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新型コロナがネット通販・消費者物流に与えた影響の初期段階

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(1)

1.はじめに

COVID-19(以下,新型コロナ)の感染拡大によって,日本では2020年 2 月25日に「新 型コロナウイルス感染症対策の基本方針( 1 )」が発表され,さらに 2 月27日には全国す べての小学校,中学校,高等学校,特別支援学校に対して,内閣総理大臣より 3 月 2 日 から春休み期間までの臨時休校が要請された( 2 )。 3 月12日には WHO が世界の流行状 況を「パンデミック」と宣言( 3 )し,日本政府や東京都をはじめたとした自治体でも外 出や店舗営業の自粛を求める空気が強まった。 3 月25日には東京都知事が週末の外出自

粛を要請( 4 ),さらに 4 月 7 日には政府から 7 都道府県を対象とした緊急事態宣言が発

出された( 5 )( 4 月16日には,対象を全国に拡大( 6 ))。その後,新規感染者がある程度

抑えられたこともあり, 5 月25日には緊急事態宣言は解除( 7 )されたが,2020年 6 月現 在では各自治体において,新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定に基づき,新型 コロナウイルス蔓延防止を目的とした外出自粛の要請や施設等の使用制限措置が取られ ている。

この結果,百貨店をはじめとした多くの小売店,飲食業が営業を自粛,または営業時 間の短縮を行った。また企業でも在宅勤務を導入しだしたことも相まって,都市部を中

( 1 ) 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf

( 2 ) 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56131560X20C20A2MM8000/

( 3 ) 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56692120S0A310C2000000/

( 4 ) 東京都 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/03/25.html

( 5 ) 内閣官房 https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitai_sengen_0407.pdf

( 6 ) 内閣官房 https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitaisengen_gaiyou0416.pdf

( 7 ) 内閣官房 https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitaisengen_gaiyou0525.pdf

《論 文》

新型コロナがネット通販・消費者物流に与えた影響の初期段階

―2020年 3 月から 5 月の概況を中心に―

宮 武 宏 輔

(2)

心に人出は大きく減少した。その結果として消費は大幅に落ち込み,小売業を中心に大 きな影響が生じた。一方,インターネット通信販売(以下,ネット通販)や出前など のフードデリバリーサービスを中心にした配送を伴う消費活動の利用は活発になり,宅 配便をはじめとしたラストマイル配送には一時的に大きな負荷が生じている。このよう な状況の中,在宅勤務時間の増加によって消費者も従来とは異なった受け取り方の様相 を示している。また宅配便事業者らもを「置き配」のような非対面型の配送方式を推進,

あるいは新規に採用するなどの動きを見せている。

本稿では新型コロナによる様々な経済的影響(以下,コロナ禍)について整理しつつ,

ネット通販や宅配便などの消費者物流への影響を俯瞰したうえで,コロナ禍が今後の消 費者物流について考察を行う。

2 .新型コロナの経済的影響

2 . 1  コロナ禍の小売業

NTT ドコモによるモバイル空間統計( 8 )によると,東京では緊急事態宣言から 2 週 間後時点では,感染拡大以前(2020年 1 月18日から 2 月14日)と比較して 6 ~ 7 割ほど 人出は少なく, 5 月25日の緊急事態宣言解除後は徐々に人出も戻ってはいるものの,感 染拡大以前と比べると 2 ~ 4 割減の人出となっている。

人出の減少は経済活動の低下,特に消費活動の低下にも繋がっている。経済産業省の

「商業動態統計」によると新型コロナ感染拡大が進行した2020年 3 月以降,消費税増税 の影響もあるであろうが,小売業全体の販売額はコロナ禍によって前年同月と比較して 大きく減少している。特に,百貨店を含む各種商品小売業や冬物セールや春物新作の販 売に影響を受けたアパレル関連での販売額減少は大きい( 9 )。一方,生活必需品である 飲食料品の売上は大きな変化はなく,ドラッグストアなどの医薬品関連についてはマス ク,消毒関連商品の売上が増加したことで販売額も伸びていると見られる。

( 1 )通販事業者への影響

「商業動態統計」における無店舗小売業の販売額は減少しているが,これは同調査が オンライン販売と店舗販売を併用している事業者の場合,販売額に占める割合を考慮 してどちらが主たる業態か振り分けていることも影響していると思われる。日本通信販 売協会(JADMA)の会員企業を対象とした調査では, 3 月から 5 月にかけて対前年同 月比で売上高は増加しており,また増加率も徐々に大きくなっている(図 1 )。2020年

7 月10日現在最新で公開されている 5 月期では,特に衣料(10.4%),家庭用品(31.8%),

( 8 ) モバイル空間統計新型コロナウイルス感染症対策特設サイト https://mobaku.jp/covid-19/

( 9 ) これらの業態は,卒業式や新年度の入学・入社に関連した商品の販売がコロナ禍で不振であったことも影 響していると考えられる。

(3)

健康食品を除く食料品(38.2%),通信教育・サービス(55.5%)などが大きく売上高を 伸ばしている。

消費者側からの動向を示したデータとしてもネット通販の利用増加が読み取れる。三 井住友カード・顧客時間(2020)によると,2019年では同社のカードを利用した決済 の内,約20% 弱程度であったネット通販での利用が,2020年 3 月は26%, 4 月・ 5 月は 36% と増加している。

( 2 )ネット通販事業者への影響

次に通販事業者,特にネット通販事業者の決算を確認する。楽天は, 5 月に公表され た2020年度第 1 四半期(2020年 1 ~ 3 月)決算報告によると,国内 EC 流通総額(以下,

表 1  業態別の小売業販売額(2020年 3 ~ 5 月)

2020年 3 月 2020年 4 月 2020年 5 月*1 販売額

(十億円) 前年同月比

(%)*2 販売額

(十億円)前年同月比

(%) 販売額

(十億円) 前年同月比

(%)

小売計 12,828 ▲4.7 10,897 ▲13.9 11,065 ▲12.3 各種商品小売業 839 ▲20.9 546 ▲42.9

織物・衣服・

身の回り品小売業 693 ▲22.7 415 ▲54.1 飲食料品小売業 3,759 ▲0.6 3,661 0.3 医薬品・化粧品

小売業 1,274 1.6 1,279 3.0

その他小売業 1,581 ▲2.6 1,512 ▲9.1

無店舗小売業 924 ▲1.4 875 ▲5.7

出典:経済産業省「商業動態統計」 4 月分確報, 5 月分速報より筆者作成

* 1 : 5 月分は速報値。

* 2 :前年(度,同期,同月)比増減率は,ギャップを調整するリンク係数で処理した数値で計算して いる。

* 3 :自動車小売・機械器具小売・燃料小売は省略。

出典:JADMA 売上高調査各月統計より

図 1  ネット通販の売上高と対前年同月比(JADMA 会員企業調査)

*2:前年(度、同期、同月)比増減率は、ギャップを調整するリンク係数(付表参照) で処理した数値で計算している。

*3:自動車小売・機械器具小売・燃料小売は省略。

(1)ネット通販への影響

「商業動態統計」における無店舗小売業の販売額は減少しているが、これは同調査 がオンライン販売と店舗販売を併用している事業者の場合、販売額に占める割合を考 慮してどちらが主たる業態か振り分けていることも影響していると思われる。日本通 信販売協会(JADMA)の会員企業を対象とした調査では、3月から5月にかけて対前 年同月比で売上高は増加しており、また増加率も徐々に大きくなっている。2020年7 月10日現在最新で公開されている5月期では、特に衣料(10.4%)、家庭用品

(31.8%)、健康食品を除く食料品(38.2%)、通信教育・サービス(55.5%)などが大 きく売上高を伸ばしている。

消費者側からの動向を示したデータとしてもネット通販の利用増加が読み取れる。

三井住友カード・顧客時間(2020)によると、2019年では同社のカードを利用した決 済の内、約20%弱程度であったネット通販での利用が、2020年3月は26%、4月・5 月は36%と増加している。

図 1 ネット通販の売上高と対前年同月比(JADMA 会員企業調査)

出典:JADMA 売上高調査各月統計より

(2)総合通販事業者への影響

通販事業者、特にネット通販事業者の決算を見ると、楽天は5月に公表された2020 年度第1四半期(2020年1~3月)決算報告によると、国内EC流通総額(以下、

GMV)はインターネットサービスセグメント部門全体では44億円の赤字であるが、

102.9 111.9 116.5 118.3 119.4

-3.7

-1.1

0.6 1.1

7.3

-4 -2 0 2 4 6 8 10

-40 -20 0 20 40 60 80 100 120

2020年1月 2020年2月 2020年3月 2020年4月 2020年5月

販売額 対前年同期比(%)

十億円 %

(4)

GMV)はインターネットサービスセグメント部門全体では44億円の赤字であるが,国 内 EC 事業だけでは売上収益は1,246億円で前年同期比14.8% 増(営業利益は103億円で 前年同期比14.3% の減少(10))となっている。また4月期のショッピング EC の GMV(11)

は57.5% 増となっており,新型コロナの影響による巣ごもり需要の影響を強く受けた結 果となった。

Amazon の2020年第 1 四半期( 1 ~ 3 月)におけるネット通販サイトでの販売事業(12)

の売上高は36,552百万米ドルで前年同月比24% の増加となった。こちらも新型コロナの 影響を受けた増加であることが報告された。また, 4 月からの第 2 四半期ではそれ以上 の売上高増加を見込んでいる一方で,感染予防のための営業費用の増加による赤字の可 能性が示唆された。しかし,2020年 7 月30日の同社第 3 四半期決算報告によると,営業 費用増加を上回る売上高を達成し,5,243百万米ドルの黒字決算(前年同期比100%増)

となった。

( 3 )ネットスーパーへの影響

ネットスーパー(13)においては,調査会社の VALUES が SaaS 型市場分析ツールの eMark+ を利用して,楽天西友,イオン,イトーヨーカドー,コストコのネットスー パーのユーザー数は,各社2020年 4 月で前月比40% 弱の増加となっている。また前年 4月と比較すると,ネットスーパーに参入したのが比較的新しいコストコの伸びが顕著 であるものの各社ともにユーザー数は増加している。各社の売上高に関連したデータを 見ると,コストコは2020年 2 ~ 4 月期の EC 売上高が前年同期比64.5% 増と新型コロナ によって大幅に売上が増加した。イオンが第 1 四半期(2020年 3 ~ 5 月)におけるネッ トスーパーの新規登録会員数が前期比4倍超,売上高は前期比2割増となっており,前 年との比較こそはできないものの会員数・売上共に増加している。セブン&アイ HD は,パン,缶詰,カップ麺なども扱うイトーヨーカドーの通販型(14)EC 事業は前年同 期比45.3% 増(5.7億円の売上増加),グループ企業のセブンイレブンの弁当などの配送 を行うセブンミールも5% 増(3.9億円の売上増加)となったが,店舗からの配送主体の ネットスーパーは前年同期比8.8% 減(9.1億円の売上低下)となり,全体では前年同期

(10) コロナ禍による楽天トラベルなどの旅行関連 EC の不調と楽天スーパーロジスティクスへの投資のため。

(11) 楽天市場+1st パーティー(ファッション,ブックス,Rakuten24)+ネットスーパー+オープン EC(Rebates, チェックアウト)+ラクマの GMV 合計。

(12) OnlineStores という区分。商品の自社販売額(他社商品の販売管理・物流サポートのフルフィルメント サービスによる手数料は除く)+書籍や音楽等のデジタルコンテンツの販売額(サブスクリプションサービ スは除く)。

(13) ネットスーパーと言っても生鮮食品を中心に取り扱うものから,雑貨や加工食品などは取り扱う生鮮食品 は取り扱わないものと様々ではあるが,ここでは後述の VALUES が選定した 4 事業者を中心に食料品(生鮮 食品に限らず)を主たる取扱品目とする配送を伴うサービスをネットスーパーと定義する。

(14) イトーヨーカドーは生鮮食品を中心に店頭と同様の商品を店舗から配送する「店舗型」と呼ばれるいわゆ るネットスーパーの店舗配送形式と,イトーヨーカドーのネット通販として雑貨類の他に比較的日持ちする シリアル,カップ麺,パン類などの食料品や飲料を扱う「通販型」と販売形態を区別している。

(5)

比0.3%の売上減少となった。

( 4 )生協への影響

生鮮食品を含む食料品や日用品の配送サービスとしてネットスーパー以前から利用の 多かった生活協同組合(以下,生協)も,コロナ禍での需要が大幅に増加した。日本生 協連によると,全国65主要地域生協の宅配部門の売上高(15)の対前年比同期比は 2 月度 で 2 % 増(1,435億円), 3 月度14.2% 増(1,483億円), 4 月度16.3% 増(1,574億円), 5 月度23.0% 増(1,651億円)と新型コロナによる 3 月度以降の増加率が著しい。さらに宅 配の内 7 割超を占める個配については, 2 月度で2.7% 増(1,014億円), 3 月度16.7% 増

(1,056億円), 4 月度18.5% 増(1,137億円), 5 月度26.4% 増(1,195億円)と若干では あるが宅配全体以上に増加している。また日本生協連が行ったアンケート(16)によると,

新型コロナ流行前に比べて生協の宅配の利用金額が「増えた」と回答した割合は53.8%,

「変わらない」が37.9% となっており,既存の利用者の利用金額が増加している。これ に加えて,新型コロナ禍での感染リスク回避の個配注文の利用者が増加していることが うかがえる。また2020年 6 月 7 日付の神戸新聞やダイヤモンドオンライン(2020)によ ると,新規加入希望者も増加しており,一部の生協では加入を拒否こそしていないもの の,加入後の注文を一定期間後でないとできないようにする,既存加入者と合わせて特 定の商品の1人当り注文可能数を制限するなどの対策が必要になるほど注文が殺到した。

( 5 )フードデリバリーへの影響

コロナ禍において,フードデリバリーも利用者が増加したネット通販サービスの一 つである。2020年 4 月28日付の日本経済新聞によると,フラー社のアプリ分析ツール AppApe で UberEats や出前館の利用者数を調査したところ,利用者数は緊急事態宣 言後に急増し, 4 月22~24日の 1 日平均利用者数は両サービス合計で約38万人と同月 1

~ 7 日よりも63% 増加した。アクティブ利用者数については,出前館は2020年 6 月の 第 3 四半期決算短信にて前年同期比で28% 増の約370万人とも発表している。Uber 社 は2020年 1 ~ 3 月期の決算において,世界での UberEats の売上高は対前年同期比で 53% 増の819百万米ドル( 1 米ドル=107円で約876億円)であると発表した。また出前 館も2020年第 3 四半期(2019年 9 月~2020年 5 月)の売上高は57.1% 増の60億円となっ た。内訳としては出前館サービス利用料が38.7% 増の38億円,配達代行手数料が821.7%

増の13億円と,配達代行手数料の大幅増加が目立った。ただし,Uber の Eats 部門は伝 統的に赤字基調が続いており,また出前館も配達拠点の整備や人員の増員,広告費の拡 大を受けて出前館事業だけで18億円の損失を計上した。

(15) 日本生協連発表では供給高とも。

(16) 全国10の生協・生協事業連合を対象に生協組合員から6,179件の回答を収集。

(6)

表 2  新型コロナにおける主な通販サービスの変化

業態 ネット通販事業・市場の変化

項目 増減 ソース

総合ネット

通販事業者 前年同期比 売上高・GMV

楽天2020年 1 ~ 3 月 国内 ECGMV+9.8%

4 月ショッピング ECGMV*1+57.5%

国内 EC売上+14.8%

(2020)楽天

Amazon2020年 1 ~ 3 月 OnlineStores 売上高 24%

(36,552百万米ドル*2

Amazon

(2020)

ネットスーパー

【前年4月比】利用者数

コストコ+317.1%

楽天西友+70.3%

イオン+78.9%

※イオン発表で,ネットスーパーの新規登録会 員数が前期比 4 倍超。

イトーヨーカドー+38.4%

VALUES

(2020)

イオン

(2020)

前年同期比 売上高

コストコ 2020年 2 ~ 4 月

+64.5% ※世界全体 Costco

(2020)

楽天西友 2020年 1 ~ 3 月

+14.8%

※ネットスーパー以外の EC 含む。

(2020)楽天

イオン 2020年 2 ~ 5 月

前期比 2 割増 イオン

(2020)

イトーヨーカドー 2020年 2 ~ 5 月

▲0.3%*3 セブン&アイ HD

(2020)

生協 前年同月比

売上高

日本生協連 3 月度+14.2%

【個配+16.7%】

4 月度+16.3%

【個配+18.5%】

5 月度+23.0%

【個配+26.4%】

日本生協連

(2020)

フードデリバリー

利用者数

2020年 4 月22~24日 1 日平均利用者数+63%*4

2020/04/28日経新聞

(元データはフラー社)

出前館 2019年 9 月~2020年 5 月 アクティブ利用者+28%*5

※対前年度同期比。

(2020)出前館

前年同期比 売上高

UberEats 2020年 1 ~ 3 月

+53%(819百万米ドル) Uber(2020)

出前館 2019年 9 月~2020年 5 月

+57.1%

【内,出前館サービス利用料+38.7%】

【内,配達代行手数料   +821.7%】

出前館(2020)

出典:各社発表データを参照して筆者作成

* 1 :脚注11参照。

* 2 :Amazon は四半期報告では北米とそれ以外でしか売上を報告していないが,2019年は Amazon 全体の売上の内,日本市場が占める割合は5.7% であった。仮にこの比率を第 1 四半期の売上に 当てはめると日本市場の売上は2,083百万米ドル( 1 米ドル=107円で2,229億円)となる。ただし,

上記の比率は全体の売上に占める割合であり,ネット通販サイトでの販売事業でないこと,必ず しも日本市場も前年同月比24% も増加しているとは限らないという点は留意する必要がある。

* 3 :ネットスーパー,イトーヨーカドー通販,セブンミールの合計。

* 4 :UberEats+出前館の利用者数で,2020年 4 月 1 日~ 7 日の利用者数と比較。

* 5 :対前年同期比。

(7)

2 . 2  コロナ禍の消費者物流

( 1 )宅配便事業者の取扱量

本節では主に消費者物流の中でも宅配便サービスやネット通販に関連した配送サービ スのコロナ禍での動きについて確認する。

新型コロナによる経済停滞の影響を受け,貨物量の大幅な減少が起こった結果,多く の物流事業者の取扱量も減少している。帝国データバンクによると,景気動向指数は全 産業的に新型コロナの影響で2020年から急落したものの,2020年 6 月は歯止めがかかっ て持ち直しに転じる業種が多い中,「運輸・倉庫」のみは引き続き悪化している。今後 製造業の生産量が戻ればその影響を受けて下げ止まる可能性はあるが,コロナ禍の根本 的な解決が見えない中では,抜本的な景気回復には時間がかかるであろう。

そのような中,消費者の巣ごもり消費の影響を受けて宅配便事業者らの取扱量は増加 している。

ヤマト運輸,日本郵便は 3 月からの対前年同月を上回る取扱個数となっており,両者 とも特に自宅の郵便ポストに投函可能な小型荷物の配送サービスの増加率が高い。ヤマ ト運輸は「ネコポス」の取扱個数は対前年同月比で 3 月は20.9% 増(17百万個), 4 月 47.6% 増(21百万個), 5 月54.4% 増(22百万個), 6 月49.4% 増(21百万個)となって おり,日本郵便も「ゆうパケット」が 3 月26.7% 増(42百万個), 4 月39.4%(47百万個),

5 月48.0%(50百万個)と20~50% 弱の伸び率を示している。ヤマト運輸,日本郵便両 社の総宅配便取扱個数増加率の差は,郵便ポスト投函型の配送個数が総宅配便個数に 占める割合に拠るところが大きい。一方,元来企業向けの宅配サービスが強みである佐 川急便は,企業間の荷動き減少を B2C ネット通販の増加による個人宅向けの配送の増 加が相殺してほぼ例年通りから対前年同月比微増の結果となっていると考えられる(図

2 )。

宅配便大手3社の配送は増加している一方,近年 Amazon はヤマト運輸の配送単価値 上げに端を発した「脱宅配便」の動きを見せてきた。そして丸和運輸機関,SBS 即配 サポート,TMG などのデリバリープロバイダと呼ばれるような,地域限定の配送事業 者への委託を増やした。さらに AmazonFlex と呼ばれる,Amazon が個人事業主のド ライバーと直接契約をする形態を推進している。林(2019)では Amazon の日本にお ける2018年の流通総額と販売単価から,2018年日本における Amazon の出荷個数の推 計を試みている。同論文内でも指摘されるように,正確な推計は公表データだけでは難 しいものの,Amazon は日本において準大手宅配便事業者並の取扱量を持っていると見 られ,新型コロナの影響による取扱量増加は宅配便事業者だけの取扱個数の増加以上に 社会全体での配送を増加させていると考えられる。

(8)

( 2 )コロナ禍での受け取り方の変化

宅配便の再配達による社会的な非効率の発生は,ネット通販の発展によって大きく注 目されるようになった。そして,2015年の国土交通省の調査にて配達件数全体の約20%

が再配達となっている現状が明らかになった。同調査はその後,調査・推計方法を変え て2017年10月以降半年ごとに継続的に調査する方式に変更となり,国土交通省は2017年 10月には16% 程であった再配達率を,2020年度には13% 程まで低下させることを目指 していた。

宅配便各社も,再配達によるラストマイル部分の費用増加を問題視しており,受け取 り方の選択肢を増やすなどの工夫を行ってきた。たとえば,ヤマト運輸が合弁会社で提 供したオープン型宅配ロッカーの「PUDO」などがその代表例である。

しかし,PUDO などの宅配ロッカーの設置は増加の途上であり,また認知度の問題 や利用へのメリットが十分に認知されず,再配達率には目立った改善がないまま時間が 経過していった。その中で,2019年から Amazon,日本郵便が段階的に「置き配」を提 供していった。この時点では,ヤマト運輸,佐川急便は同配送オプションについては,

セキュリティの問題や宅配便サービスの配送品質保持のために消極的であった。

 そのような状況下で,2020年 2 月より徐々に新型コロナの影響が日本にも及び,4 月には緊急事態宣言が発令されると自宅でのテレワークが増加した。これは配達件数が 多い割に再配達が減少して来なかった都市部において特に影響が大きく,結果的に宅配 便の再配達率は8.5% ほどまで大きく減少した(図 3 )。

また新型コロナへの感染防止の意味で,従来から置き配を導入してきた Amazon,日 本郵便をはじめ,UberEats などの他の配送サービスでも非対面での配送が選択肢とし て取り入れられるようになった。ヤマト運輸らも,まずは呼び鈴を押しての在宅確認を

出典:各社の月次報告データより筆者作成

図 2  宅配便大手 3 社のコロナ禍における取扱個数と対前年同月比 ヤマト運輸、日本郵便は3月からの対前年同月を上回る取扱個数となっており、両者 とも特に自宅の郵便ポストに投函可能な小型荷物の配送サービスの増加率が高い。ヤマ ト運輸は「ネコポス」の取扱個数は対前年同月比で3月は20.9%増(17百万個)、4月 47.6%増(21百万個)、5月54.4%増(22百万個)、6月49.4%増(21百万個)となって おり、日本郵便も「ゆうパケット」が3月26.7%増(42百万個)、4月39.4%(47百万 個)、5月48.0%(50百万個)と20~50%弱の伸び率を示している。ヤマト運輸、日本 郵便両社の総宅配便取扱個数増加率の差は、郵便ポスト投函型の配送個数が総宅配便個 数に占める割合に拠るところが大きい。一方、元来企業向けの宅配サービスが強みであ る佐川急便は、企業間の荷動き減少を B2Cネット通販の増加による個人宅向けの配送 の増加が相殺してほぼ例年通りから対前年同月比微増の結果となっていると考えられ る(図2)。

図 2 宅配便大手 3 社のコロナ禍における取扱個数と対前年同月比 出典:各社の月次報告データより筆者作成

宅配便大手3社の配送は増加している一方、近年Amazonはヤマト運輸の配送単価値 上げに端を発した「脱宅配便」の動きを見せてきた。そして丸和運輸機関、SBS即配サ ポート、TMGなどのデリバリープロバイダと呼ばれるような、地域限定の配送事業者 への委託を増やした。さらにAmazon Flexと呼ばれる、Amazonが個人事業主のドライ バーと直接契約をする形態を推進している。林(2019)では Amazon の日本における 2018年の流通総額と販売単価から、2018年日本におけるAmazonの出荷個数の推計を 試みている。同論文内でも指摘されるように、正確な推計は公表データだけでは難しい

ものの、Amazonは日本において準大手宅配便事業者並の取扱量を持っていると見られ、

149 156 165 170

110 109 108

89 94 97

3.9%

13.2%

19.5%

18.7%

1.0% 0.3% 1.5%

16.4%

26.5% 29.1%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180

20203 20204 20205 20206

百万万個

ヤママトト運運輸輸取取扱扱個個数 佐川川急急便便取取扱扱個個数 日本本郵郵便便取取扱扱個個数

ヤママトト運運輸輸対対前前年年比比増増加加率 佐川川急急便便対対前前年年比比増増加加率 日本本郵郵便便対対前前年年比比増増加加率 増加加率率((%%))

(9)

新型コロナがネット通販・消費者物流に与えた影響の初期段階

行ったうえでの非対面型配送を取り入れたが, 5 月18日には佐川急便が玄関前や車庫な どの指定場所への置き配をオプションとして取り入れ,さらにヤマト運輸も 6 月24日か らネット通販事業者からの配送について置き配がオプションとして選択可能となる施策 を導入した。

しかし,置き配についてかねてより懸念されていたセキュリティの問題も,置き配の 利用増加に伴って表面化してきている。東京,愛知,大阪などの都市圏では,コロナ禍 での置き配の増加を狙って,集合住宅での盗難事件が発生している(17)。盗難リスクの 対処としては,個別の宅配ボックスなどであるが,費用と場所の問題からこれまでは 導入が進んでこなかった。日本郵便の置き配試験導入時から連携を進めてきた Yper 社 の「OKIPPA」はドアノブに吊るすことのできる折り畳み式宅配ボックスで,費用も税 込3,980円(2020年 7 月現在)と,数万円はかかる宅配ボックスと比べると割安である。

ただし,基本は玄関先での受け取りが対象であるため,オートロック型の集合住宅では かえって利用がしづらいという問題は残る。

3 .コロナ禍によって消費者物流にかかる負担とその対応

コロナ禍における巣ごもり需要の増大は,多くのネット通販事業者,宅配便事業者の 売上高や取扱量の増加を招いた。しかし一方,各社の利益に注目すると売上高増大に反 して減少または損失を計上している企業も見受けられる。

2020年 7 月11日現在の決算のタイミングで,新型コロナの影響が決算等に反映されて いない企業も多いが,新型コロナ対策に関連した投資を行っている企業も存在する。出 前館も LINE からの投資を受けた自社配送ネットワークの増強は元々の決定事項であっ

(17) 日本経済新聞2020年 6 月 2 日付。

出典:国土交通省各期報告データより筆者作成 図 3  再配達率の推移 全体での配送を増加させていると考えられる。

(2)コロナ禍での受け取り方の変化

宅配便の再配達による社会的な非効率の発生は、ネット通販の発展によって大きく注 目されるようになった。そして、2015年の国土交通省の調査にて配達件数全体の約20%

が再配達となっている現状が明らかになった。同調査はその後、調査・推計方法を変え て2017年10月以降半年ごとに継続的に調査する方式に変更となった。国土交通省は、

2017年10月には16%程であった再配達率を2020年度には13%程まで低下させること を目指していた。

宅配便各社も、再配達によるラストマイル部分の費用増加を問題視しており、受け取 り方の選択肢を増やすなどの工夫を行ってきた。たとえば、ヤマト運輸が合弁会社で提 供したオープン型宅配ロッカーの「PUDO」などがその代表例である。

しかし、PUDOなどの宅配ロッカーの設置は増加の途上であり、また認知度の問題や 利用へのメリットが十分に認知されず、再配達率には目立った改善がないまま時間が経 過していった。その中で、2019年からAmazon、日本郵便が段階的に「置き配」を提供 していった。この時点では、ヤマト運輸、佐川急便は同配送オプションについては、セ キュリティの問題や宅配便サービスの配送品質保持のために消極的であった。

そのような状況下で、2020年2月より徐々に新型コロナの影響が日本にも及び、4月 には緊急事態宣言が発令されると自宅でのテレワークが増加した。これは配達件数が多 い割に再配達が減少して来なかった都市部において特に影響が大きく、結果的に宅配便 の再配達率は8.5%ほどまで大きく減少した(図3)。

図 3 再配達率の推移

出典:国土交通省各期報告データより筆者作成 15.5% 15.0%

15.2% 16.0% 15.0%

8.5%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

2017年10月期 2018年4月期 2018年10月期 2019年4月期 2019年10月期 2020年4月期 都市部都市部近郊

地方 総計

※明示された数値は「統計」のデータ値

(10)

た可能性はあるが,配送拠点の新設に加えて,コロナ禍で売上が落ちた飲食店を積極的 にサービスに取り入れる目的もあり配達代行手数料を30% から23% に引き下げるなど のコロナ禍に応じた投資を行っている(18)

また宅配便事業者をはじめとした事業者は,急激に増加した配送に対しての配送員確 保が追い付かない状況にも直面している。たとえばヤマト運輸は,以前から配送員不足 によるラストマイルの過剰負担は深刻であり,配送員の確保も難しい中で宅配ロッカー の設置やセールスドライバー(以下,SD)のように営業を行わない配送専門の「アン カーキャスト」(以下,AC)と呼ばれる配送員を募集するなどして,配送の効率化や SD の負担軽減施策を行っていた。しかし急激な配送需要の増加,それも事業者への配 送と比較して負担が大きいとされる消費者向けの配送が増加することは,売上高以上の 費用増加を招きかねない。図 3 のように一時的なテレワークの拡大で再配達率こそ低下 したものの,図 2 でも示したように総配送個数は増加している。

2019年 4 月と2020年 4 月のヤマト運輸の宅配便の取扱量と再配達率,国土交通省

(2015)の推計で利用された宅配便 1 個当りの作業時間(0.22時間)から推計すると,

配送にかかる総時間は2019年 4 月期で約3,516万時間,2020年 4 月期で約3,724時間(19)と なり約 6 % の負担増となり,再配達率が低下しても宅配便のラストマイルにかかる負 荷は増していることが推計からも示唆されている。

コロナ禍による急速な配送需要の増加に対して,各ネット通販事業者や配送サービス を提供する事業者が,従来の設備,人的資源だけで対応するのには限界はある。2020年 7 月11日現在では新型コロナ終息の見通しは立っていないが,新型コロナの脅威が依然 として残っていたとしても,消費者が徐々に状況に慣れれば「巣ごもり特需」の状況は 長く続かないであろう。しかし一方,これまでフードデリバリー,ネットスーパーなど を含めたネット通販サービスを利用して来なかった消費者にも,コロナ禍での利用を契 機にリピーターが出てくることも十分に考えられ,特需こそ落ち着くものの長期的には 各サービスともに新型コロナ感染拡大以前よりも利用者が増加する可能性はある。

Amazon のように商品に優先順位をつけ,急ぐ商品と不急の商品とで配送時間に差を つける,生協のように商品への購入数制限をかける,といったような短期的に増大し た需要への対応を行う一方,国土交通省が2020年 9 月30日までの時限的に許可したタ クシーの貨物輸送利用施策のように,コロナ禍で需要が落ち込んだ旅客・観光産業など

(18) https://corporate.demae-can.com/pr/news/demaekan/_202051_202017_34_30723_202042420205120201031_20.

html

(19) なおこの配送時間,委託分を除いた自社配送比率94.3%,ヤマトの SD の人数約 6 万人,AC の人数約6,500 人(いずれもヤマト HD(2020)より)から 4 月期の 1 日当り配送時間を算出すると2019年 4 月期で16.6時間,

2020年 4 月期で17.6時間と,かなりの過剰労働になってしまう。実際にはこの配送時間を適正な水準にするた めに,SD と AC に加えて委託のドライバーも配送を支えていると考えられる。また配送時間自体の推計の精 度を上げるには,郵便ポスト投函型のネコポスを加味した宅配便 1 個当り配送時間を再考する必要がある。

(11)

の設備や人的資源をシェアし,消費者物流の負荷を分散させる施策も重要となる。また,

旅客交通産業を維持して新型コロナ終息以降の社会も見据えるには,時限的な許可の期 間を拡大していく検討も必要となってくるであろう。さらに新型コロナ禍後の新たなス テージに進んだ社会に適応していくために,出前館や Amazon のような長期的に増加 していく需要に対応していく施策を打てるかどうかが鍵となるであろう。

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参照

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