FURE 研究報告
FURE研究報告(2019)福島大学うつくしまふくしま未来支援センター
原発災害復興と地域経済循環
─福島県民経済計算「統合勘定」からみる─
山川 充夫*
Nuclear Sevier Accident Recovery Process and Fukushima Prefectural Economic Integration Account
Mitsuo Yamakawa+要旨 本稿では東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が福島県経済にいかに大きな影響を与えたのか,ま た震災後の復旧・復興でのどのように変化してきているのか,それらが地域経済をマクロ的に把握することのできる
「福島県民経済計算」にどのように現れているのかを探った.その結果,総生産においては自営業者や企業経営者によ り強いしわ寄せがあったこと,復旧・復興にあたっては義捐金・損害保険金・原発賠償金・国庫支出補助金などが県外 からの経常移転の大きさとして,また国家財政出動が政府最終消費支出の伸びとして確認でき,これが福島県内での資 金を潤沢にし,旺盛な固定資本形成の増加と県民可処分所得の増加をもたらし,可処分所得の増加が家計現実最終消費 の増加を底支えし,県民貯蓄を維持してきたこと,しかし民間最終消費支出の回復への足取りは弱く,財貨・サービス や雇用については県外への依存が高まったことを確認することができた.
キーワード 東日本大震災 原子力発電所事故 県内総生産 県民可処分所得 県外への所得移転
1
.はじめに東 日 本 大 震 災 を 契 機 と す る 東 京 電 力 福 島第 一 原 子 力 発 電 所 の メ ル ト ダ ウ ン と 水 素 爆 発 は , 原 発 立 地 周 辺 の 福 島 県 相 双 地 域 を は じ め 広 域的 に 放 射 能 汚 染 を も た ら し , 警 戒 区 域 や 避 難 指示 区 域 の 設 定 に よ る 区 域 内 住 民 の み な ら ず 放 射線 被 ば く を 懸 念 す る 区 域 外 住 民 も な お 福 島 県 内外 で 累 積 的 被 害 を 伴 う 避 難 生 活 を 余 儀 な く さ れて い る [
1
][2
]. ま た 事故 を 起こ し た 原発 は 稼 働 停 止 の 状 況 に あ り , 避 難 指 示 に よ り 区 域 内 のす べ て の 産業 活 動 は 区 域 外 営 業 や休 廃 業 を 強 い ら れ , 原 子 力 営 業 損 害 賠 償 を 受 け て は い る も の の , 商 工 業 者 の 半 数 は 避 難 先 で あ っ て も 避 難 元 であ っ ても再開への目途が立っていない [3
][4
].原子力損害賠償請求に対して東京電力は
2019
年12
月20
日現在で約9
兆2475
億円を支払っ て い る[5
]. ま た 国は 東 日 本大 震 災 の 復 興 の ために
2011
年度から2018
年度までの8
年間に35
兆2536
億 円 の 予 算 を 組 ん だ [6
]. そ の 内 訳 で 最 も 多 い の は 住 宅 再 建 ・ 復 興 ま ち づ く り12
兆1306
億 円 で あ り , 以 下 , 原 子 力 災 害 か ら の 復 興・再生6
兆0550
億円,震災復興特別交付税5
兆1642
億円,産業・生業(なりわい)の再生4
兆3130
億円,復興債償還費等5
兆4236
億円,被災者支援
2
兆1669
億円と続いている.こ う し た 被 害 に 対 す る 損 害 賠 償 や 国 に よ る 復 興 予 算 措 置 が 被 災 者 の 生 活 再 建 や 生 業 再 開, 被 災 地 の 復 旧 ・ 復 興 に ど の よ う に 貢 献 し て いる の か に つい て は , 復 興 庁 は 次 のよ う に 述 べ て い る . 東 日 本 全 体 で は , 被 災 者 支 援 は 復 興 の 進 展に 応 じ て 生じ る 課 題 に き め 細 か く対 応 し て い る こ と , 住 ま い と ま ち の 復 興 は 住 宅 再 建 が 着 実 に 進捗 し
2018
年度までに概ね完了していること,産業・生 業 の 再 生 は 生 産 設 備 が ほ ぼ 復 旧 し つ つ 観光 振 興 や 風 評 の 払 拭 等 を 支 援 し て い る . そ し て福 島 の 復 興 ・ 再 生 は 帰 還 困 難 区 域 を 除 く ほ と んど の 地 域 で 避 難 指 示 解 除 , 復 興 ・ 再 生 に 向 け た動 き が 本 格 化 し て い る , な ど と 自 己 評 価 し て い る .
*福 島 大 学 名 誉 / 客 員 教 授 (Professor Emeritus / Visiting Professor, Fukushima University)
東京 都世 田谷 区南 烏 山
( Minami-karasuyama, Setagaya, Tokyo) 157-0062 Japan
E-mail:[email protected]
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[
7
]東 北 経 済 産 業 局 は 東 日 本 大 震 災 後 の 東 北 経 済 に つ い て 以 下 の よ う に 指 摘 し て い る . 東 北経 済 は 大 打 撃 を 受 け な が ら も 回 復 基 調 に あ り ,製 造 業 は 震 災 後 に は 緩 や か な 持 ち 直 し , 個 人 消費 は ほ ぼ 横 ば い で 推 移 し て い る . し か し 住 宅 投資 は 高 水 準 を 維 持 し て い る も の の , ま た 公 共 投資 も
2014
年 を ピ ー ク に し て そ れ ぞ れ 減 少 傾 向 に 入 っ て い る . 事 業 所 数 と 従 業 者 数 は 共 に 減少 傾 向 に あ り , 人 口 は 全 国 に 先 駆 け て 減 少 し てい る と[8
].福島県
GDP
の震災前後の変化は「2007
年に8
兆1
千億円を超えてピークに達し,その後低下 し,2011
年度に7
兆円を割り込むが,2014
年 度には再び8
兆円を回復する.福島県経済は震 災 か らの 復 興 に 向 け て 拡 大 を続 け て い る」.「 産 業構造の変化は… 2000
年代に入ると製造業の比 率 は 増 加 す る 一 方 , 建 設 業 は2007
年 度 に い っ た ん 縮 小 し た 後 に 再 び 拡 大 , 電 気 ・ ガ ス ・水 道 業 と 卸 売 ・ 小 売 業 , 金 融 ・ 保 険 業 は 縮 小 傾向 に ある」[9
](p.169
) .ま た 藤 本 は 銀 行 券 受 払 の 状 況 か ら 「 復 興 バ ブ ル と 言 わ れ る よ う に , 除 染 を 始 め と し た ,か つ て な い 規 模 の 復 興 予 算 が , 被 災 地 に 投 入 され , 建 設 業 を 始 め , 一 部 の 業 種 に お い て は , 震災 以 前 の 生 産 高 を 記 録 し て い る 産 業 も あ る . 賠償 や 地 震 保険 な ど の 被 災 者 へ の 支払 い に よ り , 宮 城 , 岩 手 県を 含 め , 被 災 県 の 地 方銀 行 の 預 金 残 高 は , 過 去 最 高 を 記 録 し て い る . こ の よ う な プ ラス と 考 え ら れ る 側 面 の み な ら ず , 日 銀 券 受 払 の数 値 の よ う に , 福 島 県 か ら , 県 外 に 相 当 量 の 現金 が 流出しているのも事実である」[
10
](p.240
)と マイナス面も指摘している.本 稿 の 目 的 は , 上 記 の 議 論 を 受 け つ つ , 東 日 本 大 震 災 後 の 「 集 中 復 興 期 間 」(
2011
~2015
年 度 ) か ら 「 復 興 創 生 期 間 」(2016
~2020
年 度 ) へ と 移 行 す る 過 程 に お い て , 福 島 県 の 地 域経 済 循 環 が ど の よ う に 変 化 し て き て い る の か につ い て,『 福 島 県 民経 済 計 算 』 を 素 材 と して 考 察 す る こ と に あ る . な お 県 民 経 済 計 算 は 国 民 経済 計 算 に 準 拠 し て い る が , 金 融 資 本 を 除 く フ ロ ー の勘定表のみを作成している.県 民 経 済 計 算 の 基 本 勘 定 は ,「 統 合 勘 定 」,
「 制 度 部 門 別 所 得 支 出 勘 定 」 及 び 「 制 度 部門 別
資 本 勘 定 」 の 3 つ か ら 構 成 さ れ る が , 本 稿に お い て は 「 統 合 勘 定 」 に 焦 点 を 当 て た い . 以下 に お い ては , 2 . 生 産 側 と 支 出側 の 県 内 総 生 産 を , 3 . にお い て 県 民 可 処 分 所 得 と 消 費 ・ 貯 蓄 を , 4 . に お い て 資 本 の 蓄 積 と 調 達 を , 5 . にお い て県外取引の受取と支払を考察する .
2.県内総生産勘定バランス
2.1
生産側(源泉)からみた県内総生産勘定 福島県内総生産は,2006
年度では8
兆2898
億円であり,その後減少して,震災直後の2011
年度には6
兆5840
億円に落ちた.震災前から 県 内 総 生 産 は 減 少 傾 向 に あ っ た が , 震 災 がそ の 減少に追い打ちをかけた.震災後,2012
年度か ら回復傾向を示し,2016
年度には7
兆9179
億 円 と な り , 震 災 前 の2008
年 度 の 県 内 総 生 産 を 上回った(
表1)
.県 内 総 生 産 勘 定 の 生 産 者 側 要 素 の 構 成 を み る と,
2006
年度から2011
年度にかけては,補助 金(
控 除)
を 除 い て , い ず れ も 減 少 傾 向 に あ っ た . 減 少 率 は 営 業 余 剰 ・ 混 合 所 得 , 生 産 ・ 輸 入品 に 課 さ れ る 税 , 県 内 雇 用 者 報 酬 , 固 定 資 本 減耗 の 順 に 大 き か っ た . た だ し 補 助 金(
控 除)
は 増 加 傾 向であった.こ れ に 対 し て , 震 災 後 は 逆 の 動 き を 示 し , 減 少 傾 向 を 示 し た 補 助 金
(
控 除)
を 除 い て , い ず れ も 増 加 傾 向 で あ っ た . そ の な か で 営 業 余 剰・ 混 合 所 得 は2013
年 度 で ピ ー ク と な り , そ の 後 減 少したが,2011
年度対比では増加となった.ま た2006
年度対比で2016
年度の方が高い金額と な っ た 生 産 勘 定(
生 産 側)
は 固 定 資 本 減 耗 と 生 産 ・ 輸 入 品 に 課 さ れ る 税 と で あ り , 県 内 雇用 者 報 酬 と 営 業 余 剰 ・ 混 合 所 得 は2016
年 度 の 方 が 低い金額であった.つ ま り 福 島 県 内 総 生 産 の 源 泉
(
生 産 側)
は , 震 災(2011
年 度)
ま で は , 営 業 余 剰 ・ 混 合 所 得(30.3%
→24.3%)
への依存度が低下し ,県内雇用 者 報 酬(43.3%
→49.1%)
へ の 依 存 割 合 を 高 め た . 固 定 資 本 減 耗(19.6%
→20.7%)
や 生 産 ・ 輸 入 品 に 課される税(7.4%
→6.8%)
などはあまり変わらな かった.震災後(2011
年度→2016
年度)
は固定資 本減耗(20.7%
→22.0%)
と生産・輸入品に課され る税(6.8%
→8.1%)
が比率を伸ばしたが,営業余72 73
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表 福島県内総生産勘定(生産側,億円)
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 1.1 県内雇用者報酬(2.4) 1.2 営業余剰・混合所得(2.6) 1.3 固定資本減耗(3.2) 1.4 生産・輸入品に課される税(2.8) 1.5 (控除)補助金(2.9)
県内総生産(生産側)
注:( )内 番号は 対応 す る他の 表にお ける 項目番 号 である .
出 所 :福 島 県 統 計 課 『 平 成 年 度 福島 県 県 民 経済 計 算 ( 確 報 ) /統 計 表 のオ ー プ ン デ ー タ ( ※ 改 定 後)』
年 月 日,KWWSVZZZSUHIIXNXVKLPDOJMSVHFEKWPO
表 福島県内総生産勘定(生産側,億円)
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 1.6 民間最終消費支出(2.1) 1.7 政府最終消費支出(2.2)
(再掲)家計現実最終消費
(再掲)政府現実最終消費
1.8 県内総固定資本形成(3.1) 1.9 在庫変動(3.3) 1.10 財貨・サービスの移出入(純)(5.1) 1.11 統計上の不突合(3.7)
県内総生産(支出側)
注及び 出所は表 と同じ .
剰・混合所得
(24.3%
→25.5%)
も若干回復した.最 も 大 き な 源 泉 で あ る 県 内 雇 用 者 報 酬 は ,
49.1%
か ら45.0%
(2013
年 度 )に 低 下し た も の の,その後は45%
台を維持したのである.2.2
生産側(源泉)からみた県内総生産勘定 福島県内総生産勘定を支出側(使途)の構成 でみると,「統計上の不突合」と「在庫変動」を除くと,震災前
2006
年度では民間最終消費 支出4
兆0564
億円が最も多く,これに県内総 固定資本形成1
兆9435
億円,政府最終消費支 出1
兆4305
億円,財貨・サービスの移出入(
純)7002
億円などが続いた.ここでの注目点は財貨・サービスの移出入
(
純)
が正の数値となっ ていることである.その後,2011
年度にかけて,民間最終消費支出や県内総固定資本形成,財 貨 ・ サ ー ビ ス の 移 出 入
(
純)
は 傾 向 と し て 減 少 し , 政府最終消費支出は1
兆4000
億円台を推移し た(表2
)震 災 直 後 の
2011
年 度 に 支 出 側 構 成 は 大 き く 変化した.第1
は民間最終消費支出が大きく落 ち込み(2010
年度対比で1.8%
減)
,政府最終消費 支 出 が 大 き く 増 加 し(
同 ,11.4%
増)
, さ ら に 財貨 ・ サ ー ビ ス の 移 出 入
(
純)
が 正(
移 出 超)
か ら 負(
移 入 超)
に 転 換 し た こ と で あ る . ま た 県 内 総 固 定資本形成が2010
年度を底値とし,2011
年度 以降,増加基調に転じたことも特徴的である.な お 政 府 最 終 消 費 支 出 に は 震 災 復 旧 復 興 支 援 や 除 染 作 業 が 算 入 さ れ , 義 捐 金 , 損 害 保 険金 , 原 発 事 故 損 害 賠 償 な ど は 財 貨 ・ サ ー ビ ス の移 出 入
(
純)
に 算 入 さ れ て お り , こ う し た 金 額 の 多 く が 県 外 か ら 県 内 に 入 っ て き た の で あ る . また 民 間 最 終 消 費 支 出 の 落 ち 込 み に は , 避 難 生 活に よ る 消 費 の 落 ち 込 み や 避 難 者 の 県 外 流 出 な どが 影 響している.震災後の動きは,第
1
に政府最終消費支出や 県 内 総 固 定 資 本 形 成 が 一 貫 し て 増 加 し て いる こ と で あ り , 特 に 政 府 現 実 最 終 消 費(
再 掲)
が 急 激 に増加していることである.第2
に民間最終消 費 支 出 が 弱 含 み な が ら も 回 復 傾 向 に あ る が, な お2006
年 度 実 績 を 超 え る に は 至 っ て い な こ と である.第3
に原発事故災害が総生産にもたら し た 象 徴 的 な 出 来 事 と し て , 財 貨 ・ サ ー ビス の 移 出 入(
純)
の 負 の 傾 向 に 拍 車 が か か っ て い る こ と で あ る . こ う し た こ と の 結 果(2011
年 度 →2016
年 度)
, 福 島 県 内 総 生 産 勘 定 の 支 出 側 で は ,FURE研究報告(2019)福島大学うつくしまふくしま未来支援センター
民間最終消費支出への 依存度
(58.0%
→50.6%)
が 大 き く 下 が り , 逆 に 政 府 最 終 消 費 支 出(20.2%
→31.8%)
や 財 貨 ・ サ ー ビ ス の 移 出 入(
純)(4.9%
→▲
15.1%)
への依存度が大きく高まったのである.3.資産としての資本勘定
3.1
資産の変動資 本 勘 定
(
実 物 取 引)
と し て の 資 産 の 変 動 は , 県内総固 定資本 形成 - 固定資本 減耗+
在庫変 動+
純 貸 出 - 純 借 入 と し て 計 算 さ れ る . 県 内 総固 定 資 本 形 成 は , す で に 述 べ た よ う に , 減 少 傾向 で震災直前
(2010
年度)
に底値となり,震災直後 から 復 旧 ・ 復 興 に よ り 増 加 傾 向 に 転 じ て 最 高値 の
2016
年度を迎えた.控除すべき固定資本減耗は 県 内 総 固 定 資 本 形 成 を 常 に 下 回 っ て い る が , そ の差は2006
年度には3215
億円あったものが震 災 直 前 の2010
年 度 に は414
億 円 ま で 低 下 し た.震 災 後 は 復 旧 ・ 復 興 で 総 固 定 資 本 形 成 が 進 み,
2016
年度には7202
億円に上昇した.県内 資 金 需 給 状 況 を 示 す 「 純 貸 出 」 と 「 純 借 入」 の 差は,震災前では1
兆1000
億円~1
兆4000
億 円であったのが,震災直後は2
兆8608
億円と2
倍 を 上 回 る 額 に な り , そ の 後 経 年 的 に は 減少 傾 向にあるものの,なお2016
年度で2
兆2654
億 円 と な っ て い た . 震 災 後 は こ う し た 旺 盛 な固 定 資本形成と潤沢な資金(
純貸出が大きい,内容は 後に分析)
とによって,福島県内の資産の変動は 震 災 前 の2
倍 を 超 え る 水 準 で 推 移 し た ( 表3).
3.2
貯蓄,資本移転による正味資産の変動 正味 資 産は ,「 県 民貯 蓄+
県外 から の 資本 移 転(
純)
- 統 計 上 の 不 突 合 」 と し て 計 算 さ れ る . 正 味 資 産 は , 震 災 前 で は1
兆3000
億 円 ~1
兆7000
億円の間を推移したが,震災後には約2
倍 増の2
兆6000
億円~3
兆1000
億円となった.正 味 資 産 の 構 成 を み る と , 震 災 前 は 圧 倒 的に 県 民 貯 蓄 に よ っ て し め ら れ て い た が , 震 災 後 は
「 県 外 か ら の 資 本 移 転
(
純)
」 の 割 合 が 大 き く 増 え ,2011
年 度 以 降 は そ の 比 率 が 県 民 貯 蓄 を 上 回っている(
表4)
.4.県民可処分所得の使用勘定(支出)
県 民 経 済 計 算 に お い て は , 県 民 可 処 分 所 得 は 県 民 全 体 の 可 処 分 所 得 の こ と で あ り , 可 処分 所 得 と は 経 常 収 入 ( 県 民 雇 用 者 報 酬 , 営 業 余剰 ・ 混 合 所 得 と 財 産 所 得 等 の 経 常 移 転 の 受 取 )か ら 全 て の 経 常 移 転 の 支 払 を 控 除 し た も の で あり , 県 外 か ら の 移 転 分 を 加 え , 手 元 に 残 っ た 実際 に 処 分 可 能 な 所 得 を し め し て い る . こ の 「 県民 可 処 分 所 得 」 は ,「 民 間 最 終 消 費 支 出 」 と 「 政 府 最終消費支出」と「県民貯蓄」の
3
つから構成 されている.県民可処分所得は2006
年度の7
兆1121
億円から2008
年度の6
兆6643
億円に 減 少 し た が , 震 災 直 後 の2011
年 度 に は7
兆5598
億 円 ま で 増 加 し た .2012
年 度 に は 少 し 落 ち 込 ん だ も の の , そ の 後 は 増 加 傾 向 を も ち ,2016
年度には最高の8
兆1624
億円に達した.表 福島県内資産の変動(億円)
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 3.1 県内総固定資本形成(1.8)
3.2 (控除)固定資本減耗(1.3) 3.3 在庫変動(1.9)
3.4 純貸出(+)/純借入(-) 資産の変動
注及び 出所は表 と同じ .
表 福島県内貯蓄・資本移転による正味資産変動(億円)
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 3.5 県民貯蓄(2.3)
3.6 県外からの資本移転 (純) 3.7 (控除)統計上の不突合(1.11) 貯蓄・資本移転による正味資産の変動 注及び 出所は表 と同じ
74 75
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震 災 後 に は , す で に 述 べ た よ う に 政 府 最終 消 費 支 出 が 大 き く 伸 び , こ れ が 県 民 可 処 分 所得 の 増 加 に 貢 献 し た . 政 府 最 終 消 費 支 出 の 一 部は 家 計 に も 回 っ た こ と か ら , 家 計 現 実 最 終 消 費の 増 加を底支えした.
こ れ に 対 し て , 県 民 貯 蓄 は 変 動 が 大 き い . 震 災前では
2006
年度に1
兆6252
億円であったの が,2008
年~2010
年度には1
兆2
千億円から1
兆4
千億円台を推移した.震災直後の2011
年 度には1
兆9824
億円に跳ね上がった.しかし そ の 後 は 震 災 前 と あ ま り か わ ら な い 複 雑 な動 き を示した(
表5)
.5.県外からの所得移転
2006
年 度 で は 福 島 県 民 可 処 分 所 得 の7
兆1121
億円のうち県外からの移転所得は4443
億 円で あ り ,6.2%
を しめ てい た .そ の 後, 県 外 か ら の 移 転 所 得 は 増 加 し , 震 災 直 前 の2010
年 度 には9365
億円に達し,可処分所得全体の15.1%
を し め た . 県 外 か ら の 所 得 移 転 に お い て 最も 大 き な 割 合 を し め て い る の は , 県 外 か ら の 「そ の 他の経常移転
(
純)
」であり,2010
年度では8447
億 円と な り ,可 処 分 所 得 全体 の
12.7%
とな っ た(表
6
).震 災 前 で は , 県 外 か ら の 雇 用 者 報 酬
(
純)
は210
億 円 台 を 安 定 して 推 移 し た . こ れ に 対 し て , 県外からの財産所得(
純)
は,546
億円から1383
億円へと,5
年間で2.53
倍に伸びた.県外から のその他の経常移 転(
純)
は3686
億円から8447
億円へと,5
年間で2.29
倍に伸びた.震 災 直 後 の
2011
年 度 には , 県外 か ら の移 転(
純)
は ,2010
年 度 対 比 で2.22
倍 と な る2
兆2356
億円へと驚異的な伸びを示した .伸びた金 額 の す べ て は 県 外 か ら の そ の 他 の 経 常 移 転(
純)
で あ っ た . こ れ に 対 し て 県 外 か ら の 財 産 所 得(
純)
は16
億円減少し,また県外からの雇用者所 得(
純)
は2010
年度対比55.0%
の120
億円に減少 した.2015
年度までは減少し,県外からの移転(
純)
は1
兆4000
億円台を推移したが,2016
年 度には再び1
兆9884
億円となった.そのほと ん ど が 県 外 か ら の 財 産 所 得(
純)
で あ り ,1100
~1800
億円の間を推移したが,その金額は震災前 よ り も 高 い 水 準 に な っ た . こ の こ と は 県 外か ら のその他の経常移転(
純)
の動きがしめている.表 県民可処分所得の使用勘定(億円)
項 目 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2.1 民間最終消費支出(1.6)
2.2 政府最終消費支出(1.7)
(再掲)家計現実最終消費
(再掲)政府現実最終消費 2.3 県民貯蓄(3.5) 県民可処分所得の使用
注及び 出所は表 と同じ .
表 県民可処分所得と県外からの移転(億円)
注及び 出所は表 と同じ .
2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2.4 県内雇用者報酬(1.1)
2.5 県外からの雇用者報酬(純)(5.2-5.6) 2.6 営業余剰・混合所得(1.2)
2.7 県外からの財産所得(純)(5.3-5.7) 2.8 生産・輸入品に課される税(1.4) 2.9 (控除)補助金(1.5)
2.10 県外からのその他の経常移転(純)(5.4-5.8) 県外からの移転(純)小計
県民可処分所得
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こ れ に 対 し て 県 外 か ら の 雇 用 者 所 得(純)は 急 減して,2013 年度以降はマイナスとなり,2016
年度もマイナス 366 億円であり,雇用報酬の県
外流出が次第に大きくなっている.
こ の よ う に 東 日 本 大 震 災 や 原 発 災 害 の 復 旧 ・ 復 興 に は , 大 き な 金 額 が 義 捐 金 ・ 保 険 金 ・賠 償 金 ・ 国 庫 支 出 補 助 金 な ど と し て , 県 外 ( 国も 県 外 扱 い ) か ら 流 入 し た こ と , し か し 除 染 ・ 復 旧 ・ 復 興 作 業 の た め の 作 業 員 が 県 外 か ら 流入 し た こ と に よ っ て , 雇 用 報 酬 の 県 外 流 出 が 次第 に 大きくなったのである.
6.おわりに
以 上 の 分 析 を 改 め て 整 理 す る と , 県 民 経 済 計 算 か ら は , 次 の よ う な 経 済 循 環 を 読 み 取 るこ と が で き る . す な わ ち 震 災 の 直 前 ま で 緩 や かな 低 下 傾 向 に あ っ た 福 島 県 内 総 生 産 は , 東 日 本大 震 災 と 原発 事 故 を 契 機 に さ ら に大 き く 落 ち 込 ん だ . そ れ は 特 に 自 営 業 者 や 企 業 経 営 者 に し わ 寄せ さ れ た こ と が 「 営 業 余 剰 ・ 混 合 所 得 」 の 動 きか ら わ か る . 震 災 後 , 福 島 県 内 総 生 産 は 回 復 の道 の り を 辿 る が , そ れ は 義 捐 金 ・ 損 害 保 険 金 ・原 発 賠 償 金・ 国 庫 支 出 補 助 金 に よっ て 支 え ら れ お り , こ れ ら は 県 外 か ら の 経 常 移 転 の 動 き の 大 きさ と して読むことができる.
復 旧 復 興 に お け る 国 家 財 政 出 動 の 大 き さ は 政 府 最 終 消 費 支 出 の 伸 び に よ っ て 確 認 で き ,こ れ が 福 島 県 内 で の 資 金 を 潤 沢 に し , 旺 盛 な 固定 資 本 形 成 と 県 民 可 処 分 所 得 の 増 加 を も た ら した . 政 府 最 終 消 費 支 出 の 一 部 は 家 計 に も 回 っ たこ と か ら , 家 計 現 実 最 終 消 費 の 増 加 を 底 支 え し, 県 民 貯 蓄 を 維 持 し た . し か し 民 間 最 終 消 費 支出 の 回 復 へ の 足 取 り は 弱 く , 財 貨 ・ サ ー ビ ス につ い て は 県 内 供 給 が 間 に 合 わ な い こ と か ら , 県外 へ の 依 存 が 高 ま っ た . ま た 雇 用 報 酬 の 県 外 流出 が 次 第 に 大 き く な っ た の は , 除 染 ・ 復 旧 ・ 復興 作 業 の 作 業 員 が 県 外 か ら 流 入 し た こ と を 物 語っ て いる.
謝 辞 本 論 を 作 成 に あ た っ て は , 義 捐 金 ・損 害 保 険 金 ・ 原 発 賠 償 金 ・ 国 庫 支 出 補 助 金 な ど が
「 県 民 経 済 計 算 」 の ど の 項 目 に 算 入 さ れ てい る の か に つ い て の 問 い 合 わ せ に 答 え て い た だい た 福島県企画調整部統計課に感謝したい.
な お 本 論 は 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 基 盤 研 究 A 18H03600)「 震 災 ア ー カ イ ブ ズ を 基 盤 と す る 複 合 災 害 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の 日 本 国 モ デ ル 構 築 」
(2018~2021 年度 研究代表者:山川充夫)に よる研究成果の一部である.
文 献
[1] 山川 充 夫(2017)「 強 制避 難者 の 自主 避難 化 をさ け る た め に ─ 原 災 避 難 待 機 制 度 の 確 立 と 住 宅 費 補 助 の継続 ─」『 学術の 動向 』 第22巻第 4号,62-66. [2] 山川 充 夫(2018)「 原 発集 団訴 訟 と日 本学 術 会議 提 言─ 前橋 判 決に お ける 避難 継続 の 合 理 性─ 」『 判例 時報』No.2382(平 成 30 年 11 月 21 日 号),120- 137.
[3] 山 川 充 夫 (2019a)「 原 発 事 故 に よ る 被 災 企 業 へ の 営 業 損 害 賠 償 の 推 移 と 課 題 ─ 福 島 県 南 相 馬 市 原 町 区の 場合 ─ 」『 帝京 大 学地 域活 性化 研 究セ ン ター 年 報』第 3巻,1-15.
[4] 山 川 充 夫 (2019b)「 原 発 事 故 避 難 指 示 区 域 の 商 工 業 復 興 支 援 の あ り 方 ─ 官 民 合 同 チ ー ム の 意 味 ─ 」
『 經 濟 論 叢 ( 京 都 大 学 経 済 学 会 )』 第 193 巻 第 2 号,59-83.
[5] 東京電 力「原 子力 損害賠 償 のご請 求・お 支払 い等 実績 2019年12月20日現 在」
http://www.tepco.co.jp/fukushima_hq/compensation/i mages/jisseki01-j.pdf(2019年12月31日接続 ) [6] 復興庁 (2019)『東 日本 大 震災か らの復 興の 状況と
取組』http://www.reconstruction.go.jp/topics/main- cat7/sub-cat7-2-1/201908_Pamphlet_fukko-jokyo- torikumi.pdf(2019年12月31日接続 )
[7] https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub- cat1-1/20131029113414.html(2019 年 12 月31 日接 続).
[8] 東北経 済産業 局(2019)『 中期政 策(2019年度 ~ 2021年度 )─新 しい 未来に 向け持 続ある 経済 成長 のため に─』
https://www.tohoku.meti.go.jp/kikaku/vision/pdf/1905 15_2.pdf
[9] 初澤 敏 生(2018)「 震 災前 後の 福 島県 の産 業 構造 の 変 化 」 山 川 充 夫 ・ 瀬 戸 真 之 編 著 『 福 島 復 興 学 』 八 朔社,169-181.
[10] 国民経 済計算 (S NA:System of National
Accounts) は , 財 貨 ・ サ ー ビ ス 及 び 金 融 の 取 引 と , フロー 及びス トッ クの取 引 につい て ,経 済活 動の 姿を包 括的に 計量 把握す る 勘定(Account)体系 で ある. 企業会 計を 中心に 発 展して きた勘 定体 系を 国の経 済循環 の把 握に適 用 しよう とする もの であ る.」( 福島県 統計 課『平成 29(2017)年 度 福 島 県県民 経済計 算年 報』の 「 第 3部 参考 資料 第 3章 統計 表の 見方」p.103)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/
362792.pdf.
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