鞠・ ・
第2節 ひらがな教育構築のための枠組み
ひらがな教育の意義と役割に照らしたとき、ひらがな教育において重要なのは、学習者のひら がなを用いた言語行為にアプローチし、学習者が自己を主体的な読み手・書き手として位置づけ
られるように促していくことである。
では、主体的な読み手・書き手として学習者が自己を位置づけられるようなひらがな教育は、
どのような枠組みから構築することができるのだろうか。
1 ひらがな教育における"文字への気づぎ'の検討
学習者が主体的なひらがなの読み手・書き手として自己を位置づけていくためには、学習者自 身による"文字‑の気づき"が必要となる。
そこで、第3車では、この"文字‑の気づき"と「音韻分析力」の観点から、ひらがな教育論 やひらがな教育に用いられる教材の検討を行った。その結果、ひらがな教育において育まれてい る"文字‑の気づき"を、具体的に捉えることができた。
第3章で導出された"文字‑の気づき"をまとめたものが下記の表1である。
表1 "文字‑の気づき"
文字への気づき
文字
絵と 「文字」の区別 媒体
挿絵をみながら想起した状況をあらわす 「文字」への気づき
知覚した文字連続の構図から想起した動きをあらわす 「文字」への気づ 機の
鰭的 側面
←、、 の つ.^
き と て.し の 文「 字
」 への 気 つき
き
状況とは切り離されていたとしても意味をもつ 「文字」への気づき
事物や、体験した具体的な場をあらわす 「文字」への気づき 音声をあらわす媒体としての 「文字」への気づき
文 書 Jfi
面
文字という単位への気づき 1音‑ 1文字の原則への気づき 文字の形への気づき
特殊拍(墳音を除く) .劫短音の表記法への気づき
141
このように、より細分化して"文字‑の気づき"を捉えることができた。
では、それぞれの"文字‑の気づき"は、どのように関連しているのだろうか。
表2の"文字‑の気づき"のなかでも「絵と「文字」の区別」は、石森延男の教育論から導出 されたものである。第2章において検討した柴崎の「平仮名の獲得過程」では、この「絵と「文 字」の区別」に関連して、なぐり書きをする際に絵とは区別して名前らしきものを書くというよ うに、絵と文字とを使い分ける子どもの姿が捉えられていた。石森は、文字による表現を学んで いく前提として、 「絵や写真だけでは、どうしてもわからないところが、文字のあるおかげで、い っそうその絵のことも写真のことも、はっきりわかってくる」ことに気づかせることを通して文 字の「必要性や価値」に気づくための指導を位置づけていた。
このような「必要性や価値」を知ることに結びついていくのが、媒体としての文字‑の気づき である。特に、石森は絵と文字とを同時提出し、挿絵から想起した状況において聞こえているは ずの「こここ こここ」という声を、文字によって表すことができること‑の気づきを促してい た。これは、音声をあらわす媒体として文字が機能していること‑の気づきを促すことにも繋が るものであると考えられる。またこの気づきは、音をどのように文字で表していくのかという構 造的側面‑の意識とも密接に関わっている。
さらに、挿絵から想起した状況と文字とを結びつけていくことは、増田が経験図表を用いて行 った指導において、 「事物や体験した具体的な場をあらわす」文字‑の気づきを促していたことと も繋がる。
一方で、文字連続そのものに着目させることによって、文字の機能的側面‑の気づきを促す学 習も設定されていた。まず、 「ぴょん ぴょん ぴょん」というなわとびを跳ぶときの動きを絵画 的に文字配列上に表すことによって、 「情景、形態、場所の関係など」をあらわす媒体として文字 が機能していること‑の気づきが促されていた。つぎに、 「おおきい」や「ちいさい」といった観 念的なことばを採録し、大きく書いてあっても「ちいさい」は(小さい)という意味と結びつく
というように、状況とは切り離されたとしても文字は意味をもつこと‑の気づきが促されていた。
文字の構造的側面‑の気づきについては、音声言語上で語を構成している音節を分解すること に加えて、語を構成している文字連続から文字を抽出する学習が設定されており、その学習では 文字という単位に着目できるようになっていた。また、抽出した音を文字と対応させる、もしく
は文字から音を想起させることによって、ひらがなの表記法についての気づきが促されていた。
特に、エ列長音とオ列長音の例外表記、特例表記については、創作物語を用いて、学習者がきま りに気づくことができるような手立てが施されていた。
文字の形‑の気づきについては、類似形態であっても、形が異なるとその文字(文字連続)が あらわす意味は異なるということに着目させるというように、文字の機能的側面‑の気づきとと もに、文字の形‑の気づきを促すものとなっていた。
以上のことから、ひらがな教育を再検討することによって導出された"文字‑の気づき"は、
下記の図1に示したように複数の気づきが密接に関連していることがわかる。 (文字の機能的側面
‑の気づきは◎」に、文字の構造的側面への気づきはrO 」に示した。)
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においても、単に類似した文字の形を比較させるだけでなく、類似した形態の文字を混同するこ とによる問題に直面させることを通して、文字の機能的側面‑の気づきをもたらす学習が展開さ れていたということである。仮に、 「類似形態の文字を混同しないようにする」という目標を掲げ
た場合、正しい字形を覚えさせることに収束されてしまいがちであるが、 "文字‑の気づき"を育 むということを念頭においた場合、技能的側面のみに着目したひらがな教育に留まらず、学習者 がなぜその字形で書く必要があるのかということを、媒体としての文字‑の気づきとともに考え ていくこと‑とつながっていく。このことは、学習者が自己を読み手・書き手として位置づけて いくことを意味している。
形
図1ひらがな教育における"文字への気づき"の関連性
このように"文字‑の気づき"という観点からひらがな教育を検討することによって、その教 育では読み書き能力が確実に身につけられたのか否かという結果に限らず、どのような"文字‑
の気づき"を育みつつあるのかという過程を含めてひらがな教育を検討したり、構想したりする ことが可能になる。
このことと関連して、塚田泰彦は、子どもの文字による表現を「まだ知らない語のつづりを、
して捉え、その諸相を示している。このように、文字の音声化・書字の仕方を覚えるという過程 だけでなく、子どもが文字を使う、使おうとする、使いたいと願う過程として読字・書字行為を 捉え、その視点から文字教育を構築していくことが重要であると考える。
さらに、学習者ひとりひとりが、どのように文字を読もう、書こうとしているのか、文字をど のようなものとして捉えているのかという現象を把握し、ひとりひとりに応じた"文字‑の気づ き"を促す手立てを考案していくことによって、学習者がひらがなの読み手・書き手となってい くことを支えるひらがな教育を構想すること‑と繋がっていく。
2 "文字への気づぎ'を促す手立ての検討
では、ひらがな教育を構想するときには、どのような点に着目して手立てを考案する必要があ るのだろうか。
この点について、第3章で明らかにした"文字‑の気づきを促す手立てを検討していきたい。
第3章の検討を通して得られたひらがな教育における"文字‑の気づき"を促す手立てをまと めたものが、下記の表2である。
表2 "文字‑の気づき"とその手立て
文字への気づき 手立て
文 字
絵 と 「文字」の区別 . 挿絵 と文字の同時提出
煤 体
挿絵 をみなが ら想起 した状況 . 挿絵 をみなが ら想起 され る状況 をあ らわ をあ らわす 「文字」への気づき す文字 (文字連続) の提出
知覚 した文 字連続 の構 図か ら 想 起 した動 きをあ らわす 「文
. 文字連続の構図の工夫 機の
舵 的
と し て の
字」への気づ き
状況 とは切 り離 され ていた と .観念的なことばの提 出 価
面 への .'I
文「 字
」 .\、
しても意味をもつ 「文字」への 気づき
事物や、体験 した具体的な場 を .経験図表の活用 づ
き の
Nl
あ らわす 「文字」への気づき . 文字 ことばのカー ドを作成 し、そのカー づ
き ドの指 し示す事物への反応 をさせ る
.経験 として知ってい る事物を想起 させ、
その 「名称」 を確認 してか ら音節分解 を行 い、その音節 に対応す る文字を提出す る0
56塚田泰彦(2008)、 p.1 :なお、塚田はこれを「創発つづり(inventedspelling)」と称し、 「創発つ づり(invented spelling)の事例研究を行いつつ、表記体系(ひらがな、カタカナ、漢字の表記法)の 習得の基本様相と発達段階を体系的に記述」 (p.1)している。
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