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「かわいい」の査容

 60年代に誕生した「かわいい」は、消費社会の影響によって、段々多様化し、消費され ていく。この章では、まず、典型的な「かわいい」ファッションーロリータ・ファッシ

ョンを取り上げて具体的に「かわいい」はどのように変容したかについて考える(第一節)。

ロリータ・ファッションに見られる「かわいい」の変容は、ファッションだけではなく、

他の領域、ファッション雑誌にも現われている。次に、いくつかの雑誌を取り上げて、そ れぞれが提案したファッションスタイルや、ライフスタイルを比較しながら、rかわいい」

の変容を検証する(第二節)。

第1節 ロリータ・ファッションとその意味

 ロリータ・ファッションは、フリルや、レースを多用し、膨らんだスカート、揃った前 髪など、未成熟な少女性を強調したファッションスタイルである。ロリータ・ファッショ

ンは、「少女」というカテゴリーの特徴や性質などを最大限に表現し、そのため、ロリータ・

ファッションは日本の「かわいい」モ』ドの代表のようにしばしば取り上げられる。この 節では、ロリータ・ファッションの特徴と意味を明らかにする。

第1項ロリータとは何か

 もともとロリータとは、ロシア生まれのアメリカの作家、ウラジーミル・ナボコフが書 いた小説の題名である。大学教授ハンハ」ルは、死別した恋人をいつまでも忘れられない。

彼はヨーロッパからアメリカヘ亡命して、そこで恋人を思い出すドロレス・ヘイズ(愛称 ロリータ)という12歳の少女と出会った。ハンハ』ルは彼女に近づくために、未亡人であ るロリ』タの母親と結婚した。母親が事故で亡くなった後、ハンバールはロリータと恋人 となることを望んだが、ロリータは固く断り、突然ある日ハンハ』ルの前から姿を消した。

ハンバールはアメリカ中を探し回って、三年後にやっとロリータを見つけたが、ロリータ は大人の女性になって、自分を連れ出した男と結婚し、子どもを身ごもていた。真相を知 ったハンバールはロリータの結婚相手を殺すが、捕まって、獄中で病死した。そしてロリ ータもまた出産の際に命を失う。少女期特有な魅力を持つロリ』タが、ハンバールという 大学教授を破滅へと導くという物語である。

 作者ウラジ』ミル・ナボコフは、この小説を書く際に、ルイス・キャロルの小説『不思 議の国のアリス』から少女のイメージを手に入れたと言われている。時計を持った白い兎

を追った少女アリスが、不思議な穴に落ち、そこでチェシャ猫や、きちがい帽子屋、トラ ンプの兵士など奇妙な物事に出会う。作者ルイス・キャロルはロリータ・コンプレックス であったとされるが、彼の小説のイメージは、少女趣味に大きな影響を及ぼした。

 小説『ロリータ』に由来し、rロリータ」からrロリータ・コンプレックス」という言葉 が生まれた。この言葉は心理学では、幼女・少女に対レ性欲を感じる心理のことを指す。「ロ

リータ・コンプレックス」をきっかけに、日本では「ロリ」タ」とう言葉が広く知られて

いく。

 「ロリータ」の定義は、様々である。一般にはロリータとは、少女を指す言葉と定義さ れる。しかし、ロリ』タは「少女」とは異なり、大人になっていないというニュアンスが

より強調される。普通未成熟は否定的な意味で用いられるが、ロリータの場合はむしろ反 対に積極的な意味で捉えられる。ナボコフの「ロリータ」は社会化されていない少女の魅 力を描き出している。しかしこれは男性の側からの視線である。これに対して、「女性はロ

リータという単語に『魅力的な少女』のイメ』ジを発見した。そこで見出されたのは、大 人の女性が失ってしまう、あどけなさの残る少女の清楚さ、愛くるしさ……50」という風に 肯定的に評価する考え方もある。女性自身が社会化されない少女のあり方を積極的なもの

として捉えなおす立場である。いずれにしても、「ロリータ」には、少女という両義的な存 在の多義性が反映されるこ・とになる。

 rロリータ」の多義性によって、rロリータ・ファッション」についても様々な見方が生 まれることになる。大群泉は「ロリータ・ファッションは少女趣味的な可愛らしいファッ ションである」と簡単に説明しているが、この説明ではいわゆる「ロリータ・ファッショ ン」について何も説明していないことになる。これに対して、古賀は「『ロリータ・ファッ ション』とは、日本で生まれたファッションであり、それと結びついた様々な文化現象を 指す場合に用いられる言葉で、具体的イメ」ジを端的いえば、ロリータである女性・少女

11讐崇兼二麻、、・ぽζ

の特徴は以下の!lに11めlll・㌻,峨

111;1;∵㌫{、圭 吸一惟㌻

二;二;㌫1二練着用≡ 饗、λ

も、ギャザースカート、フリルスカ        1コリータ・ファッショソ ート、リボンワンピース、などが用 (サカエ経済新聞により。

いられている。         htt sakaekolz・1b舳・・dIm・!h・t・ノ869/)

50松浦桃 『セカイと私とロリータ・ファッション』 P32.

5i古賀令子 『rかわいい」の帝国』 P102。

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 スカートのボリュームを出すために、スカ」トの下にパニエを着用することもよく見ら れる。そして、さらにパニエによって膨らんだスカートから、ドロワーズと呼ばれる下穿

きをはく場合もある。これは下着が見える事を防ぐとともに、スカートの内部を強調する 役割も果たす。おでこ靴、ストラップシューズが基本となり、ウッドソールの厚底靴、バ

レリーナシューズ、レースアッ      ? プブーツなども多い。      、

 靴下は、フリルやレース付き の長ハイソックス、オーバー二

一ソックス・タイツなど多へ ビ無

ヘアスタイルは、ストレートヘ       ・止費 アー、また縦ロールの巻き髪、

緩いウェービーヘアで、前髪は       。萄        一.、薫

切り揃えた姫カットが特徴で         ・1

ある。大きなリボンのついたカ      1一重 チェーシャやコ 一ム、ヘッドド      一.蟻

レス、ボンネット、ミニバット      ^

ティアラなどを使って、ヘアに        ロリ_タ.ファッション 節ることも特徴である5㌔      (青木美沙子のプログより

 ジャンパースカートや、リボ    幽)

ンワンピースなどは海外の物語

で登場する女の子主人公たちがはいていた物であった。例えば「シンデレラの物語」「親指 姫」などが挙げられる。ロリニタ・ファッションを好む女性たちは、物語の主人公のドレ スや、フリルを想像しながら、これらの衣装をまとうことになる。このようなアイテムを 着用することは、物語への憧れといった少女趣味の現れである。またおでこ靴や、ストラ

ップシューズは、ヒールの木人の女性というイメージに対して・未成熟・幼稚性が含まれ ている。さらにリボンや、フリルを飾って、全体的に異国一の十代少女のイメージを作り上

げる。

 ロリータ・ファッションは日本では1980年代中頃に一部のDCブランドから発表され流 行が始まった。代表的なブランドとしては、くPINK HOUSE〉やくMILK〉などがある。

当時はまだ「ロリータ・ファッション」と呼ばれてはいなかったが、その後〈MILK〉のデ ザイナーであった村野めぐみが立ちあげた〈Jane Ma叩1e〉53や柳川れいが立ちあげた

52イI塔^ーネット rファッションの比較 ロリータ・ファッション」により要約

山art・u・…m/

53くJ目ne Marple〉:Jane M町1e【ジェーンマープル】は、デザインを担当している村野めぐみ氏が桑沢 研究所を卒業後に友人とセントメアリーミード社を1985年に創立した後、1989年には、ラフォーレ原宿 に設立したブランド。1994年には、Jane Marp1e DansLe Sa1㎝を設立する。「既成概念・社会的制約に とらわれない自由な発想をもとに永遠のテーマである歴史・自然・芸術をファンタスティックにクリエイ

くEmi1yTemp1ecute〉54などのブランドが加わって、ロリ』タ・ファッションのイメージ が形成されていった。

 1990年代後半にロリ]夕・ファッションは原宿を中心に広がって、一般に知られるよう になった。ロリータ・ファッションが広く世間に認知されるようになったきっかけの一つ

として、2004年公開の映画「下妻物語」がある。映画の冒頭で主人公の竜ヶ崎桃子はファ ッションブランド〈BABY,THE STARS SHINE BRIGHT〉を愛好し、このファッション を簡潔に言えば「ロココな精神を持っ者」であると語っている。彼女にとってフランスの ロココ文化55は、彼女の愛する時代、芸術、思想、美学であり、同時にそれを体現すること が彼女の生き甲斐であるといえる。この作品中での「ロリータ」 は、いわば彼女の生き方 そのもののような存在であり、現実世界での孤独感や不安感から逃避のようにも読み取れ る。この映画は少女趣味、夢を見る女の子の服装や、生き方を描いた。「年は重ねても、精 神はフリフリヒラヒラのまま」という心性は、ロリ』タ少女だけではなく、多くの女性た

ちの共感を呼んだ。

 松浦桃は「ロリータ・ファッションとは、『お洋服』という無生物ながら、それを愛する ものにとって大き一な存在感で心を支えてくれる大変な魅力を持っている」56と述べている。

既存の価値観に担われず、好きな服を着て、自由に生きる。他人に何を言われようと、自 分の生き方として誇りを持つ。「ロリータ・ファッション」を選んだ女の子たちは桃子のよ うに服に対する愛をそのまま表現している。少女はいつか年をとり、大人の女性になる。

妻となり、母となり、家庭や社会に拘束されたまま老いていく。大人になっていく事は、

男性中心の社会と向き合うことである。それに対する不安や、違和感を少女たちは感じて いる。戦前の少女趣味を継承して、少女たちは現実社会から逃避して夢の世界に憧れてい る。ロリータ・ファッションを身にづけることで、女性であるという現実世界の規則から 離れ、自分だけの世界、非日常の世界へと旅立ち、少女である時間を楽しむことができる。

これがロリータ・ファッションが持つ魅力である。

 以上のロリ」タの概念とロリータ・ファッションの特徴の論述を見れば、両者の類似性 と差異が明らかになる。「ロリ』タ」と「ロリ』タ・ファッション」は未成熟性や、幼児性 を強調することが共通しているが、含まれている意味が大きく異なっている。「ロリータ」

というのは、男性の目線から見た少女である。可憐や、愛くるしいなど性的な魅力をもち、

男性はこれを欲望の対象と,してとらえている。一方、「ロリータ・ファッション」は少女趣 味を極端的に強調し、少女たちの夢、憧れ物をファッションとして実体化させたものであ る。既定の価値観や社会規貝I」から解放されたいという願望を包含している。リボンやフリ

ティブに提案する」というものがコンセプトとなっている。イギリス風、無邪気なデザインは特徴である。

54@くE㎜i1y Temple cute〉:1977年柳川れいが、子供服のrShir1ey Temp1e(シャーリーテンプル)」の大 人向けラインとして設立したブランドである。レースやリボン、フリルを多用し、フルーツや動物などの モチーフを取り入れたロマンティックなデザインが特徴である。

5518世紀ルイ15世統治下のフランスを中心に、欧州各地を席巻した優美な装飾様式。自由で繊細、左右 不均衡で曲線を好む、優美などが特徴である。

56松浦桃『セカイと私とロリータファッション』により。

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