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森林生態系におけるキバチ共生細菌による木質分解 - 化学と生物

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156 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

森林生態系におけるキバチ共生細菌による木質分解

ノクチリオキバチの木材生分解にかかわる酵素の探索

ノクチリオキバチ( )の幼虫はマツ属な どの針葉樹を食害することで知られており,近年ヨー ロッパ,オセアニア,北米において大量の枯死を引き起 こしている.本来,ノクチリオキバチの野生種はユーラ シア大陸や北アフリカ地域に生息し,多くの場合,枯れ 木や間伐材などへ加害するのみで立木への加害は軽微で あった.しかし,輸送の発達とともにノクチリオキバチ はオセアニア地域をはじめとした南半球に移送され,北 米においても2004年に初めて存在が確認されている.

それら新しい土地に定着したノクチリオキバチによる立 木への加害が進み,森林生態系が破壊される結果となっ た.特に北米ではキバチを含む昆虫による森林被害額が 31億円/年にも上り(1),森林生態系のみならず森林産業 においても深刻な問題となっている.

現在同定されている122種以上のキバチのうち*1,ノ クチリオキバチを含むキバチ亜科およびルリキバチ属は 白色腐朽菌 属と共生していることが報告 されており(2),キバチによる立木食害の実体は,この腐 朽菌が大部分を担っていると考えられてきた.Amylos- teriumは,ノクチリオキバチの雌成虫の産卵管上部に ある胞嚢(Mycangia)に共生しており,雌成虫による 木質内部への産卵の際に,同時に卵に植菌されることで 次の世代にも受け継がれる.本菌によって分解された木 質成分を栄養源としながら,キバチの幼虫は外敵のいな い木質内部で成長する.これまでの研究から,キバチの 種類によって,共生関係にある 属の種が 多様であることが報告されている.一方,さらに最近に なってAdamsらにより,ノクチリオキバチの胞嚢から,

Amylosteriumに加え,

γ

- 属や

属といった複数の細菌が単離された(3).それら細菌 の中から,非常に高いセルロース分解能を保有する細菌 も確認された.すなわち,ノクチリオキバチによる木質 分解において,胞嚢内に共生する真菌だけではなく細菌 の働きも重要であること,またそれら共生微生物群が協 調的に木質分解にかかわっていることが提唱された.そ こで本稿では,Adamsらの研究結果の中で最もセル

ロース分解能の高かった細菌の一つである   sp. SirexAA-E(以下SirexAA-E,図1参照)を供試菌 として,筆者らが取り組んできたバイオマス分解機構解 析の研究について紹介する(4).

まず初めに,SirexAA-Eが炭素源として利用できる 糖種を明らかにするため,49種類の単糖を炭素源とし て本菌を培養した.その結果,グルコースやキシロース をはじめとした19種類の単糖を含む培地において生育 が確認されたことから,本菌が木質由来単糖を広く利用 できることが明らかになった*2.また,セルロースやヘ ミセルロース,木質バイオマス試料といった固体高分子 基質も単一炭素源として生育できることも確認された.

一方で,SirexAA-Eの近隣種である土壌微生物 および は,セルロースを単一 炭素源として利用できなかった(図1A).したがって,

本菌はほかの 種とは異なり,菌体外に糖 質分解酵素を生産することで,木質由来の多糖を分解し 栄養源を得ていると考えられた.そこで,SirexAA-E をセルロースまたはキシランを単一炭素源としてそれぞ れ培養した際の培養上清(菌体外粗酵素液)について,

木質多糖の分解活性を測定した.図1Bに示したように,

両培養系において,それぞれセルロースまたはキシラン の分解活性が高くなることから,本菌が炭素源に応じて その分解酵素を生産していることが明らかになった.ま た,それら培養上清の比活性をセルロース高分解性真菌 由来の商業用酵素液*3と比較したところ(図1B),セル ロース分解活性は低い一方で,キシランおよびマンナン 分解活性は商業用酵素液*3よりも高い活性を示した.

とりわけ,マンナン分解活性が非常に高かったことは,

本菌はキバチが食害する針葉樹に存在するヘミセルロー スの主要成分であるグルコマンナンの分解に適した分解 酵素を生産している可能性を示していた.

つづいて,SirexAA-Eが菌体外に生産する酵素を網

*1オナガキバチなど,共生細菌を保持しないものも報告されている.

*2セルロース・ヘミセルロース・ペクチンといった木質の多糖成分 を構成する単糖のほとんどをSirexAA-Eは利用できたが,唯一マン ノースについては炭素源として利用できないことが確認された.

*3セルロース分解性糸状菌  RutC30株由来の Spezyme CPを用いた.  RutC30は野生株から数十世代の 人為的な遺伝子改変を行い,高い酵素分泌能力と比活性を有する.

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化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016

羅的に明らかにするために,培養上清についてプロテオ ミクス解析を行ったところ,炭素源によって生産される 分泌酵素のパターンに違いが確認できた.たとえばセル ロースを単一炭素源とした場合,培養上清中の全分泌タ ンパク質のうち,約85%が4つのセルロース分解酵素と 一つのマンナン分解酵素であった.一方,キシランを単 一炭素源とした場合は,約50%がキシランなどのセル ロース以外の糖質分解にかかわる酵素であった.これら の結果から,SirexAA-Eは利用できる炭素源の構成成 分によって,最適な酵素の分泌を制御していることが示 唆された.同培養条件下でのトランスクリプトーム解析 結果は,上述したプロテオミクス解析の結果を裏づける ものであった.また,セルロースまたはその分解産物の 一つであるセロビオース(グルコースが

β

-1,4結合した2 量体)培地における本菌のトランスクリプトームを比較 解析したところ,糖質分解酵素の発現パターンが類似し ていたこと,上方発現の認められた遺伝子の上流領域に 共通するDNA配列モチーフが確認されたことから,セ ロビオースが一連の糖質分解酵素をコードした遺伝子の 発現調節にかかわっている可能性が示唆された.

前述のプロテオミクスまたはトランスクリプトミクス 解析結果から,SirexAA-Eの分泌する酵素の中でも高 い分泌量を示したものについて異種発現により組換えタ ンパク質を取得した.たとえば,SirexAA-Eの高マン ナン分解能を担っていると考えられたマンナナーゼ(5), キチン分解酵素(6),ダイオキシゲナーゼ(7),ラミナリ ナーゼ(8)についてはX線結晶構造と詳細な生化学的性質 にかかわるデータが得られている.このうちマンナナー ゼについては,SirexAA-Eはマンナンの分解産物であ るマンノースを炭素源として利用できないことから,共 生するほかの微生物種へのマンノースの供給,あるいは マンナン系ヘミセルロースを除去することによる木質分

解の促進に寄与しているものと考えられた.

以上,ノクチリオキバチに共生するSirexAA-Eによ る木質系多糖の分解を中心に紹介したが,われわれは,

キバチ胞嚢に共生する微生物群全体が産出するバイオマ ス分解酵素の網羅的解析や,多糖とともに木質バイオマ スを構成する芳香族ポリマーであるリグニンの分解につ いても解析を始めている.

現在までに日本では上述したノクチリオキバチによる 森林被害は確認されていないが,いくつかのキバチによ る加害は報告されている.木質分解の実体を担う共生微 生物系が明らかになれば,キバチによる森林被害の防除 につながると期待される.また,森林害虫の共生微生物 が生産する高いバイオマス分解酵素は,木質バイオマス からのバイオエネルギー産出において有用なリソースと 捉えることもできる.特にわれわれは,キバチに共生す る複数の異なる微生物による協調的な木質分解機構を理 解することで,バイオマス利用技術の発展につながるの ではないかと期待している.

(本話題の一部は,JSPS科研費15K18812および京都 大学生存圏研究所の生存圏科学萌芽研究からの助成を受 けている)

  1)  D.  Pimentel,  R.  Zuniga  &  D.  Morrison:  , 52,  273 (2005).

  2)  N. M. Schiff, H. Goulet, D. R. Smith, C. Boudreault, A. D. 

Wilson & B. E. Scheffler: 

21, 1 (2012).

  3)  A. A. Adams, M. S. Jordan, S. M. Adams, G. Suen, L. A. 

Goodwin,  K.  W.  Davenport,  C.  R.  Currie  &  K.  F.  Raffa: 

5, 1323 (2011).

  4)  T. E. Takasuka, A. J. Book, G. R. Lewin, C. R. Currie & 

B. G. Fox:  , 3, 1030 (2013).

  5)  T.  E.  Takasuka,  J.  F.  Acheson,  C.  M.  Bianchetti,  B.  M. 

Prom, L. F. Bergeman, A. J. Book, C. R. Currie & B. G. 

Fox:  , 9, e94166 (2014).

  6)  T.  E.  Takasuka,  C.  M.  Bianchetti,  Y.  Tobimatsu,  L.  F. 

Bergeman, J. Ralph & B. G. Fox:  , 82, 1245 (2014).

図1培養上清の酵素活性

A. ろ紙を単一炭素源として1週間培養した様 子.左からろ紙と培養液のみ,SirexAA-E, 

 RutC30の 結 果 を 示 す.B. SirexAA-Eの セ ル ロ ー ス

(青)またはキシラン(赤)添加培養上清液 のセルロース,キシラン,マンナン分解活性 の評価.商業用酵素液を100%とした相対活 性を示す.

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158 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016   7)  C. M. Bianchetti, C. H. Harmann, T. E. Takasuka, G. L. 

Hura,  K.  Dyer  &  B.  G.  Fox:  , 288,  18574  (2013).

  8)  C. M. Bianchetti, T. E. Takasuka, S. Deutsch, H. S. Udell,  E.  J.  Yik,  L.  F.  Bergeman  &  B.  G.  Fox:  ,  290, 11819 (2015).

(髙 須 賀 太 一*1,堀  千 明*1,ジ ェ ー ム ズ・エ リ ン  ガー*1,2,飛松裕基*3,*1 北海道大学大学院農学研究 院,*2 東京大学グローバルコミュニケーション研究セ ンター,*3 京都大学生存圏研究所)

プロフィール

髙須賀 太一(Taichi TAKASUKA)

<略 歴>2000年 徳 島 大 学 工 学 部 卒 業/

2009年米国パデュー大学理学部生化学学 科博士課程修了,同年米国ウィスコンシン 大学生化学部門ポスドク,米国エネルギー 省GLBRCバイオマス分解部門研究員(兼 任)/2014年北海道大学農学研究院テニュ ア・トラック助教,現在に至る<研究テー マと抱負>タンパク質工学,エピゲノム,

合成生物学<趣味>コーヒーショップに行 くこと,映画鑑賞<所属研究室ホームペー ジ>http://www.agr.hokudai.ac.jp/taka  suka/index.html

堀  千 明(Chiaki HORI)

<略 歴>2007年 東 京 大 学 農 学 部 卒 業/

2012年同大学大学院農学生命科学研究科 博士課程修了/2012年米国農務省林産研 究所,JSPS特別研究員/2013年理化学研 究所,JSPS特別研究員(PD)/2015年北 海道大学大学院農学研究院特別研究員<研 究テーマと抱負>植物と菌類の両方を研究 しながら,植物バイオマスの利用について 考えていきたいです<趣味>音楽鑑賞,温

ジェームズ・エリンガー(James ELLINGER)

<略歴>2004年ウースターダイ大学学部 生化学学科卒業/2012年ウイスコンシン 大学大学院生化学研究科博士課程修了/同 年ミネソタ大学研究所研究員/2014年東 京農業大学研究所研究員/2015年東京大 学特任講師<研究テーマと抱負>合成生物 学,メタボロミクス,核磁気共鳴,バイオ レメディエーション<趣味>自然,ジョギ ング,料理

飛松 裕基(Yuki TOBIMATSU)

<略歴>2004年京都大学農学部生物機能 科学科卒業/2009年同大学大学院農学研 究科博士後期課程修了,同年米国ウィスコ ンシン大学生化学部門ポスドク/2012年 同常任研究員,米国エネルギー省GLBRC 植物部門常任研究員(兼任)/2014年京都 大学大学院農学研究科助教/2015年同大 学生存圏研究所准教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>植物細胞壁の構造・形成・

分解/リグニンの化学・生化学・代謝工 学/バイオマス作物の分子育種<趣味>散 歩とコーヒー

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.156

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(E ISENBACH and M ITTLER , 1987)。また,害虫マルカメムシ においては,マメ科作物を効率よく利用できる性質に腸