分析化学II (2018年後期,金曜日4時限)
注意
1)講義ノートには表記テキストの図の一部が使われています。
テキストのすべての図は下記のwebサイトから得ることが出来ます。
http://www.wiley.com/college/christian
2)テキストには多くの例題や練習問題が掲載されています。各自でこれらを解いてみてくだ さい。
12.電気化学セルと電極電位
序章
酸化還元滴定:酸化剤と還元剤の電子の移動を利用した滴定法
酸化反応(oxidation):電子を相手側(酸化剤)に与える反応。
還元反応(reduction):電子を相手側(還元剤)から受け取る反応。
・濃度と活量:熱力学的には濃度 [X]でなく活量aXで議論すべきだが,この講義では 活量係数を 1 として濃度表記を使用し,活量で表記したほうが良い場合にのみ活量 を用いる。
12-1.酸化還元反応(redox reaction)
O1 + R2 ⇌ R1 + O2:酸化還元反応 (12-1) O1 + e → R1:還元反応(酸化種O1が還元種R1に還元)
R2 → O2 + e:酸化反応(還元種R2が酸化種O2に酸化)
一般化
還元反応:Ma+ + ne → M(a-n)+ (例:Fe3+ + e → Fe2+) (12-2) 酸化反応:Ma+ → M(a+n)+ + ne (例:2I → I2 + 2e) (12-3)
12-2. 電気化学セルと電極電位
・ガルバニセル(galvanic cell):電池内の化学反応を電気エネルギーとして取り出す。
・電解セル(electrolysis cell):電気エネルギーで化学反応を進行させる。
図1.ガルバニセル
Fe2+ → Fe3+
Fe2+ 溶液
2 1
正極(カソード) 負極(アノード)
Pt Pt
Ce4+ → Ce3+
Ce4+ 溶液
I e-
e- e-
図2.電解セル
Fe3+ → Fe2+
Fe3+ 溶液
2 1
陽極(アノード) 陰極(カソード)
Pt Pt
Ce3+ → Ce4+
Ce3+ 溶液
e-
e- e-
アノードとカソード
アノード(anode):酸化反応(anodic reaction)が生じる電極 1 カソード(cathode):還元反応(cathodic reaction)が生じる電極
電池反応(図1)
Ce4+ + Fe2+ ⇌ Ce3+ + Fe3+ (12-4)
半電池反応(重要:半電池反応は還元方向に書く)
(1)Fe3+ + e ⇌ Fe2+ EFe 0.77V (12-5)
(2)Ce4+ + e ⇌ Ce3+ ECe 1.61V (12-6) 電池反応は二つの半電池反応で構成。
⇒セル電圧(Ecell,E)= 右側の半反応電位(E2) - 左側の半反応電位(E1)
〔ポイント〕
半反応電位(単極電位):電極が一本では測定できない。
⇒ 基準電極との電位差 (potential difference)を測定。
・基準電極:標準水素電極 (SHE,standard hydrogen electrode) ESHE = 0Vとする。
ESHEを基準として測定した電位差:電極電位(E, electrode potential)
標準状態での電位差:標準電極電位(Eo, standard electrode potential)
Ce4+/Ce3+ (12-6)式の EoCe = 1.61 V → SHEに対するCe4+/Ce3+の標準電位差(図3)
1 日本語では,ガルバニセルのカソードを正極,アノードを負極とよび,電解セルのカソードを陰 極,アノードを陽極とよぶので混乱しやすい。酸化反応,還元反応にもとづいたアノード,カソー ドに統一するとこの混乱は避けられる。
電池(図1):電子の流れは半電池(1)→ 半電池(2):半電池(2)のほうが電子を受 け取りやすい。2
電子の受け取りやすさの指標 → 電極電位
電極電位の高い系のほうが電子を受け取りやすい(還元されやすい)。 例〕電池(図1)の標準セル電位3:EocellEo ) = EoCe – EoFe = 0.84 V
電池表記の記号:一般にアノードを左に書く
アノード|溶液1 || 溶液2|カソード ||:塩橋,|:界面 (12-16) 図1の電池 Pt | Fe3+, Fe2+ || Ce4+, Ce3+ | Pt
・電極電位の正負
Eが正に大:強い酸化剤(自身は還元されやすい)
Eが負に大:強い還元剤(自身は酸化されやすい)
二つの半電池をつないで電池を構成したとき,右側がカソード(還元反応)で左側 がアノード(酸化反応)のときのセル電圧を正とする。
Ecell = Ecathode – Eanode > 0 (12-19)
==== 補足 ====
・自由エネルギーGと電極電位Eの関係
力学的反応性の指標:力(f),W = f×l (仕事=力×動いた距離)
図3. SHEを基準した電位
SHE
2 1
cathode (+) anode ()
Pt Pt
Ce3+, Ce4+
V
Fe2+
Fe3+
Ce3+
Ce4+
E 1.61 0.77
化学反応性の指標:化学ポテンシャル4(),G =∑nii または G =∑ini (12-a1) 電気的反応性の指標:電位(E),W = zFE (12-a2)5 中性物質の溶液:化学ポテンシャル(chemical potential)
i i
i RTlna
(12-a3)
電解質溶液:電気化学ポテンシャル(electrochemical potential)
FE z a RT i i
i
i ln
~
(2-a4)
電極反応:Om+ + ne ⇌ R(m-n)+ (12-a5)
m – n = lと置換
S O
O S O
O ln
~ mFE RT a mFE
(12-a6)
M e
M e
e M e
e ln
~ FE RT a FE FE
(12-a7) 6
S R
R S R
R ln
~ lFE RT a lFE
(12-a8)
平衡状態では ~On~e~R (12-a9) (12-a6)~(12-a8) → (12-a9)
S R
M S
OmFE nenFE lFE
より
R O e
S M
1 n
E nF
E (12-a10)
ここで,E EM ES(電極が溶液に対して示す電位)
e O
R
n
G
(12-a11)
(12-a11) → (12-a10)
4 ポテンシャル(示強性変数):仕事をする能力。ポテンシャルに量(示量性変数)をかけた値が仕事(系 のエネルギー変化)になる。
5 zF:反応で移動した電荷の量
6 金属中の電子の活量aeは1とする。
図4. EMとES
EM
ES
ne- Om+
R(m-n)+
E
EM:電極内の電気的反応性の指標 ES:溶液内の電気的反応性の指標
E = EM – ES:電極金属が溶液に対して示す電位の差
→ 電極系の反応性の指標 何を意味するのか?
電気的要素
金属中の自由電子 の活量は1.
G nFE
(12-a12)
O R
e O O
R e O R
ln
ln ln
a RT a G
n a RT a
RT n G
R
(12-a13)
ただし, GR O ne
(注意)半電池反応ではneが残るが,電池反応ではカソードとアノードで電子の出入り が等しくなり,eは式に表れない。(これ以降,半反応でも式中のeを省略する)
(12-a13)→(12-a12)
O
ln R
a a nF E RT
E Nernst式 (12-a14)
平衡状態ではE = 0 Vより
G
nFE
E:標準電位 (12-a15) 活量係数=1と仮定できる場合(希薄溶液)
O ln R nF E RTE Nernst式(濃度表示) (12-a16)
一般化した反応式 R e O n b
a (12-a17)
この場合,(12-a16)式は
a b
nF E RT
E [O]
] R ln[
(12-a18)
25℃では2.303 0.059V
F
RT より
a b
E n
E [O]
] R log[ 059 .
0
(12-a19)
===============
Eと反応の平衡定数K
Gと反応の平衡定数Kの関係(6-10),(6-12)から
Go = RT ln K (6-3) 7 (12-20) nF K
E RTln (12-22)
12.3 Nernst式
aO + ne ⇌ bR (12-21)
a b
n E RT
E [O]
] R ln[
Nernst式 8 (12-22)
平衡状態ではE = 0 V より 平衡定数
] eq
O [
] R [
b b
K (6-5) を(12-20) の関係を用いて
RT K bb nFE
] eq
O [
] R ln[
ln (12-21)
E0:標準電極電位 (15-21)式の反応系が標準状態でSHEに対して示す電位 E: 電極電位 ⇒ O,Rが任意の濃度のときにSHEに対して示す電位
○平衡の二つの意味
(1) 平衡電位(equilibrium potential):個々の半電池それぞれが平衡になった状態での 電位差
〔例〕Ce4+によるFe2+の電位差滴定:半電池(1)と半電池(2)は高抵抗電 圧計(HIV)で結合されていて電流はほぼゼロ ⇒各半電池は独立に平衡
7 ln X = 2.303 log X
8 式 (6-5) は平衡状態の濃度であり,(12-22)は任意の濃度における関係である。標準状態になれば,
(12-22) = (12-21)となる。
(2)セル電圧の平衡
使用前のセル電圧:二つの半電池の電位差 Ecell = Ecathode – Eanode (12-9) 使用後のセル電圧:二つの半電池間で平衡 Ecell = Ecathode – Eanode = 0
半電池1: Fe3+ + e ⇌ Fe2+ Eo1 (12-23)
半電池2: Ce4+ + e ⇌ Ce3+ Eo2 (12-24)
電池反応: Ce4+ + Fe2+ ⇌ Ce3+ + Fe3+
半電池1のNernst式:
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 1
1
nF
E RT
E (12-26)
半電池2のNernst式:
] Ce [
] Ce ln[ 43
2
2
nF
E RT
E (12-27)
反応開始前のセル電圧:
] Fe [
] Fe [ ] Ce [
] Ce
ln[ 2
3 4 3 cell
1 2
cell
nF
E RT E E
E (12-25)
電池反応が終了後のセル電圧(二つの半電池間で平衡): Ecell = 0 V 図5.Fe2+とCe4+の電位差滴定
2 1
高抵抗電位差計
Pt Pt
Fe2+ → Fe3+
HIV Ce4+
Ce3+/4+とFe2+/3+の反応平衡 SHE
図6. セル電圧 Fe3+, Fe2+
2 1
Pt Pt
V
Ce4+, Ce3+
この時, K nF RT nF
E RT ln
] Fe [
] Fe [ ] Ce [
] Ce ln[
eq 2 3 4 3
cell (12-28)
半電池1,半電池2が標準状態での起電力:Ecell E2E1:標準起電力
12-4.式量電位(formal potential):一定の条件下で定数となる電位
熱力学的標準状態では活量aH+ = 1([H+] = 1 mol dm3, pH = 0)が電位の基準。
生化学関係ではpH = 7を基準にすることが多い。
〇溶液のpHで電位が変化する系
〔例〕水素電極(Pt | H2, H+ |
2H+ + 2e ⇌ H2 (12-29)
2 H
H H
H2 2 ln 2
2
a
p F E RT
E (12-30) 9
H+イオンの活量係数を1,分圧pH2 =1気圧とすると ]
H
2 ln[
2 H
H
F E RT
E (12-31)
E:式量電位(一定のpHで定数となる電位) 10 V
SHE 0
H2 E
E (SHE,標準水素電極)
1気圧下における溶液EH2とpHの関係 0.0592pH
H2
E (12-33)
pH = 7.0では, 0.414V
H2
E になる。
〔例〕錯生成が生じる系
FeCl4 + e ⇌ Fe2+ + 4Cl (12-34)
] FeCl [
] Fe ln [ ]
FeCl [
] Fe ln [ ]
Cl 4 ln[
] FeCl [
] Cl ][
Fe ln[
4 2 FeCl
4 2 FeCl
4 4 2
FeCl
FeCl4 4 4 4
F
E RT F
RT F
E RT F
E RT
E
(12-35)
9 気体の活量は分圧pで表す。
10 標準電位と式量電位は平衡定数と条件平衡定数の関係に相当する。
図7. 水素電極 H2
Pt/Pt HCl
ただし, 4 ln[Cl ]
4
4 FeCl
'
FeCl
F E RT
E (一定の[Cl]で定数になる) (12-36) Cl濃度が増加で電位は負側にシフト → 錯生成により,酸化状態がより安定化
〔ポイント〕EoFeと
FeCl4
E の関係
Fe3+ + 4Cl ⇌ FeCl4 (12-37)
4 3
-4
] Cl ][
Fe [
] FeCl [
K (12-38)
Fe3+ + e ⇌ Fe2+ (12-39)
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 Fe
Fe
F
E RT
E (12-40)
EFeCl4の変形
] Fe [
] Fe ln[ ln
] FeCl ][
Fe [
] Fe [ ] Cl ][
Fe ln[ ]
FeCl [
] Cl ][
Fe ln[
3 2 FeCl
3 4
3 4 2
FeCl 4
4 2
FeCl FeCl
4
4 4 4
F K RT F E RT
F E RT
F E RT
E
(12-41)
平衡では(12-40) = (12-41)となり式を整理すると F K
E RT
EFeCl 4 Fe ln (12-42)
13.電位差測定法と電極
13-1.金属-金属イオン電極 M | Mn+ 11
金属線(板)を同種の金属イオンを含む溶液に浸した電極系
〔例〕銀-銀イオン電極 Ag | Ag+
Ag+ + e ⇌ Ag (13-1)
Ag Ag
Ag
ln 1 a F E RT
E (13-2)
13-2.金属-金属塩電極 M | MX | Xn
〔例〕銀-塩化銀電極(Ag|AgCl電極) Ag | AgCl | Cl
AgCl(s) + e ⇌ Ag(s) + Cl (13-3)
Cl-
AgCl
AgCl lna
F E RT
E 12 (13-4)
図9. Ag|AgCl 電極の構造
〇 とEAg との関係
平衡ではEAgCl = EAgなので(13-4),(13-1)より
11 半電池反応で示しているが,実際にはSHEに対する電位であることを忘れないように。
12 固体(AgCl,Ag)の活量は1。
AgCl
E
図8. 金属-金属イオン電極 Mn+
M
銀線
塩化銀
細孔ガラス KCl水溶液
KCl水溶液 Ag+ + e-
AgCl Ag
Ag+ + Cl- AgCl
Ag
(A) (B)
Ag Cl Ag
AgCl
ln 1
ln F a
E RT F a
E RT (13-5)
AgClの溶解度積
Cl
SP aAg a
K 13 を用いると (13-6)
SP Ag
AgCl lnK
F E RT
E (13-7)
EoAg = 0.7991 V,EoAgCl = 0.2222 V → KSP = 1.667×1010
Ag-AgCl電極の電位はClの活量で決まる。
⇒ Clの活量を一定(飽和溶液)に保つと,電位は一定に保たれる。
⇒ SHEの代用として用いられる:参照電極(reference electrode)
13-3.酸化還元電極 Pt | Mm+, M(a-n)+
(図1,図2あるいは図5を参照)
Mm+ + ne ⇌ M(m-n)+ (13-9)
mmn
nF E RT
E M
lnM
) (
M (13-10)
水素電極(12-29)も酸化還元電極の一例である
13.4.一室型セル:液絡のないセル
〔例〕水素電極と銀-塩化銀電極を同じ溶液で構成
Pt | H2(g), HCl(l) | AgCl(s) | Ag (13-11)
セル電位は二つの半電池の電位の差のみで決まる。
13 溶解度積(solubility product):塩A+Bを飽和濃度まで溶かした時の活量(近似的には濃 図10. 水素電極-銀塩化銀電極
H2, P atm
Pt/Pt
H+, Cl-
AgCl Ag
H2
AgCl
cell E E
E
13-5.二室型セル:液絡のあるセル
〔例〕水素電極と銀-塩化銀電極の溶液を塩橋(salt bridge)でつなぐ。
Pt | H2(g), HCl(l) || KCl(l) | AgCl(s) | Ag
塩橋内は陽イオンと陰イオンが電流を運ぶ がイオンの移動速度が異なると液の 境界でイオンの偏りが生じ電位が発生:液間電位(Ej,liquid-junction potential)
j H AgCl
cell E E 2 E
E (16-14)
0.1 M KCl | 0.1M NaCl :K+ とNa+の移動度の差
3.5M KCl | 0.1 M NaCl :K+とClの移動度の差(電流の大部分をK+とClが担う)
0.1 M KCl | 0.1 M HCl,0.1 M KCl | 0.1 M NaOH: H+,OHの移動速度がK+,Clに 比べて非常に大きい
Ejを小さくするには,移動速度等しい電解質を高濃度で用いる。→ 一般にはKCl
13-6.参照電極(reference electrode)
SHEは取り扱いが困難(H2ガスを使用)→ 電位が安定した電極を基準として使用。
飽和カロメル電極(SCE,図13.3)やAg|AgCl電極など。
O(2), R (2)
図11. 水素電極-銀塩化銀電極 H2,1atm
Pt/Pt
HCl
AgCl Ag
KCl 塩橋
・SCE Hg | Hg2Cl2(s) | KClsatd ||
反応: Hg2Cl2(s) + 2e ⇌ 2Hg + 2Cl Nernst式: o ln[Cl ]2
2
F
E RT E
・参照電極を用いた場合のSHEに対する電位換算法:図13.4
13.7.電位測定
基準電極系:電位が安定・取り扱いが容易でSHEの代わりとなる電極,Ag|AgCl電 極など。
測定電極系:測定対象とする化学種の濃度に応じて電位が変化する電極。
〔例〕酸化還元電極(白金電極など) → 溶液中の酸化種・還元種の濃度比で電 位が変化。
電位測定用セルには液間電位差(Ej)が含まれる。
Ecell = (Eind – Eref) + Ej
Eind:指示電極電位,Eref:参照電極電位,Ej:液間電位
Ejが測定試料によらず一定(支持電解質を十分に添加する)とすると,Ejは定数と おける。定数項(Eref,Ej,Eoind)をまとめてkとすると
電極で直接測れるのは濃度ではなく活量なので
図12.電位測定装置
基準電極Eref
2 1
V
測定電極 Eind
Ecell = k – (2.303RT / nF) log (ared / aox) (13-32)
13.8.濃度の測定
電位差測定で直接測定されるのは活量 → 濃度に換算
ai = fiCi ai:化学種iの活量, fi:化学種iの活量係数 活量係数はイオン強度が同じ溶液ではほぼ一定となる。
log ai = log fiCi = log fiCi= log fi + logCi
を定数項に組み込むと
Ecell = k’– (2.303RT / nF) log (Cred / Cox) (13-32)
定数k’は濃度が既知の標準溶液で決定する。
13.10.電位測定の正確さ
〔例〕Ag+ + e⇌ Ag0 Nernst式
Ag Ag
log 1 030 . 2
a F
E RT
E
Ag cell
log 1 05916 .
0 a
k E
0.05916 Ag
cell
10
k E
a ,pAg = logaAg= (Ecell – k) / 0.05916
電位の測定誤差がmV:pAg = 0.001 / 0.05916 = 0.017の誤差に相当
13.11.pHガラス電極
(テキストの図13.6)
Ag|AgCl電極(外部)|| H+(試料)| ガラス膜 | H+(内部)| Ag|AgCl電極 抵抗:5x106~5x108 Ω
pHメータの内部抵抗:> 1012
) H (
) H (
cell 2.303 log
試料
定数
内部
a
a F
E RT (13-11)
aH+(内部)は一定なので,
k F a
RT
2.303 log H( )
定数
内部 とおくと) H ( cell k0.0592loga 試料
E となり,活量係
数を定数に入れると
F RT E k
/ 303 . 2
pH試料 ' cell (13-12)
→ k’を標準溶液で校正
・ガラス膜電極の電位決定機構
ガラス膜:ケイ酸(SiO2)と酸化ナトリウム(Na2O)で構成
SiO・Na+ + H+ ⇌ SiO・H+ + Na+ のイオン交換反応でH+の活量に応 じて電位が発生すると考えられているが,詳細な機構は未解明。 高アルカリ側(低 H+濃度)では,Na+やK+がガラス膜に応答 → 誤差が増加
14.酸化還元滴定と電位差滴定
滴定の終点:指示薬による目視,指示電極を用いた滴定曲線
酸化還元滴定の実用例
(1)アスコルビン酸(ビタミンC,C6H8O6(還元型))を用いたヨウ素滴定 I2 + C6H8O6 → 2HI + C6H6O6
C6H6O6:デヒドロアスコルビン酸(酸化型)
(2)二酸化イオウ(SO2,ワインの酸化防止剤)のヨウ素滴定 半反応:SO2 + 2H2O → SO42 + 4H + 2e
半反応:I2 + 2e → 2I
全反応:SO2 + 2H2O + I2 → H2SO4 + 2HI
14-1.酸化還元反応の化学量論
〔例〕Ce4+によるFe2+の滴定:Ce4+によるFe2+の酸化
Ce4+ + Fe2+ ⇌ Ce3+ + Fe3+ (12/4)
(12-4)が釣り合うには二つの半反応Fe2+ → Fe3+ + e,Ce4+ + e→ Ce3+ で電子の出入り が等しくなる必要。
14-2.反応の平衡定数と当量点電位
より
G
nF K RT nF
E RTln ln (14-1)
反応が自発的に進む方向: Goが負の方向(Eoが正の方向)
当量点電位の決定(反応12.4) 半電池反応のNernst式
Fe3+ + e ⇌ Fe2+ EoFe = 0.86 V
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 Fe
Fe
F
E RT
E
Ce4+ + e ⇌ Ce3+ EoCe = 1.695 V
] Ce [
] Ce ln[ 4
3 Ce
Ce
F
E RT
E
電池反応のNernst式 Fe2+ + Ce4+ ⇌ Fe3+ + Ce3+
Eocell = EoCe EoFe = 0.835 V → 標準状態では反応は右に進む
平衡ではEFe = ECeなので,
] Fe [
] Fe [ ] Ce [
] Ce ln[
2 3
2 4 3 Ce
Fe
F
E RT E
E
さらに当量点では,[Ce4+] = [Ce3+],[Fe3+]= [Fe2+]なので対数の中が1となり
EFe ECe
2E
〔例題12.4〕0.30 M Fe2+ 5.0mLに0.10M Ce4+ 5.0 mLを滴下したときの電位 添加前のFe2+:0.30×5.0 = 1.5 mmol
添加したCe4+:0.10 5.0 = 0.5 mmol
添加後のFe2+:1.0 mmol,Ce3+;0.5mmol,Ce4+~0 mmol Fe2+ + Ce4+ ⇌ Fe3+ + Ce3+
1.0 0.0 0.5 0.5 mmol:反応が完全に右に進行する場合
1.0+x x 0.5x 0.5-x mmol:平衡反応なので微量の未反応のxが残る。
Nernst式:
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 Fe
Fe
F
E RT
E ,
] Ce [
] Ce ln[ 4
3 Ce
Ce
F
E RT
E
滴定が平衡になったときはEFe = ECeなので,二つのNernst式に数値を代入するとxの 二次方程式になる。
簡略法:ECe >> EFeなので反応はほぼ右に偏る → xは非常に小さい
mL 10 / 5 . 0
mL 10 / 0 . log1 0592 . mL 0
10 / ) 5 . 0 (
mL 10 / ) 0 . 1 log( 0592 .
0 Fe
Fe
Fe
E
x E x
E = 0.753 V
ECeでも同じ値になるはず,ただしxを無視する近似は使えない。
==========================================
〔注〕酸化還元電位の差Ediffと未反応xの関係 0.1 M Fe2+ 10 mLに0.1 M Ce4+ 10 mLを滴下 反応: Fe2+ + Ce4+ = Fe3+ + Ce3+
反応前 (mmol):1.0 1.0 0.0 0.0 反応後(完全): 0.1 0.0 1.0 0.0 x が未反応 : x x 1.0x 1.0x K = [Fe3+][Ce3+]/[ Fe2+][ Ce4+]
Ediff = 0.060 log K
x = 0.1 (10 %) K = 81 Ediff = 0.060log K = 0.11 V x = 0.01(1.0%) K = 9.8x103 Ediff = 0.24 V
x = 0.001(0.1%) K = 9.98x105 Ediff = 0.36 V
==========================================
〔例題14.1〕平衡定数を用いた解法(微量のCe4+の計算)
系が平衡に達しているときはEFe = ECeを用いて
1.61-0.0592 log([Ce3+]/[Ce4+]) =0.771 – 0.0592 log([Fe2+]/[Fe3+])より 0.84 = 0.0592 log ([Ce3+] [Fe3+] / [Ce4+] [Fe2+]) = 0.0592 log Keq
Keq = 100.84/0.05916 = 1.6×1014
[Ce3+] [Fe3+] / [Ce4+] [Fe2+] = 0.5×0.5 / x×1.0 = 1.6×1014 x = 1.6×10-15 mmol / 10 mL
V E
E 0.742
10 6 . 1
5 . log 0 0592 . 0 60 . ] 1 Ce [
] Ce log[ 0592 .
0 43 15
Ce
Ce
--- 反応の電子数が異なる場合
n2R1 + n1O2 ⇌ n2O1 + n1R2
] O [
] R ln[
1 1 1
1
1 nF
E RT
E ;
] O [
] R ln[
1 1 1
1 1
1 F
E RT n E
n
] O [
] R ln[
2 2 2
2
2 n F
E RT
E ;
] O [
] R ln[
2 2 2
2 2
2 F
E RT n E
n
平衡ではE1 = E2 = Eより
] O [
] R [ ] O [
] R ln[ )
(
2 2 1 2 1
2 1 1 2
1 2 2 1
1 F
E RT n E n E n n E n E
n
当量点では[R1] : [O2] = n2 : n1より, [R1] = [O1],[R2] = [O2]から
2 1
2 2 1 1
n n
E n E E n
(14-2)
〔例 問題11,12〕(例題14.2を参照)
0.10M Fe3+ 10mLを0.10M Sn4+ 5.0mLで滴定したときの平衡 Fe3+: 0.10 M×10mL = 1.0 mmol Sn4+: 0.1 M×5.0mL = 0.5 mmol 平衡時に残っているSn4+をx mmolとする
2Fe3+ + Sn2+ ⇌ 2Fe2+ + Sn4+
2x x 1.0-2x 0.5-x
半反応式 Fe3+ + e ⇌ Fe2+ EoFe = 0.771 Sn4+ + 2e ⇌ Sn2+ EoSn = 0.154 V Nernst式
] Fe [
] Fe ln[ 32
Fe Fe
Fe
n F
E RT
E →
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 Fe
Fe Fe
Fe
F
E RT n E
n
] Sn [
] Sn ln[ 42
Sn Sn
Sn
n F
E RT
E →
] Sn [
] Sn ln[ 42
Sn Sn Sn
Sn
F
E RT n E
n
平衡では EFe =ESn = Eとおくと
] Sn [
] Sn [ ] Fe [
] Fe ln[ )
( 4
2 3 2 Sn
Sn Fe Fe Sn
Fe
F
E RT n E n E n
n
) 5 . 0 ( 2
) 2 0 . 1 ln( ]
Sn [
] Sn [ ] Fe [
] Fe ln[ )
( Fe Sn Fe Fe Sn Sn 32 42 Fe Fe Sn Sn
x x
x x F
E RT n E F n
E RT n E n E n
n
より
Sn Fe
Sn Sn Fe Fe
n n
E n E E n
nFe = 1, nSn = 2, EoFe = 0.771, EoSn = 0.154 Vを代入 E = 0.360 V
〔例〕問題13 過マンガン酸イオンを用いた滴定の当量点電位 当量点でのMnO4-の未反応量をx mmolとする。
0.1M Fe3+ 25mLを0.1 M MnO4 5.0 mLで滴定したときの当量点電位 電池反応:5Fe2+ + MnO4 + 8H+ ⇌ 5Fe3+ + Mn2+ + 4H2O
5x x 2.55x 0.5x 半反応: Fe3+ + e ⇌ Fe2+ EoFe = 0.771 V
MnO4 + 8H+ + 5e ⇌ Mn2+ + 4H2O Eo MnO4- = 1.51 V Nernst式
] Fe [
] Fe ln[ 32
Fe Fe
Fe
n F
E RT
E →
] Fe [
] Fe ln[ 3
2 Fe
Fe Fe
Fe
F
E RT n E
n
8 4
2
Mn Mn
Mn [MnO ][H ]
] Mn
ln [
n F
E RT
E → Mn Mn Mn Mn 4 2 8
] H ][
MnO [
] Mn
ln [
F
E RT n E
n
平衡ではEFe = EMn = Eとおくと
] MnO ][
Fe [
] Mn ][
Fe ln [ 8 pH
] H [ ] MnO ][
Fe [
] Mn ][
Fe ln [ )
( Fe Mn Fe Fe Mn Mn 3 2 42 8 Fe Fe Mn Mn 32 24 F
RT F
E RT n E F n
E RT n E n E n
n
) pH (
8 )
( Fe Mn Fe Mn
Mn Mn Fe Fe
F n n
RT n
n
E n E E n
14-3.滴定曲線
〔例〕Fe2+ (CFe M, V mL)をCe4+(CCeM, x mL)で滴定
当量点の前(Fe(total) > Ce(total))Ce4+がほとんど存在しない x
V
x C V C
Fe Ce
2 ] Fe
[ (14-11)
x V
C x
Ce
3 ] Fe
[ (14-12)
Ce Ce Fe Fe
Fe ln
C x
x C V C F E RT
E
当量点(Fe(total) = Ce(total))
E
EFe ECe
2当量点後(Ce(total) > Fe(total))はFe2+がほとんど存在しない。
x V
V C
Fe
3 ] C [
x V
V C x C
Ce Fe
4 ] C [
V C x C
V C F
E RT
E
Fe Ce
Ce Fe
Ce ln
〔例題14.3〕0.100 M Fe2+ 100 mLを0.100 M Ce4+で滴定した時の平衡電位
・Ce4+を10.0 mL滴下したとき
反応したCe4+ = 0.100 M 10.0 mL = 1.00 mmol 生成したFe3+ = 1.00 mmol
未反応のFe2+ = 0.100 M 100mL – 1.00 mmol = 9.0 mmol V
715 . 00 0 . 1
0 . log 9 0592 .
Fe 0
Fe E
E
・Ce4+を50.0 mL滴下したとき 生成したFe3+ = 5.00 mmol 未反応のFe2+ = 5.00 mmol
V 771 . 00 0 . 5
00 . log5 0592 .
Fe 0
Fe E
E
・Ce4+を100 mL滴下したとき(当量点),反応の平衡定数に従って微量のCe4+とFe2+
が(x mmol)存在
Ce4+ + Fe2+ ⇌ Ce3+ + Fe3+
x x 10x 10x Fe3+ = 10.0 – x ≒ 10.0 mmol Fe2+ = x mmol
Ce3+ = 10.0 – x ≒ 10.0 mmol Ce4+ = x mmol
当量点ではEFe = ECeなので,式(14-5)より ] Fe log[ 0592 . ] 0
Fe log[ 0592 .
0 4
3 3 Ce
2
Fe
E
E
K E
E 0.0592log
] Ce [
] Fe [ ] Fe [
] Fe3 log[ 0592 .
0 4
3 2
2 Ce
Fe
x K
x 10.0 0.0592log 0
. log10 0592 . 0 84 .
0
でK = 1.58×1014より,x = 7.9 107
当量点電位
V 19 . 0 1 . log10 059 . 0 771 .
Fe 0 x
E
V 19 . 0 1 . log10 059 . 0 61 .
Ce 1
E x
反応の平衡では[Fe2+]/[Fe3+]と[Ce3+]/[Ce4+]Ceで計算した当量点電位は一致する
テキストの例題〔12.4〕,〔14.1〕,〔14.2〕,〔14.4〕も参考にすること。
==============================================================
例題14-3の一般化(厳密な解)
濃度がCFe(II) のFeII溶液VFe,in Lを濃度がCCe(IV)のCeIVで滴定する場合。
CeIVの添加量 = VCe,;溶液の体積 = VT ( = VFe,in + VCe) 溶液中のFe,Ceの物質量;VFe CFe(II),VCe CCe(IV)
滴定中に生成したCe3+とFe3+の量は等しい → x molと置く。
各敵定点で反応は平衡になっているので次式が成り立つ。
) )(
10 ( 6 . ] 1
Ce ][
Fe [
] Ce ][
Fe [
Ce(IV) Ce Fe(II)
Fe,in 14 2
4 eq 2
3 3
x C
V x C
V K x
a = (Keq – 1),b = Keq(VFe,inCFe(II) + CCeCCe(IV) ),c = KeqVFe,inCFe(II)VCeCCe(II)と置くと上式は
ax2 + 2bx + c = 0の二次方程式となり公式を用いて解xが求められる。
平衡ではEFe = ECeより,以下の何れかの式で平衡点電位が求められる。
) log(
059 . 0 61 . 1
Ce(IV) Ce
Ce V C x
E x
x x C
E (V )
log 059 . 0 771 .
0 Fe,in Fe(II)
Fe
==============================================================
-滴定の終点の検出
)自己指示法:滴定剤自身が酸化還元により色が変化する場合。
〔例〕過マンガン酸カリウム(KMnO4)による滴定
MnO4は強力な酸化剤でその水溶液は深紅色を示すが, Mn2+に還元されるとほとん ど無色(かすかなピンク)になる。
シュウ酸との反応:3H2C2O4 + 2MnO4 + 6H+ ⇌ 10CO2 + 2Mn2+ + 8H2O (14.15) シュウ酸は酸性溶液中でシュウ酸ナトリウムとして加える。この反応は KMnO4溶液
の標定に用いられる。
2)ヨウ素‐デンプン反応:ヨウ素‐デンプン反応による色の変化を利用。
I2 + 2e ⇌ 2I:I2はデンプンと会合体を作って赤紫に着色
〔例〕亜ヒ酸(H3AsO3)のヨウ素による定量
H3AsO3 + I2 + H2O ⇌ H2AsO4 + 2I + 2H+ (14-6) 亜ヒ酸は三酸化二ヒ素(As2O3)の水和により生成。どちらも毒性が強い。
3)電極を用いた当量点の決定(Gran plot)
塩化物濃度が CCl M の試料VCl mLを濃度がCAgの硝酸銀溶液で滴定する場合,滴下 したAgNO3の量をVAg とすると。
T Ag Ag Cl
] Cl
Cl
[ V
V C V
C
(14-20)
塩化物イオン電極の電位 Ecell = k – Slog[Cl] (14-21)
log [Cl] = (k – Ecell) / S (14-22)
S E k V
V C V
C cell
T Ag Ag Cl
log Cl
(14-23)
Ag Ag Cl cell Cl
Tantilog C V C V
S E
V k
(14-24)