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宇宙倫理学入門 ~ヒトと宇宙の関わり方~

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(1)

宇宙倫理学入門

~ヒトと宇宙の関わり方~

北大教育学部3年

轟木磨舟

(2)

目次

• 宇宙倫理学ってなに??

• 宇宙開発に関する現在までの流れ

• 宇宙開発の責務と文化的価値

(3)

宇宙倫理学ってなに??

• 応用倫理学としての宇宙倫理学

• 環境倫理学との関わり

• 生命倫理学との関わり

• 総合的応用倫理学としての宇宙倫理学

(4)

宇宙倫理学ってどういうことを

イメージしますか??

(5)

そもそも倫理学ってなに?

• 倫理について考える学問

倫理…人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において 普遍的な規準となるもの。道徳。モラル。

もうちょっと、分かりやすく言うと?

• 「もろもろの行為に関する事柄を、いかなる仕方でこれをなすべきかである かという観点から考察すること」(アリストテレス『ニコマコス倫理学』)

(6)

応用倫理学としての宇宙倫理学(1)

• 宇宙倫理学=最も新しい応用倫理学の領域

• そもそも、応用倫理学とは?

科学技術の発達を中心とする現代社会の諸問題に対応しようとする学問 例えば、

生命倫理学における臓器移植問題 環境倫理学における地球温暖化問題

(7)

応用倫理学としての宇宙倫理学(2)

⚠️応用倫理学は、既存の倫理学理論を

現代的な問題に「応用」しようとするものではない。

現代的な問題の存在に着目することによって、

そこから従来の倫理学理論を逆照射し、それに新たな反省を加える。

※既存(従来)の倫理学…功利主義やカント主義

(8)

応用倫理学としての宇宙倫理学(3)

• 宇宙開発に関する技術は、現在の多様な領域にまたがる最先端の科学 技術の集大成。

つまり、

宇宙開発は、先行する様々な応用倫理学の領域と密接な関係を持つ。

• タコツボ化している現在の応用倫理学の諸領域を、再度総合的に考え直 すきっかけを宇宙倫理学は与えてくれる。

(9)

宇宙開発は、

応用倫理学における

現代的問題の宝箱!!

(10)

環境倫理学との関わり(1)

• 環境倫理学

従来の倫理学理論

特定の共同体、特定の時代の内部における倫理を扱うことがメイン

↓環境倫理学の登場

「地球環境全体主義」、「世代間倫理」を問うことで、

倫理学に大きな転換を促した

(11)

環境倫理学との関わり(2)

• 宇宙倫理学は、この環境倫理学がもたらした転換を引き継ぎ、さらに前に 進めることになる。

• 例えば、どんな課題があるの?

スペース・デブリ:軌道上に大量に存在するゴミ 衛星軌道と衛星が使用する周波数帯の配分問題

→土地の「所有者」による自己決定的で自由な利用の制限

「誰のものでもない場所」の設定と国際的な管理

(12)

環境倫理学との関わり(3)

• 地球上に生息する生物にとっての問題である宇宙環境への適応

宇宙環境で地球上の生物が生存するための何らかの改変

宇宙に地球上の生物以外の生命体が存在するとしたら、それはどうなる?

例)テラフォーミング、地球外惑星への探査機の投入

(13)

環境倫理学との関わり(4)

• 世代間倫理

どれほどの時間的スパンで考えるべきか

• 人間の存続

宇宙規模で考えたとき、具体的にどのようなことを指すのか 固体としての人間? ヒトDNA?

(14)

生命倫理学との関わり(1)

• 生命倫理学

どのような個体がどのような道徳的配慮の対象になるか

例)ヒト胚、胎児、脳死体などの扱い、各種の動物への道徳的配慮

• 宇宙規模で考えるとどうなるか?

地球外生命体の存在を確認した場合、どのように接すべきであるかを考え ておくことが必要。

(15)

生命倫理学との関わり(2)

知的生命体と接触した場合、それは人類と

接触可能なほどの文明を維持していることがわかる。

彼らには一定の「道徳」のようなものを持っていると推測可能

それは、地球上に存在している「道徳」と全く異なったものである可能性

(16)

生命倫理学との関わり(3)

その場合、どのような「コミュニケーション」が可能であるのか SF映画のように「ファースト・コンタクト」が

「ワースト・コンタクト」になる可能性が否定できない。

地球外生命体との安易な接触の試みの 危険性に警鐘をならす研究者も存在する。

スティーブン・ホーキング

(17)

生命倫理学との関わり(4)

• 実際に宇宙空間に出る地球人について

宇宙空間は通常の人間が生活するには過酷な環境なため、

長期滞在者は身体的・精神的ケアが必須になる。

将来的には、長期の宇宙探検に適した身体に改造するという エンハンスメントの可否や、サイボーグ化の問題へとつながる。

(18)

生命倫理学との関わり(5)

• 地球外で生まれる人間について

高機能の宇宙ステーションや月などでのスペース・コロニーが実現した場 合、地球外で生まれ育つ人間が出現することになる。

環境の差異によって、それらの子どもは地球上では通常の生活ができなく なっていくのではないかという危惧が指摘される。

→人類という概念、地球人という概念に対する新しい反省を要求する。

(19)

その他の倫理学的問題

• 情報倫理学

宇宙衛星からの地表の「監視」に関するプライバシー問題

• ビジネス倫理学

生還の可能性が相当程度低い有償宇宙旅行を参加者の自己決定に基 づいて企画することは許されるか。

(20)

総合的応用倫理学としての宇宙倫理学(1)

• SF的未来に関わる倫理問題と、

現実に存在している問題の腑分けが必要。

→宇宙開発に必要な莫大なコストを考えるとき、「宇宙開発よりも絶対的貧困 の撲滅を」という極めて真っ当な意見をどのように考えるかということが正義 論としての宇宙倫理学に課せられた第一の課題。

(21)

総合的応用倫理学としての宇宙倫理学(2)

• 宇宙開発の正当化

「夢とロマン」といった言葉が多用されていること見ると、

一定の困難に直面していることが明らか。

• 応用倫理学に対する批判のひとつ

「それが無節操に進展する現代の科学技術の 後追い的な承認を行うものに過ぎない。」

→誤解であり、幾つもの反例を即座に挙げることは容易であるが、

その批判は継続的な自己反省を要求するものであることは確か。

(22)

総合的応用倫理学としての宇宙倫理学(3)

領域ごとにタコツボ化した応用倫理学

様々な領域にまたがる宇宙倫理学

「人間」「生命」「宇宙」といった壮大な問題系に

差し戻すことによって再統合する可能性を秘めた新しい領域

☆継続的自己反省を徹底し遂行することによってのみ果たされる。

(23)

言葉がむずかしい!!

一旦、休憩!

(24)

有人宇宙飛行に

ロマンは感じますか?

(25)

有人宇宙開発はやるべき

だと思いますか??

(26)

宇宙開発に関する現在までの流れ

(27)

有人宇宙活動の歴史(1)

宇宙を目指して・・・2大国家の競争

1961年 旧ソ連が人類初の有人宇宙船

ウォストーク1号を打上げ

人類で初めて宇宙を飛んだ宇宙飛行ガガーリンが 言った「地球は青かった」という言葉が世界中に 知れ渡る。

1961 アメリカがマーキュリー宇宙船を 打上げ

ガガーリンが宇宙を飛行した3週間後に打ち上げを 行う。1963年まで続くマーキュリー計画の始まり で、計7人の宇宙飛行士が計画に参加する。

1965年 旧ソ連が人類初の船外活動に成功 人類で初めて船外活動を成功させ、宇宙空間での 人類の活動・宇宙服の実用性が確認される。

1965年 アメリカが船外活動に成功 初の船外活動から3カ月遅れてアメリカが成功させ

る。後のアポロ計画でこの経験が役立てられる。

1969年 アメリカのアポロ11号が人類初の

月面着陸に成功 「静かの海」と呼ばれる月面の平地に着陸する。

(28)

有人宇宙活動の歴史(2)

宇宙での長期滞在開始

1971年 旧ソ連が世界初の宇宙ステーション

「サリュート」を打上げ

この成功によって人類が宇宙空間で長期間生活 することができるようになり、宇宙で実験を行 うことができるようになる。

1973年 アメリカはスカイラブ計画を実施

「スカイラブ」はアメリカ初の宇宙ステーショ ンで、無重力状態での人体の研究や、地球の気 象・地質の観測などを行う。

(29)

有人宇宙活動の歴史(3)

競争から協調へ・・・

1975年 アメリカのアポロ宇宙船と旧ソ連の

ソユーズ宇宙船がドッキング

両国の宇宙飛行士がお互いの宇宙船を訪問する。

国際協力の象徴する新たな宇宙時代の始まりと なる。

1981年 スペースシャトル初飛行 宇宙と地上を何度も行き来することができる再

使用可能なロケットとして開発される。

1986年 旧ソ連が宇宙ステーション

「ミール」打上げ

台所や運動する場所があり、快適な環境で実験 ができるようになる。

1992年 毛利宇宙飛行士、日本人初の

スペースシャトルで宇宙へ 搭乗科学技術者として、43の宇宙実験を行う。

1998年 国際宇宙ステーション建設開始 15か国が建設に参加し、約3カ月交代で宇宙飛行

士が長期間の生活を行う。

2003年 中国が有人初飛行に成功 世界で3番目の有人飛行達成国となる。

(30)

有人宇宙活動の歴史(4)

アメリカとソ連、2つの国の対立から宇宙開発が成り立っていた。

それは、図らずも宇宙開発の躍進につながる。

宇宙から地球を見ることを可能にし、

地球人という一つの共同体によって開発が進むようになる。

(31)

有人宇宙活動の諸問題(1)

• 宇宙滞在者のケア問題

精神的ケア、長期滞在者のケア、サイボーグ化

無重量状態が身体に引き起こす健康的問題…

骨の脆弱化、筋肉及び心臓筋肉組織の萎縮、宇宙酔い 宇宙線による身体への影響…

遺伝子に有害、発がん性?

(32)

有人宇宙活動の諸問題(2)

• 死と隣り合わせの活動 打ち上げの失敗

1980年 ボストーク2Mロケット爆発(ソ連) 48人死亡

2002年 ソユーズUロケット墜落(ソ連) 1人死亡

有人飛行中事故

1986年 チャレンジャー号爆発(アメリカ) 7人死亡 2003年 コロンビア号空中分解(アメリカ) 7人死亡

(33)

有人宇宙活動の諸問題(3)

• 飛行中の死亡事故は2016年までに6回あり、計20名が死亡している。

• 宇宙開発に関連する事故では、宇宙飛行士以外の人間も犠牲になって いる。整備員や技術者、近隣住民ら、少なくとも71名が死亡している。

• 民間宇宙旅行会社(ヴァージン・ギャラクティック)の事故

2014年に弾道飛行スペースプレーン・スペースシップツー1号機が墜落し、

乗員2名が死傷する。

→命の保証が現在でも未だに確立されていない。

(34)

無人宇宙開発を支持する声(1)

• 有人宇宙開発から撤退すべき2つの理由(立花,2012)

①事故が起きた際、宇宙飛行士の人命に関わるのが有人宇宙開発であ り、そのリスクをゼロにすることはできない。

→有人宇宙開発によって、死亡事故が起きたとするならば、日本では宇 宙開発反対の世論が生じ、有人宇宙開発関係者は反論に耐えられない。

→死亡事故は、無人宇宙開発の縮小や凍結にまで影響を及ぼしかねな い。

(35)

無人宇宙開発を支持する声(2)

②有人宇宙開発は、経済的なコストが大きい

→安全性への配慮を必要とする上で、無人宇宙開発よりコストがかかる。

探査機はやぶさの成功が代表例として挙げられるように、日本人が得意とす るのはロボット技術であり、費用対効果の面でも無人宇宙開発が望ましい。

有人宇宙開発について科学的・経済的・軍事的メリットが明確ではないとい う指摘をする研究者も存在する。

(36)

無人宇宙開発を支持する声(3)

• 成果の定めにくい有人宇宙開発以上に、少ないコストで産業面や化学面 において着実な成果をあげているのは無人宇宙開発

• 日本政府は、有人宇宙開発から撤退し、無人宇宙開発を進めていくべき だという主張をしている。

• 無人宇宙開発を支持する立場は、政府の財政が圧迫していることを踏ま えると、説得力を持つ。

(37)

有人宇宙開発に対する世論の考え(1)

• 宇宙開発に関する意識調査(2014)

サンプル:700人を無作為抽出

仮説1:日本人は、宇宙開発で死亡事故が起きた際に、その後の宇宙開 発について否定的になる。なぜならば、死亡事故のショックに耐えられな いからであり、それゆえ、死亡事故後の有人宇宙開発は、続けるべきでは なく、止めるべきという意見が優勢になる。

(38)

有人宇宙開発に対する世論の考え(2)

結果

それまで、有識者の間では、「有人宇宙開発において死亡事故が起きるなら ば、有人宇宙開発に対する反論が大きくなり、有人宇宙開発以外にも影響 が波及しかねないほど、バッシングが生じる」という考えがあった。

しかし、実際は、死亡事故が起きたとしても、原因を究明した後に、再開すれ ばよいと多くが考えていることが分かる。 (死亡事故はあってはならないと考 えているのは確か。)

(39)

有人宇宙開発に対する世論の考え(3)

• また、7つの科学技術(有人宇宙開発、再生可能エネルギー、遺伝子組み 換え…)の中で、有人宇宙開発が「日本の経済に発展する」「安全だ」と感 じる人は最も少なかったが、「夢がある」と感じている人が2番目に多かった。

→人々(国民)の有人宇宙開発に対する夢やロマンといった肯定的なイメー ジの下支えによって、成り立っていると考えられる。

(死を乗り越えてでも宇宙に人類が進出して欲しいと人々は考えている)

(40)

有人宇宙開発に対する世論の考え(4)

• この調査の意義

①死亡事故といった大きなリスクが有人宇宙開発の妨げになることが棄却 された。リスクを背負ってでも推し進めて欲しいという人類のロマンが存在 している。

②「人類は有人宇宙開発にロマンを持つ」といったことは、これまでイメー ジとして語られてきたが、それが世論の実態として明らかにされた。

(41)

有人宇宙開発の現代的なメリット(1)

• 有人宇宙開発を行うことで、知的成果が得られる。

科学的成果

宇宙環境が人体に及ぼす影響の解明、無重力環境を利用した新薬の開発な ど、人間を対象にする研究は有人でなければできない。

教育的成果

有人宇宙開発は子どもたちに科学技術への憧れを抱かせる。

精神的成果

美しい地球を守ろうとする環境意識や、国境を超えた人々の連帯感をもたらす。

(42)

有人宇宙開発の現代的なメリット(2)

• これらの成果を通して達成される人類の進歩には、お金には換算できない 価値があるのではないか。

• しかし…。事実と価値の問題。

事実

これらの成果は他の方法で得られないか。

価値

知的進歩という目的は人類にとってどれだけの価値があるのか。

(43)

宇宙開発の責務と文化的価値

(44)

宇宙開発をする責務(1)

• アメリカの倫理学者ジェームズ・シュワルツ

「宇宙開発を支持するわれわれの道徳的責務」

“Our moral obligation to support space exploration”2011

政治や経済ではなく、あくまで「道徳」という観点から、宇宙開発を考える。

(45)

宇宙開発をする責務(2)

• 大抵の人が宇宙開発を受け入れる2つの前提

「われわれは人類という種を生き残らせる責務がある」

「われわれは環境を保護する責務がある」

これらを踏まえ、宇宙開発をサポートする道徳的責務が論じられる。

(46)

宇宙開発をする責務(3)

1. 資源に訴える議論

・人類が地球上の資源を使い尽くしてしまった場合、環境も破壊され人 類も滅んでしまう。そうなる前に、小惑星などに資源が豊富であることを 確かめて、それが利用できるなら利用する責務がある。

(47)

宇宙開発をする責務(4)

2. 小惑星の危険性に関する議論

小惑星が地球に衝突することで、巨大なカタストロフィーが起きる可能性が ある。そうなると、環境も破壊されて人類も滅んでしまう。したがって、地球を 小惑星の衝突から何らかの術で防ぐ技術を開発する責務がある。

(48)

宇宙開発をする責務(5)

3.太陽の燃え尽きに関する議論

超長期的には太陽は燃え尽きる。その過程で赤色巨星になって地球も飲み 込まれると考えられている。もしも、人類が滅亡しないようにする責務がある なら、それまでに人類を太陽系外に植民させる義務がある。

(49)

宇宙開発をする責務(6)

• これらの議論に対して想定される反論への答え

長期的な宇宙開発によって資源が浪費され、地球の環境が破壊されるので はないか。

→現在の規模の宇宙開発から生じる環境破壊は無視できるレベル

宇宙への移住が進むと、人類がこれまで大事に保護しようとしてきた気持ち が失われるのではないか。

→船を大事にしなくなるから、救命艇は不要といっているのと同様。

(50)

宇宙開発をする責務(7)

他の惑星をテラフォーミングして移住しようなどと考えている者は、地球以外 の環境の美的価値に対して無神経なのではないか。

→火星に移住しない理由には確かになるかもしれないが、たとえば小惑星 の資源採掘を否定する理由にはならないのではないか。(美的価値を完全 に否定するわけではないが)われわれに理解できない美に謙虚になるという のは、行き過ぎると息も出来なくなってしまう。

(51)

宇宙開発をする責務(8)

• シュワルツの議論をどう見て考えるか

→必ずしもシュワルツの議論に賛同する必要はない。

-現在生きている世代は直近の何世代かに対しては、生きていける地球環 境を引き渡す義務はあるが、人類が永久的に生き残らせるという責務は、

一体誰に対して背負っているのか。

-資源問題については、化石燃料に代わるエネルギー源を発見することが 問題になっているため、それを地球外の資源に期待できるかは疑問。

(52)

宇宙開発をしなくてはならない責務(9)

-火星や金星のテラフォーミングを容認するかは曖昧になっている。

-太陽の燃え尽きを現在の宇宙開発の規模と結びつけるのは、タイムスケー

ルの感覚がおかしい。

• この論文は、シュワルツの議論を鵜呑みにして、宇宙開発を進めさせるた めのものではない。

→こういった道徳的責務に対して違和感・疑問を持たせることで、宇宙開 発の是非や必要性について人々が真剣に考えること。

(53)

宇宙開発をしなくてはならない責務(10)

→宇宙開発を「してもよい」ではなく「しなくてはならない」という議論を行うこ とで、人類が地球に永遠に存続することの限界を気付かせる一つのカギ。

(そもそも、人類が生存する価値の有無を問うかという、より哲学的な論点に 関しては、ここでは伏せておく。)

(54)

再び、有人宇宙開発の価値へ。(1)

• 有人宇宙開発に対する学術的な価値での疑問

・二次利用可能な技術や人材育成という面で言えば、他のもっとリスクの低 い技術で代替可能ではないかと考えられる。

・人類の生き残りや環境保護という責務の上でも、有人宇宙飛行を推し進 める理由になるかは微妙(テラフォーミングが現実的になるまでは)

・無人惑星探査でも同等以上の効果が期待できるのではないか。

(55)

再び、有人宇宙開発の価値へ。(2)

• じゃあ、なぜ有人宇宙飛行が支持されるのか。

「有人宇宙飛行が行われるということ自体を人々が望む」という価値に支え られているからだと考えられる。

→受動的価値

(56)

再び、有人宇宙開発の価値へ。(3)

• 価値の問題

倫理的アプローチで考えてみる。

まったく異なる価値を同じものさしにのせるための方法として、幸福という 価値で一元化するというやり方がある。(功利主義)

→宇宙探査や有人宇宙飛行がどのくらい人々を幸せにするかを調べる手 法として、「仮想評価法」という方法が応用できる可能性がある。

(57)

再び、有人宇宙開発の価値へ。(4)

• 仮想評価法

「○○を実現するためにあなたはいくらまでなら払えますか」といった質問 を通して、何にどのくらい価値を見出しているかを調べる手法

↑前のスライドで紹介した世論調査に近い。

• 受動的価値はあくまで様々な価値のうち一つ。

(58)

再び、有人宇宙開発の価値へ。(5)

倫理学の観点から考えると、

幸福だけを重視し、価値を置くことを気にしていれば良いという話では収まら ない。

→幸福の定義、幸福自体の価値…

(59)

(有人宇宙開発と人類の本来的性質)

• 存在領域を拡大することは、人間あるいは生命的に持つ性質

「海で生まれた生命の陸上への進出や、出アフリカを果たした人類が生存 圏を拡げて地球上の隅々まで行き渡ったことの延長として、人類は宇宙へ 出てゆこうとしている」という説。

• ビッグヒストリー的な分かりやすさと魅力はあるが、有人宇宙開発を正当化 する理由としては適切でない。

(60)

有人宇宙開発の文化的価値

• アメリカの物理学者フリーマン・ダイソンが書いた著書において、どのような 人々が宇宙に移民しようとするのかを推察している。

未来の宇宙植民と、ヨーロッパからアメリカ大陸への二つの移民団の比較

• 一家族当たりにかかった経費を比較すると、モルモン教徒は年収2年分 だったのに対して、メイフラワー号は年収7年分かかっていた。

→宇宙コロニーにおいても、大規模集団よりも、小規模な集団の方が安く 済ませることが可能だと考えられる。

(61)

有人宇宙開発の文化的価値(2)

• この比較からダイソンが示唆すること

①大規模宇宙コロニーのような正当化が困難な国家レベルのプロジェクト よりも、自らの意思で動く比較的小規模の集団へと宇宙移民の主要なプ レーヤーがシフトしていく

②アメリカへの移民たちが宗教的弾圧を逃れて、理想の社会を築くために 海を渡ったように、将来宇宙へ移民しようとする人々は、宗教的・思想的・

政治的理由により、地球社会に希望を見出せなくった人々になるかも。

(62)

有人宇宙開発の文化的価値(3)

• これらの示唆は、既に宇宙へ人々がある程度行きやすくなっている状態を 前提として考えられている。

• 宇宙条約は、宇宙の探査と利用は全ての国の、全人類に認められる活動 であると定めると同時に、探査と利用に関する「国家の」活動を律する働き がある。

しかし、地球社会に絶望し国家に頼らず宇宙へ出て行く集団に、地球上 の都合で決まった宇宙空間のガバナンス制度に従うべき強い動機はない。

(63)

有人宇宙開発の文化的価値(4)

• 人類の文化的多様性という見地からの、宇宙移民の可能性が見えてくる。

初期の宇宙開発

冷戦という対立に駆動されていたにも関わらず、

どちらかといえば人類を一つにまとめる方向に働く。

宇宙から見た地球の姿は、人類がこの小さな惑星を共有する 運命共同体であるという、地球市民的な意識を醸成させた。

(64)

有人宇宙開発の文化的価値(5)

地球市民的意識は、グローバルな課題を国際社会が 協力して解決しようという機運が高める一方で、地球上の

様々な差異を粗視化し、文化や思想を均一化するものでもある。

国家や人類社会を代表して宇宙へ送り出せれる宇宙飛行士ではなく、個々 の私的な動機を持った人々が地球に出てゆく時代はこの流れを逆転させる。

(65)

有人宇宙開発の文化的価値(6)

(ひとつの文化を近隣の他の文化からはっきりと区別するほどの差異 が生まれるには、一定期間、比較的孤立した状態にあることが必要)

人や物資の頻繁はおろかリアルタイムの通信でさえ困難にする 宇宙へ行くことは、文化的多様性を育むのに適した選択。それは、

地球に馴染めない集団が宇宙へ出て行く可能性を高める。

(66)

有人宇宙開発の文化的価値(7)

地球上とは大きく異なる環境が人間の思考や

行動様式に何らかの変化を与えることも予想される。

(宇宙滞在を経験した宇宙飛行士へのインタビューや 心理学的研究からのそのような結果が見られる。)

(67)

有人宇宙開発の文化的価値(8)

まとめると、

人類はかつて、地球上の様々な地域に拡散して多様な文化を育んできた。

しかし、近年は技術の進展により地球が実質的に縮小したことで、逆に均質 化の方向へ向かう圧力が強まってきた。

宇宙への進出はこの方向を再び逆転させて、人類文明が多様性を育んで いく可能性をもたらすことができる。

(68)

有人宇宙開発の文化的価値(9)

有人宇宙開発や人類の宇宙進出には、夢とロマンがある!

有人宇宙開発や人類の宇宙進出には、

文化的な多様性を復活・維持する価値がある!

だから、人類の文化的な多様性を認める活動として、

有人宇宙開発は存続させる意義がある。

(69)

すっごいざっくりしたまとめ

宇宙開発には、科学的価値だけではなく、

人類としての責務や文化的価値・多様性の保

証という意義もある!

(70)

参考文献

水谷,伊勢田(2013)『宇宙倫理学事始』

藤田,太郎丸(2015)『宇宙開発世論』

呉羽,玉澤ほか(2015)『ひとは宇宙へ飛び立つべきか?』

呉羽,伊勢田(2015)『宇宙倫理学の現状と展望』

磯部(2017)『宇宙の演者か、それとも観察者か』

参照

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