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森林生態系の物質循環におけるササリターの役割

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Academic year: 2021

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博 士 ( 環 境 科 学 ) 渡 辺 恒 大

学 位 論 文 題 名

森林生態系の物質循環におけるササリターの役割

(The role of Sasa litter on biogeochemical cycling in forest ecosystem)

学位論文内容の要旨

  森林生態系の物質循環 においてりターフォールとりター分解は、植生から土壌に対する有 機物や化学成分の主要な 経路であり、森林生態系の有するさまざまな環境保全機能や生態系 サービスと密接に関連し ている。これまでの研究では、樹木を対象としていることが多く、

下層植生によるりターフ オールやりター分解、それらの物質循環過程における役割について は十分には明らかにされ ていない。本研究では北海道北部をはじめとして日本の代表的な下 層植生であるササを対象に、そのりターフオールやりター分解の特性を明らかにするともに、

攪乱に対する動態変化に ついて着目した。これまでの研究により、北海道北部の森林生態系 ではササが下層植生とし て密生しているため、樹木の天然更新や攪乱後の植生回復を阻害す る要因であることが指摘 されている。また、森林伐採などの森林施業の影響で土壌無機態窒 素が増加した場合、ササ の窒素吸収によって根圏土壌外への窒素流出を抑制する役割を果た すことが報告されている 。しかしながら、そのような攪乱影響下における窒素循環変化とり ターフオールやりター分 解との関係性については十分に理解されていない。そこで、本研究 は森林生態系におけるり ターフオールとりター分解に伴う有機物と養分動態についてササと 樹木との違いに着目し、 自然条件下および攪乱影響下での森林生態系の物質循環におけるサ サリターの役割を解明す ることを目的とした。

  第2章では、ササと樹木のりター動態の差異とその要因を解明することを目的として、リ′

夕ーフオールとりター分 解速度に関する現地観測を行った。その結果、自然生態系における ササのりターフォール量 は、樹木を含む全リターフオール量の約29%を占めていることが明 らかとなった。また、樹 木葉のりターフオールは積雪前の秋期に最大値を示したのに対し、

ササの葉や稈のりターフ オールは、積雪の影響によって冬期間に多いという傾向を示してい た。リターの分解過程に おいて、ササ葉や稈のりターには難分解性物質であるりグニン濃度 が樹木と比較して低いの にも関わらず、ササリターの分解速度は樹木葉リターよりも有意に 遅いことが明らかとなっ た。その原因として、ササリターは樹木葉リターよりもケイ素濃度 が有意に高く、ケイ素が 難分解性物質としてササリター分解速度に負の影響を及ぼしている ものと考えられた。ササ リターの分解速度が遅いことは、リターフォールによって土壌に供 給 され た有 機物 や養 分を りタ ー層 に保 持す る上 で 定量 的に 重要 な役 割を 果たしていた。

  第3章では、森林伐採や掻き起こしなどの短期的な 土壌窒素の増加が、ササが優占する生 態系の窒素循環に及ぽす 影響をりター動態の変化を中心に解明することを目的として、異な る窒素施肥量によるプロ ットレベルの窒素施肥実験を行った。窒素施肥による土壌窒素増加 に対し、ササ地上部の乾 物重量や窒素吸収量は、高窒素施肥区(15gN111‑2 year.1)におい て対照区や低窒素施肥区(5gNm.2year・1)よりも有 意に増加した。一方で、低窒素施肥区 では有意な変化は認めら れなかった。窒素施肥による土壌―植生内の各コンパートメントに おける窒素増加量を解析 したところ、低窒素施肥区では施肥された窒素のほとんどがり夕一

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層に保持されていると考えられた。一方、高窒素施肥区ではりター層に保持しきれなかった 窒素が生じたため、ササによる窒素吸収や根圏土壌下への窒素流出量が増加したものと考え られた。高窒素施肥区では、施肥によって窒素吸収量が増加したものの、ササ葉のりターフ オール量やりターの窒素濃度には有意な変化が認められなかった。このことは、土壌窒素増 加に伴う窒素吸収量増加とササ地上部乾物量が連動し、その結果としてりターの窒素濃度が 維持されたことが示唆された。これらの結果より、森林伐採などの攪乱による短期的な土壌 窒素増加に対するササリターの動態は、その攪乱規模の違いによって異なるものの、その余 剰窒素はりター層やササ地上部に保持されることで、リターフオールやりター分解への攪乱 影響が緩和されているものと考えられた。

  第4章では、大気窒素沈着などの長期的な土壌窒素の増加が、ササ地上部とりター動態に 及ぽす影響について、ササと樹木の窒素応答を比較することで明らかにすることを目的とし た。そのため、流域レベルでの長期窒素施肥実験において、ササ地上部やりターフオール、

リ夕一分解の動態を比較した。ササ地上部バイオマスに含まれる窒素量と、樹木葉のりター フォールによる窒素還元量は対照流域よりも施肥流域で有意に高く、長期にわたる施肥処理 によってササと樹木の窒素吸収量が増加したものと考えられた。ササ地上部パイオマスは対 照流域よりも施肥流域で有意に高くなる傾向が認められたのに対し、ササのりターフオール やりターの窒素濃度については流域問で有意な差は認められなかった。したがって、樹木葉 では施肥窒素の影響によってりター窒素濃度が上昇し、リター分解が速まったのに対して、

ササリターは窒素濃度の変化が認められず、施肥流域におけるササリターの分解速度には施 肥による有意な変化が認められなかった。っまり、大気汚染などの長期的な土壌窒素増加に 対して、下層植生であるササの応答パターンは林冠植生である樹木とは異なり、窒素吸収量 が 増 加 す る も の の 、 リ タ ー 動 態 へ の 影 響 は ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た 。   第5章では、各章で得られた知見を統合し、自然・撹乱生態系におけるササリターの役割 について総合的な考察を行った。自然生態系においてササリターフオールによる有機物・養 分還元量は非常に多く、その分解速度は樹木葉リターよりも遅いため、リター層により多く の有機物と養分が保持される役割を果たしていた。森林伐採などの短期的な撹乱において、

土壌微生物を含むりター層への窒素保持が重要な役割を果たしていた。しかしながら、攪乱 程度が大きくなり、リター層の窒素保持容量を超えてしまうと、ササの窒素吸収が増加する と同時に、土壌からの窒素溶脱リスクが高まった。その場合においても、攪乱後のササ地上 部バイオマスの増加によって、ササ地上部の窒素濃度は維持され、リターフォール量やりタ ー分解プ口セスの変化が緩和される傾向が認められている。一方、大気汚染などの長期的な 攪乱によって土壌無機態窒素量が増加した場合には、ササによる窒素吸収や地上部パイオマ スの窒素濃度が高まることが明らかとなった。このことは長期的な窒素流入により、リター 層の窒素保持容量を超えたことを示唆している。しかしながら、ササのりターフオールやり ター分解 速度は樹木と比べて変化が小さいという特性を有していることが示された。

  以上のことから、下層植生であるササのりター動態は、林冠植生である樹木とは異なる特 性を持っており、さまざまな攪乱要因に対する森林生態系の物質循環応答を評価する上で非 常に重要な役割を果たしていた。攪乱影響下において、ササのりターフォールやりター分解 速度の変化規模は樹木と比べて小さく、ササリターの動態は環境変化に対する抵抗カが高い システムであると考えられた。このことから、将来における地球規模、地域規模での自然・

人為攪乱に対する森林生態系の環境保全機能や生態系サービスの変化や応答を予測する上で も 、 サ サ リ タ ー の 持 つ 役 割 が 重 要 な 要 素 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る 。

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学位論文審査の要旨

主 査    教    授    柴 副査   特任教授   笹      教    授    佐      特 任 助 教    福

田 英 昭 賀 一 郎 藤 冬 樹 澤加里部

学 位 論 文 題 名

森林生態系の物質循環におけるササリターの役割

(The role of Sasa litter on biogeochemical cycling in forest ecosystem)

  森 林 生 態 系 の 物 質 循 環 に お いて りタ ーフ オー ルと りタ ー分 解は 、植 生か ら土 壌に 対 す る 有 機 物 や 化 学 成 分 の 主 要 な経 路で あり 、森 林生 態系 の有 する さま ざま な環 境保 全 機 能 や 生 態 系 サ ー ビ ス と 密 接 に関 連し てい る。 これ まで の研 究で は、 樹木 を対 象と し て い る こ と が 多 く 、 下 層 植 生 によ るり 夕二 フオ ール やり ター 分解 、そ れら の物 質循 環 過 程 に お け る 役 割 に つ い て は 十分 には 明ら かに され てい ない 。ま た、 森林 伐採 など の 森 林 施 業 の 影 響 で 土 壌 無 機 態 窒素 が増 加し た場 合、 ササ の窒 素吸 収に よっ て根 圏土 壌 外 へ の 窒 素 流 出 を 抑 制 す る 役 割を 果た すこ とが 報告 され てい る。 しか しな がら 、撹 乱 影 響 下 に お け る 窒 素 循 環 変 化 とサ サリ ター フオ ール やり ター 分解 との 関係 性に つい て は 十 分 に 理 解 さ れ て い な い 。 そこ で、 本研 究は 森林 生態 系に おけ るり ター フオ ール と り タ ー 分 解 に 伴 う 有 機 物 と 養 分動 態に つい てサ サと 樹木 との 違い に着 目し 、自 然・ 攪 乱 影 響 下 で の 物 質 循 環 に お け る サ サ リ タ ー の 役 割 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た 。   第2章 で は 、 自 然 生 態 系 に お け る サ サ の り タ ー フ オ ー ル量 は、 樹木 を含 む全 リタ ー フ オ ー ル 量 の 約29% を 占 め て いる こと が明 らか とな った 。ま た、 ササ の葉 や稈 のり タ ー フ オ ー ル は 、 積 雪 の 影 響 に よっ て冬 期間 に多 いと いう 傾向 を示 して いた 。リ ター の 分 解 過 程 に お い て 、 サ サ リ タ ーは 樹木 葉リ ター より もケ イ素 濃度 が有 意に 高く 、ケ イ 素 が 難 分 解 性 物 質 と し て サ サ リタ ー分 解速 度に 負の 影響 を及 ぼし てい るも のと 考え ら れ た 。 サ サ リ タ ー の 分 解 速 度 が遅 いこ とは 、リ ター フオ ール によ って 土壌 に供 給さ れ た 有 機 物 や 養 分 を り タ ー 層 に 保 持 す る 上 で 定 量 的 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い た 。   第3章 で は 、 森 林 伐 採 な ど の 短 期 的 な 土 壌 窒 素 の 増 加 が、 ササ が優 占す る生 態系 の 窒 素 循 環 に 及 ぼ す 影 響 を り タ ー動 態の 変化 を中 心に 解明 する ため に、 異な る窒 素施 肥 量 によ る施 肥実 験を 行っ た。 窒 素施 肥に 対し 、サ サ地 上部 の乾物重量や窒素吸収量は、

高 窒 素 施 肥 区 (15gNm‑2 year・1)に おい て対 照区 や低 窒 素施 肥区(5gNm'2 year.1) よ り も 有 意 に 増 加 し た 。 一 方 で、 低窒 素区 では 有意 な変 化は 認め られ ず、 施肥 され た 窒 素 の ほ と ん ど が り タ ー 層 に 保持 され てい ると 考え られ た。 一方 、高 窒素 区で はり 夕

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ー層に保持しきれなかった窒素が生じたため、ササによる窒素吸収や根圏土壌下への 窒素流出量が増加したものと考えられた。高窒素区では、施肥によって窒素吸収量が 増加したものの、ササ葉のりターフォール量やりターの窒素濃度には有意な変化が認 められなかった。このことは、施肥による窒素吸収量増加とササ地上部乾物量が連動 し、その結果としてりターの窒素濃度が維持されたことが示唆された。これらの結果 より、森林伐採などの短期的な撹乱による土壌窒素増加に対して、その余剰窒素はり ター層やササ地上部に保持されることで、リター動態への攪乱影響が緩和されている ものと考えられた。

  第4章で は、大気 窒素沈着などの長期的な土壌窒素の増加が、ササリター動態に及 ぼす影響について、ササと樹木の窒素応答を比較することで明らかにするため、流域 レベルでの長期窒素施肥実験を行い、ササ地上部やりターフオール、リター分解の変 化を調べた。樹木葉のりターフオールによる窒素還元量は施肥流域で有意に高く、長 期にわたる施肥処理によってササと樹木の窒素吸収量が増加したものと考えられた。

また、余剰窒素の一部は河川へと流出した。一方で、ササ地上部パイオマスは施肥に よって高くなる傾向が認められたのに対し、ササのりターフオールやりター窒素濃度、

リター分解については施肥による影響は認められなかった。これらの結果から、大気 汚染などの長期的な土壌窒素増加に対して、下層植生であるササの応答バターンは林 冠植生である樹木とは異なり、窒素吸収量が増加するものの、リター動態への影響は ほとんど認められなしゝことが示された。

  以上のことから、下層植生であるササのりター動態は、林冠植生である樹木とは異 なる特性を持っており、さまざまな撹乱要因に対する森林生態系の物質循環応答を評 価する 上で非常 に重要な 役割を果たしていた(第5章総合考察)。撹乱影響下におい て、ササのりターフオールやりター分解速度の変化規模は樹木と比べて小さく、ササ リターの動態は環境変化に対する抵抗カが高いシステムであると考えられた。このこ とから、将来における地球規模、地域規模での自然・人為撹乱に対する森林生態系の 環境保全機能や生態系サーピスの変化や応答を予測する上でも、ササリターの持つ役 割が重要な要素であることが示唆された。

  審査委員一同は,森林生態系の物質循環におけるササのりター動態に関わるこれらの成果 を高く評価し,また野外の長期観測や操作実験に対して熱心に取り組んできたことや、大学 院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受け るのに充分な資格を有するものと判定した。

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