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第 6 章

リー代数

この章では, リー代数の基本的な事項を紹介する. この章は, 前半(6.1 節, 6.2 節, 6.3 節) と後半(6.4 節) の二つに分けることができる.

この章の前半の具体的な内容は, 以下の通りである:

リー代数の定義(6.1節),

リー代数の簡単な例, 例えば一般線型リー代数やリー部分代数など(6.2 節),

リー代数の同型の定義と簡単な例(6.3 節).

この前半部分の内容を読むための予備知識は, 簡単な線型代数のみである. 当然ながら, 第 2 章「線型リー代数」を読んでいた方が見通しは良くなるが, 読んでいなくても話が通じ るように書かれている (はずである). これらの節の内容は, 標準的なリー代数の本の極め て最初の部分に相当すると思う.

この章の後半の具体的な内容は, 以下の通りである:

上記のリー代数の概念と, 第 2 章で紹介した線型リー代数の概念の関連(6.4 節).

特に, 線型リー代数はリー代数であり, 線型リー代数として同型ならばリー代数と して同型である.

この後半部分では, 線型リー代数の概念とリー代数の概念を比較するので, 第 2 章「線型 リー代数」の知識を仮定する. 第2 章とこの章の内容を合わせると, 親切なリー代数の教 科書の最初の部分に相当すると思う.

線型リー群と線型リー代数が対応していたように, リー群とリー代数の間にも対応が存 在する. この対応に関する主定理は, 「2 つのリー群が局所同型であるための必要十分条 件は, 付随するリー代数が同型となることである」というものである. 上記の主定理は後 の章で紹介するが, この章の目的は, そのために必要な予備知識のうち, リー代数に関する 部分(すなわち, リー代数の定義と同型の定義) を紹介することである.

6: 最終更新日2011/06/13

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46 第6章 リー代数

6.1 リー代数の定義

この節では, リー代数を定義し,簡単な例を挙げる.

定義 6.1.1 g を線型空間とし, [,] :g×g g を g 上の積とする. このとき, 組 (g,[,]) が リー代数*1 とは, 次が成り立つこと:

(i) 積 [,] は双線型,

(ii) [X, Y] =[Y, X] (∀X, Y g),

(iii) [X,[Y, Z]] + [Y,[Z, X]] + [Z,[X, Y]] = 0 (∀X, Y, Z g).

ここでは, 線型空間は,有限次元実線型空間を意味するものとする. このことを強調して 実リー代数*2 と呼ぶこともある. 複素線型空間を考えれば, 同様に 複素リー代数*3 を定 義することができる.

リー代数の積 [,] を括弧積*4 と呼ぶ. 括弧積を省略して,リー代数を単に g で表すこと

も多い. 条件 (iii) を ヤコビ律*5 と呼ぶ. また, 線型空間としての次元を, リー代数 g の

次元*6 と呼ぶ.

例 6.1.2 Rn に積を [X, Y] := 0 で定義したものはリー代数である(これを 可換リー代 数*7 と呼ぶ).

証明. 積[X, Y] = 0 が定義6.1.1 の条件をみたすことを示せば良い. これらは容易に確

かめられる. ¤

問題 6.1.3 1次元リー代数は可換であることを示せ. (ヒント: 定義の条件(ii) を用いる.)

6.2 リー代数の例

この節では, リー代数の例を紹介する. §6.2.1 では, 一般線型リー代数と, ある 2 次元 リー代数を紹介する. §6.2.2 では, リー部分代数を定義し, これがリー代数となることを 示す.

*1Lie algebra

*2real Lie algebra

*3complex Lie algebra

*4bracket product

*5Jacobi identity

*6dimension

*7abelian Lie algebra

(3)

6.2.1 リー代数の簡単な例

ここでは, リー代数の簡単な例として, 一般線型リー代数と, ある 2 次元リー代数を紹 介する.

例 6.2.1 Mn(R) に括弧積を [X, Y] :=XY −Y X で定義したものはリー代数である(こ れを 一般線型リー代数*8 と呼び, gln(R) で表す).

証明. 括弧積 [X, Y] = XY −Y X が定義 6.1.1 の条件をみたすことを示せば良い.

条件 (i) の双線型性, (ii) の交代性は明らか. 条件 (iii) の Jacobi 律を示す. 任意に X, Y, Z ∈Mn(R) をとる. 積の定義より,

[X,[Y, Z]] = [X, Y Z −ZY] =X(Y Z−ZY)(Y Z−ZY)X (6.1) となる. 同様に[Y,[Z, X]] および[Z,[X, Y]]を計算して, 足し合わせれば, Jacobi律が確

かめられる. ¤

次に, 2 次元リー代数の例を紹介する.

例 6.2.2 g を2 次元線型空間とし, その基底を {A, X} とする. このとき, g がリー代数 となるような括弧積で, [A, X] =X をみたすものが唯一つ存在する.

証明. まずは一意性を示す. g がリー代数となるような括弧積で, [A, X] = X をみた すものが存在したと仮定する. このとき, 括弧積の双線型性および交代性から, 任意の a, b, c, d∈R に対して,

[aA+bX, cA+dX] = (ad−bc)X (6.2) となる. よって, 括弧積の形が自動的に決まってしまうので, 一意性が従う.

次に存在を示す. g 上の括弧積を(6.2) によって定義する. この括弧積が [A, X] =X, および双線型性, 交代性をみたすことは明らか. Jacobi 律も, 直接計算によって確かめら

れる. ¤

6.2.2 リー部分代数

ここでは, リー部分代数を定義し, これがリー代数となることを示す. これによって多く の具体例が得られる.

*8genral linear Lie algebra

(4)

48 第6章 リー代数 定義 6.2.3 g をリー代数とする. g の部分集合 g0 が リー部分代数*9 であるとは, 次が成 り立つこと:

(i) g0 は g の線型部分空間, (ii) [X, Y]g0 (∀X, Y g0).

命題 6.2.4 g をリー代数とし, g0 を g のリー部分代数とする. このとき g0 はリー代数に なる.

証明. g0 上の括弧積は, g の括弧積の制限によって与える. これが 定義 6.1.1 の条件を

みたすことを示せば良い. これは自明. ¤

この命題によって, 一般線型リー代数 gln(R) のリー部分代数は, 全てリー代数となる. これによって多くの具体例が得られる. 具体例については, 6.4 節, および第 2 章「線型 リー代数」を参照.

6.3 リー代数の同型

この節では, リー代数の同型を定義し, 簡単な具体例を挙げる. 特に, 2 次元リー代数は, 同型を除くと全部で 2 個しかないことを示す.

定義 6.3.1 g1, g2 をリー代数とする. 写像 f :g1 g2 が準同型写像*10 であるとは, 次 が成り立つこと:

(i) f は線型写像,

(ii) f は括弧積を保つ,すなわち,任意のX, Y g1 に対してf([X, Y]) = [f(X), f(Y)]

が成り立つ.

問題 6.3.2 g を, 例 6.2.2 のリー代数とし, [A, X] = X をみたす基底 {A, X} を考える. このとき, 次の写像が準同型写像であることを示せ:

f :ggl2(R) :aA+bX 7→

· a b

0 −a

¸

. (6.3)

定義 6.3.3 g1, g2 をリー代数とする. 写像 f :g1 g2 が同型写像*11 であるとは, 次が 成り立つこと:

(i) f は全単射,

*9Lie subalgebra

*10homomorphism

*11isomorphism

(5)

(ii) f は準同型.

また, 同型写像 f : g1 g2 が存在するときに, g1 と g2 は 同型*12 であると言う. 他 の同型との区別を強調したい場合には, リー代数として同型*13 という言い方をすること もある.

問題 6.3.4 g1, g2 を, 同じ次元の可換なリー代数とする. このとき g1 と g2 が同型であ ることを示せ.

リー代数を同型を除いて分類することは自然な問題である. 1 次元リー代数は, 可換な ものしかないので, 全部で 1 個である. 次により, 2 次元リー代数は全部で 2 個であるこ とが分かる.

命題 6.3.5 任意の 2 次元リー代数は, 可換なリー代数か例 6.2.2 のリー代数のいずれか に同型である.

証明. g を 2 次元リー代数とする. g が可換でないと仮定する. このとき, g が例 6.2.2 のリー代数と同型であることを示せば良い. g の基底を {X1, X2} とする. g は2 次元か つ可換でないので[X1, X2]6= 0 が成り立つ. よって, (a, b)6= (0,0) を用いて,

[X1, X2] =aX1+bX2 (6.4)

と表すことができる. ここで,

A:= (1/(a2 +b2))(bX1−aX2), X :=aX1+bX2 (6.5) とおく. すると括弧積は

[A, X] = [(1/(a2+b2))(bX1−aX2), aX1+bX2] =X (6.6) を満たす. 一方で, 例 6.2.2 のリー代数を g0 とする. このとき, 定義より, 基底 {A0, X0} で [A0, X0] =X0 をみたすものが存在する. これを用いて,

f :g g0 :αA+βX 7→αA0+βX0 (6.7)

とおくと, 写像 f は同型写像である. よって g とg0 はリー代数として同型である. ¤

*12isomorphic

*13isomorphic as Lie algebra

(6)

50 第6章 リー代数

6.4 線型リー代数とリー代数

この節では, 第 2 章「線型リー代数」の内容を仮定し, これまでに紹介したリー代数の 概念と線型リー代数の概念との関連を調べる. §6.4.1 では, 全ての線型リー代数はリー代 数となることを示す. また, その逆も成り立つことを, 証明抜きで紹介する. §6.4.2 では, 線型リー代数として同型であれば,リー代数として同型であることを示す. また,その逆が 成り立たないことの, 簡単な反例を挙げる.

6.4.1 線型リー代数とリー代数

ここでは, 全ての線型リー代数はリー代数となることを示す. これにより,数多くのリー 代数の具体例が得られる. また, 上の主張の逆も成り立つことを, 証明抜きで紹介する. 命題 6.4.1 全ての線型リー代数はリー代数である.

証明. g を gln(R) 内の線型リー代数とする. 線型リー代数の定義 (定義 2.1.2) より, g は gln(R) のリー部分代数である. よって, 命題 6.2.4 より, g はリー代数である. ¤

命題 6.4.1 の逆が成り立つ. すなわち, 全てのリー代数は線型リー代数である.

定理 6.4.2 (Ado の定理) 任意のリー代数 g に対して, g とリー代数として同型となる 線型リー代数 g0 (gln(R))が存在する.

証明には, リー代数の構造をもっと詳しく調べる必要があるので, ここでは省略する. 別 の章で紹介するかも知れない.

6.4.2 線型リー代数の同型とリー代数の同型

ここでは, 線型リー代数として同型であれば, リー代数として同型であることを示す. ま た, その逆が成り立たないことの, 簡単な反例を挙げる. 線型リー代数の同型は, 随伴作用 Ada によって定義されていたことを思い出す(定義 2.5.2).

命題 6.4.3 g1, g2 をgln(R)内の線型リー代数とする. これらが線型リー代数として同型 ならば, リー代数としても同型である.

証明. g1 と g2 は線型リー代数として同型なので, 定義より, 次をみたす a GLn(R) が存在する:

Ada(g1) =g2. (6.8)

(7)

この Ada がリー代数としての同型写像であること, すなわち線型同型写像であり括弧積 を保つことを示せば良い. これらは容易に確かめられる. ¤

ちなみに, 命題 6.4.3 の逆は成り立たない. 次が簡単な反例である.

例 6.4.4 線型リー代数 diag(gl1(R)) (問題 2.4.3 参照) と, 直和リー代数 {0} ⊕gl1(R) は, リー代数として同型であるが, gl2(R) 内の線型リー代数として同型ではない.

証明. これらの線型リー代数を具体的に行列で書くと, 次のようになる: diag(gl1(R)) =

½· c 0

0 c

¸

|c∈R

¾

, {0} ⊕gl1(R) =

½· 0 0

0 d

¸

|d R

¾

. (6.9) 線型リー代数diag(gl1(R)) と {0} ⊕gl1(R) がリー代数として同型であることは, どち らも 1 次元の可換なリー代数なので, 明らか(問題 6.3.4 参照).

次に, これらが線型リー代数として同型でないことを示す. 線型リー代数として同型で あると仮定する. すると, 次をみたす a∈GL2(R) が存在する:

Ada(diag(gl1(R))) ={0} ⊕gl1(R). (6.10) ここで

I2 :=

· 1 0 0 1

¸

diag(gl1(R)) (6.11)

を考える. このとき I2 は単位行列なので

Ada(diag(gl1(R)))3Ada(X) =aI2a1 =I2 (6.12) が成り立つ. 一方でI2 6∈ {0} ⊕gl1(R) なので, これは矛盾. 以上より, 線型リー代数とし

て同型でないことが示された. ¤

命題 6.4.3 の逆が成り立たない理由を感覚的に述べると, 線型リー代数の同型は, リー

代数としての情報だけでなく,「gln(R) への入り方」の情報も保たなくてはならないから である. これは, 円と楕円が平面曲線としては違うが位相空間としては同相である, という ことと同様の状況になっている.

参照

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