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食品ロスの削減に向けて - J-Stage

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Academic year: 2023

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210 化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017

はじめに

「食品ロス」という言葉がメディアに登場する回数が増え ている.一つのきっかけとなったのは,2016年1月に発覚し た食品廃棄物の不正転売事案であろう.肥料としてリサイク ルされるはずの数万枚の廃棄ビーフカツが,市中で食品とし て販売されてしまったのだが,単に悪い業者が悪事を働いた ということだけではなく,そもそもなぜそんなにも大量の食 品を捨てなければならなかったのか,という点が大きくク ローズアップされた.

また,現在,世界の栄養不足人口は約8億と高水準にあ る(1).今後,世界人口が,2015年の73億人から,2050年に は97億人に増加すると推計されているなか(2),食料を無駄 にするなど許されないことであるはずが,世界で生産されて いる食料(可食部)のおおむね1/3が廃棄されていると言わ れている(3)

こうした状況を踏まえて,国連の「持続可能な開発のた めの2030アジェンダ」(2015年9月)では,ひときわ具体的 な目標として「2030年までに小売り・消費レベルにおける 世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ,収穫後損失 などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少さ せる」ことを掲げた(4)

食品ロスの発生状況

日本国内での食品廃棄物などの発生状況を推計すると,

まず食品の製造・流通・外食などの食品関連事業者から,年 間1,927万トンが排出されている.この中で,いわゆる「食 品ロス」にあたる,まだ食べられるのに捨てられている食品 の可食部分は,330万トンとなる.そして家庭からでる食品 廃棄物は870万トンであり,このうち食品ロスは302万トン だ.合算すれば約632万トンとなり,国民一人一日当たりに 換算した食品ロス量は約136 g,茶碗約1杯のご飯の量に相 当する.まさに,もったいない(図1

食品関連事業者からの廃棄物の発生状況を業種別に見る と,不可食部も含めた食品廃棄物など全体では,食品製造業

がその83%を占める.これを食品ロスの部分,つまり可食 部分だけに絞るとシェアは大きく変わり,食べ残しが多い外 食産業のウェイトが高くなる(図2

食品ロスを減らす法制度

国土が狭小で資源が乏しいわが国では,廃棄物の減量・

資源循環に関する意識が高く,容器包装リサイクル法や家電 リサイクル法など,さまざまな廃棄物リサイクルに関する個 別法が制定されている.2000年に制定された食品リサイク ル法(食品循環資源の再生利用などの促進に関する法律)も その一つであるが,ほかのリサイクル関連法と共通する原則 として,取り組みの優先順位の1位は発生抑制,すなわち廃 棄物を減らすことであり,そのうえでやむをえず発生した廃 棄物を再生利用(リサイクル)をすることが基本となってい る.

この制度の下では,食品廃棄物の発生量などが年間100ト ン以上の事業者は,主務大臣あてに廃棄物の発生状況や抑制 量,リサイクル率などについて毎年報告する義務がある.ま た,31業種について,廃棄物の発生量を抑制するための目 標値が設定されている(表1

また,多くの食品ロスが家庭から発生していることから,

食育や環境教育,消費者教育関係の法令の下でも,基本計画 などで食品ロスの削減が位置づけられており,複数の省庁が 連携をして対応している.

食品業界の取組:商慣習

食品ロスが発生するのは,誰が悪いのだろうか?

こうした社会問題は,ともすれば企業の営利主義などの 責任にされがちだが,フードチェーンで発生するロスは,利 益損失と廃棄コストに直結するため,経営的にも可能な限り 減らしたいものなのだ.需要の見込み違いで過剰生産した,

期待の新商品がヒットせずに終売となったなど,製造側に責 任がある問題もある.閉店間際まで商品棚が寂しくないよう に,多めの食品を陳列する小売りにも原因があろう.そし

食品ロスの削減に向けて

食べものにもったいないをもう一度

河合亮子

農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課食品産業環境対策室長 農政新時代を切り拓く技術の現在と未来-9

日本農芸化学会 ● 化学 と 生物 

バイオサイエンススコープ

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化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017

て,買い物客である私たちも,今日使う物であっても,一日 でも日付が新しいものを棚の後ろから探し出していないだろ うか.そしてだんだんと奥へと押しやられた商品が販売期限 を迎え,ひっそりと廃棄されているのである.

また,誰もが自分のところで廃棄を行いたくないため,

食品ロスの削減を巡って業界ごとに利害が対立することがあ り,その典型例が,製造・卸から小売りに食品を納品する際 の「納品期限」の設定方法だ.常温流通する加工食品の場 図1食品廃棄物などの発生量(平成25年度 推計)

図2事業系食品廃棄物などの発生量(平成 25年度)

表1食品廃棄物などの発生抑制目標値一覧

■発生抑制の目標値【目標値の期間:平成2641日〜平成31331日】

業種 基準発生原単位 業種 基準発生原単位 業種 基準発生原単位

肉加工品製造業 113 kg/百万円 そう菜製造業 403 kg/百万円 そのほかの飲食店 108 kg/百万円 牛乳・乳製品製造業 108 kg/百万円 すし・弁当・調理パン製造業 224 kg/百万円 持ち帰り・配達飲食サービス業(給

食事業を除く.

184 kg/百万円

水産缶詰・瓶詰製造業 480 kg/百万円 食料・飲料卸売業(飲料を中心 とするものに限る.

14.8 kg/百万円 結婚式場業 0.826 kg/人

野菜漬物製造業 668 kg/百万円 各種食料品小売業 65.6 kg/百万円 旅館業 0.777 kg/人

味そ製造業 191 kg/百万円 菓子・パン小売業 106 kg/百万円 【目標値の期間:平成2781日〜平成32331日】

しょうゆ製造業 895 kg/百万円 コンビニエンスストア 44.1 kg/百万円 業種 基準発生原単位

ソース製造業 59.8 kg/t 食堂・レストラン(麺類を中心 とするものに限る.

175 kg/百万円 そのほかの畜産食料品製造業 501 kg/t

パン製造業 194 kg/百万円 食堂・レストラン(麺類を中心 とするものを除く.

152 kg/百万円 食酢製造業 252 kg/百万円

麺類製造業 270 kg/百万円 居酒屋など 152 kg/百万円 菓子製造業 249 kg/百万円

豆腐・油揚製造業 2,560 kg/百万円 喫茶店 108 kg/百万円 清涼飲料製造業(コーヒー,果汁な ど残さが出るものに限る.

429 kg/t

冷凍調理食品製造業 363 kg/百万円 ファーストフード店 108 kg/百万円 給食事業 332 kg/百万円

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212 化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017 合,賞味期間の1/3以内の期限で店舗に納品する,いわゆる

「1/3ルール」を慣例と採用している小売企業が多い.たと えば賞味期間が6カ月以上の食品の場合,2カ月で納品期限 がくるため,賞味期間が4カ月も残っている食品が廃棄と なってしまう.店舗側にすれば,新しい食品のほうが販売に 余裕をもたせられるし,お客様にも新鮮な食品を供給できる メリットがあるが,製造側からは,この期限は欧米に比べて 厳し過ぎるし,店舗での回転率が速い食品については期限緩 和しても販売上のリスクとはならないとの意見が出されてい た.

それでは,実際に納品期限を緩和したらどうなるのか.

清涼飲料と,賞味期間180日以上の菓子について,期限を賞 味期間の1/3から1/2に緩和するパイロットプロジェクトを 実施した結果,小売り段階のロス率や消費者の購買行動に悪 影響を与えることなく,製造・卸段階でのロスを大きく削減 することができた(図3.この成果を踏まえ,総合スー パーやコンビニエンスストアを中心に納品期限の緩和が進み つつあるが,食品の取扱量が多い食品スーパーではまだ浸透 が浅い.

逆に,小売側のメリットが大きい商慣習としては,賞味 期限の年月表示化が挙げられる.食品表示基準では,賞味期 間が3カ月を超える食品については,賞味期限を年月日に代 えて年月で表示することが認められている.これにより,店 頭での商品管理が非常に簡素化できるし,買い手側も,あま り意味のない僅かな日付の違いに惑わされることもなくなる であろう.一方で,たとえば「2017年2月17日」が期限の 食品は,年月表示では「2017年1月」となり,月未満の日数 が切り捨てられた分,期間が短縮されてしまう.また,万が 一の事故のときの製品回収リスクを考えると,ロット番号を 付記する必要も生じるため,業界全体に取り組みが浸透する には時間が必要である.

食品業界の取り組み:技術の力

製造・流通・販売・消費者のすべてにメリットがあるの は,消費期限・賞味期限の延長である.上述の納品期限の緩 和や年月表示化も,同時に賞味期限が延長された場合には,

格段に取り組みが進めやすくなる.

近年,さまざまな加工食品の賞味期限の延長が行われ,

その背景には工場の衛生管理の徹底はもとより,製造工程の 改良や新たな包装容器の採用など,高い技術力に支えられた 企業努力が隠れている.身近な食品を例にとると,キユー ピー株式会社では,2002年に普通タイプのマヨネーズにつ いて,原料中の酸素を取り除く製法を採用し,賞味期間を7 カ月から10カ月に延長した.また,低カロリータイプの製 品についても,2005年に酸素吸収層を含む多層容器(酸素 吸収ボトル)を採用した結果,同様の賞味期間の延長に成功 している.さらに,2016年には,製造工程中の酸素を減ら す,あるいは配合を変更することにより,両製品とも賞味期 間を10カ月から12カ月に延長している(5)

また,「開封後はお早めにお召し上がりください」が決ま り文句であった食品の世界に一石を投じたのが,鮮度保持容 器の登場だ.醤油各社で採用が進み,いくつかタイプがある が,二重構造の容器と逆止機能のある注ぎ口により酸素の混 入を抑制することで,開封後3〜6カ月間,美味しさを保つ ことができると言う.当然,容器単価は高くなり,製品価格 にも反映しているが,後戻りのできない美味しさや利便性を 感じた消費者が多かったのだろう.旧容器からの転換が急激 に進んでいる.

一方で,食品の賞味期限が長いことは,それだけ保存料 などの食品添加物を多用しているとの印象を与えることが多 く,ネット上でも,いまだに「いつまでも腐らない食品」

「買ってはいけない」などのフレーズが無責任にとびかって いる.食品添加物の安全性や使用の是非については,ここで の議論は避けるが,実際には酸素濃度の低減や,製造工程に 図3納品期限の見直しに向けたパイロットプロ ジェクト

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おける衛生管理が重視されていることがあまり知られないま ま,薬品漬けとのイメージが先行しているのは残念でならな い.

おわりに

現在,当室では,食品ロスの削減に向けたさまざまな技 術が「見える化」できるよう,まずは食品の容器に着目し て,事例の収集を始めている.消費・賞味期限の延長だけで はなく,食品が包材に付着しにくい技術,家族の人数が少な くても一度で使い切れる小分け包装,量のコントロールがし やすい注ぎ口など,さまざまなアプローチがあり,身近な食 品に潜む高度な技術には感嘆させられる.まとまり次第,順 次公表したいと考えているが,その第一の目的は,食品ロス の削減に向けた企業努力が,ゆがめられることなく消費者に 伝わり,購買行動という利益となって戻ることだ.そして,

「化学と生物」にかかわる研究者の皆様が,さらなるブレー クスルーとなる技術を開発する後押しとなることを,強く 願っている.

文献

  1)  Food  and  Agriculture  Organization  of  the  United  Na- tions:  The  State  of  Food  Insecurity  in  the  World  2015,  http://www.fao.org/3/a-i4646e.pdf

  2)  United  Nations:  World  Population  Prospects,  the  2015  Revision, https://esa.un.org/unpd/wpp/

  3)  Food  and  Agriculture  Organization  of  the  United  Na- tions: Global Food Losses and Food Waste, 2011, http://

www.fao.org/docrep/014/mb060e/mb060e00.htm   4)  United  Nations:  Sustainable  Development  Goals  12, 

https://sustainabledevelopment.un.org/sdg12

  5)  キユーピー株式会社:ニュースリリース 2016 年 No. 1,  https://www.kewpie.co.jp/company/corp/newsrelease/ 

2016/01.html プロフィール

河合 亮子(Ryoko KAWAI)

<略歴>1990年名古屋大学農学部農芸化学・食品工業化学科卒 業/同年農林水産省入省/2013年文部科学省科学技術・学術政策 局政策課資源室長/2016年農林水産省食料産業局バイオマス循環 資源課食品産業環境対策室長<研究テーマと抱負>食品産業の環 境対策(食品ロス削減・食品リサイクル,容器包装リサイクル,

省エネ/温暖化対策)を担当

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.210

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