第 2 章 アサナ心材の皮膚老化抑制作用
第 3 節 アサナ心材のラジカル捕捉作用の有効成分の探索 およびその各種抗酸化作用
I.緒 言
本章第2節において,PM-extおよび3のマウス由来B16メラノーマ細胞における
melanin産生抑制作用およびDPPHラジカル捕捉作用,AGEs生成抑制作用について
も比較検証した.化合物3はいずれの作用についても有効成分のひとつであることを 確認した.しかしながら,3はその収量と作用強度からPM-extのDPPHラジカル捕 捉作用を説明するのには不十分である.
そこで,本節ではPM-extのDPPHラジカル捕捉作用成分について,さらなる有効 成分の探索を実施することとした.また,SOD は酸化ストレスに対する防御因子で,
活性酸素種を除去する生体内因子として知られている44).よって,同定されたDPPH ラジカル捕捉作用成分は PM-ext の有用な抗酸化作用成分であることを確認するため にAGEs生成抑制作用およびSOD様作用についても検証した.
II .実験方法
1.実験材料
PM-extは2014年4月にインドのケララ州にて採取されたアサナの心材乾燥粉末か
ら第1章第1節に記した方法で得られたエキスを稲畑香料より提供を受けた.本実験 材料は第1章第1節に記したPM-extとは生産単位が異なるので,TLCにて同等のエ キスであることを確認したうえで実験に供した(データは省略).
2.試薬
Hypoxanthine および superoxide dismutase(SOD)はナカライテスクから,
xanthine oxidase(from bovine milk) は シ グ マ ア ル ド リ ッ チ ジ ャ パ ン か ら , hydroxylammonium chloride , hydroxylamine-O-sulfate ,
和光純薬から購入した.別途記載した以外の試薬は富士フイルム和光純薬またはナカ ライテスクから購入した.
3.DPPHラジカル捕捉作用試験
第2章第2節に記した方法で実施した.
4.PM-extの分画,精製および有効成分の探索
PM-extの分画,精製および有効成分の単離同定はFigure 5に示したごとく,PM-ext 40 gを蒸留水 600 mLに懸濁し,AcOEt 600 mLにて抽出する操作を3回実施した.
得られたAcOEt fr.-3およびinsoluble fr.-1はそれぞれ10および30 gを得た.AcOEt fr.-3 10 g をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(280 g,2.25 i.d. × 40 cm, No.1.07734 silica gel 60)に付し,溶液A:Hexおよび溶液B:AcOEtの混液(A:B
=5:1,3:1,1:1および1:3)およびMeOHで溶出することで,Fr. A3,B3,C3,D3, および E3 の 5 つの画分に分画した.続いて,Fr. D3 750 mg は次に示す条件にて HPLCに注入し,Fr. D3-1,2,3,4,5および6の6つの画分を得た:HPLC条件;
カラム,SunFire C18(10 i.d. × 250 mm);移動相,超純水を溶液AおよびMeCN を溶液Bとしてグラジエントシステムを利用した混液(A:B = 0 min,19:1;30 min,
9:11);流速,4.0 mL/min;検出,280 nmにおけるUV.
次に,Fr. D3-5 48 mgを次に示す条件にてHPLCに注入し,Fr. D3-5-1,2,3,4,
5および6の6つの画分を得た:HPLC条件;カラム,SunFire C18(10 i.d. × 250 mm);移動相,超純水を溶液AおよびMeOHを溶液Bとしてグラジエントシステム を利用した混液(A:B = 0 min,4:1;30 min,1:9);流速,3.0 mL/min;検出,280 nm におけるUV.
Figure 5 Scheme of Activity-guided Isolation and Chemical Structure of (+)-Dihydrorobinetin (6).
PM-ext: 50% Ethanolic extract obtained from P. marsupium heartwood., H2O: water, AcOEt:
ethyl acetate, MeOH: methanol, HPLC: high-performance liquid chromatography, (a): Yield from PM-ext., (b): Yield from AcOEt fr.-3., (c): Yield from Fr. D3., (d): Yield from Fr. D3-5., (e):
Yield from Fr. D3-5-1 and Fr. D3-5-2., (f): DPPH radical-scavenging activity at 10 μg/mL., DPPH: 1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl.
Fr. D3-5-1および2の二つの画分はHPLCによって同様な特性を持つことが確認さ
れたのでひとつに合わせ,合わせた画分は HPLC における保持時間,1H-および
13C-NMR スペクトルを標準品と比較し,比旋光度を論文の報告値と比較することに
よって,(+)-dihydrorobinetin(6,8.3 mg)であることを同定した.
5.AGEs生成抑制作用試験
第2章第2節に記した方法で実施した.
6.SOD様作用試験
SOD様作用試験はOyanaguiの方法に準じた44).Potassium dihydrogenphosphate 65 mMおよびsodium tetraborate decahydrorate 35 mMを50:27 v/vの割合で混合 し,pH 8.2に調製し,0.5 mMとなるようにEDTA-2Naを添加し,EDTA-phosphate bufferとした.被検体はDMSOに溶解し,DMSOの最終濃度が1% v/v となるよう にEDTA-phsphate bufferで希釈した溶液を被検液とした.陽性対照薬にはSODを 用いた.EDTA-phosphate buffer 0.2 mL に反応液(10 mM hydroxylammonium chloride,1 mg/mL hydroxylamine-O -sulfate,蒸留水に溶解)0.1 mL,被検液 0.1 mL, 蒸留水 0.2 mLおよび0.5 mM hypoxanthine溶液 0.2 mLを加え,37ºC,10 minイ ンキュベートした.次に,5 mU/mL xanthine oxidase溶液 0.2 mLを添加し,37ºC,
30 minインキュベートした.
インキュベート後,発色試薬 2.0 mLを添加し,さらに室温で30 min放置して発 色させた.発色試薬はN -1-naphtylethylenediamine 2HClおよびsulfanilic acidを それぞれ30 µMおよび3 mMとなるように蒸留水に溶解した溶液とacetic acidを3:1 v/v の割合で混合して調製した.発色した溶液は550 nmにおけるODを紫外可視分 光光度計(UV-2450PC,島津製作所)で測定した.
被検体のSOD様作用は被検体添加群のODをControl群のODと比較した際の減 少の百分率で記した.
7.IC50の算出
第2章第1節に記した方法で実施した.
8.統計処理
第1章第2節に記した方法で実施した.
III.実験結果
1.DPPHラジカル捕捉作用を指標とした有効成分の探索
PM-ext のDPPHラジカル捕捉作用成分について,3の収量とその作用強度からよ
り作用の高い成分の存在が示唆されたことから有効成分の探索を継続した.第2章第 1節にて,PM-extから得たAcOEt fr.-2,BuOH fr.-2およびH2O fr.-2のうち,AcOEt fr.-2に最も高いDPPHラジカル捕捉作用を確認しているため,本節ではPM-ext 40 g を蒸留水 600 mLに懸濁し,AcOEt 600 mLにて抽出する操作を3回実施し,AcOEt fr.-3 10 gおよび不溶性画分 30 gを得た.AcOEt fr.-3はシリカゲルカラムクロマトグ ラフィーを用いてFr. A3,B3,C3,D3およびE3の5つの画分に分画した.これら の画分について,10 µg/mLでDPPHラジカル捕捉作用を検証した結果,Fr. D3に58%
と最も高い作用が認められた.Fr. D3はHPLC分取によってFr. D3-1,2,3,4,5 および6の6つの画分に分画した.これらの画分について,10 µg/mLでDPPHラジ カル捕捉作用を検証した結果,Fr. D3-5に88%と最も高い作用が認められた.さらに,
Fr. D3-5はHPLCによって観測されたピークに基づいて精製し,Fr. D3-5-1,2,3, 4,5および6を得た.このうち,Fr. 3-5-1および2から6を単離同定し,DPPHラ ジカル捕捉作用を検証した.その結果,0.50,1.0および5.0 µMで16,34および89%
の作用が認められ,IC50値は1.3 µMとして算出された(Figure 6).
Figure 6 Radical-Scavenging Activity of (+)-Dihydrorobinetin (6).
Each value represents the mean ± SD of triplicates. Significantly different from control at **:
p < 0.01. OD: Optical density at 520 nm.
2.化合物6のAGEs生成抑制作用
化合物6 に高いDPPHラジカル捕捉作用が認められたことから,次に AGEs生成 抑制作用を検証した.その結果,50,100および200 µMでそれぞれ15,34および 70%の抑制作用を示し,そのIC50は132 µMを示した(Figure 7).
Figure 7 Suppressive Activity of (+)-Dihydrorobinetin (6) on AGEs Production.
Fluorescence intensity was measured at 370 nm (excitation) and 460 nm (fluorescence). Each value represents the mean ± SD of triplicates. Significantly different from control at **: p <
0.01. AGE: advanced glycation end product.
3.化合物6のSOD様作用試験
化合物6はSOD様作用についても検証した結果,20,50および100 µMでそれぞ れ42,68および77%のSOD様作用を示し,そのEC50は27 µMを示した(Figure 8).
Figure 8 SOD-like Activity of (+)-Dihydrorobinetin (6).
Each value represents the mean ± SD of triplicates. Significantly different from control at *: p
< 0.05, **: p < 0.01. OD: Optical density at 550 nm. SOD: superoxide dismutase.
IV .考察および小括
本第3節では,PM-extの抗酸化作用についてDPPHラジカル捕捉作用を指標にさ
らなる有効成分の探索を実施し,6 を PM-ext から本研究にて初めて単離した.化合 物6のDPPHラジカル捕捉作用は陽性対照薬のL-ascorbic acidと比較しても,約10 倍程度高い作用を示した.また,6 のAGEs 生成抑制作用および SOD 様作用を確認 したのは今回が初めてである.これらの結果から,6 を含む PM-ext は多面的な抗酸 化作用を示す多面的な機能性素材として期待できることを確認した.
化合物 6 は木の樽における酢やワインの熟成度合のマーカーとして知られており,
その抗酸化作用は酢やワインの機能性に寄与していると考えられている45, 46).よって,
PM-extの抗酸化作用についてもまた6が寄与していることを示唆している.さらに,
アーユルヴェーダにおいて,糖尿病の改善にアサナ心材の浸出液が摂取されたことは 6のDPPHラジカル捕捉作用,AGEs生成抑制作用およびSOD様作用が一部起因す ることを示唆している.