2013 年度 代数学 II 概要
平成 25 年 11 月 29 日
2013年度の代数学IIで扱う内容の概要です。特に参考書を定めなかったので、論理的に最低限必要なことはカ バーするよう努めました。講義では、いくつかの点を詳しく説明します。また、ここに書いてあって講義では扱わ ないこともあります。
1 群論とは
本講義では、群論の初歩について解説する。
群論とは、起源から見るならば対称性の研究であるといえる。一方、現代数学の立場から抽象的に言うと、群 論とは「ある種の積の定められた集合(=群)の性質を調べる理論」である。群論の初歩では、抽象的な群の扱い 方を習得することと、様々な例を通して対称性の集まりとしての群のイメージを持つことの両方が大事である。
「積」のことを二項演算と呼ぶ。「ある種の積」とは「群の公理」と呼ばれる条件を満たすことを意味する。こ れらについては次節で扱うが、本節で例としてあげる対称性の群の場合については、「逆元」が取れることが重要 である。
講義では、群の正確な定義に先立って、正三角形の対称性の群および対称群(置換のなす群)を例として抽象群 論の考え方を解説する。
1.1 群の例: 対称性の群
対称性とは何らかの変換のことであり、積としては変換の合成を考える。
例 1.1. 正三角形の対称性の群。平面R2内の正三角形 T =P1P2P3を考える。
G:={T をそれ自身に写す合同変換} とする。ここで合同変換とは、f :R2→R2 であって
f(P)f(Q)の長さ=P Q の長さ ∀P, Q∈R2 となるようなものである。Gは、写像を元とする集合である。
Gは写像の合成を演算として群をなすことがわかる。
例 1.2. 対称群、すなわち置換のなす群。
一般に集合X に対して
S(X) :={f :X→X|f は全単射}
は写像の合成を演算として群をなす。S(X)の元を X 上の置換と呼ぶ。特に X ={1,2, . . . , n} のときS(X)を Sn と書きn次対称群と呼ぶ。(次節以降で詳しく扱う。)
σ∈Sn を Ã
1 2 . . . n !
とあらわす。すなわち、上に 1 から n までを書き、それぞれの下に行き先を書く。例えばσ=
Ã1 2 3 2 3 1
! は σ(1) = 2,σ(2) = 3,σ(3) = 1 を意味する。
Sn はそのような置換の全体だから、例えばS3 は S3=
(
id{1,2,3}=
Ã1 2 3 1 2 3
! ,
Ã1 2 3 1 3 2
! ,
Ã1 2 3 2 1 3
! ,
Ã1 2 3 2 3 1
! ,
Ã1 2 3 3 1 2
! ,
Ã1 2 3 3 2 1
!)
となる。各元の下の行を取り出すことにより、Snの元と1からnまでの順列が1対1対応することがわかるが、
大事なのは積(合成)である。
置換σ, τ に対しσ◦τ を στ と書くことにする。すなわち (στ)(i) =σ(τ(i)).
例えば、 Ã
1 2 3 3 1 2
! Ã1 2 3 2 1 3
!
=
Ã1 2 3 1 3 2
! . このような演算により、Sn は群をなすのである。
1.2 抽象代数学の視点
次のような問題を考えよう。
例題 1.3. f ∈G, すなわち f :R2→R2 を正三角形 P1P2P3 を保つ合同変換とする。f の繰り返し fn はどう なっているか。
次の事実を使うと、繰り返しfn の「パターン」はS3 に移し替えて調べることができる。(講義では具体的な fを例として説明した。)
事実1.4. 上の三角形の対称性の群Gと3 次対称群S3 の間に、1対 1 対応であって積も対応するようなものが 存在する。実際、f ∈Gに対し、f(Pi) =Pσ(i) となるσ∈S3 を対応させればよい。
このような対応を同型と呼ぶ。
このように、変換の具体的な形よりも
• 一つの群において、元と元の積に関して成り立つ関係(例: 何乗するとidになるか)
• 群と群の間に成り立つ関係(例: 正三角形・二等辺三角形・不等辺三角形は対称性の群で区別できる) に着目するのが抽象群論の出発点である。
1.3 群論の応用
群論は、数学の各分野のみならず、理工学において対称性の現れる様々な場所で応用がある…という図を配布 した。
代 数
幾 何 解 析 群 論 の 応 用 ( ほ ん の 一 例 で す )
環 ・体 の 理 論 ↑ 和 & 積
ガ ロ ア 群 ( 代 数 方 程 式 の 対 称 性 ) 暗 号 ・符 号 etc . 応 用 数 学 ・ 離 散 数 学
リ ー 群 ( 例 : 行 列 群 )
基 本 群 ・ホ モ ロ ジ ー 群 群 論 の 源 フ ー リ エ 解 析
調 和 解 析 物 理 学 ・ 化 学 ・ 工 学
波 動 ・結 晶
運 動 学 3D
Fig. 1 Copyright Jim2k, generated by Vladimir BulaPolyhedra Stellations Applet, Fig. 2 Made with Mathematica by Fropuff.Fig. 3 Copyright Lionel Brits Fig. 2 Fig. 1
Fig. 3
2 二項演算と群の定義
2.1 二項演算
定義2.1. X を集合として、X 上の二項演算とは写像X×X→X のことである。(どんな写像でも良い。) ただし、この写像による行き先を、µ(x, y)のような「関数記法」でなく演算子記法x∗y,x·yなどで表すこと が多い。
例 2.2. R上で、(x, y)7→x+y は二項演算。(x, y)7→xy, (x, y)7→0 などもR上の二項演算。
(x, y)7→y/xは、x= 0 のときに値が定まっていないのでR上の二項演算とは考えない。
(x, y)7→x±y は、値が一つに定まっていない(ような (x, y)が存在する)のでR上の二項演算とは考えない。
例 2.3. X={a, b},a6=bとして、∗ をX 上の二項演算とすると、a∗a,a∗b,b∗a,b∗bはaかbのいずれかで あり、またこれら4つの選択肢を選ぶ毎に一つの演算が定まる。よってX 上の二項演算は24= 16個ある。
有限集合X 上の演算は乗積表で表すことができる。通常、次のようなフォーマットで書く。
∗ b1 b2 . . . a1 a1∗b1 a1∗b2 . . . a2 a2∗b1 a2∗b2 . . .
... ... ...
2.2 公理
X 上の二項演算とは 任意の 写像X×X →X であると定義したが、演算にいくつかの条件を付けて性質を調 べることができる。講義では、(群論からは少し外れるが)以下のような例で説明した。
例 2.4. なぜ(−1)×(−1) = 1となるのか。
これは、整数の足し算と0 以上の整数の掛け算は既知として、一般の整数の掛け算が どうあるべきか、つまり 0以上の整数の掛け算をどのように一般の整数に拡張するか、という問題としてとらえられる。結論としては、0 以上の整数について成り立つ法則
(a+b)×c = (a×c) + (b×c) · · ·(1) 0×a = 0 · · ·(2)
1×a = a · · ·(3)
が任意の整数a, b, cについて成り立つことを要求すると、掛け算の一般の整数への拡張は一意的に定まり、たと えば(−1)×(−1) = 1となる。(実は(2)も(1)より従う。)
特に有用な条件(「法則」)の組を満たすものに名前(例えば群)を付け、その条件の組を公理と呼ぶ。
例えば、整数の集合とその上の加法と乗法の組は環と呼ばれるものの例であり、「環の公理」(上の条件はその一 部)を満たしている。
また、線形空間は「線形空間の公理」により定義される。
2.3 群の定義
定義2.5. 群とは、集合 Gと G上の二項演算·の組であって、以下の「群の公理」を満たすもの。
1. ∀x, y, z∈G, (x·y)·z=x·(y·z) (結合則)
2. ∃e∈G, ∀x∈G,e·x=xかつx·e=x (単位元の存在) 3. ∀x∈G,∃y∈G,x·y=eかつy·x=e (逆元の存在)
(2)の eを Gの単位元と呼ぶ。(後で、単位元は一意であることを示す。)
(3) のy を xの逆元と呼び、x−1 と書く。(後で示す通り逆元は各xに対し一意なので、「○−1」 を逆元を取 る写像と考えて良い。)
注2.6. 上の(3)でいう eは、(2)の e(単位元)であり、厳密には(2), (3) をあわせて
∃e∈G,((∀x∈G,(e·x=x)∧(x·e=x))∧(∀x∈G,∃y∈G,(x·y=e)∧(y·x=e))) と書くべきかもしれない。
例 2.7. X ={a, b}, a6=b とするとき、
∗ a b a b b b a a により定まるX 上の演算∗は単位元を持たない。
実際、a∗a6=aよりaは単位元でない。またb∗b6=b よりb も単位元でない。
例 2.8. X を集合とするとき、
S(X) :={f :X→X|f は全単射} は、合成を演算として群をなす。
特に、n次対称群Sn:=S({1, . . . , n})は(名前の通り)群をなす。
証明. まず、合成がS(X)上の二項演算を定めること を示す。σ, τ ∈S(X)のとき、σ, τ はX からX への全単 射だから、σ◦τ も X からX への全単射である。よってσ◦τ∈S(X)であり、合成がS(X)上の二項演算を定 めることが示された。
結合則 を示す。f, g, h∈S(X)のとき、任意のx∈X に対して
((f◦g)◦h)(x) = (f◦g)(h(x)) =f(g(h(x))) (f◦(g◦h))(x) =f((g◦h)(x)) =f(g(h(x)))
よって任意のx∈X に対し((f◦g)◦h)(x) = (f◦(g◦h))(x)となり、(f ◦g)◦h=f ◦(g◦h)が言えた。
単位元の存在 を示す。X 上の恒等写像idX はX からX への全単射だからidX ∈S(X),また任意のf ∈S(X) に対して
∀x∈X,(idX◦f)(x) =idX(f(x)) =f(x)よってidX◦f =f
∀x∈X,(f ◦idX)(x) =f(idX(x)) =f(x)よってf◦idX=f となるからidX はS(X)の単位元である。よって単位元が存在する。
逆元の存在 を示す。f をS(X)の任意の元とする。f は X からX への全単射だから、逆写像 f−1 が存在す る。(ここでは−1 は逆写像の意味であり、逆元であることは今から示さなければならないことに注意。)f−1 も X からX への全単射だからf−1∈S(X)である。
f ◦f−1 =f−1◦f =idX だからf−1 は f の逆元である。よってS(X)の任意の元に対し、その逆元が存在 する。
以上よりS(X)は◦ に関して群をなす。
3 群の初歩的性質
群の公理からすぐに証明できる性質について述べる。
群とは集合とその上の二項演算の組であるが、これからは大抵の場合、単に「群G」と言うことにする。演算 記号は·と書くか、あるいは略すことにする。
3.1 単位元・逆元の一意性
命題3.1. G を群とするとき、Gの単位元は一意的である。
証明. 示すべきことは、e, e0 ∈Gがいずれも単位元であればe=e0 である、ということである。
eが単位元だから∀g∈G, ge=g 特にe0e=e0 となる。e0 が単位元だから∀g ∈G, e0g=g 特にe0e=eとな る。よってe=e0.
そこで、「eはGの単位元である」という言い方の他に、「Gの単位元はeである」という言い方もできる。群 の単位元を、どの群であるかに関わらず単にeと書くことが多い。
命題3.2. G を群、g をGの元とするとき、g の逆元は一意的である。
証明. 示すべきことは、h, h0∈Gがいずれもgの逆元であればh=h0 である、ということである。
hがgの逆元だからgh=e(· · · (b)),ただしeはGの単位元。h0がg の逆元だからh0g=e(· · · (c)). よって h0 = h0e (単位元の性質)
= h0(gh) (b)
= (h0g)h (結合則)
= eh (c)
= h. (単位元の性質)
そこで、「hはgの逆元である」という言い方の他に、「gの逆元はhである」という言い方もできる。また、g の逆元をg に対して一意的に定まるものとしてg−1と書き、逆元を取る写像g7→g−1 を考えることができる。
この種の事実は証明されてしまえば当然のこととして用いられるが、初学者は一度このような証明を練習して おくと良い。
3.2 一般結合則
群 Gにおいては、二つのものの積のみ定まっているから、g1, g2, . . . , gn ∈Gに対してg1g2· · ·gn というもの は直接には定まっていない。
適当に括弧を付けて、ただし並び順を変えないようにして、2 つのものの積の積み重ねとして書くことはでき る。そのような括弧の付け方は、例えばn= 3ならば(g1g2)g3 とg1(g2g3)の2 つ、n= 4ならば((g1g2)g3)g4, (g1g2)(g3g4), (g1(g2g3))g4,g1((g2g3)g4),g1(g2(g3g4))の 5つがある。
n= 3の場合の(g1g2)g3 と g1(g2g3)が等しい、というのが結合則だった。実は、結合則から、任意の nの場 合について積は括弧の付け方によらないことが導かれる。
定理 3.3 (一般結合則). G を群、g1, . . . , gn ∈G とする。g1, . . . , gn の並び順を変えず括弧を付けて積を取ると き、結果は括弧の付け方によらない。
証明はしないが、例えばn= 4 だと
x(y(zw)) = (xy)(zw) (x, y, zwに結合則を適用)
= ((xy)z)w (xy, z, wに結合則を適用)
= (x(yz))w (x, y, zに結合則を適用)
= x((yz)w). (x, yz, w に結合則を適用)
一般的に厳密に示すには、「括弧の付け方」を表すのが難しいところだが、例えば以下のように考えることがで きる。集合P(x1, . . . , xn)を、n= 1のときP(x1) ={x1},n≥2のとき
P(x1, . . . , xn) :={xy|x∈P(x1, . . . , xi), y∈P(xi+1, . . . , xn),1≤i < n}
と定めると、「x1, . . . , xn の積の集合」と考えられる。示すべきことは、積が結合則を満たすときP(x1, . . . , xn)が ただ一つの元(たとえば(. . .(x1x2). . . xn−1)xn と表せる)から成る、ということである。
3.3 巾と指数法則
Gを群とする。g∈G,n∈Zに対して、g の巾gn を以下のように定義する:
• g0=e(Gの単位元)
• gi+1:=gig(i≥0 のとき)
• n >0に対し g−n:= (gn)−1.
このとき、任意のm, n∈Zに対してgm+n=gmgn,gmn= (gm)n が成立する。(たとえばg−n = (g−1)n も成 り立つ。)証明は案外面倒だが、略す。
3.4 位数
定義 3.4. 群Gの位数とは、Gの元の個数(濃度)|G| のことである。(#Gとも書く。)|G|が有限のときGは 有限群、|G|が無限のとき Gは無限群という。
g∈Gの位数ordgを、以下のように定義する:
• gn=eとなるn >0が存在すれば、ordg は最小のそのような n(このときgは有限位数という)
• 存在しなければordg=∞(gは無限位数という) 例 3.5. σ:=
Ã
1 2 3 4 2 4 3 1
!
∈S4 について、σ, σ26=id,σ3=idだからordg= 3.
群の位数と元の位数の関係については後の節で述べる。
4 部分群
群の部分集合が、同じ積により群になることがある。これが部分群である。ここでは、以下を正式な定義とする。
定義4.1. Gを群とする。Gの部分群とは、Gの部分集合H であって、以下を満たすものである。
1. e∈H,ただしeは Gの単位元とする。
2. ∀x, y∈H, xy∈H (H は積で閉じている)
3. ∀x∈H, x−1∈H (H は逆元を取る操作で閉じている) 次の命題で見る通り、意味としては「群になる部分集合」と言える。
命題4.2. 群 Gの部分群H は (x, y)7→xy(右辺はGでの積)により群をなす。
逆に、H ⊆Gが演算 ∗ で群をなし、∀x, y∈H, x∗y =xy(右辺は Gでの積)ならば、H は(上で定義した意 味での)部分群。
証明(前半のみ). 部分群の条件(2) より(x, y)7→xy は確かにH 上の二項演算を定める。
結合則は、Gの結合則より明らか。
Gの単位元eは条件(1)よりe∈H を満たし、かつ∀h∈H, he=eh=hを満たすから、H の単位元である。
よって単位元の存在が言えた。
任意のh∈H に対し、Gでのhの逆元h−1 は条件(3)よりH に含まれる。またhh−1=h−1h=eで、eは H の単位元だから、h−1 はH におけるhの逆元である。よって逆元の存在が言えた。
以上よりH は (x, y)7→xyにより群をなす。
注4.3. 部分群の定義としては、少し違う形のものもよく使われる。たとえば、(1)のかわりにH6=∅ でも同値。
また、(2), (3)のかわりに∀x, y∈H, xy−1∈H でも同値。
例 4.4. (1)S3 においてσ=
Ã1 2 3 2 1 3
!
として、H1:={id, σ}は S3 の部分群。
実際、まずS3 の単位元はidであり、これはH1 に含まれている。またσ2=idより id σ
id id σ σ σ id
よって∀g, h∈H1, gh∈H1 が確かめられる。またid−1=id, σ−1=σより∀g∈H1, g−1∈H1 も分かる。
(2) τ =
Ã1 2 3 2 3 1
!
として、H2 := {id, τ} は S3 の部分群でない。実際、τ ∈ H2 であるが、τ2(= τ τ) = Ã1 2 3
3 1 2
!
6∈H2 となり、積に関して閉じていない。
以下のような事実はよく(いつも)使われるので述べておく。
命題4.5. G を群とする。
(1)g, h∈G, gh=eのとき、g=h−1,h=g−1.
(2)g1, . . . , gk ∈G,e1, . . . , ek∈Z のとき、(g1e1· · ·gkek)−1=g−ek k· · ·g1−e1. 特に、(gh)−1=h−1g−1.
証明. (1) (群だから、とにかくg−1 というものはあるので)gh=eの両辺に左から g−1を掛け、(結合則なども 用いると)h=g−1. g=h−1も同様。
(2) (g1e1· · ·gekk)·(gk−ek· · ·g−e1 1) = (g1e1· · ·gek−1k−1)·(gkekg−ek k)·(g−ek−1k−1· · ·g1−e1) = (ge11· · ·gk−1ek−1)(g−ek−1k−1· · ·g1−e1) =
· · ·=e. (1)よりg−ek k· · ·g1−e1= (g1e1· · ·gkek)−1.
4.1 生成元・生成系
群Gの部分集合S に対して、どのくらい元を付け加えると部分群になるか、ということを考える。
命題4.6. G を群、S を Gの部分集合とするとき、
hSi:={ge11ge22· · ·gekk|k≥0, g1, . . . , gk ∈G, e1, . . . , ek∈Z}
はG の部分群であり、S を含む。また、Gの部分群であってS を含むようなものはhSi を含む。(このことを、
「hSiは、Gの部分群であって S を含むようなものの内で最小である」と言う。)
証明. まず、部分群であること。「0 個の積(上でk= 0の場合)」はeを表すものとするので、e∈ hSi.
hSiの2元はge11ge22· · ·gkek, hf11hf22· · ·hfll (gi, hi∈S)の形だからその積g1e1· · ·gkekhf11· · ·hfll もhSiに含まれ、
hSiは積について閉じている。
hSiの元ge11· · ·gkek (gi∈S)の逆元はgk−ek· · ·g−e1 1 だからhSiに含まれ、hSiは逆元を取る操作について閉じ ている。
以上よりhSiは Gの部分群。明らかに S を含んでいる。
H がGの部分群かつ S を含むとすると、S の任意の元g1, . . . , gk をとるときH はそれらを含み、H が積お よび逆元を取る操作について閉じていることからge11· · ·gkek も含む。よってH ⊇ hSi.
定義 4.7. hSiを、S が生成する部分群と呼ぶ。S ={s1, . . . , sn} のときhs1, . . . , sniとも書き、s1, . . . , sn が生 成する部分群と呼ぶ。
G=hSiのとき、S はGの生成系であるという。
G=hs1, . . . , sniのとき、s1, . . . , sn はGの生成元であるという。また、Gは有限生成であるという。
例 4.8. σ=
Ã1 2 3 2 1 3
! ,τ =
Ã1 2 3 3 2 1
!
として、S3=hσ, τi.
実際、id, σ, τ, στ, τ σ, στ σはいずれもhσ, τiの元であるが、これらでS3 の元は尽くされる。
命題4.9. G を群とする。
(1)g∈Gに対してhgi={gi|i∈Z}.
(2)s1, . . . , sn ∈G,sisj =sjsi (∀i, j) のときhs1, . . . , sni={se11· · ·senn|e1, . . . , en∈Z}.
(2)の略証. 明らかに右辺は左辺に含まれる。左辺の元はsfi11· · ·sfikk の形で書けるが、可換性より添字ij が小さ い順に並べ替えることができる。(厳密にはkに関する帰納法で示せる。)
命題4.10. Gを群、g∈Gとするとき、ord(g) = #hgi. つまり g の位数(gn がはじめて eになる n >0,また
は∞)はhgiの位数(元の個数)と等しい。
また、ord(g) が有限のとき、hgi={e, g, g2, . . . , gord(g)−1}.
証明. まずord(g)を有限として nとおく。位数の定義よりgi6=e(0< i < n),gn =e.
(a)e, g, g2, . . . , gn−1 はすべて異なる。実際、gi=gj (0≤i < j < n)とすると、gj−i=e, 0< j−i < n とな り矛盾。
(b)hgi={e, g, g2, . . . , gn−1}. 実際、hgiの任意の元はgi と書け、iを nで割った商を q,余りを i0 とすると i=nq+i0 より
gi=gnq+i0 = (gn)qgi0 =eqgi0 =gi0, 0≤i0< nだから示された。
(a), (b)より#hgi=n= ord(g).
ord(g) =∞のときは、(a)と同様にして#hgi=∞が分かる。
5 群の例
既に集合X 上の置換の群S(X), n次対称群Sn を扱ったが、それ以外の群の例を与える。後に述べる剰余群 (商群)も群の作り方を与える。
5.1 数のなす群
定義5.1. 群 Gが可換であるとは、∀g, h∈G, gh=hgが成り立つことである。
可換群については、演算を+,単位元を0 (零元)、xの逆元を−xと書き、加法群と呼ぶことがある。
例 5.2. +を通常の加法として(Z,+), (Q,+), (R,+), (C,+)は可換群である。· を通常の乗法、Q×:=Q\ {0}, R>0:={x∈R|x >0}等として(Q×,·), (Q>0,·), (R×,·), (R>0,·), (C×,·)は可換群である。
例 5.3. (R,·)は群でない。実際、(唯一の)単位元は1であるが、0·x= 0 (∀x∈R)なので0は逆元を持たない。
5.2 直積群
G, H を群とするとき、直積集合G×H 上に
(g1, h1)(g2, h2) := (g1g2, h1h2)
により群の構造が定まる。同様に、G1, . . . , Gn が群のときG1× · · · ×Gn に群の構造が定まる。これらを Gと H の直積群、G1, . . . , Gn の直積群と呼ぶ。
例 5.4. Zn,Rn,Z×R>0などなど…可換群になる。
5.3 行列のなす群
Mn(R) :={n次実正方行列}とする。
例 5.5. GLn(R) :={A∈Mn(R)|detA6= 0} は、行列の積により群になる。(GLn(Q), GLn(C)なども同様に定 義され、群になる。)
証明. まずA, B ∈GLn(R)のときdetAB = detAdetB 6= 0よってAB∈GLn(R)となり、行列の積は確かに GLn(R)上の二項演算を定める。
行列の積が結合則を満たすことは成分計算で分かるが、略。
En をn次単位行列とするとdetEn = 1よりEn∈GLn(R),また∀A∈GLn(R), EnA=AEn=AよりEn は GLn(R)の単位元であり、単位元の存在が言えた。
A∈GLn(R) のときA は逆行列 A−1 を持ち、detA−1 = (detA)−1 6= 0よりA−1 ∈GLn(R), またA−1A= AA−1=En よりA−1 はAの逆元である。よって逆元の存在が言えた。
例 5.6. SLn(R) :={A∈Mn(R)|detA= 1}は GLn(R)の部分群である。(SLn(Q), SLn(C)なども同様。) 証明. 明らかにSLn(R)⊆GLn(R)である。
GLn(R)の単位元はEn であり、detEn= 1よりEn∈SLn(R).
A, B∈SLn(R)のときdetAB= detAdetB= 1,よって AB∈SLn(R).
A∈SLn(R)のときdetA−1= (detA)−1= 1よりA−1∈SLn(R).
よって示された。
例 5.7. O(n) :={A∈Mn(R)|tAA=En} はGLn(R)の部分群である。証明は略。
5.4 置換のなす群・対称性の群
X を集合とするとき、S(X) :={f :X →X|f は全単射}は群だった。これの部分群として様々な群が作れる。
例 5.8. Y をX の部分集合とする。このとき、S(X, Y) :={f ∈S(X)|f(Y) =Y}は S(X)の部分群。
例 5.9. Rn 上の距離関数を d と書くとき、E(Rn) := {f ∈ S(Rn)|d(f(P), f(Q)) = d(P, Q)(∀P, Q ∈ Rn)} は S(Rn)の部分群。(証明は略: 次の次の例を参照。)これをRn の合同変換群と呼ぶ。
(記号E(Rn)は一般に使われる記号と言うわけではない。)
例 5.10. X を Rn の部分集合とするとき、X を保つ合同変換の全体はS(Rn, X)∩E(Rn)であり、次の補題よ りS(Rn)の部分群。
§1の「正三角形の対称性の群」はこれの一例である。
補題5.11. Gを群、H1, H2 をGの部分集合とするとき、H1∩H2 はG の部分群。
より一般に、I が集合、各 i∈I に対しGの部分集合Hi が与えられたとき、T
i∈IHi は Gの部分群。
証明は略。
例 5.12. G:={f ∈S(Rn)|f は線形} はS(Rn)の部分群。
証明. S(Rn)の単位元はidで、これは線形だからid∈G.
f, g∈Gのとき、c∈R,v∈Rn に対し
(f◦g)(cv) =f(g(cv)) =f(cg(v)) =c(f(g(v)) =c(f◦g)(v).
(f◦g)(v+w) = (f◦g)(v) + (f◦g)(w)も同様に示せるから、f◦g∈G.
f ∈Gのとき、c∈R,v∈Rn に対しv0 =f−1(v)とおくと
f−1(cv) =f−1(cf(v0)) =f−1(f(cv0)) =cv0 =cf−1(v).
f−1(v+w) =f−1(v) +f−1(w)も同様に示せるから、f−1∈G.
よってGはS(Rn)の部分群。
5.5 対称群: 補足
対称群Sn について、よく使う事実や定義をまとめておく。
定義5.13. ]`≥1 に対し、a1, . . . , a`∈ {1,2, . . . , n} がすべて異なるとき、対称群Sn の元(a1 a2 . . . a`)を a17→a2, a27→a3, . . . , a`−17→a`, a`7→a1
により定め、長さ`の巡回置換と呼ぶ。
特に、長さ2の巡回置換(i j) (ただしi6=j)を互換と呼ぶ。
命題5.14. 任意の σ∈Sn は、
σ= (a11 a12 . . . a1`1)(a21 a22 . . . a2`2)· · ·(ar1 ar2 . . . ar`r), (aij たちはすべて異なる)の形に書ける。
1 からn までのすべてが現れる(⇔P
`i=n)ように書くことができ、そのような表し方は、巡回置換の並べ 替えを除き一意的。(ただし(a1 a2 . . . a`) = (a2 a3 . . . a` a1) =. . . に注意。)
条件`i ≥2 を満たすようにもでき、そのような表し方は、巡回置換の並べ替えを除き一意的。
定義5.15. 上の命題のような書き方を巡回置換分解と呼ぶ。
1からnまでのすべてが現れるように書くとき、長さの組(`1, . . . , `r)をσの型と言う。(略記法として、たと えば(1,1,2,4)を(1224)と書く。)
命題の証明は略すが、たとえばσ=
Ã1 2 3 4 5 6 7 2 3 1 4 6 5 7
!
∈S7 のとき
σ(1) = 2, σ(2) = 3, σ(3) = 1 σ(4) = 4 σ(5) = 6, σ(6) = 5 σ(7) = 7
であることから、σ= (1 2 3)(4)(5 6)(7) = (1 2 3)(5 6)であることが分かり、またσ の型は(1223). この表し方 からord(σ) = 6であることが容易に分かる。
命題5.16. 以下の集合はいずれもSn を生成する。
(1){(i i+ 1)|i= 1, . . . , n−1} (2){(1 i)|i= 2, . . . , n} (3) {(1 2),(1 2 . . . n)}
証明は略す。
命題 5.17. σ∈Sn を互換の積として表すとき、現れる互換の数の偶奇は一定。(すなわち、σi, τi を互換として
σ1· · ·σr=τ1. . . τsのとき、r−s は偶数。)
定義5.18. sgn(σ)を、σの互換への分解で現れる互換の数が偶のとき1,奇のとき−1 と定め、σの符号と呼ぶ。
命題の略証. rに関する帰納法により、σがr個の互換の積であるとき、(−1)rが(−1)#{(i,j)|1≤i<j≤n,σ(i)>σ(j)}と 等しいことを示す。sσ(i, j)をσ(i)< σ(j)のとき1,σ(i)> σ(j)のとき−1と定めると、右辺はQ
1≤i<j≤nsσ(i, j) に等しい。
r= 0 のとき明らか。r=kで成り立つと仮定、σ=σ1· · ·σk,σ0 :=σ·(a b) (ただしa < b)とすると、sσ(i, j) とsσ0(i, j)で変わり得るのは
• sσ(a, b) =−sσ0(a, b),
• i < aに対する(i, a)と(i, b): sσ(i, a) =sσ0(i, b),sσ(i, b) =sσ0(i, a)が成立。
• a < i < bに対する(a, i)と (i, b): sσ(a, i) =−sσ0(i, b),sσ(i, b) =−sσ0(a, i)が成立。
• a < iに対する(a, i)と(b, i): sσ(a, i) =sσ0(b, i),sσ(b, i) =sσ0(a, i)が成立。
これよりσ0 についても示される。
6 剰余集合
ここからしばらく、剰余集合・剰余群(商群)の解説を行う。
例 6.1. 整数は偶数と奇数に類別され、x, yが偶数ならx+y は偶数、xが偶数かつy が奇数ならx+y は奇数、
などが成り立つ。
そこで、Gを「偶」「奇」という二つの元からなる集合として、
+ 偶 奇
偶 偶 奇 奇 奇 偶 とすると、Gは群になる。
このように、群の元を類別し、類の集合に群構造を入れることを考える。
6.1 類別と同値関係
ものを類別する方法を考える。日常的には、種類をあらわす名前や数で分類する方法がある。たとえば、
• 人は国籍で分けられる(原則的には)。日本、アメリカ、等。
• 人は年齢で分けられる。
数学的には、X を人の集合として、f :X → {日本,アメリカ, . . .},g:X → {0,1,2, . . .}を考えることと言える。
この方法は、あらかじめ各類の名前を決める必要があり、数学的にあまりエレガントではない。数学では、二つ のものが同じ種類に属する、という「関係」により類別を表現する。
定義6.2. X を集合とする。X 上の二項関係とは、X×X の部分集合のことである。二項関係R (⊆X×X)に 対し、(x, y)∈RのときxRy, (x, y)6∈R のときx6Ry と書く。
つまり、二つのものx, yに対してYes/Noで答えられるような関係を考える(そして、集合論的に考えるために Yesであるような(x, y)からなる集合を考える)のである。
関係の記号として上ではR を用いたが、ここには普通≤,∼等の記号が入る。
関係の例としては、任意の集合上の=,R上の≤などがある。
定義6.3. 集合X 上の二項関係Rが同値関係であるとは、以下の条件を満たすこと。
1. ∀x∈X,xRx (反射律)
2. ∀x, y∈X, (xRy⇒yRx) (対称律)
3. ∀x, y, z∈X, ((xRyかつyRz)⇒xRz) (推移律) 同値関係には∼等の記号をよく使う。
例 6.4. (1)任意の集合上、関係 =は同値関係である。
(2)R上、≤は同値関係でない。実際、0≤1 だが16≤0なので、対称律が成立していない。
後で見る通り、同値関係は「類別」の概念をうまく表している。
6.2 剰余関係
定義6.5. Gを群、H をGの部分群とする。
G上の二項関係∼lH を「g1∼lH g2 が成り立つのは g−12 g1∈H のとき」と定め、H を法とする左剰余関係と 呼ぶ。
G上の二項関係∼rH を「g1∼rH g2 が成り立つのは g1g−12 ∈H のとき」と定め、H を法とする右剰余関係と 呼ぶ。
左・右の呼び方の理由は、後で剰余類を見るときに説明する。逆にする流儀もある。
命題6.6. ∼lH,∼rH は同値関係である。
証明. ∼lH について示す。∼rH でも同様。∼lH を ∼と略す。
任意のg∈Gに対し、g−1g=eであり、H は部分群だからe∈H よってg∼g となり、反射律が成立する。
g1, g2∈G, g1∼g2 のとき、g2−1g1∈H である。g1−1g2= (g2−1g1)−1 であることとH が部分群であることから g−11 g2∈H,よってg2∼g1 となり、対称律が成立する。
g1, g2, g3∈G, g1∼g2,g2∼g3のとき、g2−1g1∈H,g3−1g2∈H である。g3−1g1= (g3−1g2)(g2−1g1)であること とH が部分群であることからg−13 g1∈H,よってg1∼g3 となり、推移律が成立する。
よって∼は同値関係である。
Gが可換群のときには左剰余関係と右剰余関係は同じものになるので、単に剰余関係と呼ぶ。
例 6.7. kを正の整数として、kZ:={kn|n∈Z}とする。これはZの部分群である。
a∼kZb は、aをkで割った余りとbをkで割った余りが等しい、ということと同値である。(「剰余関係」と いう言葉はここから。)
特に、a∼2Zb⇔aとb の偶奇が等しい。
6.3 同値類・商集合
類別のもう一つの素朴な見方として、「類別・分類とは分けること、分割することである」と考えることがで きる。
数学的には、集合X をその部分集合たちによって分割すること、すなわち、全体をカバーするように、かつ互 いに交わらないように部分集合の集合をとること、と考えられる。
同値関係が与えられたとき、そのような分割を作ることができる。(よって、同値関係は類別に対応している。) 定義6.8. X を集合、∼をX 上の同値関係とする。
x∈X に対し、xの∼に関する同値類C∼(x)を
C∼(x) :={y∈X|x∼y}
で定める。
命題6.9. X を集合、∼を X 上の同値関係とする。
(1)X =S
x∈XC∼(x).
(2)x, y∈X について、x∼y ならば C∼(x) =C∼(y),x6∼y ならば C∼(x)∩C∼(y) =∅.
よって、C∼(x)たちはX をカバーし、また同じものは一回だけ取ることにすると、互いに交わらない。
証明. (1)⊇は明らか。
⊆を示す。∀x∈X に対し、x∼xだからx∈C∼(x). よってxは右辺に属する。
(2)x∼y とする。任意のz∈C∼(x)を取るとx∼z. 対称律と推移律を用いてy∼z,よってz∈C∼(y). した がってC∼(x)⊆C∼(y). 同様にしてC∼(x)⊇C∼(y)も示せる。
x6∼yとする。C∼(x)∩C∼(y)6=∅と仮定すると、z∈C∼(x)∩C∼(y)が取れる。このときx∼z,y∼z,対称 律と推移律を用いてx∼yとなり矛盾。よって C∼(x)∩C∼(y) =∅.
定義6.10. X を集合、∼をX 上の同値関係とするとき、X の∼による商集合X/∼を
X/∼:={C∼(x)|x∈X}
と定める。
商集合についての多くのことは、集合としてのC∼(x)の細部に立ち入らず、次のように扱える。(もちろん、集 合としてのC∼(x)の情報が必要なこともある。)
• 各x∈X に対してC∼(x)というX/∼の元が定まり、
• 逆に任意のX/∼の元はあるx∈X に対してC∼(x)と書け、
• C∼(x) =C∼(y)が成り立つのはx∼y のとき。
π∼:X →X/∼;x7→C∼(x)を自然な射影という。上で箇条書きにしたことから、
• π∼ は全射である
• ∼は写像π∼ から決まる同値関係である
と言い換えられる。最初に述べた「種類の名前による類別」とくらべてみると、「種類の名前」を付ける代わりに、
「同じ種類のもの全体」を類と考えている。
6.4 剰余集合
定義6.11. Gを群、H をGの部分群とするとき、
G/H:=G/∼lH, H\G:=G/∼rH と定め、それぞれGのH による左剰余集合、右剰余集合と呼ぶ。
命題6.12. Gを群、H を Gの部分群とする。g∈Gに対して、
C∼l
H(g) =gH :={gh|h∈H}, C∼rH(g) =Hg:={hg|h∈H}.
証明. 左剰余類の方を示す。左剰余関係を∼,左剰余類をC(g)と書く。
g0 ∈C(g)のとき、g∼g0 だから (g0)−1g ∈H. すなわち、あるh∈H に対して(g0)−1g =hとなる。このと きg0=gh−1 であり、h−1∈H よりg0∈gH.
g0∈gH のとき、ある h∈H に対してg0 =ghとなる。このとき (g0)−1g=h−1∈H, よってg∼g0,よって g0 ∈C(g).
g が左に付くのが左剰余類、右に付くのが右剰余類、と憶えるとよい。
例 6.13. S3の部分群H ={id,(1 3)} に対して、
id·H ={id,(1 3)}, (1 3)H ={(1 3)·id,(1 3)(1 3)}={(1 3), id}=id·H.
この二つが等しいことは、(1 3)∈id·H であることとg0∈gH⇒g0H =gH から分かることでもある。同様に、
(1 2)H={(1 2),(1 3 2)}
で、(1 3 2)H はこれと同じ。
(2 3)H={(2 3),(1 2 3)}
で、(1 2 3)H はこれと同じ。以上でS3 の元は全部出たから、左剰余集合は
S3/H={id·H,(1 2)H,(2 3)H}={{id,(1 3)},{(1 2),(1 3 2)},{(2 3),(1 2 3)}}
となり、3つの元からなる集合である。
例 6.14. k を正の整数として、Z の部分群 kZ を考える。(この kZ は剰余類と似た形だが別物なので注意。)
a∈Zに対し、aの kZを法とする剰余類は
a+kZ={. . . , a−2k, a−k, a, a+k, a+ 2k, . . .}.
たとえばk= 2のとき0 + 2Z= 2 + 2Z=−2 + 2Z=. . ., 1 + 2Z=−1 + 2Z= 3 + 2Z=. . . となり、剰余集合は Z/2Z={0 + 2Z,1 + 2Z} (0 + 2Z6= 1 + 2Z)
という2元集合である。
例 6.15. G= GLn(R),H = SLn(R)のとき、A∈Gに対してAH={X ∈G|detX= detA}.
よって各剰余類は、行列式が一定の値を持つもの全体であり、GLn(R)/SLn(R)とR\ {0}の間に自然な一対一 対応ができる。
一般的な場合には、次のように扱える。
• 各g∈Gに対し、gH というG/H の元が定まる。
• 逆に、任意のG/H の元はあるg∈Gに対してgH と書ける。
• g1H =g2H ⇔g2−1g1∈H ⇔g1−1g2∈H ⇔g2∈g1H ⇔g1∈g2H 等…
7 Lagrange の定理、 Fermat の小定理
7.1 Lagrange の定理
群の位数とその部分群や元の位数の関係について、以下の「Lagrangeの定理」を示す。これは、有限群を調べ る際に基本的かつ有用である。
定理7.1. G を有限群とする。
(1)H を Gの部分群とするとき
|G|=|G/H| · |H|=|H\G| · |H|.
よって|H| は|G| の約数、|G/H|=|H\G|.
(2)g∈Gについて、ord(g) は|G| の約数。
補題7.2. g∈Gとする。写像f :H →gH を h7→ghにより定めると f は全単射。写像f0:H→Hg;h7→hg も全単射。よって|gH|=|Hg|=|H|.
証明. f について示す。f0 も同様。
定義gH={gh|h∈H} より、f が全射であることは明らか。
f(h) =f(h0)とするとgh=gh0,左からg−1 を掛けるとh=h0,よってf は単射。
定理の証明. (1)Gは H を法とする左剰余類たちに分割される。補題よりそれぞれの左剰余類は|H|個の元を持 ち、左剰余類の数は|G/H|だから、|G|=|G/H| · |H|が成り立つ。|G|=|H\G| · |H|も同様。
(2) ord(g) =|hgi|であり、hgiはGの部分群だから(1)より|hgi|は |G|の約数。
定義7.3. |G/H| (これは |H\G|に等しい)をH のGにおける指数と呼び、(G:H)と書く。
7.2 群 Z/nZ, (Z/pZ)
×と well-definedness
ここではZ/nZ, (Z/pZ)× という群を定義する。その際、well-definedという概念について説明する。Z/nZは、
後で述べていく剰余群の最も基本的な例である。
a∈Zに対し、Z/nZの元a+nZをaと書くことにすると、Z/nZは以下のように扱える。
• 任意のa∈Zに対し、aというZ/nZの元が定まる。
• 逆に、Z/nZの任意の元は、あるa∈Zを用いてaと書ける。
• a=b⇔a−b∈nZ⇔a−bは nで割り切れる。
• (以上の帰結として)Z/nZ={0,1, . . . , n−1}となる。
Z/nZ上の演算+を、a+b:=a+b で定義したい。
「定義する」でなく「したい」というのはなぜかというと、x, y∈Z/nZをx=a, y=bと表すとき、a, bの選び 方はいろいろあり、選び方によってa+bが変わってしまうと二項演算にならない(写像Z/nZ×Z/nZ→Z/nZ が定まらない)からである。
そこで、示すべきことは次の通り:
a+b はa, bの選び方によらない。
これを、「演算a+b:=a+b はwell-definedである」という。