会計理論の課題と研究方法
ー実証会計学の方法論的基礎の検討を中心にー
京都大学大学院経済学研究科 藤井 秀樹
[email protected]‐u.ac.jp
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論点整理 問題意識
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)実証研究をどう評価するか。内在的評価の必要性。①伝統的な会計研究とは異質な要素を持った研究。科学 観,研究方法等。実証会計学(PAT)を主な検討素材とし て。
②近年の研究環境との制度的補完性。業績管理(研究方 法の国際標準化,北米の査読付ジャーナル),PhD指導(
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年間で学位授与)。(
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)科学哲学の原点に立ち返った研究方法の整理。他のア プローチによる会計研究の検討も含めて。田中[2009][2010]の問題提起。
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)今後の会計研究をどのように展望するか。2
実証研究の方法論的特徴
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)実証主義(positivism)①実証研究(empirical study)との区別。合理主義に依 拠した経験的研究も成立する。
②経験を知識の基礎とする。科学哲学の通説。形而上 学(本質論)の排除。科学と哲学の区別。論理実証主 義(経験的事実の観察と論理分析)。
(2)確率・統計的思考法の採用
枚挙的帰納法,仮説演繹法,反証主義の積極的成果 の継承と,問題点の克服。科学哲学での議論を一通 りふまえたものとなっている。
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方法上の問題点とその克服
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先行の方法 問題点 克服の方法
過小決定問題
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観察によって仮説が決定されないこと。①主要仮説と②補助仮説
「他の条件が等しければ」(②),「ボーナス制度のある企業 の経営者は利益捻出型の会計方針を選択する」(①)。
仮説が反証された場合,反証されたのは①②のどちらであ るかを,特定することができない。実証研究につねに付き まとう問題。
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補助仮説の事後的修正Lakatos[1978]
補助仮説の事後的修正によって,主要仮説を反証から救うこ とができる。E.g. 天王星の軌道→未知の惑星の影響→海 王星の発見。
実証研究では非常にしばしば実施される。
変数の追加・入替え,タイムラグ,時価情報等。
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実証会計学の設例
(1)研究目的
エージェンシー関係が会計選択に与える影響の解明。
仮説:ボーナス制度のある企業の経営者は利益捻出型の会計方針を選択する可 能性が相対的に高い。
(2)サンプリング
Aグループ(ボーナス制度のある企業群);140/200社(70%)
Bグループ(ボーナス制度のない企業群);110/200社(55%)
(3)仮説検定
カイ二乗検定でA群70%とB群55%の間に統計的な差があるかどうかを検証する。
帰無仮説(H0):AグループとBグループの割合の間には差がない。
対立仮説(H1):AグループとBグループの割合の間には差がある。
(4)検証結果
カイ二乗値(χ2)=9.6。 6.63を超えると1%で有意となる。
99%以上の信頼性をもって,帰無仮説を棄却できる。→仮説は「支持された」。
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確率・統計的思考法の使われ方
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)第1
種の錯誤「帰無仮説が正しいにも拘わらずそれを棄却する誤り」
が,1%以下の確率で生じる。
(2)第2種の錯誤
「帰無仮説が間違っているにも拘わらずそれを保持する 誤り」が,
99
%以上の確率で生じる。(
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)第1
種の錯誤<第2
種の錯誤第1種の錯誤を受け入れる形で,一般法則を導く。証拠 の予測確率100%の制約の緩和。
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実証会計学の制度化
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)経済学の制度化佐和[1982]。1950年代のアメリカにおける経済学の大 衆化,職業化,教科書化,モデル化。経済学が「科 学」としての認知を社会から授かった証し。
(2)実証研究(その学問的母体である会計学)の制度化。
科学としての認知。
(3)科学の守備範囲を厳しく限定したことによって,標準 化された隙のない研究方法を獲得した。有意味な言 明。用語,概念,研究方法の国際的な共有化。
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「有意味な言明」の帰結
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語り得ぬものについては沈黙しなければならない。
ヴィットゲンシュタイン
語り得ぬものについては沈黙しなければならない。
ヴィットゲンシュタイン
独創性や意外性の ある研究が出にくい。
研究の展望
(1)実証研究が「語り得ない」研究テーマ 制度の形成・変化。なぜ,どのように。
(2)基礎理論
ミクロ経済学,比較制度分析,ゲーム理論。
国際的に確立した標準的理論をツールとする。コンテンツ の普遍性を担保するため。
(3)会計(学)固有の理論
その試みとしての藤井
[1997]
。原価主義の構造分析。構造分析,整合性分析の意義と限界。制度の「動き」を捉 えることができない。コンバージェンス・アドプション。
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制度形成の 2 つの作用因
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規範的アプローチ 記述的アプローチ
①本来的な意味での科学は記述的アプローチによる。
②市場は万能ではなく,また理論は「あるべきルール」について「何 も語らない」ため,制度進化には規範的アプローチも必要となる。
制度派会計学の可能性
(1)制度派会計学
制度派理論の会計研究への応用 その試みとしての藤井[2007]。
(2)制度変化の特徴と会計研究の課題
非合理的な制度設計・変化(全面時価会計,純利益の開示禁止,
自己創設のれんの開示等)の持続的・重畳的発生。
非合理的現象の合理的説明。基本的には記述的研究。
(3)2つの作用因・アプローチの融合
制度設計者の信念(価値合理的行動)を,市場の評価(市場参加者 の目的合理的行動)の与件の1つとして取り込む。
「目的論的関連の因果関連への組みかえ」(大塚[1966]60頁)。
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