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非アレニウス型イオン伝導に対するモデルの固体電解質への応用

ドキュメント内 モデルに基づく超イオン伝導の研究 (ページ 32-42)

3. 非アレニウス型イオン伝導に対するモデル

3.3. 非アレニウス型イオン伝導に対するモデルの固体電解質への応用

ここでは,熱活性化型のジャンプ頻度を与えた Zwanzig モデルを結晶や高分 子を含めた色々な固体電解質にも適用してみる.本モデルは基本的に,非晶質 系を扱うのに有効である.結晶についてもマクロ量であるイオン伝導度や拡散 係数の評価には適用できる.また,軸方向ごとに独立した統計平均を取れば異 方性を含めた議論にも拡張できる.図 3-5 に,結晶,ガラス,高分子,コンポ ジット型物質のイオン伝導度の温度依存性を示す.この図から,非アレニウス 性が出現し始める温度やそのときのイオン伝導度,非アレニウス性の度合いが 物質に依存して幅広く分布していることが分かる.本節では,

・ 様々な固体電解質に対する,当モデルの応用範囲

・ 非アレニウス性に対する系統的な性質

・ 当モデルの変数と実験値との関係

を議論する.なお,本節の研究は文献[50]に掲載されたものである.

上記の議論を行なうため,結晶,ガラス,高分子,コンポジット型超イオン 導電体からいくつかの物質を選び,それぞれに便宜上のラベルをつけた.ラベ ルと物質の対応は以下のとおりである.

cry1: Li0.5La0.5TiO3 [24]

cry2: Ag7GeS5I [6]

glass1: zAgI+(1-z)[xAg2S+(1-x) (0.67B2O3+0.33GeS2)](z=0.3x=0.5)[5]

glass2: 0.5Ag2S-0.5GeS [6]

glass3:0.5 Li2S + 0.45 GeS2 +0.05la2S3(glass3)[25]

poly1: polyorganophosphazene[8]

poly2: PEO–LiCF3SO3[7]

com1: α-AgI (in glass matrix) [26]

com2: 82AgI-13.5Ag2O 4.5B2O3[27]

com3: xAgI(100-x)[0.5Ag2O+ 0.5MoO3](x=50)[28]

図 3-5色々な物質における非アレニウス型イオン伝導.

改良型Zwanzigモデルを使用すると,可動イオンのイオン伝導度が

1 1

0

exp 2 1

exp



 

 

 

 + 

×

 

− −

= k T

X E T

k E X E

B B

n τ τ

σ , 3.11(3.11)

となることは前節で示した.この式は式(3.7)の変数を次のようにまとめたもので ある.

2 2 1 0 2

0 =( ) , X = A

fMA n

X Ze ω .

この表現は,低温領域では典型的なアレニウス則,高温領域では非アレニウス 的な振る舞いを示す.

実験結果を良く見ると,非アレニウス型イオン伝導は,高温側(i=H)と低温側

(i=L)で異なるパラメータを持つアレニウス則



 

−

= kT

si Ei

i exp

σ , 3.12(3.12)

を比較すると,以下の関係式が導かれる.

, 2 , 2

, 1

0

H L L

H n L H H

E E E

E E E

s X s s

X

+ =

=

=

= τ . 3.13(3.13)

式(3.13)を用いると,

3-1 で与えられた活性化エネルギー等のパラメータが変化する.振動数やキ ャリア数の高温極限での値は X0X1にまとめられる.前節では,活性化エネル ギーEnおよびEτは外から与えられたものであったが,今回は実験値を2つのア レニウス則で再現したときの各パラメータから導く.

3-2がその結果である.

En [eV] Eτ [eV]

z=0 0.2 0.11

z=0.2 0.17 0.090

z=0.3 0.16 0.082

z=0.4 0.15 0.080

表 3-2 zAgI+(1-z) [0.525Ag2S +0.475(B2S3: SiS2)]における式(3.13) から導出された活性化エネルギー.

式(3.11)を用いて,cry1,cry2 の実験値を再現したものが図 3-6 である.この 図から,非アレニウス型イオン伝導は明らかに2つのアレニウス則から成り立 っていることが確認できる.また,ガラス,高分子,コンポジットについては,

図 3-7にまとめて示した.このときに使用した活性化エネルギーの値は

3-3 に示されている.図 3-6,図 3-7 から,当理論は幅広い温度範囲で実 験値を再現することが分かる.

図 3-6 Li0.5La0.5TiO3(cry1:a),Ag7GeS5I(cry2 : b) におけるイオン 伝導度の実験値と理論(式(3.11))の比較.点線は各温度領域の振舞

図 3-7 ガラス(a),高分子(b),コンポジット(c)における実験値と

materials En(eV) Eτ(eV) EH(eV) EL(eV) cry1 0.35 0.095 0.25 0.44 cry2 0.21 0.089 0.12 0.30 glass1 0.15 0.049 0.1 0.20 glass2 0.28 0.093 0.19 0.38 poly1 0.57 0.34 0.23 0.9 poly2 0.84 0.38 0.50 1.35

com1 0.3 0.14 0.16 0.44

com2 0.29 0.15 0.14 0.44 com3 0.18 0.060 0.12 0.22 glass3 0.21 0.18 0.03 0.38

表 3-3 いくつかの物質における,式(3.11)で使われる活性化エネ

ルギーの値.

図 3-8 EH/ELEn/Eτの関係.

ここで,非アレニウス性の大きさをEH/ELで定義する.この値は,非アレニウ ス性が大きいほど小さい値を示す.図 3-8 に,キャリア生成と拡散に必要な活 性化エネルギーの比En/Eτと非アレニウス性の大きさの関係性を示す.この図か ら,EH/ELEn/Eτには明らかな系統的性質が見られ,En/Eτが小さいほど非アレ ニウス性が大きいことが分かる.また,結晶,ガラス,高分子,コンポジット という分類でみると,各物質の値はランダムに分布しており,非アレニウス性 の大きさとこれらの分類法には相関が無いといえる.

次に,非アレニウス性の温度依存性について調べる.非アレニウス型イオン 伝導が出現することは予測可能か?という疑問に答えるための研究である.式

(3.10)から,非アレニウス性の出現には緩和時間と振動数の積が重要であること

がわかる.このことをより直感的に理解するために,実験結果のみから導ける 目安の温度を定義して,非アレニウス性の出現を容易に予測できる方法を考え る.前述の様に,非アレニウス型イオン伝導は2つのアレニウス則の組み合わ せによって構成されている.この事実から,非アレニウス型イオン伝導が出現 し始める温度の目安T1を以下の様に定義できる.



 

= −

L B H

L H

s k s

E T E

ln 1

1 . 3.14(3.14)

この式は,高温と低温における2つのアレニウス則を組み合わせたものである.

活性化エネルギーの変化率は T1付近で大きい.与えられたパラメータを基に,

T1を計算したものが表 3-4である.

materials T1(K)

cry2 188

com1 227

com2 237

cry1 259

glass1 259

poly1 297

poly2 305

glass2 318

com3 334

また,式(3.14)と式(3.13)から以下の表現が得られる.

(

2 2

)

1 ln

2 1

= k A

T E

Bτ ω . 3.15(3.15) この式からT1Eτに比例し,ln(ω2A-2)に反比例することが分かる.しかし,図 3-9 に示すように,両変数を横軸にとってプロットしてもT1に系統性は見出せない.

このことから,当モデルで予測されている通り,振動数と緩和時間の組み合わ せが重要な因子であると考えられる.後述の式(4.9)を用いて考えると,Eτは確か にイオン振動数に依存していることがわかる.Eτ を詳しく分析してイオン振動 数の影響を調べることが出来れば,式(3.15)から有用な T1が得られるであろう.

同様に,式(4.9)から Eτは非調和項 f の関数であることが分かる.従って,非ア レニウス性が出現する温度は,非調和性の増大で低温側へシフトすると予想さ れる.

次に,系統的性質について,高分子に注目して考える.式(3.11)を用いてイオ ン伝導度を再現したものを図 3-10に示す.また,このとき使用したパラメータ

を図 3-10に示す.

図 3-10 いくつかの高分子におけるイオン伝導度の温度依存性.

シンボルは実験値を表し,実線は式(3.11)による理論曲線である.

En(eV) Eτ(eV) EH(eV) EL(eV) Polyorganophosphazene 0.57 0.34 0.23 0.90 PEO-LiCF3SO3(EO/Li=8) 0.92 0.42 0.50 1.35 PEO-LiCF3SO3(EO/Li=30) 0.86 0.40 0.50 1.35 PEO-LiCF3SO3(EO/Li=24) 0.84 0.38 0.50 1.35 PEO-LiCF3SO3(EO/Li=100) 0.85 0.40 0.45 1.25 PBAN-LiClO4(98.31 : 1.69) 0.69 0.24 0.45 0.93 PBAN-LiClO4(96.14 : 3.86) 0.83 0.39 0.44 1.23 PBAN-LiClO4(92.52 : 7.48) 0.84 0.54 0.30 1.38 PBAN-LiClO4(83.21 : 16.79) 1.04 0.58 0.46 1.63

表 3-5 いくつかの高分子における,式(3.11)で使われる活性化エ

ネルギーの値.

図 3-11 いくつかの物質における EnEτの関係.オープンシンボ ルは,結晶,ガラス等の高分子以外の物質群を表す.

図 3-12 T1に対する式(3.15)の変数Eτ依存性.シンボルの意味は,

図 3-11と同じである.

3-3,表 3-5 および図 3-11 から,高分子は EnEτが共に,他の物質群と比 べて大きい値を示すことが分かる.他の物質では T1が幅広く分布しているが,

る.それぞれの高分子がもつイオン伝導度の温度依存性は様々であるが,非ア レニウス型イオン伝導が出現し始める温度が似ているということは非常に興味 深い.より多くのデータを集めることによって,新たな系統的性質を見つけら れると予想している.

以上のことをまとめると以下の様になる.

・ 変形されたZwanzigモデルによって,ガラス,結晶,ポリマー,コンポジ ット型イオン導電体の実験値は精度良く再現できる.

・ 非アレニウス型イオン伝導は物質の形態に依存せず,一般的に起こりうる 現象である.非アレニウス型イオン伝導の出現は,サイト間の跳躍拡散か ら,より自由な液体のようなほぼ連続的な拡散に切り替わることに起因す る.

ドキュメント内 モデルに基づく超イオン伝導の研究 (ページ 32-42)

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