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微生物による長鎖n-アルカンの新規サブターミナル酸化経路

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化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015

微生物による長鎖 n- アルカンの新規サブターミナル酸化経路

微細藻 Prototheca zopfii n- ヘキサデカンのサブターミナル酸化

一部のバクテリア,酵母は,直鎖炭化水素鎖( -アル カン)を炭素源として利用し生育することが可能であ る.そのなかでも, -アルカン資化性酵母については研

究が進んでおり, 属の , 

や, などの -アルカン

資化経路がよく知られている(1).これらの微生物は図1 のターミナル酸化経路で -アルカンの末端をチトクロー ムP450またはアルカン1-モノオキシゲナーゼと呼ばれ る酵素により -アルカンの末端を酸化し1級アルコール へ,さらに,アルコールデヒドロゲナーゼによりアルデ ヒドへ,アルデヒドデヒドロゲナーゼにより脂肪酸へと 酸化する.生成した脂肪酸をβ酸化系により代謝するこ とでエネルギーを獲得すると考えられる.さらに,

や  sp. においては, -アルカン が脂肪酸へと酸化された後,脂肪酸は脂肪酸モノオキシ ゲナーゼによりω位が酸化され,最終的にジカルボン酸 へと変換されることもわかっている(2).多くの糸状菌に おいても -アルカンが資化されることがわかっており,

中でも油脂蓄積性糸状菌 は炭素源と して培地に添加された -アルカンを効率良く脂肪酸へと 変換し,生成した脂肪酸を貯蔵脂質として菌体内に蓄積

する(3)

微生物による -アルカンの資化経路はターミナル酸化 経路が主流であるが,一部の微生物においてサブターミ ナル酸化経路(図1)の存在が示唆された.

は -デカンを,  sp. は -テト ラデカンを,  sp. は -ヘキサデカンをサブ ターミナル酸化で資化することが報告された(2).しか し,これら微生物の長鎖 -アルカンのサブターミナル酸 化活性は低く,変換される酸化化合物は微量であった.

-アルカンのサブターミナル酸化にかかわる酵素群には 未解明な点が多く,特に -アルカンを最初に酸化するサ ブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼについては報 告されていない.酸化代謝物の同定により, -アルカン はサブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼにより 2級アルコールへ,続いてアルコールデヒドロゲナーゼ によりケトンへ,バイヤビリガーモノオキシゲナーゼに よりエステルへ,エステラーゼにより1級アルコールと 脂肪酸へと順に変換されると推測された(図1).

-アルカンを資化する微生物の中でも,光合成能を持 たない微細藻類である 属は -アルカン分解能 が極めて高いことが知られていた(4).しかしながら,ど

図1 -アルカンのターミナル酸化とサブ

ターミナル酸化経路

ターミナル酸化経路において, -アルカンは 最終的に脂肪酸へと変換されβ酸化経路へと 流入する.一方,サブターミナル酸化経路に おいて, -アルカンは2級アルコール,ケト ンへと酸化された後,バイヤビリガーモノオ キシゲナーゼによりエステルへ変換されると 推測される.

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のような代謝経路で -アルカンを分解し利用しているか は不明であった.筆者らは,数種の 属の -ヘ キサデカン資化能を調べたところ の資 化能が高いことを確認した.特に,  JCM9400 と  NBRC6998は -ヘキサデカンの分解能が高 いことと,ガスクロマトグラム上での代謝産物のパター ンがやや異なることを見いだした.すなわち, -ヘキサ デカンを炭素源として培養すると,  JCM9400 では5-ヘキサデカノンが,  NBRC6998では5-ヘ キサデカノールが主要な代謝中間体として同定され た(5).さらに,微量代謝中間体を同定した結果,ペンタ ン酸ウンデシルエステルと1-ウンデカノールを同定し た.これら代謝中間体の同定により, -ヘキサデカンを 炭素源として を培養すると図2のような5位を 酸化するサブターミナル酸化経路で -ヘキサデカンが速 やかに分解されると予想した.

さらに,炭素鎖長が11〜17の -アルカンを炭素源と して  JCM9400を培養するとそれらを速やかに 分解し,その主要な代謝中間体はそれぞれ5位が酸化さ れたケトンであった.また,生成量は少ないものの2 位,3位,4位が酸化されたケトンも検出されたが,末 端が酸化された代謝中間体は検出されなかった(6)

 JCM9400の脂肪酸組成は,炭素鎖長16または18 の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸で構成されており,炭素鎖 長15や17の奇数鎖脂肪酸を含んでいない.もし

 JCM9400に -アルカンの末端酸化にかかわるアルカ ン1-モノオキシゲナーゼ活性が存在すれば,奇数鎖 -ア ルカンであるペンタデカンを炭素源とした場合ペンタデ

カン酸が生成すると予想された.実際には,菌体の脂肪 酸組成を分析したところペンタデカン酸や奇数鎖脂肪酸 を検出することができなかったことから,  

JCM9400は -アルカンの末端酸化にかかわるアルカン 1-モノオキシゲナーゼ活性を有していないことが示唆さ れた.一方,奇数鎖1級アルコールである1-ペンタデカ ノールを添加して培養するとペンタデカン酸が検出され たことから1級アルコールを脂肪酸へ酸化するアルコー ル(およびアルデヒド)デヒドロゲナーゼ活性は有して いることがわかった.

-アルカン資化性酵母は, -アルカン酸化系で初発酸 化を担うチトクロームP450や脂肪酸のβ酸化系の酵素を コードする遺伝子の発現が誘導されることが知られてい る(1).  JCM9400のサブターミナル酸化にかかわ る酵素系の情報を得るために, -アルカンで誘導した菌 体と非誘導の菌体の総タンパク質の二次元電気泳動を試 みたが顕著な違いを検出することはできなかったことか ら,  JCM9400のサブターミナル酸化にかかわ る酵素群は誘導酵素でない可能性が示唆された.

これまで知られている微生物の中でも は長鎖 -アルカンの高い分解活性を有していると言える.これ ら代謝にかかわる関連酵素群の中でも酸化系の初発酵素 であるサブターミナルアルカンモノオキシゲナーゼが最 も重要であると考えられる.これまで酵素・遺伝子レベ ルで報告がない本酵素の諸性質が解明されれば,新たな 脂質変換ツールとして位置選択的な2級アルコールやケ トン生産への利用が期待される.

  1)  小暮高久,角田  徹,飯田敏也,太田明徳,高木正道:化 学と生物,38, 693 (2000).

  2)  J. B. Beilen, Z. Li, W. A. Duetz, T. H. M. Smits & B. Wii-

tholt:  , 58, 427 (2003).

  3)  S. Shimizu, H. Kawashima, K. Akimoto, Y. Shinmen & H. 

Yamada:  , 68, 254 (1991).

  4)  J.  D.  Walker,  R.  R.  Colwell,  Z.  Vaituzis  &  S.  A.  Meyer: 

254, 423 (1975).

  5)  E. Sakuradani, Y. Natsume, Y. Takimura, J. Ogawa & S. 

Shimizu:  , 116, 472 (2013).

  6)  Y.  Takimura,  E.  Sakuradani,  Y.  Natsume,  T.  Miyake,  J. 

Ogawa  &  S.  Shimizu:  , 117,  275  (2014).

(櫻谷英治,徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研 究部)

図2  JCM9400-ヘキサデカン代謝経路

 JCM9400は -ヘキサデカンの5位を酸化するサブターミ ナル酸化経路をもつと考えられる.

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化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015 プロフィル

櫻谷 英治(Eiji SAKURADANI)

<略歴>1994年京都大学農学部農芸化学 科卒業/1996年同大学大学院農学研究科 農芸化学専攻修士課程修了/1999年同大 学大学院農学研究科農芸化学専攻博士後期 課程修了/2003年同大学大学院農学研究 科助手・助教/2014年徳島大学大学院ソ シオテクノサイエンス研究部教授,現在に 至る<研究テーマと抱負>動物・植物・微 生物の相互関係に着目した微生物スクリー ニング<趣味>のんびりした釣り,楽しい お酒

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.663

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