第三章 非線形最小二乗法による単板積層材エレメント強度分布の推定
3.2 エレメントの縦使い方向の曲げヤング係数分布の推定
3.2.2 アルゴリズム
3.2.1 で示した (3.1)式の右辺のパラメータは、N を除くと各エレメントの Ev のみで構 成されている。そこで、Ev分布を推定するアルゴリズムは、次のとおり構築した。
まず、Ev分布を汎用的な統計分布で表すこととし、木材または木質製品のヤング係数分 布としてよく使われる正規分布、対数正規分布または 2P ワイブル分布の何れかと仮定する。
したがって、何れの分布もパラメータは 2 個となり、Ev分布のパラメータは 2 次元ベクト ル(Pe1, Pe2)で表すことにできるので、このPe1とPe2が推定対象となる。ただし、Ev分布 として正規分布または対数正規分布を仮定する場合、Pe1は平均値、Pe2は標準偏差を表し、
正規分布を仮定する場合、Pe1とPe2の単位は何れもkN/㎜2となる。また、Ev分布として 2P ワイブル分布を仮定する場合、Pe1は尺度パラメータ、Pe2は形状パラメータを表し、Pe1
の単位はkN/㎜2である。
次に、積層数NのMOEvの実験値は昇順に並べ替え、昇順を表す記号sを用いてEX(N, s)
(s=1,…,L(N))と表す。ここで、L(N)はNにおける試験体の総数を表す。一方、積層数Nの
MOEvの推定値も、(3.1)式を用いてL(N)個の値を求め、これらを昇順に並べ替えてsを用
いてCAL(N, s) (i=1,…,L(N))と表す。ただし、CAL (N, s)の計算に用いる各エレメントのEvの
値は、(Pf1, Pf2, R.E-F)に初期値を与えて次のとおり求める。エレメント毎に 0 以上 1 未満の 一様乱数を発生させ、これらを逆関数法35)により標準正規乱数eに変換し、更にeを(Pe1, Pe2)の初期値に従うよう変換49,50)してEvの値とする。
また、CAL(N, s)の計算にはN個のEv を用いることから、これらのEv を要素とする N 次
元ベクトルを と表す。更に、 にはN個のeを用いることから、これらN個のeを要 素とするN次元ベクトルを と表すと、CAL(N, s)のパラメータは以上より、(N+2)次元ベク トル( , Pe1, Pe2)で表され、 の要素の値を全て固定すると、これ以降のCAL(N, s)のパラメ ータは(Pe1, Pe2)となる。したがって、一様乱数の発生からこれまでの操作をN=8,…,17の 積層数毎にs=1,…,L(N)で繰り返すと、EX(N, s)とCAL(N, s)の残差二乗和Seのパラメータは (Pe1, Pe2)となる。したがって、Seの正規方程式にNLMの収束計算51)を適用することによ
縦使い方向 ……
…
図3.1 LVLの断面図 1層目
2層目
平使い方向
i層目 T
N層目 B
………
T T
T
28 り、(Pe1, Pe2,)の推定値が求められる。
以上をまとめると、Ev分布のパラメータ(Pe1, Pe2)を推定するアルゴリズムは、次のとお りとなる。ただし、添字の意味は、これまで示してきたとおりである。
① Ev分布として、正規分布、対数正規分布または 2P ワイブル分布の何れかを仮定する。
② 推定対象となる(Pe1, Pe2)に、初期値として(PIe1, PIe2) (0<PIe2<PIe1)を与える。
③ MOEv(積層数 N)の実験値を全て昇順に並び替え、それぞれ昇順番号 s (s=1,…, L(N))
を貼付してEX(N, s)と表す。
④ 0 以上 1 未満の独立一様乱数を発生させて、逆関数法35)により標準正規乱数eに変換す る。この操作をN回繰り返し、得られたN個のeを要素とするN次元ベクトルを と 表す。
⑤ の各要素を分布のパラメータが(PIe1, PIe2)となる N個のEvの値に変換49,50)し、これ らを要素とするN次元ベクトルを と表す。
⑥ Nと の各要素を(3.1)式に代入し、MOEv(積層数N)の推定値を求める。
⑦ ④~⑥を L(N)回繰り返し、求めた MOEv(積層数 N)の推定値を全て昇順に並び替え、
昇順番号s (s=1,…,L(N))を貼付してCAL(N, s)と表す。
⑧ s=1,…,L(N)で、CAL(N, s)に用いている の全ての要素の値を固定する。
⑨ N=8,…,17の積層数毎に、③~⑧を繰り返す。
⑩ 以下に示すEX(N, s)とCAL(N, s)の残差二乗和Seが最小になるよう、PIe1とPIe2の値から 動かしていき、Pe1とPe2の収束値を求める51)。
𝑆𝑒 =1
2∑ ∑𝐿(𝑁)(EX(𝑁,𝑠) − CAL(𝑁,𝑠))2
𝑆=1 17
𝑁=8
⑪ Pe1とPe2の収束値が正規方程式の解として収束したか、(3.2)式を用いて確認する51)。
𝜕𝑆𝑒
𝜕𝑃𝑒1 ≅ 0 𝜕𝑆𝑒
𝜕𝑃𝑒2 ≅ 0 (3.2)
⑫ ②~⑪を繰り返して 2000 組の(Pe1, Pe2)を計算し、そのなかでSeが最小となる(Pe1, Pe2) を推定値とする。
なお、パラメータの初期値の与え方は、MOEvの実験値を初期値として積層数毎に以上の アルゴリズムを行い、積層数毎のPe1とPe2の推定値を求める。更に、積層数毎のPe1の平 均値をPIe1、積層数毎の Pe2の平均値をPIe2とする。以上の初期値の与え方は、他のエレ メントのヤング係数分布または強度分布を求める場合も同様である。
ここで、以上のアルゴリズムの計算例として、図 3.2を示す。同図は、Evの分布を正規 分布と仮定した場合について、アルゴリズムの②~⑪によるデータから、8ply の実験値
(EX(8, 1),…,EX(8, 40))と推定値(CAL.ex(8, 1),…,CAL(8, 40))を抽出し、それぞれの累積確率をメ
ディアンランクで評価して図示したものである。ただし、同図(a)はEv分布のパラメータ が初期値の場合、同図(b)はEv分布のパラメータが収束値の場合を示している。また、何 れの図も実験値は●、推定値は■でプロットし、累積確率が同一な実験値●と推定値■の 間は横棒━で結び、両者の差を表した。
29
注:
図3.2 非線形最小二乗法の計算例 (8plyのMOEvの実験値と推定値)
MOEv:LVLの縦使い方向の曲げヤング係数を表す。Ev:LVLのエレメントの縦使い方向の曲げヤング
係数を表す。Pe1:Evの分布のパラメータで正規分布の平均値を表す。Pe2:Evの分布のパラメータで正 規分布の標準偏差を表す。実験値:8plyのMOEvの実験値を昇順に並び替えたものを表す。推定値:
pe1とpe2をパラメータとするMOEvの推定式による8plyの計算値で、パラメータが初期値の段階で昇順に 並び替えて累積確率が同じ実験値に対応させるたものを表す。L(8):8plyにおける実験値と推定値のそ れぞれのデータ数を表す。 :累積確率が同一な実験値と推定値のMOEvの差を表す。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
11 12 13 14 15 16 17
累積確率
MOEv(kN/mm2)
実験値 推定値
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
11 12 13 14 15 16 17
累積確率
MOEv(kN/mm2)
実験値 推定値 (a) パラメータが初期値の場合
(b) パラメータが収束値の場合 Evの分布:正規分布
Pe1=14.2kN/mm2 Pe2=1.8kN/mm2
Evの分布:正規分布 Pe1=14.2kN/mm2 Pe2=2.5kN/mm2
L(8)=40
L(8)=40
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まず、同図(a)を見ると、Ev分布のパラメータが初期値の段階では、累積確率が 0.4 以 下と 0.6 以上の双方で実験値と推定値に明らかな差が生じている。一方、Ev分布のパラメ ータが NMLによる収束値である同図(b)では、累積確率が 0 近辺及び 1 近辺と 0.1~0.2 の辺りで若干の差は生じているが、全体を見ると実験値と推定値はほぼ一致している。こ の間の Ev 分布のパラメータは、Pe1(平均値)は 14.2 kN/㎜ 2と変わらず、Pe2(標準偏差) は 1.8 kN/㎜2から 2.5 kN/㎜2と大きくなり、これに伴い変動係数も 12.7%から 17.6%と 増加した。このようにEv分布のパラメータを初期値と収束値で比較すると、Ev分布のパ ラメータは上述のアルゴリズムにより、累積確率の同一な実験値と推定値の差が少なくな るよう動かされたことがよく分かる。