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第4章 ラグランジュ法を利用した運動方程式の誘導

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Academic year: 2025

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第 4 ラグランジュ法を利用した運動方程式の誘導

前節では運動量の保存からオイラーの運動方程式を導いたが、いわゆる水理学の教科書 の多くはニュートンの運動方程式から流体に対するオイラーの運動方程式を導いている。

この節では、オイラーの運動方程式がニュートンの運動方程式と同じものであることを 確認するとともに、ラグランジュ的な観測による加速度がオイラー的にはどの様に表現さ れるのかを確かめるために、ニュートンの運動方程式からオイラーの運動方程式を導くこ とにする。また、流体力学では直交直線座標系1ばかりでなく、流線を利用した直交曲線 座標系2も利用されるので、ここでは流線上の接線と法線を座標系としたときの運動方程 式の表現を考えることにする。

最期に流線上の接線方向の運動方程式から定常ベルヌーイの定理を導く。定常ベルヌー イの定理はエネルギー保存を表した式であるが、これが運動方程式を流線方向に積分する ことによって導かれることを確認して下さい。

4.1 流線上のニュートンの運動方程式

座標系 図のような、流線上の一点(e点)で、

接線をs軸、法線をn軸とする。接線 がx軸と成す角度をθとする。流速ベ クトルをv、接線方向と法線方向成分を それぞれvs , vn とする。v = (vs , vn)

n

v=(v , v )s n s

A

B C D

x θ

z

e

流線上の接線-法線座標系 対象物体 e点を中心としてs方向に長さ∆sn方向に高さ∆nの微小な四辺形の流体を

対象として運動方程式を考える。物体の中心の密度をρeとする。したがって、紙面 に垂直な方向の長さを単位長さとすれば物体の質量mm =ρe1で与 えられる。

ニュートンの運動方程式 この物体に対するニュートンの運動方程式は mdv

dt =F (4.1)

で与えられる。ここで、F は対象とする物体に作用する外力である。

4.2 外力

対象とする物体に作用する外力F は回りから作用する圧力による力と重力による力の 二つである。まず圧力について、断面AB、BC、CA、DAの中点に働く圧力をそれぞれ

1通常用いるxyあるいはxzの座標系を直交直線座標系と呼ぶ。オイラー座標と呼ぶこともある。

2流線のような曲線を座標とするもので、流線に常に直交する曲線との組合せで座標系として利用する。

(2)

papbpcpdとすると、s方向、n方向それぞれ

(pa×1−pc×1 s方向

pb×1−pd×1 n方向 の力が物体に作用する。重力についても

(−mgsinθ s方向

−mgcosθ n方向

p p

p

p

mg

n

s

a

b c d

微小四辺形に作用する外力 の力が作用する。したがって、

F =

(pan−pcn−mgsinθ s方向成分

pbn−pdn−mgcosθ n方向成分

4.3 質点の運動方程式

上式のmを密度で表し、両辺を∆1で割り、∆s、∆nを0に近づけると、微 小四辺形は密度ρの質点と見なすことができる。この質点の運動方程式は

ρdv dt =

µ

−∂p

∂s −ρgsinθ , −∂p

∂n −ρgcosθ

(4.2) 成分で表示すると以下のようになる。





ρdvs

dt =−∂p

∂s −ρgsinθ s方向成分 ρdvn

dt =−∂p

∂n−ρgcosθ n方向成分

4.4 加速度のオイラー的表現

質点の力学はラグランジュ的な観測を行っている ので式(4.2)の加速度もラグランジュ的な観測によ る速度を用いて以下のように定義される。

dv

dt = lim

t→0

v(t+ ∆t)−v(t)

t (4.3)

e v t

v t v(t)

v(t+t)

s n

n s

粒子の移動とラグランジュ流速 ここでv(t)は時刻tに点eにある粒子の時刻tの時の流速(ベクトル)であり、v(t+ ∆t) は、その粒子の時刻t+ ∆tの時の流速である。

次に、この速度をオイラー流に表現し直して、加速度がどの様に表されるかをを考えて

(3)

みる。まず、時刻tにおける粒子の位置を(se, ne, t)と表す。3 同様に時刻t+ ∆tの粒子の 位置は、∆t秒間速度v = (vs, vn)で移動すると考えて、 近似的に

(se+vst, ne+vnt, t+ ∆t)

と表すことができる。

時刻 座標 流速

ラグランジュ流 オイラー流

t (se, ne) v(t) v(se, ne, t)

t+ ∆t (se+vst, ne+vnt) v(t+ ∆t) v(se+vst, ne+vnt, t+ ∆t) オイラー流の観測では位置と時刻を指定すれば流速を表す(観測する)ことができる。ま た、流速に関しては同時刻、同じ位置であればオイラー流に測定した流速もラグランジュ 流に測定した流速も同じ流速を観測しているので、当然値も同じになる。したがって、式

(4.3)をオイラー流に観測した流速を用いて表すと次のようになる。

dv

dt = lim

t→0

v(se+vst, ne+vnt, t+ ∆t)−v((se, ne, t)

t (4.4)

時刻t+ ∆tの流速v(se+vst, ne+vnt, t+ ∆t)をテイラー展開を用いて表すと次のよ うに書ける。(この式の誘導は後で詳しく述べる。)

v(se+vst, ne+vnt, t+ ∆t) =v(se, ne, t) +vst∂v(se, ne, t)

∂s +vnt∂v(se, ne, t)

∂n + ∆t∂v(se, ne, t)

∂t +O(∆t2) ここで最期のO(∆t2)は、「これ以外にもいくつも項はあるが、全て∆tの2乗か3乗以上 の小さな項である」という意味である。この式を式(4.4)に代入して、加速度をもう一度 書き直すと

dv dt =vs

∂v

∂s +vn

∂v

∂n +∂v

∂t (4.5)

となる。これで、ラグランジュ流の加速度をオイラー流に表現したことになる。

実際、上式の右辺は前回、運動量方程式から求めたオイラーの運動方程式と同じ形式を 持っている。

4.5 オイラーの運動方程式

式(4.4)を式(4.2)に代入し、両辺を密度ρで割ると以下のような式が得られる。

∂v

∂t +vs∂v

∂s +vn∂v

∂n = µ

1 ρ

∂p

∂s−gsinθ , 1 ρ

∂p

∂n −gcosθ

(4.6)

3今、点eは座標の原点を取っているので、このseneの値は0であるが、値を代入することはもっと 後でもできるので、ここでは記号のままで話を進める。

(4)

成分表示すると

∂vs

∂t +vs

∂vs

∂s +vn

∂vs

∂n =1 ρ

∂p

∂s −gsinθ (4.7)

∂vn

∂t +vs∂vn

∂s +vn∂vn

∂n =1 ρ

∂p

∂n −gcosθ (4.8)

接線がx軸と平行な場合は角度θが0となり、s方向の運動方程式は水平方向のオイラー の運動方程式と、n方向の運動方程式は鉛直方向のオイラーの運動方程式と一致する。

4.6 定常ベルヌーイの定理

4.6.1 定常流中の接線方向の運動方程式

流れが定常であると仮定し、接線方向の運動方程式を考える。

∂vs

∂t +vs

∂vs

∂s +vn

∂vs

∂n =1 ρ

∂p

∂s −gsinθ (4.9)

定常流を仮定したので左辺第1項の時間微分(局所加速度項)は0になる。また流線上の 方程式であるので、流線上では接線方向にのみ流れがあり、法線方向流速(vn)は0であ る。よって、左辺第3項も0である。

vs

∂vs

∂s =1 ρ

∂p

∂s −gsinθ

左辺の項は数学の公式を用いて次のように書き換えておこう。

vs

∂vs

∂s =

∂s

½1 2vs2

¾

4.6.2 重力項の表現

次に右辺第2項の重力項について考える。図 を見るとsinθ

sinθ = ∆z

s

x

z

s θ

s

x z

θ e e

sの変化に対するzの変化量

と表せることが分かる。つまり、e点からs方向に∆s移動した点のz座標(という物理 量)はe点から見て∆zだけ増加している。そのz 座標の変化の割合∂z/∂sはsinθになっ ている。したがって

sinθ = ∂z

∂s

と表すことができる。

(5)

4.6.3 接線方向への運動方程式の積分 これらを用いて、式(4.9)を書き換えると、

∂s

½1 2vs2

¾

=1 ρ

∂p

∂s−g∂z

∂s

となる。ここでさらに、非圧縮性流体を仮定し、密度ρを微分の中に入れて、全ての項を 左辺に移行すると

∂s

½1

2vs2+ p ρ +gz

¾

= 0

この式はs方向に積分することができる。同じことであるが、物理的には 1

2v2s+ p ρ +gz

という物理量はs方向に変化しない(s方向の変化が0)ということを意味しているので、

1 2v2s+ p

ρ +gz =一定 同一流線上でのみ一定 (4.10) と表わすことができる。この式を 定常ベルヌーイの定理 と呼ぶ。

4.6.4 流線を軸とする曲線座標系

ここまで用いてきた座標系はある一つの流線上の 任意の点eを通る接線をs軸としているので、点e が移動すればs軸が変化し、s軸が水平(x軸)と成 す角度θも変化します。そこで、新たな座標系と して曲線である流線を座標軸sとし、これに垂直 に交わる曲線をn軸とするような曲線座標系を考 える。このような座標系を直交曲線座標系(あるい は自然座標系)と呼びます。

s n

O

流線を用いた自然座標系 この曲線座標系は、これまで用いてきた接線と法線を座標軸とする座標系と強い関係 があり、流線上の1点を指定すればその点の近傍(局所的)には曲線座標系と接線と法線 を座標軸とする座標系は一致すると考えてかまいません。つまり、微分や偏微分などの局 所的な変化を考えるときのミクロな見方をするときは接線と法線を座標軸とする座標系 として考え、もう少し大きな変化を見るとき(例えば1m先の流速とか10mのパイプの両 端での圧力とかを見るとき)には流線を用いた曲線座標系として考えれば良いということ です。

当然、定常ベルヌーイの定理は流線を座標系とする曲線座標系で成り立つ式です。流線 を用いて考えるときは流線そのものが一つの座標軸だと考えなさい。

(6)

4.6.5 定常ベルヌーイの定理の意味

式(4.10)の両辺に密度ρを掛けて各項を見直してみよう。密度は一定であると仮定して いるので、三項の和が一定であることに変わりは無い。

運動エネルギー 第1項は1/2ρv2sとなり、これは単位体積の流体が持つ運動エネルギーを 表している。

位置エネルギー 第3項はρgzで、これはz = 0を位置エネルギーの原点とした単位体積 の流体の位置エネルギーである。

圧力によるエネルギー 第2項は圧力pになる。他の2項と同じ意味になるはずなので、こ の項も単位体積の流体のエネルギーを意味するはずである。

圧力はこれまで『流体によって単位面積に働く力の大きさ』と考えてきた。ところが定常 ベルヌーイの式においては圧力は単位体積の流体の持つエネルギーでなければならない。

まず、次元を考えてみよう。各物理量の次元は次のようになっている。

密度ρ 流速vs 圧力p 力 エネルギ- 次元

"

M L3

# "

L T

# "

M L T2

1 L2

#

[N] [NL]

これらを用いて考えると

エネルギー 次元

運動エネルギー

"

M L3

# "

L2 T2

#

=

"

M L T2L 1

L3

#

=

"

NL L3

#

位置エネルギー

"

M L3

# "

L T2

# [L] =

"

M L T2L 1

L3

#

=

"

NL L3

#

圧力

"

M L T2

1 L2

#

=

"

M L T2L 1

L3

#

=

"

NL L3

#

となって、エネルギーの次元が[NL](力×距離)であることから、圧力の次元も、他のエ ネルギーと同じく単位体積当たりのエネルギーの次元と等しいことが分かる。つまり圧力 は『単位面積当たりの力の大きさ』であると同時に『単位体積当たりのエネルギー』でも あり、両方の意味を持っていることになる。

では、圧力はどんなエネルギ-と理解すれば良いのだろう?

これに対する明確な答えはなく、強いて言うなら、「内部エネルギー」のような用語が もっとも近いイメ-ジであろう。内部エネルギ-とは力学的なエネルギーではないエネルギー を意味していると理解すれば良い。水理学で扱うのは力学的な運動のみであり、力学的な

(7)

エネルギーには運動エネルギーと位置エネルギーしかない。これ以外のエネルギーで、条 件が整えば力学的なエネルギーに変換されるエネルギーを内部エネルギーと称する。

圧縮性流体の場合には圧力と熱エネルギーとの関係を表す状態方程式が基礎方程式に加 えられる。つまり、圧力の大きさと流体の温度が一定の関係で結びつけられており、内部 エネルギーとしての圧力の正体は熱エネルギーであるということになる。しかし、水のよ うな非圧縮性流体では、非圧縮性を仮定した時点で、熱エネルギーを無視して考えること になる。したがって、圧力は内部エネルギーのような良く分からないエネルギーとして理 解するしかない。4

4高校の化学でボイル-シャルルの法則として、気体の熱エネルギーに関して

P V =nRT

という式を学んでいる。ここでP;気体の圧力、V;気体の体積、n;モル数、R;ガス定数、T;気体の絶対温 (K)である。これは温度Tnモルの熱エネルギーnRTが気体の圧力と体積の積P V に等しいことを 表す式である。すなわち、圧力は単位体積の気体が持つ熱エネルギーnRT /V であることを示している。液 体の場合には気体と比べて比熱が非常に大きく、液体の温度と圧力が結び付くような熱力学的な考察は現実 的ではなく、このボイル-シャルルの法則を当てはめる必要はない。しかし、同じ流体であるので、圧力が 単位体積当たりのエネルギーであるという概念は熱力学的な考察からも学ぶことができる。

参照

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