講演会及び研究集会の記録
第57回東北・北海道地区大学一般教育研究会
『教養教育の新たな展開-教育の質保証と学習支援』
1.大学設置基準の大綱化と21世紀教育センター運営委員会
第回東北・北海道地区大学一般教育研究会(以降、一般教育研究会)の当番校を務めてもらえない かとの打診が岩手県立大学よりあったのは、平成年のことであった。開催大学の順番から判断して、
もうそろそろ、本学が担当しなければならない時期であった。記録を辿れば、本学が当番校を務めたの は平成3年のことで、第回東北・北海道地区大学一般教育研究会の運営・実施は、教養部が担当した。
まさにこの年、大学審議会答申『大学教育の改善について』(平成3年)を受けて、大学設置基準が平 成3年6月に改正された。所謂、大学設置基準の大綱化である。一般教育と専門教育の区分が廃止され たこと等を受けて、本学では、一般教育を担当する部局としての教養部が改組されることとなった。当 番校の打診をいただいたが、本学には一般教育を担当する部局がもはや存在しない。このような状況の もと、世紀教育センター運営委員会(以降、センター運営委員会)が中心となって、運営・実施にあ たることとし、岩手県立大学が当番校を務めた第回東北・北海道地区大学一般教育研究会から、準備 のための視察を兼ねて、センター長・副センター長が研究会に参加することになった。
2.センター運営委員会による準備委員会・実行委員会の設置
一般教育研究会のための準備委員会の設置が、センター運営委員会(平成年0月日)で承認され、
本学が当番校を務める一般教育研究会の運営・実施に向けた準備に取り掛かることとなった。第1回準 備委員会(平成年月7日)で、日程・会場、テーマ、運営組織、講演者等の検討、第2回準備委 員会(平成年1月日)で、日程・実施概要等の検討、第回準備委員会(平成年3月6日)で、
分科会会場、各テーマ説明文等の検討が行われた。この間、企画会議を中心に、何度となく、研究会の テーマの検討が行われた。できる限り多くの大学・短期大学の取り組みが話題提供され、東北・北海道 地区大学の優れた取り組みが共有されることを願ってのことであった。
平成年3月日に、前年度当番校の北海学園大学との引継ぎが行われ、一般教育研究会のための実 行委員会の設置が、センター運営委員会(平成年4月日)で承認された。一般教育研究会が開催さ れるまでに、3回の委員会が開催された。第1回実行委員会(平成年5月日)で、日程・研究会テー マ・役割分担・今後の作業日程等の検討、第2回実行委員会(平成年7月日)で、日程表・研究会 テーマ・開催通知・役割分担等の検討、第3回実行委員会(平成年9月5日)で、実施要項・参加者・
役割分担・スケジュール・分科会プログラム等打ち合わせ及び最終確認が行われた。
3.一般教育研究会の大テーマと分科会
一般教育研究会の大テーマは、『教養教育の新たな展開-教育の質保証と学習支援』である。その趣 旨は、以下の通りである。
木 村 宣 美*
*実行委員会委員長 弘前大学人文学部
これまで、大学審議会や中央教育審議会の答申において、『教育の質保証』と『学習支援』に関 連する、いくつかの重要な提言がなされている。例えば、『平成年度以降の高等教育の将来構想 について』(大学審議会 平成9年)は、歳人口の減少・高等教育への進学意欲の高まりに対 応し、高等教育機関が、学生の多様化を踏まえて、教育内容・方法の在り方を見直し、教育機能 の強化等、質的な面での向上を図ること、また、新たな環境への円滑な移行(高等学校と大学の接 続)を図ることが必要であると指摘している。
『世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-』(大学審議会 平成0年)は、課題探求能力の育成を目指した教育研究の質の向上を基本理念の一つとして示し、
より厳格な成績評価の実施等、卒業時における学生の質を確保するための取組みを充実させる必要 があると指摘している。また、『グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について』(大学 審議会平成年)は、グローバル化時代に求められる教養を重視した教育の改善充実、学習指導・
履修指導体制の充実、教員の教育能力や実践的能力の重視等、国際的な水準を視野に入れつつ、そ の教育活動の質的向上を図り、高等教育としての水準確保を図ることの重要性を指摘している。
さらに、『我が国の高等教育の将来像』(中央教育審議会 平成年)では、「知識基盤社会」
において、学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究することを目的として掲 げる大学は、これまで以上に高い質を保持することが求められ、教員は教育のプロとしての自覚 を持ち、絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要があると指摘されている。
以上のように、『教育の質保証と学習支援』を軸にして、教養教育において新たな展開が、すな わち、教養教育に対する新たな期待が見られる。
文部科学省は平成年9月、大学と短大の設置基準を改正し、各大学の自己点検・評価を義務づ けるとともに、履修科目登録単位数の上限設定や教育内容等の改善に資する教員の組織的研修等
(ファカルティ・ディベロップメント(FD))を努力義務規定として盛り込んだ。その結果、F Dを導入する大学も年々増加してきているが、その実態は講演会の開催や研修会、授業内容の検 討会が中心で、必ずしも、実質的な授業改善に繋がっていない。
周知のように、大学院ではすでにFDが努力義務規定から義務規定に改正され、平成年4月か ら義務化された。さらに、文部科学省は、大学・短期大学教員の授業のレベルアップのため、大学 として備えるべき要件に、FD実施の義務化を規定する方針を固め、中央教育審議会大学分科会制 度・教育部会において、大学設置基準と短期大学設置基準の改正に向けた規定整備がなされてい る。
我が国の高等教育は、少子化に伴う大学全入時代の到来・学習指導要領の改訂・単位の実質化へ の要請・FDの義務化等という新たな局面に直面し、学士課程における教養教育の充実・改善を図 る必要に迫られている。教育再生会議の『社会総がかりで教育再生を・第二次報告』(平成年6 月)では、「地域、世界に貢献する大学・大学院の再生-徹底した大学・大学院改革-」の中で、
大学教育の質の保証(卒業認定の厳格化、学生による実効性ある授業評価の実施、教員の教育力の 向上等)が提言される等、様々な政府諸会議において大学・大学院改革に関する提言がなされてい る。しかし、今、求められているのは、大学が「授業改善」を自主的に進めることである。高等教 育を取り巻く、このような状況に対応するために、本研究会では、教養教育における『教育の質保 証と学習支援』への取組みの現状と課題をテーマとし、「改善」・「連携」・「検証」をキーワードと する3つの分科会において、各大学の取組みを紹介し合い、活発な議論を重ね、教養教育の充実・
改善とその実質化を図る可能性を探りたい。
一般教育研究会では、3つの分科会を設け、話題提供を募ることにした。それぞれの分科会のテーマ とその趣旨は、以下の通りである。第1分科会のキーワードは「改善」で、テーマは「『教育の質保証
と学習支援』の改善に向けた取組み」である。
『平成年度以降の高等教育の将来構想について』で示された、学生の多様化と高等教育におけ る「質」の確保に関する提言は、以降の大学審議会・中央教育審議会の答申(『世紀の大学像と 今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-』や『我が国の高等教育の将来 像』等)に受け継がれている。大学には、教育の質の確保と向上が求められ、教員は教育のプロ としての自覚を持ち、絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。
大学設置基準の改正に伴うFD義務化に向けて、個々の大学においてどのような授業改善ができ るのか、自主的な取組みへの積極的な姿勢が求められている。
教員には、授業の計画(
Plan
)・実行(Do
)・評価(Check
)・改善(Action
)のサイクルに基づ く教育が求められ、各大学では、学力低下に対応するための授業内容の見直し・習熟度別クラス 編成・授業研究、学生と教員の共同作業としての授業内容・方法の改善、FD研修と教育改善等、授業改善に向けて独自の取組みを行っていると思われる。
第1分科会では、各大学が『教育の質保証と学習支援』のために、どのような「改善」に取り組 んでいるか、幅広く議論したい。
授業改善として、例えば、各教員自身による「省察 (Reflection)」が授業改善に不可欠であると の認識から、ティーチング・ポートフォリオ(
Teaching Portfolio
、授業実践記録)の活用が考え られる。これは、授業設計者である教員の授業改善のための取組みであり、「自らの授業を記録し 整理することにより、将来の授業の向上と改善に役立てる。」という目的がある。また、授業改善 のための取組みに、学生の声を反映させるべきであるとの視点から、学期途中の学生からのフィー ドバックを活用することも有益である。これは、学期末の学生による授業評価よりも、授業改善に 直結するとして、アメリカやカナダの多くの大学で積極的に用いられているものである。あるいは、授業改善には、教員のみならず学生も同等の責任を負うべきであるとの視点から、単位の実質化に 基づく授業改善を進めるために、図書館に「指定図書」制度を導入し、講義と自学自習を一体化し た授業シラバスの充実を図ることも考えられる。
第2分科会のキーワードは「連携」で、テーマは「『教育の質保証と学習支援』の連携に向けた取組 み」である。
『平成年度以降の高等教育の将来構想について』では、歳人口の減少・高等教育への進学意 欲の高まりに対応し、新たな環境への円滑な移行を図る観点が必要となるとの指摘がなされ、また、
『世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-』では、高等学校 の教育内容が多様化していることを前提とし、履修歴の多様な高等学校卒業生を受け入れる以上、
大学の教育も当然その変化に対応した内容に変わるべきである、という初等中等教育の現状を見渡 した考え方へ発想を転換することの重要性が指摘されている。教養教育と専門教育の有機的連携の 確保を図ること、社会との連携・交流や国際交流を推進し、ボランティア活動・就業体験を与える インターンシップ・キャリア教育等、学外の体験を取り入れた授業科目を開設する等、社会の実践 的な教育力を大学教育に活用するという視点も重要であると指摘されている。
さらに、『我が国の高等教育の将来像』においても、高等教育の将来像を考える際には、初等中 等教育との接続にも十分留意する必要があることが指摘され、教育内容・方法等を含め、全体の接 続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏 まえて一貫した考え方で改革を進めていく視点が重要であると述べられている。
中央教育審議会は研究・教育に加えて、新たに社会貢献を加えて、大学の「第三の使命」と位置 づけている。このように、「連携」には、高大連携や地域連携等、大学独自の特色が反映される。
第2分科会では、各大学が『教育の質保証と学習支援』のために、どのような「連携」に取り組ん
でいるか、幅広く議論したい。
「連携」には、高等学校や生協等の組織と大学の連携、地域や社会と大学の連携、教養教育と専 門教育のカリキュラムの連携、東北・北海道地区大学間・東北地区大学間での連携、グローバル化 社会における国際連携、授業評価アンケートと授業改善・教育評価の連携、インターネットを活用
した
e-learning
と学習の連携等、カリキュラム・授業内容・教育方法に関連して多様な形態が考えられる。例えば、「大学コンソーシアム京都」や「地域ネットワークFD樹氷」では、FDの義務 化に向けて、相互の議論を深めるために、連携を密にしている。また、地域に根ざし幅広い視点に 立った授業科目の開発も多くの大学でなされ、地域密着型の連携がなされている。
第3分科会のキーワードは「検証」で、テーマは「『教育の質保証と学習支援』の検証に向けた取組 み」である。
『世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-』では、質の 確保を図るために成績評価基準の明示・厳格な成績評価をすること、単位制度の実質化を図るため に履修科目登録の上限を設定する等の方策が提言されている。また、学習を支援し、授業の質の向 上を図るために、受講に当たってあらかじめ読んでおく文献の提示等、準備学習の指示や成績評価 基準等を示したシラバスを作成する等、効果的なシラバスの活用が重要であることが指摘されてい る。さらに、教育活動に対する評価を行い、教室における授業及び教室外の準備学習等の指示、成 績評価等の具体的実施状況を評価の対象とすることにより、単位制度の実質化と教育内容の充実を 図ることが重要であると指摘されている。
大学審議会の答申(平成0年)や大学評価機関の評価内容は、「厳格な成績評価」を強調し、ど れだけ学生に学力をつけて卒業させたか、教育の質保証が問われている。そのために、
GPA
制(厳 格な成績評価)を実施している大学も増えている。また、これから導入を検討している大学もある。『我が国の高等教育の将来像』でも、教育課程の改善や「出口管理」の強化を図ることが求められ、
授業における達成目標を明示し、測定方法が厳しく問われ、授業シラバスという見える形で提示す ることが求められる。
「検証」がともなわなければ、効果的な「改善」には繋がらないことが指摘されている。「検証」
と「改善」が効果的に連携して、優れた大学改革に結実するのではないだろうか。第3分科会 では、各大学が『教育の質保証と学習支援』のために、どのような「検証」に取り組んでいるか、
幅広く議論したい。
例えば、教育の質の向上を図るために、科目区分ごとにきめ細かな「成績評価の方法と基準」を 定め、「適正な成績評価」を行うことが考えられる。多くの大学で、教養教育と専門教育のあり方 を見直し、新しい学士課程教育の目標とそれに合致したカリキュラムを作成することも重要な課題 となっている。また、4年生の視点に基づくアンケートによって、教育の成果を検証することも考 えられる。学生が授業到達目標をどのように達成したか、「ラーニング・ポートフォリオ(
Learning
Portfolio
、学習実践記録)」にまとめられるように、授業シラバスの充実及び指導を図ることも考えられる。
4.一般教育研究会の全体会Ⅰ・Ⅱでの講演及び分科会での話題提供
一般教育研究会は、平成年9月日(木)に、矢島忠夫(教育学部教授:世紀教育センター長)
委員から、総会Ⅰの開会が告げられ、遠藤正彦(本学学長)東北・北海道地区大学一般教育研究会運営 組織(以降、運営組織)委員長から、挨拶が述べられた。総会Ⅰの議長に、須藤新一(本学副学長)運 営組織副委員長、二日目の総会Ⅱの議長に、本城誠二(北海学園大学教授)運営組織副委員長とするこ とが承認された。引続き、庶務・会計報告及び会計監査報告、「全体会Ⅰ及び全体会Ⅱの司会者」及
び「分科会の司会者・記録者・報告者」の提案が承認され、総会Ⅰが終了した。
全体会Ⅰ・Ⅱの講演では、本学の中期目標・中期計画を達成するための年度計画にも記載されている、
ティーチング・ポートフォリオやラーニング・ポートフォリオを活用した教育活動の取組み等を話題提 供することにした。総会Ⅰに引続き、全体会Ⅰでは、本学名誉教授(前本学副学長)の大関邦夫先生に よる『教育の質保証-ティーチング・ポートフォリオ』の講演、9月日(金)の全体会Ⅱでは、事例 報告として、本学世紀教育センター高等教育研究開発室教授の土持ゲーリー法一先生による『ラーニ ング・ポートフォリオと「指定図書」を活用した授業シラバス』の講演が行われた。また、一般教育研 究会の当番校として、本学での取組みを、でき
る限り多く、分科会で話題提供するという方針 で対応することとなった。このため、前年度当 番校の北海学園大学より、4つ多いの話題提 供がなされた。第1分科会では、鬼島 宏(医 学研究科)先生が「
Teaching Portfolio
(ティー チング・ポートフォリオ)と自己評価報告書(教 育活動)との対比」、第2分科会では、土持ゲー リー法一先生が「高大および地域連携による「津軽学-歴史と文化」」、第3分科会では、谷 田親彦(教育学部)・武田共治(農学生命科学
部)先生が「弘前大学4年生の視点に基づく世紀教育の成果と課題」、木村宣美(人文学部)が「『教 育者総覧(教育活動自己評価申告記録)』[弘前大学版ティーチング・ポートフォリオ]に基づく検証を 踏まえた授業改善」の演題で、話題提供を行った。これは、弘前大学戦略的経費に基づくカナダ・ダル ハウジー大学への資格認定研修のための出張、世紀教育センター点検・評価専門委員会の取組み、
世紀教育センター高等教育研究開発室の活動(授業科目開発)に基づく成果であった。
5.運営組織による実施体制
運営組織の会計監査委員・庶務委員・会計委員は、センター運営委員会委員名が分担することとし、
運営委員会委員全員で研究会実施の体制を整えた。大高明史(教育学部教授:世紀教育センター副セ ンター長)委員が、全体会Ⅰ・Ⅱの司会を務めた。武田共治(農学生命科学部准教授:世紀教育セン ター副センター長)委員は、会計を担当することとなった。3つの分科会会場のそれぞれに、司会者・
記録者・報告者を2名ずつ配置し、計名の委員がこの研究会を支えた。すべての分科会での発表に関 する報告はパワーポイントを活用したもので、その概要が正確かつ適格に報告されていた。報告のため の原稿作りには、かなりの労力が注がれたものであった。また、学務部教務課世紀教育担当の職員は 5名であるが、学務部教務課のみならず学務部全体の協力により、一般教育研究会が運営された。正門 への立て看板等の設置、構内に矢印等の設置、0周年記念会館の会場設営(総会Ⅰ・全体会Ⅰ・総会Ⅱ・
全体会Ⅱの会場設営、応接室・会議室受付設営)、理工学部会場(分科会打合せ・控室、休憩等の会場 設営)、懇親会場への矢印等の表示、正門案内、全体受付・懇親会受付・話題提供者受付、機器の設営・
確認、分科会での話題提供者の発表の録音、幹事大学会議の会場設営等で協力を惜しまなかったのは、
学務部の職員であった。このように、センター運営委員会委員及び学務部の職員の協力・尽力なくして、
この一般教育研究会を運営・実施することは不可能であった。本研究会には、東北・北海道地区の大 学の約0名の参加があり、実りある有意義な意見交換が行われた。次期当番大学は北海道大学で、次々 期当番大学は岩手大学である。今後も、「教育の質の保証」及び「卒業生の質の担保」のために、本学 の学士課程教育をより充実させる取組みが展開されることを切に望みたい。
(備考:平成年度世紀教育活動・評価報告書より転載)