本 を持 つた老人
次 に さす らい 山の古老 の場 面 を見てみたい。 とい うの も、 さす らい 山の古老 が登場す る 場 面お よび この場面で具体的 に明 らか にな る 「本 の 中の本」 とい うモテ ィー フは、多 くの 先行研 究 において、ノヴァー リス の『 青 い花』との親 近性 が指摘 され てい るか らである。299
294v″gl.,Claudia Lud17ig: Nasご 口
̀rerわ′予石θコieiJθコ レ7鹿Iniasi″´.S.213.
295 vgl.,Kurt Ranke(Begr。 ),Rolf Wilhelm Brednich[u.a。 ](Hrsg。
):乃
勾ぼ壺P′(iθ̀わs 肋 ご[θ
"■ Bd。 9,S.1277.
296 vgl。,Christian vonヽVernsdorff:ヨゴ浅ソ gqrθ″ ιレSf嗜 お,S.69.u.Httna StOyan:Die
ρ力′″″s″s θ″亜壺hierb″盪 θr予り″」磁笙盪 ′
JEnあ
,S。 144.297 1ttθ ″θf2dDiσゐθ Ges iぬた,S.109.
298 五万θ口″θ″dLiσゐθ(算θs盛」b力
",S.107.
299 vrgl.,コAndreas von Prondczynsky:Die ur2θ コdZaθ se■″s口盪 ′″a盪 冽[とЙ seibst S.35‐ 41.u.
Claudia Ludwig: Nasご ″ θrθ rわrI句盟demθ″
アンしern五′si..,S.158‐ 161.u.Walter Filz:Es
まず 、 さす らい 山の古老が登場す る場 面 を見てみ よ う。本 章第 二節で触 れ た よ うに、幼 ごころの君 は、差 恥心か ら彼 女の新 しい名 前 を呼ぶ こ とがで きず 、 しり込みす るバ スチア ンを強制的 に ファンター ジエ ンヘ飛翔 させ るため、彼 女を取 り巻 く七つ の力 の うちの四つ を伴 い、 さす らい 山の古老 の も とへ赴 く。放浪 の末 、彼 女 は運命 山の頂 上 にあ る高原 に至 る
cそ
の高原 の真 ん中には 「かな りほつそ りと して高 く、エル フェンバイ ン塔 と似 てい る が、明 るい青色 を した」、「奇妙 な外 見の小 さな 山」300がそび え立 ってお り、その 中腹 にあ る 「一軒の家 ほ どの大 き さの卵」301が、 さす らい 山の吉老の住処 で ある。幼 ごころの君が この青い 山のふ も とまで来 る と、卵 の 中か らは しごが 下 され る。 このは しごは文字 で作 ら れ てお り、一段 につ き一行ずつ、 さす らい 山の古老 の警告 が韻文で書かれ てい る。幼 ごこ ろの君は、 このは しごを登 り卵 の 中に入 る。彼 女が入 る とす ぐに入 口が閉ま り、暗 闇の 中 か ら『 はて しない物語』 を書 き記す老人が姿をあ らわす。次第 に暗闇の中に、赤み を帯びた弱々 しい光が見えてきた。その光は卵形 の空間の真 ん中で、開かれたまま宙に浮いている一冊の本か ら発 していた。 この本は斜 めになつて いたため、彼女はその表紙 を見ることができた。それは赤銅色の絹で装丁 されてお り、
幼 ごころの君が首にかけていた宝のメダルのよ うに、 この本 にも互いに尾 を1歯み、楕 円 の形を成 している三匹の蛇が見えた。 この楕 円の中に題名が記 されていた。
『 はてしない物語』
(・・0)幼ごころの君が近 くに歩み寄ると、宙に浮いている本の反対側 に男の顔が見えた。
その顔は開かれたページによつて下か ら青 く照 らされていた。 この淡い光は、本の中の 青緑色の文字か ら発 していたのだった。302
次に『 青い花』 における描写を見てみ よ う
D第
一部第五章でハイ ンリヒー行は、村で知「
″
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た あs』職 ふ"s力
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口rs ル ια ′ι″ aレ 艶 bzigerルカ .Frankfurt am RIain:Peter Lang,1989(Kё lner Studien zur Literaturwissenschaft,Bd.1),S。
155ffo u.Httna StOyan:Die′力′″″s″s θ″Knderb″ α70n M̀力′θノEndし,S.131‐136.u.
Agathe Lattka:"lbderke力 r aLr ttθ ′″″女ζS。 79∬.
300 Die口 ″θ″dLiσらθ Ges品五ふ
̀θ
,S。 181.
301 Die″ ″θ″dLiσ力θ θθs盪ゴ励 ιθ,S.181.
302 1ttb ″θ″ごLiθ ttθ 6bs ichιθ,S。 183f。
66
り合 った坑夫 とともに、村 の近辺 にある洞窟 を探検す る。探索 の最 中、彼 らは地 の底 か ら 不意 に歌声が響 いて くるの を耳 にす る。 その歌 い手 を探 して、 さ らに下へ と進 む彼 らの前 に、隠者 ホーエ ンツォ レル ン伯 が姿 をあ らわす。
や がて彼 らは、明 る く照 らされノた場所 が あるこ とに気 がつ いた。 明 る さは彼 らが近づ くにつれ て、 よ り強 くなつた。先 ほ どの もの よ りも、 さらに大 きな広 さのあ る新 しい丸 天丼 が開けて きた。彼 らはその奥 で人影 が ランプのそ ばに座 ってい るの を見た。 その人 物 は 目の前 にあ る石 でで きた板 の上 に大 きな本 を置 いてお り、それ を読 んでい るよ うに 見 えた。303
さす らい 山の古老 と洞窟 の隠者 は、 ともに人気 のない場所 に住んでい る。 前者 の住処 は
「ファンター ジエ ン中で最大最高」で、「氷 巨人以外 には生 き物 が存在 できない」304運命 山の頂上で あ り、後者 の住処 は村 人 た ちが恐れ 、彼 らの うちまだ誰 もあえて入 つた こ との ない洞窟 で ある。 さす らい 山の古老 の住処 が卵形 を してい る とい う″点では、その内部 は隠 者 の住処 と同様 に、丸天丼 の よ うにな ってい る と考 え られ る
.そ
して、 さす らい 山の古老 は本 を書 きなが ら、隠者 は本 を読み なが ら、暗闇の 中か ら姿 をあ らわ してい る。 305さ ら に、ルー トヴィヒも指摘 してい るよ うに、彼 らの登場 は韻 文 に よつて開始 され てい る。306他 方で、彼 らの間 には差異 もまた存在す る。「青 い僧 服 を着 て、 フー ドを頭 か ら被 った」
さす らい 山の古老 の顔 は、「太古の老木 の樹皮 の よ うに見 え、長い年月 を経 た よ うな深い し わが刻 まれ て」お り、「ひ げは 白くて長 く、その眼は暗い洞窟 の よ うに、外か らは見 えない ほ ど深 く落 ち窪 んで」307ぃる。 これ に対 して、隠者 の方 は 「年齢 を推 しはか るこ とがで き ず 」、「額 で分 け られ た くせ のない銀 髪 以外 には、年月 を経 た名残 は認 め られず 、老いてい
303島ゴh王通
"″ (9■υrttngen,S.255。
304 Die口 ″θ」dLiθttθ (3θs盛」盪 ιθ,S.179.
305本を読み なが ら登場 す る とい う点 では、 ルー トヴィ ヒや ラ トカの指 摘 す るよ うに、物語 冒 頭 の コ レア ンダー氏 が登場す る描 写 (Vgl.,」開θ 己ichθ 偽 聞 た,S.5f.)と の類似性 も 見 出す こ と力■できる。Vgl.,Claudia Ludwig:И●sご α切め′π口 屁油2θ″ レ7Lern■as■,っS.162.
u.Agathe Lattka: И
ttb機
力F tt・Ror2′″艦 えS.79f.306 vgl.,Claudia Ludwig:ebd。 ,S。 159。 た だ し、 さす らい 山の古老の韻 文が、幼 ごころの君個 人 に向け られ た もの であ るの に対 して、隠者 の歌 う詩 は、ハイ ン リヒー行 に向 け られ た もので はない。 文字 で作 られたは しごは、 ファンター ジエ ンの あ らゆ るこ とを書 き留 め る さす らい 山 の古老が、文字 を司 る存在で あ るこ との一端 を示 してい る と考 え られ る。
307 五万θ口″θf2dZicttθ (7θs轟ゴ盪 た,S,184.
る よ うで もな く、若 い よ うに も見 えない」308。 そ して隠者 は、「そ の眼 にはいわ く言 い難 い快活 さが あ り、の どかな 山か らはて しない春 をのぞ き込んでい るかの よ うだ った」309と 述 べ られ てい る よ うに、陰気 な雰 囲気 を持 つ さす らい 山の古老 とは対照的 に、快活 な人物
と して描 かれ てい る。 隠者 が快 くハイ ン リヒー行 を出迎 えてい るのに対 して、 さす らい 山 の古老は、彼 らの間にある特殊 な関係 か ら、幼 ごころの君 との出会 いを望まず 、彼 女が訪 れ て も顔す ら上 げず に『 はて しない物語』 を書 き続 けてい る。 それ ゆえ、彼 らは本 を持 っ て暗 闇か ら登場す る とい うJ点では共通 してい るが、それぞれ の容 姿 と性 格 は大 き く異 なっ てい る とい える。
「本 の中の本
Jと
い うモテ ィー フ次 に「本 の 中の本」 とい うモテ ィー フについ て見てみ よ う。 さす らい 山の古老は、「ファ ンター ジエ ンの記憶」310と 呼 ばれ る よ うに、フ ァンター ジエ ンで起 きた こ とをすべ て書 き 記 してい るが、それ は単 な る記録 ではな く、 この本 その ものが フ ァンター ジエ ンであ る と ぃ ぅ。311彼の書 き記す本 には、未 来 の こ とは記載 され てお らず 、ペー ジの先 の方は 白紙 で あ り、次 に何 が起 こるか は彼 に も分 か らない。 そ して、バ スチ ア ンが 「後 戻 りがで きな い ほ どに、はて しない物語 の一部 となつてお り」、この物語がす でに「彼 自身 の物語」312に な ってい る とさす らい 山の古老は述 べ る。彼 は幼 ごころの君 に促 されて、 自分 が書 いた物 語 を最初 か ら読み は じめ、「バスチア ン もその声 をは っき りと聞 く」313。 その内容 は、す でに本章第 二節 で触れ た よ うに、バ スチ ア ンが コ レア ンダー氏 の吉本屋 に飛 び込む ところ か らは じま る。 この場 面 を 目で読む と同時 に耳で聞いたバ スチア ンは、耳鳴 りと目の ち ら つ きを感 じる。 そ して この とき彼 は、ア トレーユがイ グラムー ルに遭遇す る場面や魔法の 鏡 の門の場面 にお いて暗示 され て きた よ うに、 自分 が本 の一部 とな ってい る こ とを よ うや
くは つき りと認識す る。
308 王農ガhriぬIζθ″ 筋
r‐
gθ″,S.255。309 ル ヵriふ17on σぼ姥rttngen′ S.255。
310 3θ ″θ″d五盛 θ(7θsttittιθ,S。 185。
31l vgl.,″″
b囲
置ittθ 働 ″ た,S.184.幼 ごころの君 との会話において、さす らい山の古 老は 「鏡に映つた鏡は何を映すか」 と彼女に問いかけているが、エンデはこの問いも禅の公案 か ら得てお り、後に『鏡のなかの鏡』にも本のタイ トル として取 り入れている。Vgl.,S6iku Shigematsu: ユイσJどθ erztth」′ 乙en.Mit
θゴhθ″2 GθttrJ 盟ゴ̀
ル資bゐaθf Enあ,ノ4口s 勘
」をりλ夕″ゴsttθ″ レη″i多 ′θノ″bisserム Zurichs lttunchen:Theseus Verlag,1991,S。 131。 素3よ(バ、 子 安 美 知 子『 エ ンデ と語 る 作 品 ・ 半 生 。世 界 観 』66ペー ジ参 照 。
312 Die llnθ″dLiθらθ(7θs Iふ′θ,S。 186.
313 五万θ″″θ″attiθЙθ θθstti轟′θ,S。 187.
そ こで語 られたのは、彼 自身の物語だつた!そ して、それがはて しない物語の中に出 てきたのだった。彼、バスチアンが、本の中の登場人物 としてあ らわれたのだ。今まで 自分がその読者だ と思 っていたのに !そ うす る と、 自分の ことを読者だ と思 つている、
誰か他の読者が今まさに彼 の ことを読んでいるか も しれない 一一 そ して、そのようなこ とがはて しな く続 く!314
ここでは、物語の主人公が実在す る他の作家の本を読む、あるいは、ある物語の中でそ の物語 自体が書かれた本が登場す る 「本の中の本」 とい うモテ ィーフを読み取 ることがで きる。主人公 の行為や世界が反映 された本 とい うモテ ィー フは、文学においては時代や作 家 を問わず、様 々な形で使用 され てい るが、その源流は本が神聖視 された古典古代 にまで さかのぼるよ うである。 315『 はて しない物語』の よ うに主人公 のそれまでの行為 を反映 した本 としての「本の中の本」は、すでにセルバ ンテス (Miguel de Cervantes Saavedra, 1547‥
1616)の
『 ドン・キホーテ』(Don θ証われ 1605/15)において使用 されているが、ロマ ン主義文学ではノヴァー リスの『 青い花』に同様のモティーフを読み取ることができ る。 も う一度、洞窟の隠者 の場面を見てみ よう。ハイ ンリヒー行 を迎え入れた後、隠者は 老坑夫 と会話 をす る。彼 らの会話は、ハインリヒに「その予感 に満 ちた内面の新 しい発展」316 を感 じさせ る。その後、隠者 はハイン リヒー行に彼 の蔵書である「古い歴史書や詩集」317 を見せ る。坑夫たちが隠者 の案内で洞窟 の奥へ進む間、ハイ ンリヒはそれ らの本を 「尽 き ることのない喜び」318に浸 りなが ら次々 と繰 ってい く。やがて彼 は、「未知の言語で書か れた一冊の本」319に行 き当た り、その中に 自分 自身の姿や周囲の人間の姿 を見つけて驚1愕 す る。
314 五万θ ″θ″dLiσらθ(3bsttlbあιθ,S.188.
315 vgl.,Uwe Japp:腸θ″″て力 」ウリロ″″て力′Einθ Figこrごわs■itera″s(■θ″ 」髪フr θ″s″υs″ In:
Ⅳ う θ
FmJs贔
′口,86.Jg。,H.4,1975,S.651…670。 ロマ ン 主 義 か ら現 代 ま で の 文 学 に お け る本 の モ テ ィー フ の 概 略 につ い て は さ らに 、vgl。,Anne Siebeck:D"″ aみI″″″盪,肋
И ♭″ァル ρ力′コ″ 配お arF L故 猟痛″ ″Marburg:Tectum Verlag,2009,S.1lIズ ィー ベ ック は『 は て しない物語』にお ける 「本の中の本」モテ ィーフを分析 した際に、 「エ ンデの小説 は ロマン主義 の諸々の伝統に関連づけ られてお り、それは本のモティーフの構造にも反映 されている」(S.35)
と結論づ けてい る。
316ルヵ
.nァ
θ″ δ」姥ringen,S.263.317島ヵri‐Iη″ θ蜂鉗ingen,S。 264.
318 Heinriふyθ″0量er五ngen,S.264.
319 1長ガh二たJ:yθ″6¥れ,lπ左lgθ″′S.264.