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高齢化が進展を続ける我が国ではすでに超高齢社会へと進展しており,病気や介護 のための社会的負担が増大している.これらの負担を軽減するべく,健康寿命の延伸 のためのアンチエイジングや抗加齢に関する試みが実施されている.加齢現象に伴う 身体の構造や機能の衰えが老化とされ,老化を背景に様々な疾病が増加する.これに 対抗するため,加齢の速度を少しでもゆるやかにすることで,疾病の罹患を減らそう とする試みがアンチエイジングである.しかしながら,多数の細胞が複雑に相互作用 した生体である人間の老化メカニズムについては,解明されていない部分が多い.そ こで,著者はアンチエイジングに有用な素材を,多彩な薬理作用を示す伝統薬から探 索することとした.

世界各地の伝統医学の中でもインド伝統医学のアーユルヴェーダは「生命の医学」

や「寿命の医学」とも言われ,「高いQOL(quality of life)を維持しながら健康寿命 を延ばす知識」をまとめた伝統医学である.まさに,アンチエイジングに適した伝統 医学であり,その医学書にアサナと呼ばれる植物の心材が若返りや糖尿病の治療を目 的に薬として利用されることが記されている.そこで,著者はアサナに着目し,アン チエイジング素材としての機能性を探索した.

アサナはデカン半島高原地帯全域に見られるマメ科(Fabaceae)Pterocarpus

marsupium Roxbで,その心材から作られたタンブラーに一晩張った水の飲用が糖尿

病の治療に用いられる.アサナの糖尿病に対する効果はすでに現代科学的手法によっ て証明されているため,著者は糖尿病がその一因となる血液流動性の低下に着目した.

第1章第1節では,アサナの心材がアンチエイジング素材として有用な素材である ことに期待して,血液流動性の低下抑制作用を示すことを見出すために,アサナ心材 の50% ethanolエキス(PM-ext)について,in vivo LPS(lipopolysaccharide)誘発 DIC(disseminated intravascular coagulation syndrome)モデルラットにおける血 液流動性低下抑制作用,in vitro collagen誘発ウサギ血小板凝集抑制作用,fibrin平板 法による線溶系活性化作用および抗thrombin作用を検証した.LPS誘発DICモデル

ラットにPM-extを7日間連日経口投与したところ,全血通過時間の延長は短縮され

が示唆された.これらの LPS誘発DIC モデルラットにおけるPM-ext の経口投与の 影響を明らかにしたのは本研究が初めてである.一方で,PM-ext の血液流動性の低 下抑制作用を,in vitro collagen誘発ウサギ血小板凝集抑制,fibrin平板法による線溶 系活性化および抗 thrombin 作用を指標に評価した結果,collagen誘発ウサギ血小板 凝集抑制作用のみが認められた.よって,PM-extのLPS誘発DICモデルラットにお ける血液流動性低下抑制作用は血小板凝集抑制作用に基づくことが明らかとなった.

第2節では,第1節においてPM-extの血液流動性低下抑制作用が血小板凝集抑制 作用に基づくことを確認したことから,collagen誘発ウサギ血小板凝集抑制作用を指 標に有効成分を探索した.その結果,有効成分のひとつとして pterostilbene を単離 同定した.

第3節では,第2節においてPM-extのcollagen誘発ウサギ血小板凝集抑制作用の 有効成分のひとつとして pterostilbene を単離同定したことから,collagen および血 小板内の顆粒の一部である adenosine 5’-diphosphate (ADP)および arachidonic acid(AA)を用いて pterostilbene およびアンチエイジング素材として知られる

resveratrol を比較対象としてウサギ血小板凝集抑制作用を比較検証した.その結果,

collagen誘発ウサギ血小板凝集抑制作用においては,pterostilbeneにより高い有効性 が 認 め ら れ た . 次 に ,AA 誘 発 ウ サ ギ 血 小 板 凝 集 抑 制 作 用 を 検 証 し た 結 果 , pterostilbene およびresveratrolのいずれにも抑制作用が認められたが,resveratrol がわずかに高い抑制作用を示した.また, ADP 誘発ウサギ血小板凝集抑制作用につ いても検証したが,pterostilbene およびresveratrolのいずれにも試験した濃度で作 用を示さなかった.

さらに,AAによる血小板凝集反応においてはcyclooxygenase(COX)が律速酵素 であり,prostaglandin の生成に関与することで重要な要因となる.よって,COX-1

および COX-2 に対する阻害作用を検証した.その結果,pterostilbene および

resveratrolのいずれにもCOX-1および-2阻害作用が認められ,resveratrolにより高 い阻害作用が認められた.しかしながら,より大きく血小板凝集に寄与する COX-1 に対する阻害作用の特異性はpterostilbeneがより高いことが示唆された.

これらの結果から,アサナ心材の血液流動性低下抑制作用は pterostilbene の血小 板凝集抑制作用および COX 阻害作用に基づく作用であることを見出し,有効成分で

ある pterostilbeneはすでにアンチエイジング素材として利用されている resveratrol よりも高いcollagen誘発ウサギ血小板凝集抑制作用が認められた.これは抗糖尿病作 用をもち,血流を改善するアンチエイジング素材として有望であることを示している.

アサナはアーユルヴェーダ医学において難治な皮膚病にも用いられることが記され ている.老化に伴う皮膚の形態変化のひとつとして,皮膚の色素沈着である「しみ・

そばかす」の形成の原因となるmelaninの生成がある.そこで,第2章第1節では,

PM-ext が皮膚のアンチエイジングに適した素材であることを期待して,tyrosinase

阻害作用を指標に melanin色素の生成抑制作用を評価した.その結果,PM-extに高 い tyrosinase 阻害作用が認められ,その有効成分の一部が oxyresveratrol および isoliquiritigenin であることを明らかにした.Oxyresveratrol をPM-ext より単離し たのは今回が初めてである.Resveratrol や piceatannol は健康食品に用いられる stilbenoidであることから,pterostilbeneを含めてoxyresveratrolのtyrosinase阻害 作用の比較対象とした.Pterostilbene,resveratrol,oxyresveratrolおよびpiceatannol のtyrosinase阻害作用を比較検証した結果,試験した濃度でoxyresveratrolにのみ高 い阻害作用が認められた.また,kojic acidはmelanin生成抑制作用試験にて陽性対 照薬として広く使われるtyrosinase阻害薬であるがoxyresveratrolはkojic acidより も10倍以上高いことが示唆された.これらの結果はC-2’位の水酸基がtyrosinase阻 害作用の発現に重要であることを示し,pterostilbeneおよびoxyresveratrolの作用に 有意な差がないことから C-3 およびC-5 位の水酸基は重要ではないことが示された.

これらの結果から,PM-extはoxyresveratrolのtyrosinase阻害作用に基づく美白作 用を示し,皮膚のアンチエイジングに適した素材として有望であることが明らかと なった.

第2節では,第1節において,PM-extのtyrosinase阻害作用を確認し,その有効 成分のひとつが oxyresveratrol であることを確認したことから,PM-ext および oxyresveratrol のマウス由来 B16メラノーマ細胞における melanin 産生抑制作用,

1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル捕捉作用およびadvanced glycation endproducts(AGEs)生成抑制作用を検証した.PM-extのB16メラノーマ細胞にお

pterostilbene,resveratrol,oxyresveratrolおよびpiceatannolのmelanin産生抑制 作用を比較検証した.その結果,試験した濃度でoxyresveratrolに最も高い抑制作用 が細胞毒性を示すことなく認められた.次に,PM-extのDPPHラジカル捕捉作用を 検 証 し た と こ ろ , そ の 作 用 が 確 認 さ れ た の で ,pterostilbene,resveratrol, oxyresveratrolおよびpiceatannolのDPPHラジカル捕捉作用を比較検証した.その 結果,oxyresveratrolおよびpiceatannolは50 µMでそれぞれ同程度のDPPHラジ カル捕捉作用が認められた一方で,pterostilbene および resveratrol は同濃度で piceatannolおよびoxyresveratrolと比較してわずかに低いDPPHラジカル捕捉作用 が認められた.Resveratrol の C-4’位の水酸基はラジカル捕捉作用に重要であること がすでに報告されているが,本研究で試験した4種のstilbenoidはC-4’位に水酸基を 持ち,異なる作用を示したことから,他の構造がDPPHラジカル捕捉作用に重要であ ることを示している.また,PM-extの AGEs 生成抑制作用を検証したところ,その 作用が確認されたので,pterostilbene,resveratrol,oxyresveratrolおよびpiceatannol のAGEs生成抑制作用を検証した.その結果,oxyresveratrolは10,50および100 µM でそれぞれ 32,47 および 55%の抑制作用が認められた.Piceatannol は 10 および 50 µMでそれぞれ37および47%の抑制作用が認められ,100 µMで抑制作用が認め られなかった.Resveratrolは10,50および100 µMでそれぞれ34,41および48%

の抑制作用が認められた.Pterostilbeneは10および50 µMでそれぞれ27および20%

の抑制作用が認められ,100 µM では抑制作用が認められなかった.その中でも,

oxyresveratrolは100 µMで最も高い抑制作用を示した.興味深いことに,piceatannol は100 µMで抑制作用が消失し,pterostilbeneは100 µMで減弱した.これらの化合 物の抑制作用には至適濃度の存在が示唆された.

第3節では,PM-extの抗酸化作用についてDPPHラジカル捕捉作用を指標にさら

なる有効成分の探索を実施し,(+)-dihydrorobinetinをPM-extから本研究にて初めて 単 離 し た .(+)-Dihydrorobinetin の DPPH ラ ジ カ ル 捕 捉 作 用 は 陽 性 対 照 薬 の

L-ascorbic acid と 比 較 し て も , 約 10 倍 程 度 高 い 作 用 を 示 し た . ま た , (+)-dihydrorobinetinのAGEs生成抑制作用およびsuperoxide dismutase(SOD)様 作用を確認したのは今回が初めてである.これらの結果から,(+)-dihydrorobinetin

を含む PM-ext は多面的な抗酸化作用を示す多面的な機能性素材として期待できるこ

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