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出芽酵母における選択的オートファジーの新規輸送基質の発見

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化学と生物 Vol. 50, No. 10, 2012

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今日の話題

出芽酵母における選択的オートファジーの新規輸送基質の発見

一粒で二度おいしい酵素たちの話

生物はさまざまな環境ストレスと対峙しながら生活を 営んでいる.そのなかでも栄養飢餓はすべての生物に とって最も原始的なストレスであると言える.外界の栄 養が枯渇すると,細胞は遺伝子発現を変化させ困難な時 期を乗り切ろうとするが,新たなタンパク質合成に必要 な栄養源が外部から得られないという矛盾が生じる.し かし,真核生物は自らの細胞成分を分解し,再利用する オートファジーと呼ばれる機能を備えており,栄養飢餓 下で必要なエネルギー生産やタンパク質合成を維持して いる.たとえば,出芽酵母のオートファジー不能株は胞 子形成(栄養飢餓が引き金となって起こる)できず,

オートファジー欠損マウスは母体からの栄養が絶たれる 出生直後に早期に死に至ることが知られる.さらに,近 年オートファジーが細胞毒性を示す基質(異常タンパク 質,感染した細菌,傷害をもつオルガネラなど)や過剰 なオルガネラの選択的な除去などの多様な生命現象にか かわっていることが明らかになりつつある(1)

オートファジーの過程は,袋状の二重膜構造体が細胞 質成分を取り囲み,加水分解酵素群を含むリソソーム

(植物,菌類では液胞)と融合し,内容物を分解すると いう一種の膜輸送を伴う(図1.この一過的に形成さ れる二重膜構造体はオートファゴソームと呼ばれ,その 形成には酵母からヒトまで保存された15種類(生物種 によって異なる)のオートファジー関連(Atg)タンパ ク質がかかわっている(1).興味深いことに,出芽酵母は このオートファジーの機構をある種の加水分解酵素の液 胞への輸送に利用している(2).この輸送経路はcyto- plasm to vacuole targeting (Cvt) 経路と呼ばれる(図 1).その輸送基質としてアミノペプチダーゼI (Ape1) 

と 

α

-マンノシダーゼ (Ams1) が知られていたが,最近 アスパルチルアミノペプチダーゼApe4が3つ目のCvt 基質として見いだされた(3).今回は,Cvt経路とその新 規輸送基質の発見について概説したい.

Cvt経路は,遺伝学的,形態学的に飢餓で誘導される オートファジーと類似の機構であるが,その生物学的意 義はオートファジーのそれと大きく異なる.オートファ ジーが大規模な細胞質成分の分解機構であるのに対し て,Cvt経路は液胞の構築(バイオジェネシス)を担っ

ており,栄養増殖時にも機能している.Cvt経路で輸送 される出芽酵母のアミノペプチダーゼI (Ape1) は非常 にユニークなタンパク質である.通常の液胞酵素群が小 胞体膜を透過後,ゴルジ体を経由して液胞に到達するの に対して,Ape1は細胞質で合成された後,直ちにホモ 12量体を形成し,自身のプロペプチド依存的にさらに 大きな凝集体を形成する.Cvt経路のレセプターである Atg19はApe1のプロペプチドと相互作用することによ り,この複合体上にリクルートされる.そして,この Atg19はApe1の荷札として働く.すなわち,Atg19が さらにAtg11と結合することによりApe1‒Atg19複合体 がオートファゴソーム形成部位に配達され,そこで Atg19がオートファゴソームのコンポーネントである Atg8と結合することによりApe1複合体は確実にオー トファゴソームに取り込まれる.ここで形成されるオー トファゴソームは栄養飢餓時に形成されるオートファゴ

図1出芽酵母におけるオートファジー経路とCvt経路 太矢印はタンパク質の結合を示す.

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今日の話題

ソームよりも小さく,Cvt小胞と呼ばれる.Ape1複合 体が足場となってCvt小胞が形成されるため,Ape1は タイトにパックされ,極めて効率的かつ選択的に液胞に 輸送される(4)

Ape1のほかに,液胞のマーカー酵素として古くから 知られている

α

-マンノシダーゼ (Ams1) もCvt経路の 輸送基質である.Ams1もホモオリゴマーを形成する が,Ape1とは異なりそれ自体がさらに高次な凝集体を 形成することはない.しかし,Atg19と結合することに よりApe1‒Atg19複合体に濃縮され,いわば「ただ乗 り」する形で液胞へと輸送される(2, 5).さらに,アスパ ルチルアミノペプチダーゼApe4が3つ目のCvt輸送基 質として見いだされている(3).Ape4は短いペプチドの アミノ末端から酸性アミノ酸を遊離する細胞質酵素であ るが,ゲノムワイドの網羅的タンパク質相互作用解析に より,Atg19と結合することも報告されていた.そこ で,Ape4がCvt経路で液胞に輸送されるか解析された.

生化学的,細胞生物学的,遺伝学的,分子生物学的解析 により1) Ape4が液胞にも局在すること,2) その局在 にオートファジーが必要であること,3) Cvt経路のレ セプター Atg19がApe4の選択的輸送にかかわること,

4) Ape4は液胞でも安定に存在し機能しうることが明ら かにされ,Ape4がCvt経路の輸送基質となることが示 さ れ た.さ ら に,Atg19分 子 内 の 輸 送 基 質 (Ape1, 

Ams1, Ape4) 結合部位がそれぞれ異なっていること,

Ape1欠損株ではApe4の効率的な輸送が阻害されるこ となどから,Ape4はAms1と同様にApe1輸送システ ムを利用していることも明らかにされた.しかし,

Ape1やAms1と比べApe4の輸送効率は低く,栄養増 殖下では多く見積もっても30%程度のApe4が液胞に局 在しているに過ぎなかった.ところが,細胞を窒素飢餓 条件に移すと,Ape4の液胞への輸送は活性化され,液 胞への再分布が起こった.この現象に対する生物学的意 義は定かではないが,栄養増殖時には細胞質でプロテア ソームなどの作用で生じたペプチドからのアミノ酸生成 に寄与していたApe4が,栄養飢餓時にはより高いタン

パク質分解活性が必要な液胞へとその局在を変化させた のではないかと考えられた.

液胞内腔で働く酵素群は,一般的にタンパク質分泌経 路を利用して液胞へ輸送される.では,なぜオートファ ジー機構を利用した輸送経路が存在するのであろうか.

両経路を比較して考えてみたい.前者では,翻訳に共役 して酵素前駆体の新生ポリペプチドが小胞体内腔に送り 込まれ,小胞体でフォールディングされた後,液胞に到 達して初めて活性型になる.つまり,液胞に隔離される まで,それらの活性が厳密に制御されているというわけ だ.一方,後者のCvt経路の輸送基質は輸送される前に 細胞質で折りたたまれ,さらに高次構造をとっている.

オートファジーのプロセスでは輸送基質が膜透過する必 要がないため,それらは高次構造を維持したまま液胞へ 到達することができる.すなわち,理論的には,細胞質 でも液胞でもそれらの機能を発揮することが可能であ る.実際に,Ams1は細胞質に遊離している糖鎖の分解 に貢献していることが示されている(6).もちろん,液胞 に送られてくる糖タンパク質糖鎖の分解にも寄与してい る.このように,出芽酵母は選択的オートファジー機構 を利用して,細胞質で一度使用した加水分解酵素を液胞 で再使用することにより,限られたリソースを有効利用 しつつ,栄養飢餓ストレスに適応していると考えられ る.今後,オートファジーを介した新たな輸送基質が見 つかれば,Cvt経路の意義について新たな知見が得られ ると期待される.

  1)  N. Mizushima & M. Komatsu : , 147, 728 (2011).

  2)  新谷尚弘:蛋白質核酸酵素,51, 1480 (2006).

  3)  M. Yuga, K. Gomi, D. J. Klionsky & T. Shintani : , 286, 13704 (2011).

  4)  T. Shintani & D. J. Klionsky : , 279, 29889 

(2004).

  5)  T.  Shintani,  W.-P.  Huang,  P.  E.  Stromhaug  &  D.  J. 

Klionsky : , 3, 825 (2002).

  6)  H.  Hirayama,  J.  Seino,  T.  Kitajima,  Y.  Jigami  &  T. 

Suzuki : , 285, 12390 (2010).

(柚賀正樹*1,新谷尚弘*2,*1合同酒精株式会社酵素 医薬品研究所,*2東北大学大学院農学研究科)

参照

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