デ イ ケ ア で , ス ウ ェ ー デ ン 語 を 教 授 言 語 と す る 就 学 前 教 育 は デ イ ケ ア 若 し く は 基 礎 学 校 で そ れ ぞ れ 行 う と し て い る 1)。 全 国 平 均 で み る と , デ イ ケ ア な ど , 幼 児 保 育 施 設 で 就 学 前 教 育 を 受 け て い る 子 供 の 割 合 が 8 割 近 く に 達 す る( 図 1 参 照 )。し か し ,そ の 実 情 は 地 域 に よ っ て 異 な り ,農 村 自 治 体 に お い て は 基 礎 学 校 で , 都 市 部 で は 幼 児 保 育 施 設 で そ れ ぞ れ 実 施 さ れ る 傾 向 に あ る こ と が わ か る 。こ れ は ,乳 幼 児 施 設 の 利 用 率 が 低 か っ た フ ィ ン ラ ン ド の 中 で も( 図 2 参 照 ),特 に 農 村 自 治 体 に お い て そ の 傾 向 が 顕 著 で あ っ た こ と な ど も 影 響 し て い る と 考 え ら れ る 。 当 初 は , 基 礎 学 校 で 提 供 さ れ る 就 学 前 教 育 が 増 加 す る 傾 向 に あ っ た が , 近 年 は , デ イ ケ ア が 提 供 す る も の が 増 え つ つ あ る ( 図 3 参 照 )。
就 学 前 教 育 を 所 管 す る 省 庁 は 教 育 文 化 省 で あ る 。 か つ て は , 保 育 と 就 学 前 教 育 と で 所 管 省 が 異 な っ て い た が ( 保 育 を 担 う の は 社 会 保 健 省 ),2013 年 よ り 一 元 化 さ れ , 共 に 教 育 文 化 省 の 管 轄 と な っ た 。 地 方 自 治 体 レ ベ ル で は , 福 祉 系 の 部 局 が 担 当 し て い る 場 合 , 教 育 系 の 部 局 が 担 当 し て い る 場 合 , そ の 両 者 が 共 同 で 担 当 し て い る 場 合 な ど が あ る 。
図 1 : 自 治 体 種 別 就 学 前 教 育 の 実 施 機 関 (2010 年 )
( 出 典 )Kumpulainen (2012).
図 2 : 北 欧 諸 国 に お け る 年 齢 別 乳 幼 児 保 育 施 設 利 用 率 (2012 年 )
( 出 典 )Nordic Council of Ministers, 2013.
図 3 : 提 供 場 所 別 児 童 数 の 割 合
( 出 典 )Kinos & Palonen, 2013 0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳
フィンランド デンマーク アイスランド ノルウェー スウェーデン
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
基礎学校 デイケア 11.6
27.5
53.1 21.1
88.4 72.5
46.9 78.9
0% 20% 40% 60% 80% 100%
都市自治体 一般自治体 農村自治体 全国平均
学校 デイケア
就 学 前 教 育 の 提 供 主 体 は , 市 町 村 に 相 当 す る 自 治 体 で あ る ク ン タ (Kunta) で あ る 。 た だ し , 複 数 の 自 治 体 が 共 同 で 提 供 す る こ と や , 国 や 民 間 等 の 提 供 し て い る サ ー ビ ス を 購 入 し て 提 供 す る こ と ( ア ウ ト ソ ー シ ン グ ) も 可 能 と さ れ て い る ( 基 礎 教 育 法 第 4 条 )。 国 は , ク ン タ に 対 し 就 学 前 教 育 を 望 む 全 て の 子 供 た ち の 受 皿 を 整 備 す る こ と を 義 務 付 け て い る 。 就 学 に つ い て は ,「 子 供 の 権 利 」( 同 法 第 26a 条 )で あ る と し て き た が ,前 述 の と お り ,2015 年 よ り 義 務 化 さ れ て い る ( 同 第 26a 条 追 加 )。 な お , 就 学 前 教 育 は , 幼 児 教 育 ・ 保 育 に 関 連 す る 法 令 で は な く , 義 務 教 育 に 関 連 す る 法 令 に お い て 規 定 さ れ て い る 。
2 ) 教 育 内 容
就 学 前 教 育 は ,1 日 最 長 4 時 間 ,年 間 700 時 間 提 供 さ れ る 。設 置 者 で あ る 自 治 体 は ,国 が 定 め た 枠 組 み に 基 づ き , 具 体的な 時 間 割 や 年 間 日 数 , 年 度 の開 始日 ・終 了日 , そ の他実 務的な事 柄に つ い て 決 め る こ と が で き る 。 通 常 は , 基 礎 学 校 に 合 わせた ス ケジ ュー ル と な っ て い る 。
就 学 前 教 育 の内 容に つ い て 具 体的に 規 定 し て い る の は ,「 全 国 就 学 前 教 育 教 育課 程基準」
(Esiopetuksen opetussuunnitelman perusteet:以 降,「 就 学 前 教 育課 程基準」)で あ る 。 国 レ ベ ル の 教 育課 程基準の編 成を 中心 的に 担 う の は 国家教 育委 員会 で あ る 。 通 常 ,ワー キ ン グ グ ル ー プ な ど を 組織し , 自 治 体 や 関係 各 団体 等 の協 力を仰 ぎな が ら ,作 業を 行 っ て い る 。 国 レ ベ ル の 教 育課 程基準は ,大枠 を示し た も の で あ り ,詳 細に つ い て は , 地 方 教 育課 程基準に お い て 定 め ら れ る 。 地 方 教 育課 程基準の作 成は , 就 学 前 教 育 の 提 供 主 体 で あ る 自 治 体 ( ク ン タ ) に 義 務 付 け ら れ て い る 。
国 レ ベ ル の 教 育課 程基準が 最 初 に編 成さ れ た の は 2000 年( 施 行 は 2001 年 )で あ る 。就 学 前 教 育 の 制 度 化 に 合 わせて策定 さ れ た 。現行版は 2010 年 に 改訂さ れ た も の( 施 行 は 2011 年 ) で あ る 。生 涯学習の観 点か ら , 子 供 自身の知 識・技能 ・経 験を 基盤と し つ つ ,①学び 方 を 学ぶ 力(Learning-to-learn skill),②自己 肯定感,③基 礎的な技能 ,④ 発達 に応 じた 知 識と 能力を 育 む こ と が目指 さ れ て い る (Jauhola, 2014)。 教 育課 程基準に即し て , 教科 書やワー クブ ック な ど の 教材も作 成さ れ て い る 。
現行 (2010 年版) の 就 学 前 教 育課 程基準に は , 就 学 前 教 育 の目 的・ 方 法 ・内 容のほか , 発達 と 学習の支 援, 言 語的文 化的 配 慮の必 要な 子 供 の 教 育 や 特殊な 方 法 を 用 い た 教 育 ,評 価, カ リ キュラ ム開 発の手法 な ど が記さ れ て い る 。 具 体的な 教 育内 容と し て は ,①言 語 と 相互 作用 ,② 算数 ,③ 倫 理と哲学 ,④自然と環 境,⑤健康,⑥ 身体的 成長 と運 動,⑦ 芸 術
と 文 化 が挙 げら れ て い る 。こ れ ら は ,「 教科」で は な く「領域 」で あ る 。また ,こ れ ら に 加 え て ,「統合的な 学習」と し て ,子 供 た ち の生 活に 関 連 し た テ ーマや ,子 供 た ち の世 界 観( も の の見方 や捉え 方 ) を構 築し ,視 野を広 げる よ う な内 容に つ い て も取り上 げら れ て い る 。 こ れ は , 基 礎 教 育段 階に お け る 「 教科 横 断 的テ ーマ」 に 相 当 す る も の で あ る 。
次 期改訂は ,2016 年 に予定 さ れ て い る 。 通 常 ,教 育課 程基準の 改訂は 10 年周 期で あ る こ と か ら す る と ,今 回の 改訂は比 較 的間隔が短い 。 こ れ は 「 全 国 基 礎 教 育 教 育課 程基準」
(Perusopetuksen opetussuunnitelman perusteet) の 改訂に 合 わせた こ と に よ る 。2014 年 12 月 に公 表さ れ た 2016 年版の「 就 学 前 教 育課 程基準」に は ,教 育課 程に お け る 国 と 地 方 の役割分担 , 就 学 前 教 育 の役割 ・目 的・環 境・ 方 法 ・内 容・評 価に 加 え て , 学習 支 援体 制 や 子 供 の 福 利 な ど に つ い て も明 記さ れ て い る 。具 体的な 教 育内 容の う ち 共 通項 目と し て ,
① 多 様な表 現,② 豊か な こ と ば の世 界,③ 私と私た ち の 社 会 ,④ 環 境に お け る探 求と活 動,
⑤ 成長 と発達 が挙 げら れ て い る 。各 項 目に は , 全 体 に 関 連 す る目 標と各 項 目 個別 の目 標が 記さ れ て い る 。 こ れまで の 教 育課 程基準と比 較す る と , 地 方 と の役割分担 が明文 化 さ れ て い る点や , 教 育内 容が大く く り 化 さ れ た点, 基 礎 教 育 と の接 続が こ れまで以 上に意 識さ れ て い る点, な ど に お い て 特徴 的で あ る 。
評 価に つ い て は , 子 供 の発達 と 学習プ ロセス に力 点が 置 か れ て お り , 日々の 学習の 中 で 継 続 的に 行 う も の と さ れ て い る 。 そ の過 程に お い て は , 教員と 幼 児 と の 関 わ り 合 い が重 視 さ れ , 保護者 か ら の フ ィ ー ドバ ック を得る こ と な ど も 行 わ れ て い る 。 加 え て , 子 供 の 自己 概 念の発達 を促し , 学習に お け る 可 能性を広 げる こ と を支 援す る た め に , 子 供 た ち の 自己 評 価能力を高め て い く こ と な ど も推 奨さ れ て い る (Jauhola, 2014)。
教 授 言 語 は ,二つ の公用 語 ( フ ィ ン ラ ン ド 語及 びス ウ ェ ー デ ン 語 ) の いずれ か が 一般 的 で あ る が ,準 公用 語 で あ る サミ語(先 住民族で あ る サ ーミ 人の 言 語 ),ロマ語 ,手 話,さら に ,英語 な ど の外国 語 も 教 授 言 語 と し て認め ら れ て い る 。
3 ) 教 育 環 境
学級規模に つ い て は ,教 育 文 化 省 が ,質保証の観 点か ら ,13 名 以 下と す る よ う勧 告し て い る 。 た だ し , 担 当 教員のほか に成 人の ス タッフ が つ く 場 合 に は 20 名 まで こ れ を拡 大す る こ と が認め ら れ て い る 。
また , 近 年 は , 学級 編制 の在り 方 に つ い て も 関心が 向 け ら れ て い る 。 就 学 前 教 育 が 学 校 で 提 供 さ れ る 場 合 , 就 学 前 学級の み で は な く ,他学 年 ( 通 常 は , 1 年生) もま じえ た 複式
学級の形が採ら れ る こ と が あ る 。 こ の こ と に つ い て は , 幼 児 教 育 全般に つ い て調 査 研 究を 行 っ た政 府のワー キ ン グ グ ル ー プ の報 告 書に お い て ,目 的や 方 法論に お い て 異 な る 就 学 前 教 育 と 基 礎 教 育 の違い を 考慮し て い な い , な ど と し て問 題提起が な さ れ て い る (Alia, Jahiluoto ja Pekuri, 2014b, pp.159-160)。
4 ) 保 育 サ ー ビ ス と の 併 用
就 学 前 教 育 は , 保 育 サ ー ビ ス と併用 す る こ と も 可 能 で あ る (Laki sosiaali- ja terveydenhuollon asiakasmaksuista, 1992)。そ の 場 合 ,保 育 部分に つ い て は 有 償 と な り , 保護者 の 所得と家 族 構 成( 規模) に応 じて 保 育料を支 払う 。 例 え ば ,7時 か ら 17 時 の 間 利 用 す る 場 合 , 8 時 か ら 12 時まで は 就 学 前 教 育 の 時 間 と し て , 教 育課 程基準に沿っ た 教 育 を 無 償 で 受 け る 。そ れ以 外の 時 間 に つ い て は ,有 償 で 保 育 サ ー ビ ス を 受 け る 。そ の た め , 保 育 と 就 学 前 教 育 と併用 す る 場 合 の 保 育料は , 就 学 前 教 育分 減 額さ れ る こ と に な る (表1 参 照 )。 教 育 文 化 省 に よ る と , 就 学 前 教 育 に 通 う 幼 児 の 70%が 保 育 サ ー ビ ス を併用 し て い る 。
表1 : 時 間 別 保 育料( ヘ ル シ ン キ 市 ,2014 年 )
利 用 時 間 / 日 保 育 就 学 前 教 育 と 保 育
7 時 間 以 上 100% 65%
5 時 間 以 上 7 時 間 未 満 80% 40%
5 時 間 未 満 60% 20%
※ 24時 間 保 育 の 場 合 は 別 の 規 定 が 適 用 さ れ る 。
( 出 典 ) ヘ ル シ ン キ 市 HP:http://www.helsinki.fi (1)
デ イ ケ ア 等 , 幼 児 保 育 施 設 に お い て 就 学 前 教 育 が 提 供 さ れ る 場 合 , 一般 的に , 保 育 と 就 学 前 教 育 が 同じ場 所 で 提 供 さ れ て い る 。 し か し , 保 育 と 就 学 前 教 育 と で は ,従 事す る 者 に 求め ら れ る資 格( 保 育士と 幼稚 園教諭) が 異 な っ て い る た め , 主 た る 担 当 者 が 保 育 サ ー ビ ス の 時 間帯と 就 学 前 教 育 の 時 間帯と で交 代す る 場 合 が多い 。
( 2 ) 機 能 ・ 要 素 ( 教 育 ・ 保 育 ・ 福 祉 )
フ ィ ン ラ ン ド の 幼 児 教 育 ・ 保 育 (ECEC) は , 保 育 ・ 教 育 ・ 指導の包 括 的 手法 で あ る
「Educare」を 特徴と す る と さ れ て お り( 教 育 文 化 省 ),OECD に よ る先行研 究で も ,ド イ ツ,ニ ュージー ラ ン ド な ど と と も に 「生 活基盤 型」 と分 類さ れ て い る 。