本研究では、発展途上にある日本での提案型まちづくり助成制度の全体像の課題を明 らかにし、シアトル市、ニューキャッスル市における提案型まちづくり助成制度の運用 実態を解明した。
本章ではこれらを踏まえ、序章で設定した指標を用いて評価を行うことで、各事例を 比較する。
5−1 本章の目的
本章では、評価指標を用いて、日本での提案型まちづくり助成制度を核としたまちづ くり支援システムの構築のための課題を明らかにすることを目的とする。
第一に、運用実態と課題の比較を行う。
これまでに明らかにした日本、シアトル市、ニューキャッスル市における提案型まちづ くり助成制度の運用実態の解明から明らかになった、制度の運用上の課題を比較する。
第二に、明らかになった各事例の課題から評価を行う。
本研究では序章で、「提案型まちづくり助成制度は社会から必要とされた役割を果たし ているか?」という問題設定を基に、評価軸の設定を行った。その評価軸は、「市民が公 共サービスを担うための支援となったか」、「コミュニティが構築されたか」、「地域運営・
自治の確立への支援となったか」の三点である。以上の評価軸を用いて評価を行う。
第三に、評価軸に沿った事例比較を行う。
評価の結果から、提案型まちづくり助成制度の各地域の特質を明らかにすることで、
各事例の比較を行い、日本に対する提案へとつなげる課題と成果を各事例から明らかに する。
5−2 運用実態と課題の比較
序章で設定した評価軸による各地域の評価を行う前に、各研究対象地域における提案 型まちづくり助成制度の運用実態と課題について比較する。(図5−1)
1)日本
まず日本について、運用実態解明のために、日本における提案型まちづくり助成制度 の発展経緯の解明を行った。
発展経緯の解明の中で、提案型まちづくり助成制度の制度形態から、類型化を行った。
その結果、8つの類型に分けることが出来た。
まず提案型まちづくり助成制度の創生期に行われたのが「コミュニティづくり支援」、
「区画整理余剰金利用」型であった。
また、「基礎形成期」に行われたのが「基金設置方式」「世田谷方式」及び「地域組織支援」
型であった。
それらを基礎として、2000年以降急激に事例が増えた「増加期」には、新しく「協 働方式」「補助金見直し方式」「マッチングファンド方式」型が創設された。
また、以上のような発展経緯の解明から明らかになった課題がある。
それは、提案型まちづくり助成制度という「制度」の発展の中で、第一に支援する相 手との関係性、第二に原資調達のためのシステム、第三に段階やメニュー制の拡大とい う点で制度が先走って「複雑化」したことと、その「複雑化」に対して「担い手の形成」
や、「市民や企業に対する周知」が追いついていないということであった。つまり、パー トナーシップのミスマッチがあった。
一般会計
基
基金・公益益益信信信託 など
活動団体 市民・企業 寄附 応募
応募 助成 助成
国
市・区
財団団団 交付金の上乗せ
日本(典型例の複合モデルデルデ )
一般会計
活動団体 エリア
マッチング応募・ グ 助成
エ
エリリアア((近近隣隣住住区区))別別助助成成 国
市
コミュニティ・
デベ デベ
デ ロップメント ブ
ブ
ブロックグランド
貧困エリア、ア、ア 及び 用途限定助成 グ
貧困エ 貧 エリ
アメリカ(シアトル市)
一般会計
活動団体
応 応 応募 応募
応募募募
助成 助
助 助成成
補 補助助金 国
市
区
補助プログラム
(ex.ニュューディールフォー コミミミミュュュュュニニニニニテテテテティィィィィ))
パ パ
パートナナーシシップ コミュニニ ティィ組組織織
コミュニテテティィ チェスト 成 応募 成
成
イングランド
(ニューキャッスル市)
運用実態:
・複雑化したシステムと、市民団体とのパート ナーシップのミスマッチ
・原資調達システムの流れが市民に対する周知 不足から成り立たない
課題:・担い手育成の段階をさらに細かく意識した申 請上の配慮
・自治体側からニーズを掘り起こす「攻めのア ウトリーチ」の必要性
・(情報や技術など)「注入」支援としてのさ らなる「エンパワーメント」の意識の必要性
・行政窓口とコミュニティ活動のコーディネー ターとの機能による支援する側の分離
(1)ネイバーバーバ フッドマッチングファンド 運用
運用
運 実態1:コミュニティの構築・育成
・地域社会への市民の参加を促進
・専門家とコミュニティとの協働
・新しいコミュニティグルグルグ ープの結成 課題
課題
課 :コミュニティ間のコラボレーションの促進 運用
運用
運 実態2:グラスルーツ型地域改善の積み重ね
・多様な主体によるプロジェクトの積み重ね
・各事業段階における助成 課題
課題
課 :『マッチング』の準備能力の有無によるギ ャップの補填
(2)ファサードインプルプルプ ーブメブメブ ントプログラム 運用
運用
運 実態・「自由度の高さ」
・中間組織への権限委譲 課題
課題
課 :まちづくりとしての質の担保
(1)ニューディールフォーコミュニティズ
(2)ワードサブコミッティズファンド 運用
運用
運 実態・「代表性」を強固に担保した市民参加のメカニ ズムと連動した助成
・強い「地域指向型」
・「貧困対策」としての福祉的まちづくりファン ド課題
課題
課・市民参加メカニズムの理想と実態との乖離
・福祉性の強さから来るプロジェクトの不適切さ
・担い手の成熟度と偏り
図5 1 提案型まちづくり助成制度の運用実態と課題の比較
のアウトリーチ」として、「市民活動への発展のポテンシャルの高低を見極めた層別の働 きかけ」の必要性があった。
第三にエンパワーメントの究極の目的である「権限委譲」をにらみ、技術や情報など の「注入」支援と実践活動を通した「力づけ」があった。
第四に市民活動支援する側の担い手として行政窓口と、市民に対するコーディネーター との役割別の分離があったため、これらの主体間が強い連携を保てる仕組みの必要性が あった。
2)米・シアトル市
次にアメリカ・シアトル市について、シアトル市が行う二つの事例の運用実態解明を 行った。
まずネイバーフッド・マッチング・ファンドは「コミュニティの構築・育成」という点で、
第一に地域社会への市民の参加を促進したこと、第二に専門家とコミュニティとの協働 を促したこと、第三に新しいコミュニティグループの結成が見られたことがあった。
ただし、ここでの課題として、コミュニティが構築されるに従い、コミュニティの孤 立や対立が生まれることがあった。そのため、マッチング・ファンドの課題として、「コ ミュニティ間のコラボレーションの促進」の必要性があった。
次に「グラスルーツ型地域改善の積み重ね」という視点で運用実態を解明した。この 点について、第一に、多様な主体によるプロジェクトの積み重ねを促進したこと、第二 にそのファンド対象の幅広さから、各事業段階における助成を行ったことがあった。し かし、ここでの課題として「『マッチング』の準備能力の有無によるギャップ」があった。
マッチング準備の条件から、大規模なマッチングを準備できる資金力や機動性、人脈が ある組織と、そうでない組織で、得られる助成額にギャップがでることがあった。その
3)イングランド・ニューキャッスル市
次にイングランド・ニューキャッスル市において、ニュー・ディール・フォー・コミュ ニティズ・チェストと、ワード・サブ・コミッティズ・ファンドの二事例を研究対象事 例とした。
これらの運用実態について、第一に「代表性」を強固に担保した市民参加のメカニズ ムと連動した助成であること、第二に強い「地域指向性」があること、第三に「貧困対策」
としての福祉的提案型まちづくり助成制度の色が強いことがあった。
この運用実態と関連する課題として、第一に市民参加メカニズムの理想と現実の乖離 があり、それを埋める役割が期待されること、第二に「福祉」色の強さから起因する、
本来のターゲットとは乖離した幾分不適切なプロジェクトの存在、及び第三として担い 手の成熟度とその偏りがあった。
これらの明らかになった運用実態と課題をもとに、序章で設定した評価軸を用いて評 価を行う。
5−3 提案型まちづくり助成制度の評価
本節ではこれまでの運用実態の解明から明らかになった提案型まちづくり助成制度の 実態から、序章で設定した評価指標である、
評価軸1:市民が公共サービスを担うための支援となったか 評価軸2:コミュニティが構築されたか
評価軸3:地域運営・自治の確立への支援となったか
の三つの評価軸に従って評価を行う。
まず日本について、第二章で行った類型化を踏まえ、各類型別による評価を行う。そ の上で、全体のまとめを行い、第二章のアンケート調査結果から明らかになった、日本 の提案型まちづくり助成制度の全体像としての課題を明らかにする。
次に、アメリカ・シアトル市、イングランド・ニューキャッスル市の各研究対象地域 事例について共通の評価軸で評価を行う。
最後に各評価から、日本、シアトル市、ニューキャッスル市における提案型まちづく り助成制度の特徴と傾向を明らかにし、比較を行う。