― 伊勢市の子育て支援の取り組みを中心に ―
大 西 悠 子
は じ め に
今日、核家族化や少子化、都市化等によって地域社会と子育てを取り巻く 環境が変容し、子育て家庭の意識には孤立感や不安感、地域の人の助けを求 めにくく心身に十分なゆとりを持てない状況がある。この状況は子どもや子 育てに関わる人・場においても認識され、行政や地域、家庭が連携した子育 て支援の取り組みが求められている。しかし、子育てに前向きな意識を持つ ことを困難にする背景があるため支援を行動に移すことは容易ではない。例 えば、子育てを取り巻く環境が後退することによって親自身が生き方へ疑問 を抱き自己を見失いそうになる苦悩が募ることや、不安定な雇用環境がある ことによって生活や将来に不安を抱くこともある。
子育て家庭には親として、人間として前向きになりたいと願う気持ちや子 どもに自信を持って未来を切り開いてほしいという思いがある。その思いを 踏まえ、子どもが育つ時期に家族以外の他者が親子をそっと見守り時には助 けようとする関係があり、親の心身の安定も保障されることは大切な視点で ある。また、子育てにおいて当事者だけでなく幅広い世代からの支えがある ことは子どもが伸び伸びと育っていく環境にもなる。そして子どもや子育て 支援に携わる人をはじめ、地域社会全体にこの視点や環境が広がっていくこ とが重要と考える。
本研究は子育て支援の取り組みを行っている支援者の視点と関わりの姿が 親の子育ての不安・負担の軽減や子育てに前向きな意識・姿勢を取り戻す きっかけになることに着目する。加えて現在の地域社会と子育て家庭の変容 と子育てに対する意識にも着目する。そして、これらから親が子育てに前向 きな意識を持つことができる支援の在り方について論じる。
第一章 地域社会の変容と子育て家庭
地域の変容とともに子育てを支える絆が得られにくい今日、親の子どもを 育てることへの不安や負担が非常に大きくなっていると言われている。その 不安や負担の背景として以下のことが考えられる。まず、膨大な量の育児情 報が受け手に提供される状況と子育て・母子関係との関連である。厚生労働 省が公表した「平成24年国民生活基礎調査の概況」によると、核家族世帯が 全世帯の構成割合の半数以上を占め三世代世帯が減少していることが明らか
になっており、このことから祖父母世代や親世代、子ども世代へと世代を超 えた結びつきを得ることが難しくなっていることを窺うことができる。世代 を超えた結びつきの弱まりは身近に相談できる相手を欠き、子育ての知識や 経験を次世代へ継承する機会を失わせる。その結果、子育ての不安解消の手 掛かりを人との関わりではなく情報に求めようとすることによって膨大な量 の育児情報に翻弄されて不安に陥ってしまう。また、子育てが地域ぐるみで はなく一家庭の中のみで担う孤立した環境にあることによって手間暇をかけ て子どもを大切に育てていくことができる一方で、親が気分の切り替え・心 が落ち着くゆとりの時間を持つことや子どもとの適度なかかわりの距離を取 ること、人と子育ての悩みを打ち明け共感し合えることを難しくさせる。
親を始め他者も子どもの育ちに関わり、親子と地域の方が出会う場面や誰 かに支えられたら次に自分が支える側にまわるという支え合いの場が子育て にあれば、心にゆとりを持つことができ子育てを通して辛いことばかりでは なく子どもがいて良かったと思う瞬間に出会い、安心して子育てができる親 の自信になる。また、子どもの気持ちが大切に扱われ親子がともに周囲から 温かなまなざしを向けられる環境で、親の養育を代替することでなく親が子 育てを遂行できる支えとなる。
第二章 子育てに対する意識
ベネッセ教育総合研究所が平成22年に調査を行った「第 4 回幼児の生活ア ンケート・国内調査報告書」から親にとっての子どもの存在と親が抱く子育 て意識を取り上げると、子どもは生活や人生を豊かにしてくれ夫婦関係を繋 いでくれる存在であり、子どもを育てるのは楽しくて幸せなことで子育てに よって自分も成長していると感じる肯定的な意識があることが分かる。一方 で、子どもの将来の育ちに対する心配や経済的理由、年齢・身体的理由、育 児の煩わしさ・負担が肯定的な意識を妨げる壁であることが考えられる。
次に、内閣府政府統括官(共生社会政策担当)が平成26年 3 月に報告した
「家族と地域における子育てに関する意識調査報告書」を参考に、地域の子 育て支援環境づくりについての意識を明らかにした。すると、地域に子育て をする親の心の拠り所となる場所や子どもが過ごせる場所があり、必要な情 報や子育てをする仲間との繋がりを提供してくれる支援者がいることを重要 と考える意見は多いが、そこに参加しようとする意欲は低いと読み取れた。
これを踏まえ子育てを取り巻く環境の後退、不安定な雇用環境、子育て世 帯の働き方の現状の視点で子育てに前向きな意識を持つことを困難にする背 景を考えた場合、将来に抱く理想と現実に差が生じて生活の悩み・負担に思 うことが解消されず、心身の疲労からも子どものいる生活に十分なゆとりを 持つことの難しさが浮き彫りになる。
第三章 前向きな意識で子育てができる支援
伊勢市の子育て支援の取り組みを明らかにするため、「伊勢市次世代育成 支援行動計画〈後期〉」に着目した。後期行動計画の策定にあたっての課題 は次の二つであった。一つは、保護者にある子育てに関する不安や負担感を 軽減し、子育ての疲れを解消し、前向きな生活を取り戻せるように子育てを 支援する場や身近に相談できる地域体制を強化することであった。もう一つ は希望した保育サービスを出来る限り希望に沿って安心して利用してもらえ るように改善することであった。これらの課題を踏まえて「家庭と地域と社 会が手をつないで子どもを育むまちづくり」を基本理念とし、取り組み方針 として「家庭が取り組むこと」(主体性や個性を尊重したその人らしい子育 てができ、子どもにとって幸せな育成環境を目指す)、「地域が取り組むこと」
(家庭の子育てを支え見守り、子どもが安心して活動できる環境を目指す)、
「公共(市)が取り組むこと」(ニーズにきめ細かく対応し、子どもを持つ親 が情報交換できる場づくりを進める)の三つが挙げられた。加えて、親の就 労の有無に関わらずすべての子育て家庭を支援する観点を持つことも重点と された。
次に、子育て支援の取り組みを行う支援者としてファミリー・サポート・
センターのアドバイザーと、子育て支援センターの保育者を訪問し話を聞い た。その結果、助け合い(子育てを助けてほしい人が頼ることができ、子育 てに一段落した人が子育て中の人を支える)、学び合い、親と子の気持ちに 耳を傾け共感する(援助を行う側の人が持つ価値観を親と子に押し付けるの ではなく、親と子の気持ちに目を向ける)、見守る姿勢と人と人を繋ぐ(会 話や子ども達の遊びに加わる関わりを通して親と子が共に健康で活き活きと 元気な生活を送ることができるようそっと手助けをする)、子育てに関する 情報を工夫して伝える(地域の人間関係の希薄化や少子化によって親となっ て初めて幼い子どもに触れて育てる状況があることを踏まえて、通信の発行 や本の貸し出し等を行って親が子どものためにできることを知るきっかけを 作る)、そして、話し相手になる関係を大切にして親の前向きな姿を尊重す る等の支援の視点があることが分かった。支援者は子育てをする家庭に歩み 寄る視点・親と子が主体となって生活する姿を第一に考える視点を持って子 育てをする親を支えていると考えられる。
お わ り に
本研究は子育てに前向きな意識を持つことができる支援の在り方をテーマ に、現代の地域社会と子育て家庭の変容や子育てに対する意識、子育て支援 の取り組みを行っている支援者の視点・関わりの姿が、親の子育ての不安・