第1章では、まず2000年以降の子育てをめぐる状況を概観し、90年代からはじまる二極化の流れの 拡大という社会状況が、少子化の進行する中で、子どもを持つ家庭においては、児童虐待発生ハイリ スク層の拡大に影響を与えていることを指摘した。実際、2000年の児童虐待防止法の制定以降も、児 童虐待相談は増加する一方で、児童虐待をめぐる事件報道も急増する。その中で、とりわけ大きく報 道された重大事件が、その後の法律改正や施策に強く影響を与える傾向が近年の特徴と考えられた。
また、子どもの性的被害、事故、非行、発達障害などと児童虐待との関連性を指摘し、児童虐待の裾 野の広さや関連する領域の多様性にも言及した。
続く第2章では、2000年から2006年に公刊された書籍と、法律制定の年にあたる2000年の雑誌特集 号の論文を中心に、1990年代の延長線上としての傾向(①当事者の声、②社会全体への認識の広がり、
③専門家の実践的活動)を概観した。そして、新たな動向として、①保育、教育関係の専門家養成用 のテキストに児童虐待が取り上げられようになったこと、②翻訳書の大量の出版、③児童虐待を中核 とした「子どもの危機的状況」の歴史を振り返る作業の始まり、をあげた。
また、第3章では、情緒障害児短期収容施設の研究紀要「心理治療と治療教育」第1巻(1989)か ら第17巻(2006)を中心に、児童虐待問題が、情短施設においてどのように取り上げられ、被虐待児 への心理臨床的援助を担うようになってきたかを概観した。
さらに、第4章では、1999年に発刊された学会誌「子どもの虐待とネグレクト」を2006年まで追っ て、そこに掲載された事例を分析することによって、第3章で取り上げたような被虐待児の心理臨床 的援助が、施設内「環境療法」から「総合環境療法」に展開していくことを確認した。
一方、第5章では、第2章で指摘された問題、すなわち書籍等の大量の公刊によって引き起こされ た児童虐待をめぐる記述の正確さに関する疑問を、発達心理学の教科書的な書籍に限定して調査し、
その結果をまとめた。
最後に、第6章は、前報告の第4章「性的虐待と『バックラッシュ』問題を考える」の続編と位置 づけられる。主として2000年以降の国内外動向について概観し、「バックラッシュ」問題から出てき た「司法面接」や「子どもの記憶」にも視野を広げて論じた。
我々は、前報告で1990年代を児童虐待を中核とした「子どもの危機的状況」における転換期ととら え、そこから生まれた大きなうねり(社会の認識の広がりと専門家による多分野横断的協働)が2000 年の法律制定へと結実したと総括した。一方、この2000年代に入ると、すでに誕生したばかりの法律 が一度目の改正を終え、さらに次の改正への準備が進められている。この法律制定直後の2度の改正 に象徴されるように、1990年代後半からのこの10年ほどの児童虐待問題をめぐる動きはあまりに急激 であると言わざるを得ない。こうした急激な動きに対して、第1章で指摘したように重大事件の事例 研究が影響していることがこの時代の大きな特徴と言えるだろう。
こうした動きに直結して、この間に出版された児童虐待に関わる書籍や論文は正直我々の手に余る
ものであった。事実、今回の報告書においては、2000年以降に出版された書籍のすべてに目を通すこ とはできてはいないし、雑誌特集号に至っては2000年に集中的に出された21本に関しての概観が中心 とならざるをえなかった。したがって、時代区分としても2000-2006年の7年間であり、2000年代と しては中間報告にすぎないのは当然ながら、同時にあまりに膨大な出版量ゆえに文献研究としては全 体を把握できていない中間報告であることをお断りしておきたい。
(保坂 亨)
資料 1970−2006年に見られる子どもの危機的状況を中心とした主な出来事
*児童虐待に関係する事件・・・・・斜字
1989年までは、上記の文献を参考にセンターが作成した。
1990年〜1995年は、上野(2003)『〈児童虐待>の構築−捕獲される家族』第1章P16を参照しながら、センターが作成。
1996年以降は、インターネット上の朝日新聞データベース『聞蔵』で、「虐待」「逮捕」(「事件」)をキーワードとして検索 出典:柿沼 昌芳・永野 恒雄 編(2002)「学校の中の事件と犯罪ø 1945〜1985」 批評社
神田 文人・小林 英夫 編(2005)「戦後史年表」 小学館 山本 健治 (1989)「〔年表〕子どもの事件 1945-1989」 柘植書房
平成18年度研究報告書