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 岸辺の著書『実験新遊戯』では「成美堂」版にのみ見られる項目である。また、

『尋常小学修身書』にr優美」の項はないが、内容からrことばっかひ」が相当す

ると考える。

 これは「礼譲」につながる項目であり、野卑な言葉づかいや振る舞いを避け、人 としての品格を求める項目となっている。それは激しい遊戯の最中にあっても変わ らず求められるものであり、常に意識して行動することが必要であるとされる。

⑫親愛

 『尋常小学修身書』では「友だち」の項目に当たるものである。友達が困ってい るときには、我がことのようにして親身に助けを延べることの美徳を説くものであ

る。

 遊戯においては破損しやすい器具を友達に快く貸すことも例に挙がっており、初 めは訓戒誘導によって機械的に為すものであっても、いずれは進んで友達を大切に するようになる。そのために集団で行う遊戯は大変有効であることを主張している。

⑬礼譲

 『尋常小学修身書』では、「シタジキナガニモ、レイギアリ」30)という記述に代表 されるように、人間関係のいかなる場合においても尊重すべき徳目と考えられる。

岸辺は激しい遊戯の中でも言葉遣いや振る舞いが粗雑になってはならないとし、遊 戯の初めと終わりには衣服の乱れを正し、互いに礼をしあうことを義務付ける。こ れはまさに振る舞いを正すため実際に行うべきことを具体的に示したものであり、

修身の徳目の内容を実際的に例示したものといえる。

 『尋常小学修身書』では「服装」に関する項目として、第四学年第十三「しんた いについてのこころえ」の中に「着物はせいけつにし」31)という記載がみられるだ

けである。岸辺が説くのは「服装と品位」の関係であり、服装が乱れることは心情 が乱れることにつながるという主張である。それゆえに岸辺は遊戯の開始時と終了 時に服装の乱れを整えることを義務づけたのである。

 また、「成美堂」版『実験新遊戯』においては「軍隊二於テ服装ノ厳重ナルコトヲ 説キナ毎二正シク着クル習慣ヲ養フヘシ」32)と述べるように、皆が一律の習慣を持 ち決まりを遵守する模範を軍隊の規律に求めている。

⑮軍歌

 「成美堂」版にのみ挙がる項目である。岸辺は遊戯と軍歌を切り離して考えるこ とはできないと述べ、遊戯の開始時や勝敗の決着時には軍歌を歌うのがよいとする。

当時、遊戯の中で広く用いられている軍歌の例として「凱旋・ますら武夫・進め矢 玉・軍艦」が挙げられている。

 『尋常小学修身書』では、直接軍歌に関して記載はなく、第四学年第二十に「へ いえき」という項がある。日本男子は兵役に就く義務があることを述べ、そのため

に幼少より行いを慎み、身体を丈夫に保つ必要が謳われている。

⑯独立心

 「宝文館」版にのみ挙がる項目である。遊戯の中で自分の番が回ってきたときに は、どのような状況にあっても自分の力以外に頼るものはなく、この経験が事に当 たって他力本願にならず自力で解決する精神を養うと主張する。『尋常小学修身書』

では子どもが母親の言いつけを聞いて登校の準備を自分で行うことが例として挙が っている。精神性は説かれず、自分の身の回りのことは自分でするよう諭す内容と なっている。

 以上が、岸辺の主張と修身科の徳目の特徴を比較した結果である。

 修身科教科書の中では身につけるべき徳目が事例をとおして簡潔に述べられるに とどまるが、岸辺はそれらの徳目を遊戯を演じる中で子どもが実際に体験すること を重視していることがわかる。修身をただ教科書の文字や教師の言葉を通して学ぶ だけでなく、子どもが身をもって経験する中から自分で感じ、気づき、学びとって ゆくために遊戯が有効であると主張したのである。修身科の徳目を子どもが経験的 に学ぶ、ここに「遊戯は修身科の実習である」と岸辺が述べた言葉の意味が存する のである。

 また、岸辺が遊戯を通して滴養を期待した事項の中で特に「規律・勇気・沈勇・

剛毅・果断・服従・軍歌」など「軍人・軍隊」を連想するような内容が多いことに 気づく。当時は遊戯と並んで体育の教科内容であった体操が「兵式体操」に代表さ れた時代であり、岸辺が将来を担う子ども達に期待したのは、国政の富国強兵政策 に応じられる人間像であったとみることも可能であろう。すなわち、教育方法にお いては遊戯的教授法の考案など新しい試みを行った岸辺であったが、実践した教育 内容は新奇なものではなく文部省の意向に沿っていたといえる。

 岸辺は様々な遊戯の中でも特に競走遊戯を奨励した。また、競走遊戯は男子のみ でなく女子にも必要であることを主張している。当時の日本女性には快活さが必要 であると考え、その快活さを養うには競走遊戯が最適だと述べている。しかし、上 記の項目の中に男子に向けたと思われる軍事に関する項目は多く登場する一方、女 子特有の項目はみられず、男女ともに有効と思われる項目に包括されている。後年、

女学校の設立など女子教育にも熱心に取り組んだ岸辺であったが、遊戯指導を行っ ていた時点においては目指す女子教育の方向性は主張しつつも、女子にどのような 道徳性の酒養を求めるのかが具体的に記述されることはなかった。

 次に『尋常小学修身書』の徳目に挙がっているが、岸辺が遊戯指導においては触 れなかった徳目を整理してみたい。ここでは徳目の内容に従い、筆者が7つのカテ

ゴリーに分けて整理する。

表2−14

分類カテゴリー 修身科教科書に挙がる徳目名

① 家族に関するもの おとうさんとおかあさん おとうさん おかあさん 親子 孝行(3)家族の楽 きょ一だい 兄弟姉妹 祖先

② 学校に関するもの 学校 姿勢 整頓 時刻を守れ 勉強 学問 教育 知識をみがけ 教室と運動場

③ 国に関するもの 天皇陛下(2)皇后陛下 目の丸の旗 大日本帝国(2)

愛国 兵役 納税 議員選挙 法令を重んぜよ

人間関係に関するもの

自己研鎖を促すもの

健康に関するもの

その化

けんかをするな 人の妨をするな 近所の人(2)

入に迷惑をかけるな(2) としより 約束 人のあやまち 召使いをあはれめ

時を重んぜよ 行儀 よい子供(2)よい日本入 倹約 度量を大きくせよ わるいすすめ 自営 忍耐 慈善

ものを粗末にあっかふな あやまち 難儀をこらへよ 自慢するな  恩を忘れるな 人をそねむな 博愛 迷信を避けよ 人の名誉を重んぜよ

からだ たべもの 健康 清潔 身体についての心得 元気よくあれ

あそび一自分のものと人のもの 生き物(2)拾ひ物 預り物 人は万物の長 男の務と女の務

復習(旧年間の復習)

*『尋常小学修身書』文部省 明治36年

 ・oの数字は『尋常小学修身書』に登場する徳日の回数を表す。数字の付されていないものは  すべて1回の登場である。

 岸辺が遊戯の中に生じる人間関係からの学びを重視したことは先に述べた。「親 愛」の項を設けて友達に親身に接することの美徳を説いている。家族に関する徳目 の内容も親や兄弟を大切にせよと説くものであるが、人間関係が「家族」に限定さ れているため遊戯の中で扱うことができないものである。

②学校に関するもの

 学校に関するカテゴリーは勤勉を奨励し、学校生活の中で守るべき規律を説く内 容となっている。これらは学校生活全般にわたる教訓であり、遊戯に限定して酒養

を期待するものではない。

③国に関するもの

 日本国民としてのあるべき姿や国民の義務を説く内容である。岸辺は遊戯の中で 戦争や軍事に題材をとった種目を多く用い軍歌も多用した。「兵役」「愛国」などこ のカテゴリーに属する徳目は遊戯に直接関係しないものの、岸辺の教育観の根底に

あり、遊戯指導の際に前提となった人間観であるといえる。

 人と関わる際に取るべき態度を示す内容である。人間関係に関する項目としては

④に挙げたもののほかに、岸辺が遊戯指導の中で扱った「親愛(修身徳目では友達)」、

①「家族に関するもの」がある。人間関係に関しては徳目の数も多く、修身の中で も重視された項目といえる。①で述べたように、岸辺は遊戯の中での人間関係を重 視したが、④に挙がる徳目は人としての基本的態度を説くものであり、遊戯の中で 扱うことができない内容である。

 岸辺が遊戯の申で溜養を期待した項目のうちr規律・潔白・勇気・沈勇・剛毅・

果断・公共心・服従(従順)・熱心・優美・親愛・礼譲・独立心」など、多くが個人 の目指すべき態度や精神性を説いたものであり、自己研鐘に類するといってよい。

しかし、岸辺が扱わなかった⑤に分類される徳目の内容は自己研鐙の機会が生活全 般にわたるものであり、直接遊戯の中で溜養できるものではない。

⑥健康に関するもの

 身体を衛生的に、健康に保つため日々の生活の申で留意すべき事柄を説く。

 遊戯の目的には身体の健康が含まれるが、遊戯で着目するのは身体を強健にする ことであり、修身で扱われる衛生的な内容を含んでいない。

⑦その他

 ①〜⑥のどの分類にも属さないものであり、遊戯において溜養できる内容のもの

ではない。

 このように見てみると、修身の徳目の中で岸辺が扱わなかったものは遊戯という 限られた場の中では酒養が困難と思われるものばかりである。言い換えると、岸辺 は遊戯の中で酒養できる道徳的事項を精選し、網羅して配列したのである。

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