ブッシュ 大統領 は、米 国本土 、それ も軍事 、経 済の中枢部 へのテ ロ攻撃 という 前例の ない、 未曾 有の惨事に 毅然と 対応し 、大統 領と米 国旗の 下に 結集した米国民の期待に報いた 。9.11から半 年以 上という予 想以上 の長い 間、大 統領の 仕事振 りと テロ への対 応の両 面で7割以上 という 異例の 高い 支持率を維 持して いる。 こうし た中で 、アフ ガニ スタンでの 軍事作 戦は継 続して いるが 、第二 段階 としてイラ クが浮 上して いる。 しかし 同盟国 や中 東諸国の支 持取り 付けは 容易で はない 。米国 内で どのような議論が行われているのだろうか。
ブッシ ュ政権 の対外 姿勢に ついて は、9.11前 、 京都議定書 、CT BT(包 括 的 核 実 験 禁 止 条 約 )など 各種の多国 間枠組 みを嫌 いまた 撤退す る傾向 を示 し、狭い意味で の国益 中心の 単独行 動主義(ユ ニ ラ テラリ ズ ム )ではな いかと 懸念す る声が 国内外 で聞 かれた。しかし、9.11へ の対応 の過程 で、国 際的 な対テロ連 合形成 に向け 、ロシ アや中 国との 関係 改善、アフ ガニス タン内 の複雑 な情勢 や周辺 諸国 の情勢に配 慮した 対応、 APE CやW TOの 場で の 合意形 成の努 力など 、多国 間主義(マ ル チ ラ テ ラ リズム)とは言えな いが国 際協調 主義的 姿勢に 変化 したのではないかとみられた。
しかし、 その後 も、A BM条 約から の一方 的撤 退、大量破 壊兵器 拡散へ の懸念 を強く 表明し なが ら、依然と してC TBT に反対 する姿 勢など 、自 国中心的な 単独行 動主義 は変わ ってい ないと の見 方や批判が されて いる。 米欧関 係につ いても 、両 者間 の「利 益と軍 事力の 不均衡 の拡大 」の故 に摩
擦が伝 えられ ている 。そし て1月 末の一 般教書 演 説における「悪の枢軸」発言やその後の「核態勢の 見直し」の秘密指定分の内容のリーク報道があった。
前者 につい ては、 北朝鮮 、イラ ン、イ ラクそ れ ぞれにブッシュ政権として無視できない状況があっ たと思われるが、「悪」という表現は善悪二元論 的 なアプ ローチ であり 、非妥 協的な 姿勢が 浮かび 上 がる。 また3カ国を 同列に 論じそ れを一 つに括 る ことの問題は否定できない。
後者 につい ては、 前述の3カ国 にシリ ア、リ ビ ア、中国、ロシアが米国の核配備計画の対象となっ ている との内 容は、 当該国 からの 反発を 別にす れ ば、欧 州から は通常 の計画 立案と の冷静 な見方 も 聞かれ るが、 地下施 設の破 壊など 通常兵 器では 困 難な場 合にお ける使 える核 兵器の 開発な どへの 言 及は米国内でも論議を呼んだ。
それではイラク、「悪の枢軸」発言そして米国 の とるべ き対外 姿勢に ついて ブッシ ュ政権 以外の 声 はどのようなものなのか。
イラ クにつ いては 、政権 発足以 前から 体制変 革 (regime change)の必要を主張する人々がおり、ウォ ルフォ ヴィッ ツ国防 副長官 など一 部は政 権入り し ている 。また クリス トル元 クウェ イル副 大統領 首 席補佐 官など は、米 国の対 外的な 指導力 の積極 的 な発揮 を求め ており 、イラ クに対 しても 同じく 強 硬な姿勢を主張している。
共和 党や保 守派だ けでは ない。 イラク に関す る 最強硬派の1人であるパール元国防次官補とファー ス元安 全保障 問題担 当ゴア 副大統 領補佐 官のイ ラ
No.117 / 2002/4 2
9.11後の米国の対外姿勢をめぐる議論
Debates on Post-9.11 U.S. Foreign Policy
新田紀子
アメリカ研究センター主任研究員NITTA, Noriko, Senior Research Fellow, Center for American Studies
視点 Point of View
【プロフィール】
慶応義塾大学法学部政治学科卒、スタンフォード大学政治学修士号取得。外務省入省後、
海外広報課、在カンザス・シティ総領事館、北米第一課課長補佐を経て、1999 年 12 月 より JIIA アメリカ研究センター主任研究員兼太平洋経済協力会議(PECC)日本委員会事務 局次長
【主な論文】
「変化の信託を担うクリントン氏」『外交フォーラム』(1992 年 12 月号)、「米国の独立 検察官制度―その成立と展開―」『議会政治研究』 (1995 年9月)、「「実験国家・アメリ カ」の不安」『This is 読売』(1996 年 10 月号)、「ブッシュ大統領の政治姿勢―「思いや りのある保守主義」を中心に―」『平成 12 年度外務省委託研究報告書 米国内政:共和 党−現状と動向−』( 2001 年 3 月)
クに関する 論戦は 興味深 い。タ イミン グやそ のイ ンプリケー ション への配 慮や国 際的な 支持や 協調 の必要性に ついて 違いが あり、 それは また重 要な 点であるが 、フセ イン体 制の変 更が必 要との 考え 方に相違はない。ゴア前副大統領も最近の演 説で、
テロ の脅威 の根源 となる 原因(root cause)に 目を 向ける必要性や、軍事行動の「失敗は許され 」ず、
また 米国の 「死活 的利益 に…… どのよ うな余 波を 伴うかにつ いて十 分な配 慮」が 必要と 強調し なが らも、「外交的余波への考慮を後回しにしても「悪」
を「悪」と 呼ぶこ とその ものが 価値を 持つこ とも ある」と述べている(ともに『論座』2002 年 4 月号)。 民主党の中には意見の違いがあ るが 、2000年 の大 統領選挙で 同党の 副大統 領候補 であっ たリー バー マン上院議 員はイ ラクに おける 体制変 革を強 く主 張している。
ニューヨー ク・ タ イムズ 紙のト マス ・ フリ ード マン は、ブ ッシュ 政権の 外交に 対する 問題 や「悪 の枢軸」発言への批判を受け入れるとしなが らも、
テロ に対し て「失 われた 米国の 抑止力 」を回 復す る意思の表 れの一 つとし て肯定 してい る。こ うし た発言の背 景には 、米国 の世界 におけ る圧倒 的に 優位な立場があろうが、まさに9.11がもたら した 影 響であ ろう。 ジョ セ フ ・ ナ イ 元 国 防 次 官 補 は 、 米国は一般 的には 多国間 主義を 選択す べきで ある と主張して いるが 、単独 行動が 適切な 場合に はそ れを辞すべきではないと明確に述べている。
3月 上旬の1つの 世論調 査に よ れ ば 、 イ ラ ク の 体制変革の ための 軍事行 動を支 持し、 米国内 での テロリスト の大規 模な攻 撃の可 能性に 懸念を 持つ 者はそれぞ れ約7 割であ る。2 月には 、イラ クに 言及してい るわけ ではな いが、 幅広い 政治的 スペ クトラムの 知識人 が対テ ロ戦争 を支持 する公 開書 簡を発出した。外交問題評議会のウォルター・ラッ セル・ ミー ドは3月の講 演で、 半年前 は体制 変革 という考え 方に納 得して いなか ったが 、と考 え方 の変化を示 唆し、 事実を よく見 て欲し いと語 って いた。
イラクの大量破壊兵器(核 、 生 物 、 化 学 )の脅 威を 指摘し、軍 事力行 使を視 野にお いてい る米国 であ る。しかし イラク は破綻 国家ア フガニ スタン とは 異なる。ま た対テ ロ戦の 第一段 階で米 国と共 同歩 調をとった 各国の 中には それぞ れの事 情があ る。
米国は「一人で行く(go‑it‑alone)」のであろうか。
まずブッシュ政権の2つの動きを指摘したい。
ブ ッ シ ュ 大 統 領 は 、 大 統 領 選 挙 戦 中 、 国 づ く り (nation‑building)へ の米国 の関与 に否定 的であ っ た。アフガニスタンにおいても当初同様であった。
しかし 最近、 アフガ ニスタ ンへの コミッ トメン ト に言及 し、ま た一般 教書演 説の後 半では 、平和 部 隊の拡 大とい う形で の米国 の対外 的な関 与につ い て述べ た。ま た、こ れまで 一般に 消極的 であっ た 対外援助についても、貧困が直接ではないにせ よ、
テロ の温床 を作る 原 因 に な る と の 認 識 を 披 露 し 、 まだ不 十分と の声は あるが 、対外 援助の 3年間 で 50億ドル増と援助と改革を 結びつ けたア プロー チ を発表 した。 前者に ついて は、ど こまで のコミ ッ トメン トなの か見定 める必 要があ り、後 者につ い ては、 議会の 支持を 得るた めに、 大統領 が高い 支 持率と いう政 治的資 産を使 ってど れだけ 実現に 努 めるか 見守る 必要が あるが 、姿勢 の変化 を示す も のなのかどうかを注視する必要がある。
チェ イニー 副大統 領がイ ラクを 念頭に 支持と 理 解を得 るべく 中東諸 国を歴 訪した 。米国 の対外 政 策をめ ぐる最 近の識 者の議 論では 、米国 が同盟 国 や他国 の支持 を得る ことの 必要性 があら ためて 確 認さ れてい る。J・ アイ ケン ベ リ ー 教 授 は 、9 .11 を、米 国がパ ワーを 抑制し ながら 各国か らの協 力 を得、 また安 全保障 や市場 へのア クセス を提供 し ながら 、外交 や後方 支援を 得ると いうこ れまで の 協力関 係を更 新する 機会に しなけ ればな らない と 述べ 、保守 派のF・ フ クヤマ も、イ ラ ク 戦 に つ い て「依 然とし て単独 行動は 不可能 であり 、同盟 と 支持を培う努力が必要」(読売新聞3月18日)と 述 べている。
9.11の衝撃 は、米 国に対 する脅 威を座 視 せ ず 、 単独での行動を躊躇しないとの姿勢を強めさせた。
他方、 この「新しい 戦争」 に勝利 するた めには 他 国の協 力が必 要なこ とも明 白であ る。文 明間の 対 立とい う構図 に陥る ことを 回避し 、イス ラム教 と テロリ ストを 注意深 く差別 化して きたブ ッシュ 大 統領である。9.11後、自身 の直感 への信 頼を増 し たと言 われる が、イ ラクや 深刻化 する中 東情勢 と いう現実に直面しその対応が注目 される 。9.11後 のブッシュ外交の成否が問われるであろう。
(3月27日記)