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■ ロシ ア 軍 「戦 争 準 備 」の 情 報 に 警 戒 感 強 め る米 国 ロシアがシリア和平をめぐる外交攻勢をさらに強めている。ロシアがシリア内戦で軍事介入を強 化していると報じられてから一週間。プーチン政権はアサド政権に対する軍事支援を続ける一 方、シリア沿岸部での大規模な軍事演習の計画を明らかにし、ロシア海軍の艦船をシリア沿岸 部に集結させ、この地域の緊張を高めておき、オバマ政権に対話を呼びかけている。プーチ ン政権の硬軟織り交ぜた揺さぶり外交に、オバマ政権は後手に回っている。 過去一週間の主な動きを見ながら、プーチン政権の一連の恫喝外交をレビューしていこう。 9月9日、ロイター通信は、「2名の米政府高官の話」として、「ロシアがシリアのタルトゥース港 に2隻の戦車揚陸艦を送り、少数のロシア軍部隊を派遣した」と伝えた。この米政府高官が、 「ロシアがアサド政権を支援するため、シリア内戦における航空戦闘にロシア軍が参加するた めの準備を進めている」と述べたことが大きく報じられた。 また同じ日のロイター通信は、「シリアの政治軍事状況に詳しいレバノン筋」の情報として、「ロ シア軍がシリア政府軍を助けてすでに軍事作戦に参加している」と報じた。この「レバノン筋」 は、「いまだにロシア軍は少数だ」としながらも、すでにロシア兵が戦闘に参加しているという衝 撃的なニュースを伝えた。 翌 1 0 日 に は 、 「 ロ シ ア が 小 火 器 や 携 行 型 ロ ケ ッ ト ラ ン チ ャ ー に 加 え 、 装 甲 兵 員 輸 送 車 BTR-82A や軍用トラックをシリアに送っている」と、少し具体的な兵器の情報が流れるようにな った。 さらに11日には米政府筋の情報として、「200名のロシア海軍の兵士がラタキア近くのシリア 軍空港に展開している」、「ロシアは SA-22 対空ミサイルをシリアに送り、シリア軍ではなく、ロシ ア軍がこのミサイルを運用する計画だ」、「ロシア軍がシリアの空港で軍事作戦を始めるための 準備にとりかかっている」とするセンセーショナルなニュースが国際メディアで流れた。これを受 けてオバマ大統領は、「ロシアがシリアへの軍事介入を強化しているのは、アサド政権が弱体
2015 年 9 月 17 日号
特集: シリア和平と対 IS 作戦をめぐる国際外交の裏
プーチンの「恫喝外交」に翻弄されるオバマ
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http://i-sugawara.jp/ 化し、ロシアに支援を求めている証拠だ。しかしロシアがアサドを支援しようとしても失敗に終 わるだろう」と述べて、プーチン大統領をけん制した。 ■ シリア沖 での 海 軍 演 習 を発 表 した ロシア ところがこの直後に、ロシア政府は、「シリア沿岸部で海軍演習の準備を進めている」と発表。 ロシア国防相は、「地中海における海軍演習は、今年5月、6月と8月にも実施しているルーテ ィーンであり、国際法にも完全に合致した行動だ」と説明。シリア政府との合意の下で進めてお り、全く問題はないと主張。ロシア黒海艦隊から誘導ミサイル巡洋艦モスクワを含む5隻の戦艦 と3隻の補給艦を送り、シリア領海で軍事演習を実施することを明らかにした。演習の目的は、 「空からの攻撃からシリア沿岸部を防衛することであり、各種大砲や短距離の対空防衛システ ムを試射することを含めた演習を実施する」ということだった。 実際にロシア海軍は今年の5月からシリア沿岸海域での活動を活発化させてきており、米海軍 はこの動向を注意深くモニターしてきたという。ロシア政府は、9月8日~10月7日の間にシリ アのタルトゥース近郊の海でロケットの試射を海軍演習の中で実施することを、9月3日に近隣 諸国に通告していたことが、キプロス航空当局などから確認されているという。 米国がシリアの空域を使って対イスラム国(IS)空爆作戦を実施している中、ロシア軍が大規模 な軍事演習をすることは危険が伴うが、この演習発表と同時にロシア政府は、米国政府に対し、 「意図しない事故等を避けるため、米露両国の軍同士の協力」を呼びかけた。ラブロフ外相は、 ウクライナ危機後に北大西洋条約機構(NATO)がロシアとの軍同士のコミュニケーションを断 絶する措置をとったことを非難し、「軍同士の交流は、意図しない、相互が望まない衝突を避け るために不可欠だ」と述べた。 ロシア政府とすれば、「ロシアがシリアでの軍事介入を強化している」と西側諸国が信じれば、 それだけ和平交渉における交渉力が高まると考えていることだろう。ロシアの動きに懸念を強 め、ロシアの意図を確認したいと米側に思わせておいて、軍同士のコミュニケーションチャンネ ルの開設を呼びかける高等戦術だと思われる。しかも、「西側がロシアの意図を理解できない のは、ウクライナ危機でコミュニケーションを断つ措置をとったからだ」と言うあたり、シリア和平 をめぐる交渉には、ウクライナ問題も絡めようという意図が読み取れる。 ■ アサド存 続 や むなしに 傾 く欧 州 勢 ロシアは、シリア和平に関する外交を展開する中で、「対イスラム国(IS)作戦に関係各国が一
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http://i-sugawara.jp/ 致団結すべき。アサド政権を対 IS 作戦の一員として認めるべきだ」という主張を繰り返しており、 西側諸国の中で、「IS を潰すためには少なくとも暫定的にアサド政権の存続は認めるしかな い」という考えが浸透しつつある。 米国と並び、最もアサド退陣の強硬派だった英国が、「アサド大統領が暫定的な期間、権力の 座に留まることを受け入れなければならない」言い出しており、フランスも「アサド大統領は将来 のある時期に権力から降りればいい」とこれまた態度を和らげている。オーストリアはもっとダイ レクトに「アサドを対 IS 作戦の一員に含めるべきだ」と主張しており、スペインも「シリア内戦を終 結させるにはアサドとの交渉は不可欠だ」と述べており、アサド退陣にこだわる国はどんどん少 なくなりつつある。 こうした中でロシアはドイツと個別の協議も続けており、ドイツは今やほぼロシアと立場を同じに している。ドイツのメルケル首相は9月12日、「シリア問題で我々はロシアと協力すべきだ」と演 説で述べ、シュタインマイヤー外相も同日、ロシア、フランス、ウクライナの外相と会談し、「シリ ア紛争を解決するための国際コンタクトグループを創設すべきだ」との意見で一致したことを明 らかにした。 同じく12日には、シリア国営放送が、「2機のロシア航空機が80トンの人道支援物資をシリア に輸送した」ことを大々的に報道。ロシアとシリアのアサド政権が連携して国際広報を行ってい る様子が分かる。 ■ 対 イス ラム 国 で 大 連 合 を呼 び か け るロシ ア とシ リア 9月14日に米国防総省は、「ロシアがシリアのラタキア南部に前線基地(Forward Operating Base)を設営しようとしている」と正式に発表。ロシア軍がシリアでの活動基盤の整備に取り掛 かっているとの見方を示した。これまでは「米政府筋」の未確認情報ばかりだったが、米国防総 省のスポークスマンが正式な見解を明らかにした。 9月14日には、ロシア政府も正式な見解を発表している。ラブロフ外相は、「ロシアはアサド政 権に対する軍事支援を行っており、今後も兵器供与を継続する。これはイスラム国対策が目的 であり、テロ対策支援である。これは今後も継続する。兵器供与に際しては、装備品の調整や 使用法の訓練といったサポート業務が含まれるのが通常であり、当然ロシア人の専門家がシリ アに赴き、そうしたサポート業務を実施する」と述べた。 同日、駐モスクワ・シリア大使も記者会見し、「ロシアはシリアにソ連時代から武器を提供し続け
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http://i-sugawara.jp/ ており、現在の紛争が始まった2011年から一貫してアサド政権の主要な国際的同盟国である。 しかし、ロシア軍がシリア領内で軍事作戦を実施しているというのは、米国を中心とする西側諸 国が撒き散らしたデマに過ぎない」と述べた。 一方でアサド大統領を含めた対 IS 国際連合を呼びかけ、シリア和平に関しても関係国すべて を集めたコンタクトグループの設立に向けた根回しをするロシアは、「対 IS 作戦を展開するア サド政権を支援する軍事支援は国際的にも問題なし」と主張して、シリアへの軍事支援をエス カレートさせておき、反体制派への支援を続ける米国、トルコやサウジアラビアを牽制しつつ、 欧州諸国を取り込み始めた。難民の流入で何とかシリア和平を進めたい欧州諸国の足元を見 つつ、これ以上のシリア内戦の悪化を防ぎたい米国に対して、「ロシア軍が背後に控えるアサ ド政権を打倒することを目指す反体制派を支援しても無駄。まずは協力して IS のような過激派 対策に乗り出そう」というメッセージを送っているものと思われる。 9月15日付共同通信によれば、シリアのアサド大統領はロシアの政府系テレビとの会見で、 「勢力を拡大させるイスラム国に対抗するため、欧米やアラブ諸国は一大連合を結成すべき だ」と提案。アサド大統領は、「トルコ、カタール、サウジアラビアや米国」の国名を挙げ、「これ らの国々がアサド政権打倒の立場を転換すれば、より現実的で幻想ではない反テロ連合がで きる。シリア政府はその連合に加わることに反対しない」と述べ、「アサド打倒を目指さないので あれば、米国等とも協力する意志がある」というメッセージを伝えた。プーチン大統領と完全に 歩調を合わせた動きだと考えられる。 アサド大統領はまた、「欧州がシリアからの難民の運命を心配するなら、シリアでのテロリストの 支援をやめるべきだ。シリア内戦の終結に向けて取り組まない限り、難民の脅威はなくならな い」と述べた。 15日、クレムリンのスポークスマンは、シリア問題でプーチン大統領がオバマ大統領との首脳 会談を求めていることを発表した。 ロシアはシリア問題で一気に勝負に出ている。米国の対シリア政策が全く機能せず、対 IS 軍 事作戦も空爆だけでほとんど効力を発揮せず、IS 支配地域が一向に減らない中、欧州におけ るシリア難民危機と、米・イラン核合意で生まれた戦略的な空間を、ここぞとばかりに使おうと攻 めに転じている。 アサド政権に対する軍事支援を強化して、ロシア軍の直接介入まで匂わせながら、米国の懸 念を強めておき、「反政府勢力の支援を通じたアサド政権打倒は認めない」という断固たる姿
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http://i-sugawara.jp/ 勢を見せつつ、より現実的な対 IS 軍事作戦およびシリア和平の提案をオバマ政権に突きつけ るプーチン政権。本稿執筆時点で、ホワイトハウスはロシア提案を真剣に協議していると伝えら れている。 9月末の国連総会では、ロシア提案に基づくシリア和平と対 IS 作戦のあり方が、主要な議題に なる可能性がある。このロシア提案に不満なトルコ、イスラエルやサウジアラビアは、あらゆる手 を使ってロシア提案をつぶそうと考えるかもしれない。 米国が対 IS 軍事作戦を開始してからちょうど一年。シリア問題をめぐる各国の綱引きと謀略戦 がますます激しくなりそうだ。 編集・発行人 菅原 出 発行日:2015 年 9 月 17 日(木)