第5章 :「価値共創支援」のための構造方程式モデリングの応用~顧客ゴールの動的
5.4 研究3.国内縦断調査による顧客ゴールの動的変容の把握
5.4.1 はじめに
本節、研究3の第一の目的は、「F1短期的・具体的なゴール」と「F2長期的・抽象的な ゴール」という二つの顧客ゴールが継時的に変化するか、または安定的に変化しないのか を検証することである。前節、研究2に示した調査から 5か月後に同一内容の第二回調査 を再度行うことによって、顧客ゴールの構造の継時的な動的変容を定量化し、これを示す。
研究3の第二の目的は、「F1短期的・具体的ゴール」と「F2長期的・抽象的ゴール」の レベルに、対象者の個人属性としての文化要因の1つである分析的-包括的思考形式の特性 差が関係するのかどうか、また、もし関係するならば、どの程度関係するのかを定量化す ることである。
そして、研究3の第三の目的は、個人の文化的特性差である分析的-包括的思考形式が、
前述の2つの顧客ゴールの構造の継時的な動的変容に影響するかどうかを検証することで ある。
5.4.2 方法
5.4.2.1 調査方法
前節の研究2の調査参加者のうち有効な回答を得ることができた 199名に対し、5か月 後に再度、同一内容の調査を依頼した。調査期間は、2012年 10 月 8日から 19 日で、期 間中教室に通った対象者に、教室指導者を通して質問紙調査票を配布した(注5.2)。調査票の 中身は、指導者が確認できないように厳封して提出するように依頼 し、教室指導者を通し て回収した。無回答票や 2回の調査回答者が一致しないもの等を除き、最終的に131の有 効回答を得ることが出来た。
「分析的-包括的思考形式」因子についての測定項目は Choi et al.(2007)[97]が使用した 尺度より選定した 4変数である。表 5.4にクロンバックの信頼性係数αとともに示す。
いずれも、「非常にそう思う」から「全くそう思わない」の 7段階評点尺度で測定した。
表 5.4 「分析的-包括的思考形式」因子の観測変数(注 5.3)
5.4.2.2 分析方法
めに欠損票とした。
分析のフレームワークを図5.6に、仮説モデルを図5.7に示す( 注5.4)。
前節で検証した「F1 短期的・具体的ゴール」と「F2 長期的・抽象的ゴール」の検証的 2 因子に、それぞれ第一回目因子と第二回目因子を想定する 。この 2因子×2 時点の 4 因 子で継時的な動的変化を定量化した。さらに、このゴール因子群4因子を従属因子とする 独立因子「分析的-包括的思考形式」因子からのパスを検討した。なお、分析にはIBM SPSS Amos(Ver.19.0)を用い、最尤法で推定を行った。
図 5.6 分析のフレームワーク
図 5.7 研究3仮説モデル(平均構造のある縦断的構造方程式モデル)
5.4.3 結果
平均構造のある構造方程式モデリングによって図 5.7 の仮説モデルを検証的に分析した ところ、複数の適合度指標からみて、総合的にモデルは受容可能であった(χ2値=339.595,
df=172, p値=0.000, CFI=0.843, RMSEA=0.087, AIC=455.575( 注5.4),( 注5.5))。
構造方程式部分を図 5.8、図5.9に示す。また、誤差間構造を表5.5 に、測定方程式の推 定値を表 5.6に示す。
図 5.7、図 5.8が示す通り、「短期的・具体的ゴール」、「長期的・抽象的ゴール」ともに、
第一回目因子から第二回目因子へのパスは高度に有意で、パス係数も大きく、対象者のゴ ールは 5 か月間、頑健に保持されていることがわかる。他方、「短期的・具体的ゴール」
から「長期的・抽象的ゴール」、「長期的・抽象的ゴール」から「短期的・具体的ゴール」
へのパスはいずれも5%有意ではない。しかし、「短期的・具体的ゴール」と「長期的・抽 象的ゴール」の第二回目の誤差間相関が相関 0.545と高度に有意であった。つまり2つの ゴール間に共変関係があり、どちらかのゴールが高い、または低い場合、他方も同じよう に高い、または低い傾向があることを示している。
「分析的-包括的思考形式」は、第一回目の「長期的・抽象的ゴール」へのパスが5%
で有意であることが示されており、包括的な思考形式の傾向が強い人ほど、長期的・抽象 的ゴールを持ち、逆に分析的な思考形式の傾向が強い人ほど、長期的・抽象的ゴールを持 たないことがわかる。
他方、「分析的-包括的思考形式」は、第一回目の「長期的・抽象的ゴール」「短期的・
具体的ゴール」へのパスがいずれも有意ではなく、二つの顧客ゴールの構造の継時的な動 的変容には関係していなかった。
表 5.5 の誤差間相関を見ると、複数の誤差間のパスが有意であることから、各観測変数 に特有の独自要因も安定的に測定されていることを示しており、今回の二度の調査の安定 性が示されたと言える。また表 5.6の各因子負荷量の値は、標準化係数でいずれも 0.4 を 超えており、因子の測定指標として適していることが示されている。
5.4.4 考察
5 か月という短期では、顧客ゴールが大きく変化せず、安定性を持つことからは 、顧客 のターゲティングに顧客ゴールを利用することの有効性が示唆された ともいえる。つまり、
長期的・抽象的ゴールを持つ顧客に狙いを絞ってマーケティングを行えば、サービスを長 期的に継続利用してもらう可能性を高めることになる。 包括的な思考形式の傾向が強い人 ほど、長期的・抽象的ゴールを持つという結果から、ターゲティングの対象者選定基準と して「分析的-包括的思考形式」を用いる有効性も同時に示唆されている。
本研究では、5 か月以上の数年にわたる継続による縦断的な顧客ゴールの動的変容は把 握していない。5 か月以上の中・長期継続を通して、顧客がより長期的な顧客ゴールを志 向するようになるのであれば、既存顧客の長期維持・拡大には好都合でもある。価値共創 活動の維持・促進のために「顧客ゴール育成シナリオ」がより効果を発すると見込める 。
5.4.5 まとめ
本節、研究3では、研究2に示した調査から 5 か月後に同一内容の第二回調査を再度行 った。2 回の継時測定データを分析することで、顧客ゴールの構造の継時的な動的変容の 把握を検証するのと同時に、個人文化特性の1つである「 分析的-包括的思考形式」の顧客 ゴールとの関係性、継時的な動的変容への「分析的-包括的思考形式」についても検討した。
仮説モデルを平均構造のある構造方程式モデリングにより定量分析 したところ、適合度 が受容可能で、推定値が実学的に解釈できる結果が得られた(χ2 値=339.595,df=172, p 値=0.000, CFI=0.843, RMSEA=0.087, AIC=455.575)。
「F1 短期的・具体的なゴール」と「F2 長期的・抽象的なゴール」という二つの顧客ゴ ールは 5 か月という短期では変化せず、安定していた。「分析的-包括的思考形式」の特性 差は「長期的・抽象的ゴール」にのみ関係し、包括的な思考形式の傾向が強い人ほど、長 期的・抽象的ゴールを持ち、逆に分析的な思考形式の傾向が強い人ほど、長期的・抽象的 ゴールを持たないことが把握できた。二つの顧客ゴール構造の継時的な動的変容には、「分 析的-包括的思考形式」の個人特性差は、関係していなかった。
結果は、顧客のターゲティングに顧客ゴールを利用することの有効性を示 唆し てい た。
図 5.8 研究3標準化推定値
図 5.9 研究3非標準化推定値
表 5.5 研究3誤差間関係の推定値
表 5.6 研究3測定方程式の推定値