第1章 『五護陀羅尼』経典の成立と特色
4. 考察
4.3 五護陀羅尼各明妃の図像的特徴
1.2.1 ŚV-B 本和訳
[0] 帰依文と陀羅尼の機能 [0.1] 帰依文
[0.1.1] 過去、未来、現在の仏
[0.1.2]仏弟子 [0.1.3]四天王など
[0.2] 『大寒林陀羅尼』の功徳と陀羅尼呪
[1] 世尊と四天王の対話
[1.1] 四天王の謁見
[1.2] 四天王と世尊の問答
[1.3] 四天王と世尊の第2の問答
[1.4] 『大寒林陀羅尼』の功徳
[1.5] ヤクシャ、羅刹女たちの様相
[1.5.1] 多くのヤクシャ
[1.5.2] 頭が切断されたヤクシャ
[1.5.3] 馬車と呼ばれる羅刹女
[1.5.4] 長首と呼ばれる羅刹女
[1.5.5] 餓鬼、ヤクシャ、羅刹
[1.5.6] 様々な神々やガルダたち
[1.5.7] 鬼子母神と呼ばれるヤクシャ女
[1.5.8] 8尊の母神
[2] 四天王の『大寒林陀羅尼』
[2.1] 毘沙門天の陀羅尼呪
[2.2] 持国天の陀羅尼呪
[2.3] 増長天の陀羅尼呪
[2.4] 広目天の陀羅尼呪
[2.5] 四天王の誓願
[3] 世尊の『大寒林陀羅尼』
[3.1] ブータと羅刹を苦しめる陀羅尼呪
[3.2] 障りをなす者が十方に去る陀羅尼呪
[3.3] 世尊に陀羅尼呪を乞う四天王
[3.4] 一切のブータを防ぐ陀羅尼呪
[3.5] 陀羅尼による地や空の変化
[3.6] 毘沙門天が唱えるべき陀羅尼呪
[4] 貴い『大寒林陀羅尼』の保持、読誦
[4.1] 傷つける者からの防護
[4.2] ヤクシャの優婆塞の歓喜
[5] 行者の心構え
[6] 世尊の言葉を信じない者 [7] 四天王の帰還
[8] これまでの概要説明と四衆の歓喜 [9] 儀軌
[10] 奥付
『大寒林陀羅尼』(ŚV-B本)内容構成
[0] 帰依文と陀羅尼の機能 [0.1] 帰依文
[0.1.1] 過去、未来、現在の仏
インド語で、Mahāshātavanīsūtra、チベット語でbsil ba'i tshal chen po'i mdo。 三宝に敬礼する。
世間の優れた賢者である仏、その者によってはじめに諸々のマントラが、ジャーンブ 州で説かれた。そのところの吉祥な仏に敬礼する。
現在と過去と、未来の仏たちにわかれた。そのすべての仏たちに、また、何時でも敬 礼する。
彼ら一切(の仏)という庇護に赴く。
輪を回す無上の者、ディーパンカラに敬礼する。
輝く法の王、一切を押さえつける者に敬礼する。
有名である一切智者である、蓮華上仏に敬礼する。
眼を持ち守護を為す者、非常に粉々に壊す者に敬礼する。
無上の首長である徳上名称仏に敬礼する。
太陽と月のような光を放つ、その安楽に敬礼する。
法の鏡を示し、意味を教える者(アルタダルシン仏)にもまた敬礼する。
弟子の戒律に恐れがないというものに敬礼する。
最高の三十二相を持つ者、提舎仏puṣyaにもまた敬礼する。
輝かしい悟りを完成したものに対して、毘婆尸仏vipaśyinに敬礼する。
光り輝く尸棄仏śikhinに敬礼する。
崇拝され、有名な毘舎浮仏viśvabhūに敬礼する。
拘留孫仏(カクサンダ)に敬礼する。
吉祥なバラモンである拘那含牟尼仏kanakamuniに敬礼する。
一切衆生に対して愛する心を持つ、彼の迦葉仏kāśyapaに敬礼する。
金色をした輝く釈迦獅子42に敬礼する。
寛大で慈しみの心をもつ、弥勒仏にも敬礼する。
一切の仏にも敬礼して、彼らという庇護所に赴こう。
法を説く者、その全ての仏に敬礼する。
仏陀が敬う、その法に対して私は敬礼する。
[0.1.2]仏弟子
重要で高い意義を持つ、僧にもまた敬礼する。
最高の知恵を持つ声聞である、シャーリプトラに敬礼する。
42 (片山2005: 481)
最高の神通力を持つ、モッガラーナに敬礼する。
説法に対して勇気を持つ、カーティヤーヤナkātyāyanaに敬礼する。
声聞の実践にたけている、カーシャパに敬礼する。
守護する力を持つ者である、カウンディニヤ43に敬礼する。
よく学んでマントラを得た者である、アーナンダに敬礼する。
[0.1.3]四天王など
毘沙門天と、持国天、広目天と増長天、四方を取り囲んでいるところの、一切の偉大 な王に敬礼する。
28の優れたヤクシャの首長に、敬礼する。
師の中の長である父母仏と、神々にもまた敬礼する。
[0.2] 『大寒林陀羅尼』の功徳と陀羅尼呪
彼らにまさに敬礼して、この明呪がまさに完成せよ。利益のために行う、その目的は 私のために成就せよ。
憎む心で傷つける、人ではない者たちが今、中央にいる。傷つけることを望み、危害 を与えることを探す者たちは、仏陀の教えを聞く事によって、慈悲心で利益を望む。人 ではない者たちはあつまって賛同する44。ローカパーラ(護世神)たちの言葉[と]教え に歓喜した。喜びの心によって、私[の言うこと]を聞け。この『大寒林陀羅尼』は四天 王による偉大な守護である。四衆たちにとって、すべて完全なものである。
ヤクシャ、羅刹、ガンダルヴァ、ナーガ、ガルダ、グフヤカ45、ブータ、クンバーン ダ、餓鬼、プータナ46、ピシャーチャ、アスラ、風神、スカンダ、災難の原因、ウンマ ーダ47、キンナラ、巡り、歩き回る者、快楽に忠実なもの、黒魔術、輝きを奪うもの、
アパスマーラ、悪性伝染病、一日[間]の伝染病48、二日[間]の伝染病、三日[間の伝染病]、
43 kauṇḍinya
44 TD mthun(賛同する); TP 'thun(集まる)
45 TD gsang ba pa(guhyakaヒマラヤにいるヤクシャの一種), TP gsad ba po(死)ここでは前後 に悪鬼の類が述べられているため、TDを採用した。以下同。
46 TD srul po(プータナ); TP bsrul po(腐敗)
47 smyo byed(unmāda狂気)
48 TP rim(段階)とあるが、ここでは伝染性の病気と日数が説かれていると推察されるため、
TD rims(伝染病)を採用した。具体的な症状についての記述はない。後に「三日」「四日」と
続くが、前の文と同様に罹病期間と解釈した(以下同)。 また、同様の表現として以下のよ うなものが見られる。
「若熱病。若一日若二日若三日若四日乃至七日。若常熱病。」(『法華経』「陀羅尼品第二十六」大 正9, No. 262, p.59中)
「若患瘧病。若一日一發。若二日一發。若三日一發。若四日一發。」(『陀羅尼集經』「觀世音檀陀 印呪第九」大正18, No. 901, p.818中)
「又復瘧病一日二日三日四日。乃至七日半月一月。」(『佛母大孔雀明王經』大正19, No. 982, p.416
四日[間の伝染病]、人や人ではない敵意の心を持つ者、欠点を探す者、利益を望まない 者、危害をなす者、尊い世尊の教えを喜ばない者、危害を望む者、不利益を望む者、安 楽49を望まない者、成就者、安楽を望まない者、四衆の者たちのとって喜ばしくない者、
危害を望む者、利益を望まない者、安楽を望まない者、成就者、安楽を望まない者、こ の名を言うことを喜ばない者、危害のために望む者、利益を望まない者、安楽を望まな い者、成就者、安楽を望まない者たちがいて、彼らは『大寒林陀羅尼』を聞いて去り、
滅せよ。恐れろ。いつも恐れるようになれ。その時、とある表面は、邪悪な心と傷つけ る心の50頭はまさに7片に裂ける51。
ヤクシャ、羅刹、ガンダルヴァ、ナーガ、ガルダ、グフヤカ、ブータ、クンバーンダ、
餓鬼、プータナ52、ピシャーチャ、アスラ、風神、スカンダ、災難の原因、ウンマーダ、
キンナラ、巡り、歩き回る者、快楽に忠実なもの、黒魔術、輝きを奪う者、アパスマー ラ、悪性伝染病、一日[間]の伝染病、二日[間]の伝染病、三日[間の伝染病]、四日[間の 伝染病]、人や人ではない敵意の心を持つ者、欠点を探さないもの、利益を望む者、危 害を為さないと望む者、尊い世尊の話に喜ぶ者、繁栄になることを望む者、利益を望む 者、安楽を望む者、成就者や安楽を望む者、この名を言うことを喜ぶ者、利益になるた めに望む者、利益のために望む者、安楽のために望む者、成就者や安楽を望む者は、『大 寒林陀羅尼』を聞いて、ここに集まれ。恐れるな。恐れることがなくなれ。常に恐れな いようになれ。恐れず妨げるようになれ。このような名を言うことの恩恵53や、利益54や、
安楽55や、安楽に住するために、これらの『大寒林陀羅尼』によって教えられて、言わ れるべきである。それから『大寒林陀羅尼』は私を正に守護して。それは次のようであ る56。
そ[の陀羅尼]は以下のとおりである。一撃よ、一撃よ、カドゥヤシ、樹の先端よ、
ローガバドラ57の群れよ、ヒリヒリ、ドゥマティー河よ、ギリッタティ、アジャテ ィ、カタリ、大劫よ、一切による四方100ヨージャナの自身を守護せよ、法を犯さ ない、一切の傷つける者たちに、聖者に帰依します、仏陀のマントラの偈が成就せ よ、真言を保持せよ、ブラフマナは、マナドゥ、スヴァーハー。58
中)
49 sukha
50 TDのみ
51 TD mgo po che lab bdun du 'gas ta re
TPではsing(不明)とあるが、TDではta re(正に)とあり、後者を採用した。
52 TP bsrul po(腐敗)とあるが、ここではTD srul poプータナを採用した。
53 don
54 phan
55 bde ba
56 syād yathedam
57 ヤクシャの一種
58 syād ya the dan/ kha ṭe kha ṭe/ kha dhya si/ pa la ka ba ṭe / ro ga bha dri ga ṇe/ hi li hi li/ du ma te/ gri tta ti/ a dza ṭi/ ka tha ri/ ma hā ka lpe/ sa ma nte na/ tsa tu rdi shi/ yo dza na sha ta/ ā tma ra ra kṣa/ a na
[1] 世尊と四天王の対話 [1.1] 四天王の謁見
このように私は聞いた。世尊がラージャグリハに、非常に恐ろしいという寒林の大屍 林に、比丘衆250人の大サンガの集団と共に住しておられた。それから、聖なる四天王 である、多聞天59、持国天60、広目天61、増長天62と共に、大臣と共に、従者と共に、召 使いと共に、使者と共に、随行者と従者と共に、唱えながら聖者たち(四天王)が夜中 に訪れ、全員で63、大屍林である寒林にやってきた。自身の64色と大いなる光によって 顕現してから、世尊の前に進み出た後、世尊の二足において頭を[つけて]礼拝してから、
3回右繞し、合掌し、まさに世尊に敬礼して、一方に立ったのである。一方に立ってか ら、四天王は世尊に偈で礼賛した。
「世間の賢者で完全な仏陀よ、勇敢なあなたに敬礼します。ゴータマよ、あなたが知 っていることは、神々は知らないのです」
それから、二度も三度も、四天王は世尊に偈で礼賛した。
「世間の賢者で完全な仏陀よ、勇敢なあなたに敬礼します。ゴータマよ、あなたが知 っていることは、神々は知らないのです」
[1.2] 四天王と世尊の問答
それから世尊は、四天王はこう聞いた。
「世尊は対象と認識主体があるのでしょうか。守護をお持ちなのでしょうか。世尊の 身体は安楽なのでしょうか。御病気をお持ちではないのでしょうか。不安はあるの でしょうか。世尊の身体を傷つける者はいないのでしょうか。
世尊に、ヤクシャ、羅刹、ガンダルヴァ、ナーガ、ガルダ、グフヤカ、ブータ、ク ンバーンダ、餓鬼、プータナ65、ピシャーチャ、アスラ、風神、スカンダ、災難の 原因、ウンマダ、キンナラ、巡り、歩き回る者、快楽に忠実なもの、悪睡眠66、輝 きを奪う者、アパスマーラ、悪性伝染病、一日[間]の伝染病、二日[間]の伝染病、
三日[間の伝染病]、四日[間の伝染病]、人や人ではない67者に、憎む心を持つ者と、
ti kra ma ṇi/ sa rba bi he ṭha ke bhya/ na mo bha ga ba te/ bud dha sya/ sid dhya ntu ma ntrapa dā/ da ra du bi dyā/ bra hma ṇo/ ma na du swā hā/
59 vaiśravaṇa毘沙門天(北)(‘'phags skyes po’‘lus dan’‘lcang lo can’ここではいずれも毘沙門天 を指す)
60 dhṛtarāṣṭra持国天(東)
61 virūpākṣa広目天(西)
62 virūdhaka増長天(南)
63 TD mthun, TP 'thun
64 TD kyi, TP kyis
65 TD srul po(プータナ), TP bsrul po(腐敗)。ここではTDを採用する。以下同。
66 TP ngan pa gyid
67 TD mi ma yin, TPにはma yinを欠いている。