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PDF 土蔵、土蔵造の建物の地震被害とその対策 - 工学院大学

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総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)

テーマ1 小課題番号1.4-3

*工学院大学建築学部建築デザイン学科教授

土蔵、土蔵造の建物の地震被害とその対策

歴史的建築物、東日本大震災、文化財ドクター、土壁、漆喰壁 後藤 治

1.はじめに

筆者は UDM において、阪神淡路大震災、新潟県中 越地震・同中越沖地震、石 川県能登半島地震等の近 年の大規模地震動による都 市部に所在する歴史的建 築物の被害の実態から、今 後の都市部における大規 模地震において、歴史的建 築物の保存継承に貢献で きる研究を目指してきた。 近年の大規模地震では、

伝統構法の木造建築物につ いては、通し柱 の折損に よる倒壊、土壁・漆喰壁の 崩落・亀裂による被害が 目立った。特に後者につい ては、壁を厚く塗る土蔵 の被害が甚大であることか ら、今後の都市部におい ては、歴史的街並の景観形 成において重要な役割を 果たしている土蔵造の町家 の被害が深刻になること が予想された。そのため、筆 者の研究グループでは、

通し柱の折損や土壁・漆喰 壁の破損に効果的な対策 となる手法の開発を目指して研究を進めてきた。

研究を進めるにあたって は、具体的事例による実 証的研究、新たな改修・補 強方法の開発を目標とし た。2011 年 3 月 11 日に東日本大震災が 発生したこ とにより、東日本大震災で 発生した歴史的建築物の 被害調査並びにその対応を 行うことにより、新たな 改修・補強方法の開発への 着手が遅れることになっ た。本年度は、主に東日本 大震災にともなう活動の 成果並びに新たな改修・補 強方法の開発の展望につ いて報告する。

2.2010・2011年度の成 果概要

2.1 秋田県横手市増田町における実証研究 具体的な事例による実証 研究としては、大規模な 町家建築と土蔵が多数残り 、伝統的建造物群保存地 区の候補地となっている秋 田県横手市増田町の中心 市街地をモデルに研究を進 めている。 市が取得した 旧石平金物店(町家及び土 蔵が現存)を対象に、初 年度は、実測調査・予備的 な耐震診断を実施した。

2年度は、初年度の結果を もとに、 危険箇所の応急 的な補強案を作成、3年度 の早期に補強を実施した。

実施にあたっては、東日本 パワーファスニング株式 会社の協力により、同社が 開発した長 い寸法を持つ ネジを利用した。同ネジは 、今後の伝統構法の木造 建築物の改修補強に有効なものとして期待できる。

2.2 東日本大震災にともなう調査研究

東日本大震災にともなう 調査研究については、日 本建築学会建築歴史・意匠 委員会による調査研究に 参加する形で進めた。同委員会では震災後の 4 月に 災害特別調査研究WGを立 ち上げ、筆者は、同委員 会及び WG の幹事を務めた。同 WG では、9 月に2011 年9月に文化庁から東日本大震災被災文化財建造物 復旧支援事業(文化財ドク ター派遣事業)を受託し、

2012年3月まで事業を行い、被災した歴史的建築物 の状況把握と、それを残す ために所有者等に助言を 行う活動を促進し、報告書 をまとめた。また、2012 年3月に東京と仙台市において、公開研究会を開催 し成果を公表した。東京の 公開研究会は、工学院大 学で開催した。文化財ドク ター派遣 事業の実施にあ たっては、歴史的建築物の 保存のために所有者等に 実務上の助言も必要なこと から、日本建築家協会、

日本建築士会連合会の協力を得た。

被災調査によって、本研 究で想定した通り、土蔵 に加えて土蔵造の町家の壁 の被害例が多数見られ、

その被害が深刻であること が明らかになった。 深刻 である理由のひとつは、被 害程度が大きくないにも かかわらず、職人の不足や 技術的アドバイスの遅れ 等によって、取り壊しにい たっている事例が多くみ られることである。こうし た状況を未然に防ぐため に、土壁の改修補強に有効 な新手法の開発が急務で あることをさらに強く認識する結果となった。

3.2012年度の成果

3.1 秋田県横手市増田町における実証研究 2012 年度は、旧石平金物店について、限界耐力設 計法による計算を用いた耐 震診断を実施した(岐阜 県立森林アカデミー小原勝彦准教授による)。その結 果、予備的な耐震診断によ る予測通り、土蔵よりも 町家部分に補強が必要であることが判明した。また、

耐震診断による町家部分の 弱点に対して、実施した 応急的な補強が有効に働い ていることが判明した。

次年度には、耐震診断の結 果に基づき、 具体的な補 強案を検討する予定である。

3.2 東日本大震災にともなう調査研究

2012 年度も、日本建築 学会災害特別調査研究 WG

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総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)

テーマ1 小課題番号1.4-3

では、日本建築家協会、日 本建築士会連合会と協力 して、引き続き歴史的建築 物の被災調査と保存継承 のための助言を続けている。2011 年度に続き、文化 財ドクター派遣事業も行っているが、2012 年度は日 本建築家協会が事務局とな り、日本建築学会と日本 建築士会連合会が協力する 形で、文化財保護芸術研 究助成財団の助成を得て進めている。

また、日本建築学会建築 歴史・意匠委員会の文化 遺産災害対策小委員会(主 査筆者)と災害特別調査 研究 WG の有志で、日本建築士会連合会と協力し、熊 本県建築士会の事業として 「被災歴史的建造物の調 査・復旧方法の対応マニュ アル」をまとめた。その 目次は下記の通りである。

はじめに

1 緊急時-災害発生から調査まで 1.1 調査支援体制の確立に向けて 1.2 災害の発生から共同体制の構築まで 1)被害状況の把握

2)調査・支援組織の立ち上げ

1.3 情報収集・管理機 能体制の確立、相談窓 口の設置

1.4 調査からアドバイスまで 1.5 調査票の書き方

1.6 応急危険度判定・被災度調査への対応 1)応急危険度判定

2)公費解体の回避

1.7 行政等からの支援の必要性・有効性 2 事 後 - 歴 史 的 建 造 物 の 被 害 の 見 方 と 応 急 処

置・補修方法

2.1 木造伝統構法(軸組)

2.2 組積造 2.3 土壁・漆喰壁 2.4 瓦

3 復旧-本格的な補強・改修 3.1 木造伝統構法

3.2 組積造 3.3 土壁・漆喰壁 3.4 瓦

参考資料 地震から文化財を守るために

木造伝統構法の補強・改修にあたって これまでの地震被害とその 復旧への対応を参考に、

災害発生後の「緊急時・事 後・復旧」という段階を想 定し、それに沿った章立て としている。緊急時 は、

災害発生から3週間から1ヶ月程度の期間、事後は、

緊急時を脱して以降、3ヶ月から 6ヶ月程度、復旧 は、災害後半年以降で、復 旧のために行う改修や補 強については、災害の有無 にかかわらず行うことが 望まれるものである。

なお、土壁・漆喰壁の部 分については、日本建築 学会内外装工事運営委員会 幹事の古賀一八氏(東京 理科大学講師)の協力を得 て、現在普及している一 般的な方法をまとめた。

3.3 土壁・漆喰壁の改修補強の新手法の検討 土蔵、土蔵造建物の被害 をみると、厚く塗った壁 の重量に対して、壁の下地 の強度が不足しており、

それによって土壁の崩落が 発生している事例が多く みられる。また、仕上げの 漆喰塗と中塗りの土壁と の馴染みが悪く、仕上げの 漆喰層のみが剥離した事 例も多くみられる。これら の被災に対して 効果的な、

簡便な改修補強手法や、そ の被害を未然に防ぐ手法 の開発計画に着手し、初期 的な実験を田村准教授に 依頼し実施した。

4.おわりに

新年度の計画としては、含 浸性の高い樹脂系の接 着材を利用して、土壁や剥 離した漆喰壁を固めるこ とや、強度的に問題がある 土蔵や土蔵造建物の壁面 を強化することを予定している。

また、土蔵や土蔵造の建物 は、大壁工法であるた め、柱や梁の腐朽が真壁工 法の建物よりも発生しや すく、それが原因で地震時 の被害が大きくなってい る事例も多数報告されてい る。上記の含浸力の高い 接着剤による補強は、腐朽 によって虫害が発生した 木材の補強にも応用できる ものと考えられる。その ため、新年度には腐朽し虫 害が発生した実際の建築 部材を利用して、補強の効 果を測定する実験を行う ことも計画している。

さらに、含浸力の高い接 着剤による補強は、近代 洋風建築の漆喰塗りで仕上 げた装飾天井の落下防止

(下地の木摺りと漆喰の接 着力の強化 、東日本大震 災で東京の九段会館で当該 事故により大きな被害が 発生したことは記憶に新し い)にも有効と考えられ るので、当初の計画には含 まれていないが、これに ついても具体的な事例による検証を行いたい。

参 考 文 献

1) 熊 本 県 建 築 士 会 調 査 委 員 会 サ ポ ー ト チ ー ム 、 被 災 歴 史 的 建 造 物 の調 査・復 旧方 法 の対 応 マ ニ ュア ル 、熊 本県 建 築 士 会 、 全 102 頁、 2012 年 1 月

参照

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