本資料の目的は,平成24年度,及び平成25年度に大学評価・学位授与機構が実施した「機関別認 証評価」における『自己点検・評価報告書』の記述内容から「教育の内部質保証システム」の内容 を概観することにある。
「教育の内部質保証」の体制としては,全学の教育関係の委員会,及び部会,ワーキング・グルー プや部局の委員会等があり,それらの組織を「高等教育センター」のような名称を冠する組織や教 務・学務系の事務局がデータ収集・分析の面から支援している。また,そのような体制のもと,各 種アンケート調査等や多様なFD活動が実施されている。
一方で,それらの取組がどのような改善につながったかについて明らかにするには自己点検・評 価報告書のみからでは限界があり,今後,質的な調査を充実させることが必要である
〔キーワード〕内部質保証 認証評価 自己点検・評価報告書 ファカルティ・ディベロップメント
「教育の内部質保証システム」の概要
―自己点検・評価報告書の記述内容から―
高 森 智 嗣*
* 福島大学総合教育研究センター・高等教育開発部門
1.はじめに
本資料は,平成24年度,及び平成25年度に大学評価・
学位授与機構が実施した「機関別認証評価」における
『自己点検・評価報告書』について,基準8「教育の 内部質保証システム」の記述内容を概観したものであ る。
機関別認証評価機関には,大学評価・学位授与機構
(以下,NIAD),大学基準協会(以下,JUAA),日本 高等教育評価機構(以下,JIHEE)の三機関があるが,
ほぼ全ての国立大学法人(85機関)がNIADによる機 関別認証評価を受審しており,福島大学も例外ではな い。
平成16年度から開始された機関別認証評価は,平成 23年度に第2サイクルを迎え,平成24年度のNIADに おける機関別認証評価では評価基準の改訂が行われ,
基準8「教育の内部質保証システム」が設けられた。
しかしながら,教育の内部質保証システムは,必ずし も明確ではなく,各大学等がそのあり方を模索してい る状況であると言えよう。
基準改訂後のNIADでの機関別認証評価受審機関数 は,国立大学21機関,公立大学4機関,計25機関であ る。本資料では,当該25機関を対象に『自己点検・評 価報告書』の記述内容から基準8「教育の内部質保証 システム」の内容を概観する。
2.内部質保証と機関別認証評価
高等教育における質保証は,「質が維持され向上し ていることを担保するために必要となる諸々の政策,
態度,行動,手続き」(Woodhouse 1999)や,「高等 教育の質を担保し,かつ発展するためのあらゆる政 策,手順,行動を包含する包括的な用語」(Campbell
& Rozsnyai 2002)とされる。また,質保証は,機関 内部の仕組みである「内部質保証」と機関・機関間の 上位にある制度である「外部質保証」とに区分され,
内部質保証は「モニタリングと改善」とされている
(Damme 2004)。
我が国における内部質保証システムについては,
2013年3月にNIAD内の「内部質保証システムの構造・
人材・知識基盤の開発に関する研究会」が『教育の内 部質保証システム構築に関するガイドライン(案)』
を作成している。当該ガイドラインにおいては,表1 に挙げた8つの項目が教育の内部質保証システムを構 成する要素として示されている。
NIAD作成のガイドラインは,後述する「大学評価 基準」全体に関係する包括的なものである。基準8に 主として関係するのは1)内部質保証に関する全学の 方針・責任体制,3)教職員の点検・能力開発,6)
質保証への学生や外部者の関与,7)教育に関する情 報の収集・分析であろう。
現在,我が国では認証評価という外部質保証制度が このような内部質保証システムの構築を要求している。
認証評価には,大学等の教育研究,組織運営及び施
設設備の総合的な状況に対する「機関別認証評価」(7 年以内毎)と,専門職大学院の教育課程,教員組織そ の他教育研究活動の状況に対する「専門分野別認証評 価」(5年以内毎)があり,それぞれ学校教育法,及 び学校教育法施行令を根拠としている。学校教育法施 行令第40条において期間が定められており,学校教育 法第109条第2項において「大学は,(中略)当該大学 の教育研究等の総合的な状況について,政令で定める 期間ごとに,文部科学大臣の認証を受けた者(以下「認 証評価機関」という。)による評価(以下「認証評価」
という。)を受けるものとする」とされる。また,同 条第4項において「前二項の認証評価は,大学からの 求めにより,大学評価基準(前二項の認証評価を行う ために認証評価機関が定める基準をいう。)に従って 行うものとする」とされている。表2はNIADの大学 評価基準である。
上記の大学評価基準は細分化されており,例えば基 準8であれば,8-1「教育の状況について点検・評 価し,その結果に基づいて教育の質の改善・向上を図 るための体制が整備され,機能していること」,及び 8-2「教員,教育支援者及び教育補助者に対する研 修等,教育の質の改善・向上を図るための取組が適切 に行われ,機能していること」が評価される。この際,
それぞれの基準について,8-1-①「教育の取組状 況や大学の教育を通じて学生が身に付けた学習成果に ついて自己点検・評価し,教育の質を保証するととも
に,教育の質の改善・向上を図るための体制が整備さ れ,機能しているか」,8-1-②「大学の構成員(学 生及び教職員)の意見の聴取が行われており,教育の 質の改善・向上に向けて具体的かつ継続的に適切な形 で活かされているか」,8-1-③「学外関係者の意 見が,教育の質の改善・向上に向けて具体的かつ継続 的に適切な形で活かされているか」,及び8-2-①
「ファカルティ・ディベロップメントが適切に実施さ れ,組織として教育の質の向上や授業の改善に結び付 いているか」,8-2-②「教育支援者や教育補助者 に対し,教育活動の質の向上を図るための研修等,そ の資質の向上を図るための取組が適切に行われている か」という基本的な観点が設けられている。
さらに,機関別認証評価における『自己点検実施要 項』においては,各観点について分析する際の留意点 が示されるとともに,根拠となる資料・データ等が例 示されている。
「内部質保証」は,本来的には個別機関が自らの責 任において自律的に行う取り組みである。他方で,現 在は大学評価基準やガイドラインのような外部環境が 内部質保証システムを要求している状況にある。その ため,機関別認証評価という枠組みの中で『自己点検・
評価報告書』に記述される教育の内部質保証システム は,大学評価基準やその基本的な観点,『自己点検実 施要項』等に準拠したものである点に留意しなければ ならない。以上を踏まえた上で,次節では基本的な観 点毎の記述内容を概観する。
3.観点毎の記述内容
【8-1-①】
観点8-1-①は,「教育の取組状況や大学の教育 を通じて学生が身に付けた学習成果について自己点 検・評価し,教育の質を保証するとともに,教育の質 の改善・向上を図るための体制が整備され,機能して いるか」である。
この観点では,主として1)教育の質の改善・向上 を図るための体制の整備状況,2)教育の取組状況や 学生が身に付けた学習成果等のデータ収集・分析を行 う組織等,3)具体的な取組や改善事例が記述されて いる。まず,表3に教育の質の改善・向上を図るため の体制として記載された組織を示す。
最も記載が多かったのは「全学委員会」(18件)で あり,代表的なのは教務委員会や教育委員会といった 名称を冠する委員会である。なお,「自己点検・評価 委員会」(9件)や「評価室」(6件)も全学に係わる 組織であるが,これらは認証評価をはじめとする第三 者評価の文脈で登場する組織であり,教育の質保証に 特化してというより,包括的な自己点検・評価の項目 の中で教育に関する事項も含まれているため記載され 表1.「教育の内部質保証システム」を
構成する要素
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表2.NIADの大学評価基準 ᇶ‽
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ているものである。また,全学の委員会の下に部会や ワーキング・グループを設置している機関も多数見ら れた(10件)。
次に部局の委員会に関する記述も多く見られた。特 に,工学部や理学部を設置する大学の多数が「日本技 術者教育認定機構」(以下,JABEE)による評価を受 審しており,JABEE対応のための組織の設置を教育 の質の改善・向上を図るための体制のひとつとして位 置づけている。
また,「高等教育センター」や「大学教育センター」
のような名称を冠する組織も教育の質の改善・向上を 図るための体制として記述されている(13件)。これ らは,教育の質保証についての審議や意思決定を行う 全学委員会ないし部局の委員会に対する支援,教育の 質保証に関する企画・立案や,後述する教育の取組状 況や学生が身に付けた学習成果等のデータ収集・分析 を行う上で重要な組織として位置づけられている。
「全学機構」とは学長や理事を長とする法人組織で あり,役員室等との連携を強化し,大学運営の円滑化 を図るためのものである。教務課や学務課のような名 称を冠する組織である「事務局」(9件)が主として 教育に関する取組に対応するのに対して,「全学機構」
は大学の管理運営というより大局的な観点から教育の 内部質保証に係わっている。
次に教育の取組状況や学生が身に付けた学習成果等 のデータ収集・分析を行う組織等について表4に示し た。
近年,Institutional Research(以下,IR)が注目さ れているように,自大学のデータの収集・蓄積・分析 を専門部署が担当する事例が増加しており,その端緒 を「センター等」(9件)に見ることができる。例えば,
「大学教育センターが定期的に,同一科目の成績分布 状況を調査し,科目長にデータを提供している」といっ た記述(東京農工大学)や,「高等教育研究センター は,各学部,全学教育機構,各研究科との懇談会を開 催し,本学の教育の具体的な取組状況の把握に努める とともに,本学の教育を通じて学生が身に付けた学習 成果について新入生調査を一例とする全学的な調査を 実施し,その結果を各学部等にフィードバックしてい る」といった記述(信州大学)等が挙げられる。
また一方で,「全学共通教育システム委員会やその 下に置かれた各専門委員会・部会(平成25年度から企 画評価専門委員会)が教育の改善などを所掌しており,
その活動のための基礎的データの作成,収集,蓄積を 共通教育推進課(平成 25 年度から吉田南地区共通事 務部教務課)が担っている」といった記述(京都大学)
や「本学教育活動のデータについて,学生の履修状況 及び授業に関する基礎的データと資料は主として学務 課が収集・蓄積に当たっている」(岩手大学)といっ た記述に見られるように,教育の取組状況や学生の学 習成果に関するデータの収集において事務局が大きな 役割を果たしている状況も窺われる。
さらに,データ収集・蓄積の形態として,福島大学 でも導入しているLiveCampusのようなICT技術を活 用した教育サポートシステム(8件)が挙げられる。
例えば「学生が身に付けた学習成果に関するデータの 一つである成績データについては,“教育サポートシ ステム(LiveCampus)”で学部・大学院の成績データ などを一元管理している。各教員は,毎学期,担当授 業科目の成績データをシステムに入力している。この システムの運用は,教務課(各学部教務担当係を含む。)
が担当している。システムに登録されている成績デー タをもとに,学部教授会及び研究科会議において学生 の進級や卒業(修了)の判定評価を行っている。さらに,
学生の学業成績の確認を行い,成績不良者を対象とす る修学履修相談の実施や,教育懇談会を実施し学生の 家族との懇談の場を設け,様々な意見を聴いている」
といった記述が見られる(和歌山大学)。その他,「個々 の学生の修学・生活情報などの多次元な情報を集積・
蓄積した電子ポートフォリオを各教員がネットワーク で共有できるシステムを構築するとともに,全教員が 学年あたり5人程度の学生を担当する“個別担任制”
を実施している。個別担任は,少なくとも年に2回,
学生と面談し,成績表(単位取得状況と成績)及び電 子ポートフォリオ(学生カルテ)をもとに修学指導を 行っている。学生との面談及び電子ポートフォリオの 情報をもとに,教員は学生の学習成果を点検・評価し,
表3.質の改善・向上のための組織
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表4.データ収集・分析の担当組織
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教育の質の改善と向上に取組んでいる」(北見工業大 学)といったポートフォリオの整備が進んでいる状況 が窺える。ポートフォリオに属する取組としては,「履 修カルテ」(東京外国語大学)や「学修キャリアノート」
(鳴門教育大学)がある。鳴門教育大学の「学修キャ リアノート」は「平成22年度入学の学部生及び平成25 年度入学の大学院生(新規に教員免許状の取得を希望 する長期履修学生)より“学修キャリアノート”を配 布している。学生は,同ノートに学期ごとに授業省察 記録を記入する。また,学年ごとに“教員としての資 質・能力チェックリスト”を用いて自己の授業への取 組状況や目標達成状況と課題を記録し,クラス担当教 員あるいは卒論研究指導教員に提出し指導・助言を受 ける。さらに,教職に関するボランティア経験の状況 を記述する。それらの記述を通して,学生は自身の学 習成果について自己点検・評価をしている。同ノート は平成25年度より新設される“教職実践演習”におい て学生が4年間の学習成果を省察すると同時に,教員 としての資質・能力の修得状況を総括するために活用 されることになっている」とされている。教員養成と いう目的が明確な課程における取組である点に留意す る必要はあるものの「4年間の学修成果を省察する」点,
及びそれを授業で活用する点は注目に値すると思われ る。
また,ポートフォリオは上記のような学生のラーニ ング・ポートフォリオのみならず,教員のティーチン グ・ポートフォリオも存在する。例えば「全ての教員が,
岩手大学情報データベースやアイアシスタント等の全 学共通のデータベースに,それぞれの教育活動の記録 やその自己点検・評価の情報を入力,蓄積している」(岩 手大学)や「平成19年度から,全教員に“教育者総覧”(弘 前大学版ティーチング・ポートフォリオ)への記入を 求め,教員の意識向上を図っている」(弘前大学)といっ た取組が挙げられる。
他方で,教育の取組状況や学生の学習成果は教員個 人が保管しているという状況も見られた(3件)。
最後に「具体的な取組や改善事例」であるが,これ らは機関毎に様々であり,また記述自体が無い大学も 多数見られた。
代表的なものとしては,カリキュラムの見直し,履 修規程の改訂,科目の新設,新組織の設置,評価制度 の見直し等が挙げられるが,観点8-1-①では,教 育の質の改善・向上を図るための体制の整備状況に関 する記述と比較して具体的な取組や改善事例に関する 記述は少なかった。
【8-1-②】
観点8-1-②は,「大学の構成員(学生及び教職員)
の意見の聴取が行われており,教育の質の改善・向上 に向けて具体的かつ継続的に適切な形で活かされてい
るか」である。
自大学の学生,及び教職員からの意見聴取の代表的 な方法としてはアンケート調査等が考えられるがここ では,種々のアンケート調査を含めた意見聴取の方法 を表5に示した。
「授業評価アンケート」は今回調査を行ったすべて の大学で実施されており(25件),意見聴取方法の代 表的なものであると言える。その他の学生に対するア ンケート調査としては「卒業時アンケート」(9件),
や「新入生アンケート」(2件),「習得度調査」(1件)
が挙げられる。
これらのアンケート調査は,授業を中心としたもの であり,授業改善等に活用される。中でも,授業評価 アンケートについて,長岡技術科学大学や秋田大学で は学期修了時のみならず,学期途中でも実施しており 学期途中からのでの講義方法等の改善に活用している。
具体的な事例としては,「各授業科目の質を向上させ るための取組として,“授業評価アンケート”,その結 果を受けて各科目担当者が授業改善計画等を記す“リ フレクションペーパー”」を作成する(岐阜大学)といっ た取組が挙げられる。
その他,授業評価アンケートの利用方法としては,
「アンケート結果の良い授業科目を“優秀授業”とし,
その担当者を表彰している」(岩手大学)といった事 例や,部局独自の取組として,「授業評価で得られた 特色ある取組は,ベスト・ティーチャ―によるFDセ ミナー・授業公開などを通じ他の教員にもその取り組 みを促している」(信州大学)といったものや,「授業 評価で最高の評価を得た授業を他の全教員が聴講する という取組」(京都大学)のように,「授業評価アンケー ト」を教員表彰や授業公開に繋げるものが挙げられる。
他方で,「医学研究科及び看護学研究科においては,
大学院生が指導教授の指導方法についての評価を年に 1回行っており,評価が低い項目がある指導教授に対 しては,医学科研究科においては研究部長から指導を 行い,指導方法の改善を図っている」(奈良県立医科 大学)といった利用方法も見られた。
また,アンケートそのものについての意見聴取を 行っている大学も散見され,具体的な改善事例として
表5.意見聴取の方法(学内)
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はアンケートのオンライン化が挙げられる(産業技術 大学院大学)。
「授業評価アンケート」をはじめとするアンケート 調査は,主として大学での授業に係わるものであるが,
授業外も含めた学生生活全般に係わる意見聴取として は,学生と教職員の「懇談会」(9件)や「学生生活 実態調査」(8件)が挙げられる。「懇談会」は,“学 長オフィスアワー”(信州大学)のように学長をメン バーとするものや学部長をメンバーとするもの(秋田 大学)のように,学生が一定以上の職階にある教員と 直接意見交換を行うものが多く見られた。また,アド バイザー教員制度(6件)を設けている大学では定期 的に授業や学習環境,学生生活や進路等について直接 コミュニケーションをとっている。
「授業評価アンケート」や「学生生活実態調査」の ような種々のアンケート調査のほとんどは報告書とし てまとめられ,各教員へフィードバックされることが 想定されているが,当該報告書がどの程度認知されて いるのかについては判断できなかった。また,「懇談会」
や「アドバイザー教員」が聴取した学生の意見につい ても,どの程度共有されているのか明確ではない。さ らに,「授業評価アンケート」の結果を学生にも公表 している大学(信州大学)もあるものの[注1],学 生へのフィードバックをどのように行っていくのかは 大学にとっての大きな課題であると思われる[注2]。
観点8-1-②では,「大学の構成員(学生及び教 職員)の意見の聴取」が求められており,意見聴取の 対象は学生だけではない。教員への意見聴取としては,
授業,研究指導,施設・設備等の教育環境,支援体制 等に関する「教員のニーズ調査」が挙げられる。これ らのニーズ調査はアンケート調査方式で行われる場合 もあるが(奈良女子大学),多くは「教育システム委 員会においては,教育の質の向上のため教員のニーズ 調査(初年次教育,PBL教育の在り方及び教育設備等 について)を行っている」(室蘭工業大学),「教職員 からの意見・ニーズの把握は,専ら部局教員による会 議や各種の会議によっている」(京都大学)といった 記述に代表されるように,教育関係の委員会において 行われている。また,職員については記述自体が少な い状況にある。
「教員に対し,教育の質の改善・工場に関する提案 及び改革案を求め,プロジェクト経費等において予算 措置をする」(大阪教育大学)といった,教員の意見 聴取の結果を改善に結びつける取組を明示的に記述し ている大学も見られたが,教職員の意見が「教育の質 の改善・向上に向けて具体的かつ継続的に適切な形で 活かされているか」に関して,自己点検・評価報告書 から具体的な状況を判断することはできなかった。
【8-1-③】
8-1-③は,「学外関係者の意見が,教育の質の 改善・向上に向けて具体的かつ継続的に適切な形で活 かされているか」である。
観点8-1-②と同様,主要な意見聴取の方法はア ンケート調査が考えられるが,その種類は,大きく「卒 業・修了生アンケート」(20件)と卒業・修了生の就 職先をはじめとする「企業アンケート」(18件)である。
その他,「学外有識者会議」(14件)や「外部評価」の 利用(10件)が比較的多くの大学で見られた。これら 学外関係者からの意見聴取の方法について表6に示し た。
在学時の満足度や習得度,改善点等を問う「卒業・
修了生アンケート」や自大学の卒業・修了生が身に付 けている能力,及び不足している能力等を問う「企業 アンケート」はオーソドックスな学外者の意見聴取方 法であると言える。
「学外有識者会議」(14件)を設置して意見聴取を行っ ている大学が多く見られたが,その構成メンバーまで は自己点検・評価報告書からは明らかにすることはで きなかった。国立大学法人にあっては,国立大学法人 法第20条において「国立大学法人に,国立大学法人の 経営に関する重要事項を審議する機関として,経営協 議会を置く」とされており,経営協議会の委員の2分 の1以上は学外委員でなければならないため,経営協 議会をもって学外者の意見聴取としている記述も少な くない。「法人の経営に関する重要事項等を審議する 経営協議会において,教育活動についても学外委員か ら意見を聴き,教育の質の改善・向上につなげている」
(弘前大学)といった記述が代表的である。
一方で,「列挙した“学外関係者”の多くは,京都 大学と何らかのつながりを持っているが,一部部局で は本学と利害関係のない学外有識者で構成するアドバ イザリーボードを組織し,忌憚のない意見を聴取する システムを構築している」(京都大学)という記述に 見られるように,完全な第三者組織を設置している大 学も見られる。
「外部評価」(10件)については,単に「外部評価を 実施している」という記述が多く,評価対象が明確で
表6.意見聴取の方法(学外)
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あるとは言いがたい。一方で,「全学的な取組として,
平成22,23年度に文部科学省“大学生の就業力育成支 援事業”に認定された“学生の人生の支援と自立・自 律プロジェクト”を実施した際,他大学関係者,和歌 山県,団体,企業の外部評価委員から,主にキャリア 教育に係る取組に対する評価を受け,当該取組の向上 に努めた」(和歌山大学)という記述に見られるように,
ある特定のプロジェクトに対する外部評価をもって学 外関係者からの意見聴取としている事例もあげられる。
また,「全学共通教育センターにおける外部評価結 果を検討し,全学共通教育の目的・目標を学生に対し て,より具体的に理解できるように改め,教育戦略会 議および全学共通教育センター運営委員会で,全学共 通教育の目的目標を,“持続可能社会の担い手を養成 する」ことを明記し,シラバスに関する改革へも着手 することとなった」(徳島大学)や,「教育機関や企業 関係者等からなる外部評価委員会による評価を受けて いる。これらの意見聴取の結果は報告書等に取りまと め,例えば“教育成果の検証に関する調査”の結果を 踏まえ,新たな教養教育科目を開設するなど,教育の 質の改善・向上に活かしている」(秋田大学),といっ た記述に見られるように,「外部評価」を改善に結び つけた事例は比較的多数の大学で見られた。
その他,「父母懇談会」(7件)のような保護者から の意見聴取,主として入試に係る意見聴取を行う「高 校アンケート」(5件),「OB意見聴取」や「同窓会」
を利用した意見聴取(2件)が学外関係者からの意見 聴取として挙げられる。
【8-2-①】
観点8-2-①は,「ファカルティ・ディベロップ メントが適切に実施され,組織として教育の質の向上 や授業の改善に結び付いているか」である。
ファカルティ・ディベロップメント(以下,FD)
は2007年までは,大学設置基準第25条の2において「大 学は,当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るた めの組織的な研修及び研究の実施に努めなければなら ない」とされており,あくまで努力義務であったが,
大学設置基準が改定され,2008年4月1日より第25条 の2において「大学は,当該大学の授業の内容及び方 法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施す るものとする」と規定され,義務化された。
そのため,すべての大学で,何らかの形でFDが行 われている。それらFDの取組を表7に示した。
最も一般的な形式であると考えられるのは,「FD講 演会・研修会」(13件)である。これらの講演会・研 修会では外部から講師を招聘することが多いが,「授 業アンケートで高く評価された教員を講師とした FD 研修会の開催」(京都教育大学)や,「全学FD委員会 では,このアンケート結果をもとに授業方法,授業内
容について高い評価を得ている教員をグッド・レク チャー賞で顕彰している。受賞者には夢活フォーラム で学長表彰を行うとともに,授業改善をテーマに発表 してもらっている」(和歌山大学)といったように,
授業評価における高評価教員を講師とする大学も見ら れる。
教員が相互に授業を参観する「授業公開」(10件)
においても,「授業評価アンケート」が参照されるこ とが多い。また,授業公開については,「FD活動の結 果を,学内のサーバで公開あるいはストリーミング配 信し,都合で講演会や研修会に参加できなかった教員 がフォローできるようにしている」(長岡技術科学大 学),「様々なタイプの授業の映像とその担当者のイン タビューの映像を編集した映像コンテンツを作成し,
教員が自由に閲覧できる環境を整えている」(岩手大 学)のようにWEBを活用した動画配信を行っている 大学も見られた。
また,自大学のFDへの参加のみならず,各所で開 催される「FDフォーラム」への参加(7件)に関す る記述も見られた。例えば「本学構成員が,東北大学 等が提供している研修会に参加できる制度」(岩手大 学)では,参加者に対して旅費が補助される。また,
「コンソーシアムにおいて,各大学の遠隔講義を担当 する教員を中心として,遠隔講義に関するFDフォー ラムを実施している」(信州大学)や,「平成21~23年 度は福岡県立大学を代表校とする文部科学省の大学教 育充実のための戦略的大学連携支援プログラム"看護 系大学から発信するケアリング・アイランド九州・沖 縄構想プロジェクト"に連携校として参加し,各連携 校が企画開催する研修会も FD 活動として位置づけ,
教員が参加している」(沖縄県立看護大学)のように,
大学間連携を活用した「大学間連携FD」(4件)の取 組もある。
さらに,「就任5年未満の新任教員を主な対象者と した,合宿型(1泊2日)のFDワークショップも開 催しており,平成24年度の例では,教員19人(弘前医 療福祉大学,青森大学,八戸大学,青森中央短期大学 の参加者を含む)に学生4人を加え実施した」(弘前
表7.FDの取組
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大学),「全学FDワークショップでは,学生を参加さ せ,教育システムや授業に関する課題について意見交 換している」(秋田大学),「平成23年に徳島大学のFD は“教職協働の下に学生の参画を得る”ことを定義と して明確にし,これを実践すべく教育,職員,学生に よるFD・SDを展開するに至っている」(徳島大学)
のように,「新任研修」(4件)のようなオーソドック スな研修の他に,「合宿型FD」や「学生参加型FD」
といった多様な形態のFDが実施されている状況が窺 える。
この他,「FDを教育の質の向上・授業改善に結び付 けるために,経済学部では“私の授業改善と工夫”シー トの作成を各教員に依頼」する取組(和歌山大学)や「授 業アンケートで学生から改善要望として挙げられた項 目と評価が高い授業の特徴を整理して,“講義秘訣集”
として出版」し「“講義秘訣集”をテキストとして利 用し,効果的な授業方法,学生指導法の講義」を行う 取組(東京農工大学)が見られた。
【8-2-②】
観点8-2-②は,「教育支援者や教育補助者に対 し,教育活動の質の向上を図るための研修等,その資 質の向上を図るための取組が適切に行われているか」
である。
この観点では,技術系職員やティーチング・アシス タント(以下,TA)に対する研修等の取組が適切に 行われているかが問われているが,自己点検・評価報 告書のほとんど(20件)の記述内容は研修会の開催と 参加であった。その他の取組としては,ハンドブック の配布や「教育補助者としてのティーチングアシスタ ント(TA)に対しては,教育活動の実践を通して科 目担当教授が個別に具体的な指導を行っている」(沖 縄県立看護大学)といった内容に留まっている。
4.まとめ
以上,機関別認証評価における大学評価基準の基本 的観点から,教育の内部質保証システムを概観してき た。
各大学は,教育の内部質保証のための体制として,
全学的な教務・学務系の委員会,及び部会,ワーキング・
グループや各部局の委員会を設けており,センター系 の組織や教務課・学務課をはじめとする事務局がデー タの収集・分析の面から支援を行っている。
データ収集に際しては,学務情報システムのよう なICT技術を活用したインフラが整備されつつあり,
教育の取組状況や学生の情報がWEB上で閲覧可能に なってきている。それにともなって,ポートフォリオ の管理やアンケート調査をWEB上で行う大学も見ら れた。
次に,学内外の関係者の意見聴取の方法としては,
「授業評価アンケート」や「学生生活実態調査」,「卒業・
修了生アンケート」や「企業アンケート」等の種々の アンケート調査が実施されている。とりわけ,「授業 評価アンケート」は高評価教員の表彰や,当該教員を 講師にする等,FDへも活用されている。
最後に,FDについては,「FD講演会・研修会」を はじめとして「授業公開」,「大学間連携FD」,「合宿 型FD」,「学生参加型FD」のように多様な取組みが行 われている。また,WEBによる「動画配信」や講義 の実践記録のような「講義ハンドブック」を活用した 情報共有が見られた。
一方で,内部質保証体制の機能状況や,各種アンケー ト調査,FD活動等がどのように改善に結びついてい るかについて,本資料では明確にできたとは言えない。
自己点検・評価報告書からは,PDCAサイクルにおけ るCheck(点検・評価)が行える体制にあり,実際に Check(点検・評価)が行われている状況が読み取れ た。しかしながら,Checkがどのように,あるいは,
どのようなActionに繋がったかを判断するのは,自己 点検・評価報告書からのみでは限界がある。
本資料では,各大学の教育の内部質保証システムに ついて,部分的ではあるが種々の取組を紹介できた点 に一定の意義があるが,今後,ヒアリング調査等,質 的調査を充実させ,より詳細かつ明確な教育の内部質 保証システム像を明らかにすることが課題である。
注
[注1] なお,信州大学では,「授業評価アンケート」の 公表の範囲は学部によって異なっている。全学で公表の 範囲を統一しないという選択肢は示唆的であると思われ る。
[注2] 「授業評価アンケート」の公表等の状況について は,平成23年度 文部科学省調査「大学における教育内 容等の改革状況等について」調査結果(1~4)がある。
< h t t p : / / w w w . m e x t . g o . j p / a _ m e n u / k o u t o u / daigaku/04052801/1341433.htm>(2014年5月26日現在 確認)
引用文献
Campbell and Rozsnyai C. (2002)Quality Assurance and the Development of Course Programmes. UNESCO-CEPES, Bucharest.
Damme D. van (2004)Standards and Indicators in Institutional and programme Accreditation in Higher Education: A Conceptual Framework and a Proposal. In Indicators for Institutional and Programme Accreditation in Higher/Tertiary Education. UNESCO-CEPES, Bucharest.
Woodhouse, D. (1999)'Quality and Quality Assurance', in OECD, Quality and Internationalisation in Higher
Education.
本資料において扱った自己点検・評価報告書は,以 下の大学が作成したものである。
1.長岡技術科学大学 2.豊橋技術科学大学 3.京都教育大学 4.産業技術大学院大学 5.室蘭工業大学 6.北見工業大学 7.弘前大学 8.岩手大学 9.秋田大学 10.山形大学 11.東京外国語大学 12.東京農工大学 13.信州大学 14.岐阜大学 15.京都大学 16.大阪教育大学 17.奈良女子大学 18.和歌山大学 19.徳島大学 20.鳴門教育大学 21.総合研究大学院大学
22.北陸先端科学技術大学院大学 23.奈良県立医科大学
24.沖縄県立看護大学 25.沖縄県立芸術大学