第5章 :「価値共創支援」のための構造方程式モデリングの応用~顧客ゴールの動的
5.7 まとめ
本章では、実企業の顧客を対象にした定性調査に基づいて「顧客ゴールの動的変容」に 対する仮説を導出、構築し、構造方程式モデリングで定量化することで「企業での顧客ゴ ール育成シナリオの作成と活用」を提案した。これは、「価値共創」という新しい考え方を 工学的に展開し、顧客と企業が相互交流の中で変容していく概念モデルを設計という視点 でとらえ直したものとの言える。
本章事例では、研究1~4を通して、価値共創の基づく顧客の変化に関する仮説の抽出、
同定、定量化から戦略立案に至るまでの過程で、実際にどのように構造方程式モデリング が利用可能かを示した。
たとえば、動的に変容する顧客の目的構造を把握し、顧客育成シナリオを作成して価値 共創支援を行う場合には、本研究と同じように、顧客変化の把握のために縦断測定(継時 測定)、あるいは横断測定が必須となる。構造方程式モデリングは縦断データのような複雑 なデータに対しても自由なモデル構築が可能な手法である。また、横断データに対しては 層別したデータに対して平均構造のある多母集団モデルの活用が行えるなど、威力を発揮 する。また、今回取り上げた「分析的-包括的思考形式」のような顧客特性のもつ効果に ついても、構造方程式モデリングを使えば同時推定できる。推定結果を読み取 ることで顧 客セグメンテーション基準選定やターゲティングに も、これらが有効に活用できる可能性 があることが、研究3および研究4で示されたといえる。
5 章の注
(注 5.1)価値共創プロセスモデルとして、Frow, Payne, and Storbacka
(2010a;2010b;2010c)[112]-[114]やBolton and Saxena-lyer(2009)[115], Hoyer, Chandy, Dorotic, Kraffit, and Singh(2010)[116]などでは、複数時点での顧客との接 点を仮定したプロセスが示されている。
(注 5.2)1家族に複数の学習者がいる家庭については、長子についての回答を得ている。
(注 5.3)「分析的-包括的思考形式」は、第一回調査時の回答を使用しており 199 票分の
デ ー タ で ク ロ ン バ ッ ク の 信 頼 性 係 数 α を 算 出 し て い る ( 分 析 に は IBM SPSS Statistics(Ver.19.0)を使用)。
(注 5.4)研究3の仮説モデルは、1 回目と 2 回目の同一観測変数の因子負荷量は等値制
約をおき、また、同一の観測変数の誤差分散も等値制約をおいている。測定不変を課 していることで、1回目と2回目の因子の意味を同一と仮定することができる。(誤差 の 等 分 散 性 の 仮 定 を 置 か な い 場 合 に は 、 χ2 値 =309.611,df=164, p 値=0.000,
CFI=0.864, RMSEA=0.083, AIC=441.611 である。)また、誤差には各観測変数の独自
変動が含まれるため、1 回目と 2 回目の同一観測変数の誤差間には相関を仮定してい る。
(注 5.5)研究3の仮説モデルは、サンプル数 131 ではあるが、自由度(df)が 172 と大き
いため、カイ 2乗検定の結果は p値=0.000 となり参考にできないが、カイ 2乗値を 自由度で除した値は、339.595÷172=1.974 と 2を下回るので、いわゆる親指ルール から見て受容可能と判断した。また、CFI も一般的な適合基準値である 0.9 を下回っ ているが、これも同じく自由度が大きいためであり、他方、自由度に影響を受けない
RMSEA は一般的な適合基準値0.1以下であるので、ここでも受容可能と判断した。
(注 5.6)研究4の解析2および解析3で利用した平均構造のある多母集団同時分析では、
因子の平均構造をわかりやすく定量化するため、研究3の解析1で用いた構造方程式 モデル(SEM)ではなく、検証的因子分析モデル(CFA)を利用した。この際、同一 観測変数の因子負荷量は等値制約をおき、また、同一の観測変数の誤差分散も等値制 約をおいている。この制約で測定不変を課していることで、比較グループの各因子の 意味を同一と仮定することができる。
(注 5.7)研究4の解析2で用いたデータ数は 584票と 400ケースを超えるため、p 値は
参考にできない。ここでは、主に、RMSEAの値を参考に受容可能と判断した。なお、
誤差の等分散性の仮定を置かない場合には、χ2 値=590.436,df=189, p 値=0.000,
CFI=0.860, RMSEA=0.060, AIC=752.436と全体の適合は悪くなる。
(注 5.8)研究4の解析3で用いたデータはサンプル数 177ではあるが、自由度(df)が375 と大きいため、カイ 2 乗検定の結果は p 値=0.000 となり参考にできないが、カイ 2 乗値を自由度で除した値は、646.477÷375=1.724と 2 を下回るので、いわゆる親指 ルールから見て受容可能と判断した。また、CFI も一般的な適合基準値である 0.9 を 下回っているが、これも同じく自由度が大きいためであり、他方、自由度に影響を受
けない RMSEA は一般的な適合基準値0.1 以下であるので、ここでも受容可能と判断
した。なお、誤差の等分散性の仮定を置かない場合には、χ2値=556.945,df=327, p 値=0.000, CFI=0.796, RMSEA=0.064, AIC=802.945 と、適合度があがる。
( 注 5.9) た だ し 、 社 会 心 理 学 で 有 名 な ホ フ ス テ ー ド (Hofstead, 1980; 1983; 1997)
[117]-[119]の 40 カ国に渡る価値観調査も、IBM 社員が対象となっていることからも
わかるように、研究の初期段階における各国比較調査実施は高い困難が伴うことも付 記しておく。