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他保険契約の告知義務

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保険学会関東部会レジュメ

2015 年 9 月 25 日

他保険契約の告知義務

上智大学大学院 清水太郎

1 はじめに

他保険契約の告知義務:道徳的危険に対処するための制度(甘利公人=福田弥夫・ポイントレクチ ャー保険法74頁)

・改正前商法の告知事項:重要ナル事実又ハ事項。

・保険法の告知事項:危険に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの。

→道徳的危険が告知事項に含まれるか否かは解釈問題として残されており、他保険契約の 告知義務の再検討が求められる(千々松愛子「保険法における危険選択~保険法改正の実務への影響~」21 世紀の生協の共済に求められるもの82頁、潘阿憲「道徳的危険と告知事項」損保研究7323頁)

*約款上の他保険契約の通知義務の遵守を期待するのが難しく、違反した場合の対応は重 大事由解除で可能なことから、損害保険会社の約款では削除されている(あるいは、その 傾向にある)(福田弥夫「危険の増加」新しい保険法の理論と実務149頁、須藤芳樹=木津英勝=内山浩一「標準 約款における保険法対応について」損保研究72332。他保険契約の告知義務に焦点を合わせる。

2 改正前商法下の議論

他保険契約の告知義務が伝統的な告知義務の対象となるかについて改正前商法下の学説 は賛否が分かれていたが、一般的に、このような義務を課すことの有効性は認められてい

(山下友信「他保険契約の告知義務・通知義務」現代の生命・傷害保険法236頁)

(1) 裁判例

【1】大判昭和10年12月2日判決全集2輯24号1268頁「該保険契約ハ常ニ必シモ当然 無効ニ帰スルモノニ非スシテ保険者…於テ其ノ無効ヲ主張スルニ付キ公正且妥当ナル事由 ノ存スル場合ニ其ノ無効ヲ主張シ以テ之ヲ失効セシメ得ヘキ権利ヲ留保シタルニ止マリ若 シ保険契約者ノ同条違背行為ヲ黙認シ保険契約ノ存続ヲ欲スルトキハ之ヲ有効ノモノト為 シ得サルニ非サル趣旨ト解スルヲ妥当トス」

→【1】が基礎としていた事情は現在と異なっているため、リーディングケースと認められ るかは疑問(竹濱修「他保険契約の告知・通知義務」金商93345頁)

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・故意・重過失をもって他保険契約の告知義務に違反した場合、当該保険契約は解除され るとした裁判例:

【2】東京地判昭和63年2月18日判時1295号132頁(海外旅行傷害保険:解除可)、

【3】神戸地判平成元年9月27日判タ727号214頁(傷害保険:解除可)、

【4】水戸地判平成10年5月14日判タ991号221頁(傷害保険:解除可)、

【5】東京地判平成12年5月10日金商1099号42頁(傷害保険等:解除可)

・保険者において、解除が正当であることや解除権の濫用にならないことの立証を求める 裁判例:

【6】東京地判昭和61年1月30日判時1181号146頁(車両保険:解除不可)、

【7】東京地判平成3年7月25日判タ779号262頁(傷害保険:解除不可)、

【8】東京高判平成4年12月25日判タ868号243頁(住宅総合保険:解除不可)、

【9】東京高判平成5年9月28日判タ848号290頁(【7】の控訴審、解除可)、

【10】広島地判平成8年12月25日判タ954号241頁(傷害保険:解除不可)、

【11】神戸地判平成13年11 月21日交通民集34巻6号1538頁(傷害保険等:解除可)、

【12】東京地判平成15年5月12日判タ1126号240頁(傷害保険等:解除不可)、

【13】名古屋地判平成15年6月4日交通民集36巻3号823頁(交通傷害保険等:解除不 可)、

【14】青森地八戸支判平成 18年6月26日判タ1258号295頁(傷害保険等:解除不可)、

【15】大阪地判平成18年9月29日交通民集39巻5号1369頁(傷害保険:解除不可)が ある。また、道徳的危険の存在がある程度具体的に推認されることを要するとする

【16】仙台高秋田支判平成4年8月31日判時1449号142頁(建物更生共済:解除可)や、

保険者が重複保険の存在を知っていれば加入を拒否することを要する【17】大阪高判平成 14年12月18日判時1826号143頁(傷害保険:一部解除可)。

・保険契約者側に保険制度を悪用する意図を必要とするものとして、

【18】東京地判平成2年3月19日判タ744号198頁(海外旅行傷害保険:解除不可)があ り、

不正取得目的等のないことの立証を求めるものとして、

【19】東京高判平成3年11月27日判タ783号235頁(【18】の控訴審、解除可)、

【20】東京地判平成13年5月16日判タ1093号205頁(海外旅行傷害保険:解除可)、

【21】神戸地判平成13年10月12日LEX/DB文献番号28071366(【17】の原審、解除可)、

【22】名古屋地判平成15年4月16日判タ1148号265頁(傷害保険:解除可)、

【23】東京地判平成21年4月30日West Law Japan文献番号2009WLJPCA04308008(障害 保険等:解除不可)。

(2) 学説

裁判例の多数が加重要件を付加する理由:他保険契約の告知義務が必ずしも十分に理解 されておらず、また、遵守を期待するのが難しい義務の違反と保険契約の解除および保険 金の不払いという効果との均衡を図るため(石田満「他保険契約の告知義務・通知義務」保険契約法の論

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理と現実76頁)。また、事後的な保険金不正請求対策に対する制限(山下友信・保険法326頁)

・加重要件を付加しない学説。

・保険者に加重要件を課す学説。

・保険契約者に加重要件を課す学説。

⇒通説的見解なし。

3 保険法下における他保険契約の告知義務

(1) 立案担当者の見解

ある保険契約を締結しようとする際に、他保険契約の有無を告知事項とすることができ るか否かは、当該他保険契約の存在が、締結しようとしている保険契約における危険に関 する重要な事項であるかどうかによって決定することから、常に告知事項となり得るわけ ではない。告知事項とされ、告知義務違反が認められる場合であっても、他保険契約の存 在と保険事故との間に因果関係は認められないことから、保険者は免責されない。保険事 故への対応について、例外的に、著しく重複した保険契約が短期間で締結されたような場 合、重大事由会除が認められる可能性があり、保険者の免責が認められる余地がある。た だし、ただ保険契約者が他の保険契約に加入していたというにとどまる場合、一般的に、

それだけでただちに保険者・保険契約者間の信頼を損なう重大な事由には該当しない(萩本 修編著・一問一答保険法47~48頁)

(2) 学説

学説は立案者同様に他保険契約の告知義務も告知義務に含まれるとする見解と、含まれ ないとする見解に分かれている。

前者の学説は、保険事故発生前後に分けて考察する。保険事故発生前は、告知義務に関 して保険法が定める要件を満たせば解除権の行使が認められる。これに対し、保険事故発 生後は、重大事由解除による。そして、具体的に何が重大事由に該当するかについては、

①保険契約の累積が著しく過大であるにもかかわらず、それを保険者に知らしめないこと 自体が保険者の信頼を大きく損なう、②累積が著しく過大である場合は、保険者に知らし める義務が課されていたことを知らなかったという抗弁を認めるべきではない、③他保険 契約の不告知以外に、契約締結時の保険契約者の行動に不自然がある場合は、そのような 事実も重大事由該当性に考慮してよいと主張する(洲崎博史「保険法のもとでの他保険契約の告知義 務・通知義務」中西正明先生喜寿記念・保険法改正の論点94~95頁)

後者の学説は、前者の学説が保険事故前後に分けて考察する点を、他保険契約の告知義 務が告知義務の問題として理解すると、保険事故発生後は、因果関係不存在特則の存在が 問題となるため、これを回避するために保険事故発生前後を分けて考察するのであれば、

技巧的な解釈に過ぎると批判する。そして、保険法下における他保険契約の告知義務は、

保険者が契約締結の可否を判断する情報を収集するための注意的事項として機能すべきも のであり、保険事故発生前後に分けることなく、いずれの場合においても、保険契約者側 の保険金不正取得目的、保険契約の濫用目的、詐欺的保険金請求等の疑いを保険者が立証 した場合は、重大事由解除が認められるべきである(堀井智明「保険法における他保険契約の告知・通

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知に関する一考察」法学研究8212454頁、457頁)

(3) 検討

告知事項とすることの可否

損害保険契約における「重要な事項」および傷害疾病定額保険契約における「重要な事 実」は、保険者が当該事項を知ったならば保険契約を締結しなかったか、同一の保険料で は引き受けなかった事項をいう(甘利=福田63頁)

・大審院判例

【24】大判明治40年10月4日民録13輯939頁「他会社ニ保険契約ノ申込ヲ為シタル場 合又ハ同一契約ノ申込ヲ為シテ承諾アリタル場合ハ…被保険者ノ生命ニ付キ危険測定ニ関 係ヲ有セサルカ故ニ同条ノ重要ナル事実中ニ包含セサルモノト解釈シタルモ亦相当」

【25】大判大正11年8月28日民集1巻501号「商法第四二九条ノ所謂保険契約ニ於テ 被保険者ノ告知スヘキ重要ナル事実トハ生命ノ危険ヲ測定スルニ付影響アル素質ヲ有スル 事実」。→判例は、一貫して告知義務をして物理的危険を選択するための制度と解している。

*双方とも生命保険契約の事例であるが、定額給付方式の人保険という点で、傷害疾病保 険契約と共通。

・告知義務を課す根拠:危険測定説/善意契約説

・英国法との対比

1906年海上保険法(Marine Insurance Act 1906)17条「海上保険契約は最大善意に基づく 契約であり、当事者の一方によって最大善意が遵守されない場合、その契約は他方当事者 によって取消されうる。」

日本法との相違は、告知義務を課される主体が、英国においては保険者・保険契約者(被 保険者)双方なのに対し、日本では保険契約者側のみ (梅津昭彦「保険契約の法的性質再考-保険契 約の(最大)善意契約性から導かれること-」保険学雑誌60540頁、J Birds, Birds’ Modern Insurance Law (9th ed 2013) p119、Barrie G. Jervis著(大谷孝一=中出哲監訳)・現代海上保険25頁)

・他の規定との関係

告知義務の対象とすると、5年(約款上は2年)経過後は、解除権が消滅する(保険法 28条4項、55条4項、84条4項)。これは、5年(ないし2年)間、告知義務の対象とな った事実が問題とならなかった以上、結果として保険事故に影響を及ぼす程度は少なかっ

たため(山下友信=米山高生・保険法解説544頁〔山下友信〕、落合誠一監修・編著・保険法コンメンタール第2

100頁、170頁〔山下典孝〕)

なお、英国において、2012年家計保険(告知)法の立法過程で除斥期間を導入するか否 かが議論された。実務上は、詐欺の証拠がない限り5年以上前の不告知は調査の対象とさ れていないものの、導入すると告知義務違反が増える等の理由から見送られた(家計保険法:

最終報告書10.22段落。10.25段落、Ryoko Takeda, “ON THE ORIGIN OF THE DISCLOSURE DUTY –A COMPARISON OF THE UK AND JAPAN” at p20)

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・告知事項とすることの妥当性

他保険契約の存在が告知事項に該当するとしても、それと保険事故との間に論理的な因 果関係があるとは認められない。保険事故と関係ない事項を質問するのであれば、質問事 項の妥当性が問題である(山本哲生「損害保険契約における課題―因果関係不存在則、危険変動の問題を中心と して―」保険学雑誌60829頁)

因果関係不存在特則が、片面的強行規定とされたことから、発生した保険事故は全て支 払対象となる。告知義務違反において因果関係不存在特則が機能する余地のないのであれ ば、やはり告知を課す妥当性が問題となる。

・実務的観点

生保会社は不正請求対策として、損保会社は特に傷害保険契約において多重契約をチェ ックするために、ともに契約内容登録制度を設けている(大串淳子=日本生命保険生命保険研究会 編・解説保険法44頁、山下信一郎「損害保険実務への影響」ひろば61828頁)

→日本の告知義務制度は、保険契約者・被保険者の危険の測定に必要な物理的危険に関す る情報を収集するための制度として解すべき。

保険金請求への対処

・他保険契約の存在も告知事項に含まれると解する学説は、保険事故発生前後を区別する。

しかし、これは他の学説から技巧的に過ぎると批判されていることに加え、約款で他保険 契約の通知義務は削除されている(あるいはその傾向にある)こともあり、保険期間中に 他保険契約の存在が判明する場合は多くない(潘阿憲「重大事由解除に関する一考察」損保研究 75 4 214頁)。【17】の判旨において「重複保険の告知がされていないが保険者がこれを認識し ていると考えられる場合でも、保険事故の発生する前に解除がされることがほとんどない ことは、識者の指摘するところである。」と言及されている。保険事故発生前後で区別する 実益は少なく、また現実的でもない。

・他保険契約の告知義務の制度趣旨である道徳的危険に対処するために、重大事由解除を 規定する保険法30条3号および86条3号のバスケット条項で対応すること自体は共通し

ている(勝野義孝「重大事由による解除」新しい保険法の理論と実務210頁、榊素寛「保険法における重大事由解除」

中西正明先生喜寿記念・保険法改正の論点370 頁、同「告知義務違反における因果関係不存在特則の意義」損保研究 73325頁)。バスケット条項は、従来の保険約款あるいは特約約款の3号事由(「他の保 険契約との重複によって、この特約の被保険者にかかる給付金額等の合計額が著しく過大 であって、保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがあるとき」)および4号事 由(「その他この特約を継続することが期待し得ない第1号から前号までに掲げる理由と同 様の理由があるとき」)に相当する。

・要件

立案担当者:著しく重複した保険契約が短期間で締結されたような場合において重大事 由解除が例外的に認められる(萩本48頁)

学説:そもそも重大事由解除は入院給付金をめぐるモラル・リスクの対応策として約款

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に盛り込まれたものであることから、ごく短期間に保険契約が著しく重複したというだけ では、信頼関係が破壊され、保険契約の存続を困難とする要件が必要(山下=米山568頁、578

〔甘利公人〕)

・従来の3号・4号事由による重大事由解除が問題となった裁判例:

【26】東京簡判平成4年2月28日文研生判7巻31頁、

【27】広島地判平成8年4月10日判タ931号273頁、

【28】徳島地判平成8年7月17日生判8巻532頁、

【29】大阪高判平成9年7月16日生判9巻343頁、

【30】東京地判平成11年3月6日判時1788号144頁、

【31】大阪地判平成12年2月22日判時1728号124頁、

【32】札幌高判平成13年1月30日生判13巻58頁、

【33】大分地判平成14年11月29日生判14巻807号、

【34】福岡地判平成15年12月26日生判15巻842頁、

【35】東京地判平成16年6月25日生判16巻438頁、

【36】大分地判平成17年2月28日判タ1216号282頁。

・否定例:【26】(64,000円)、【29】(40,000円超)、【30】(死S20億円弱)

・肯定例:【27】(47,500円+故意の事故招致の仮装)、【28】(47,000円+覚せい剤)、【31】

(10,000円+外務員が職業を偽って加入)、【32】(84,000円)、【33】(55,000円+請求操作)、

【34】(80,000円)、【35】(103,000円、がん診断一時金3,400万円)、【36】(119,000円)。

・保険法における重大事由解除の効果は、将来効であり、また、重大事由解除を濫用しな いよう留意することという国会の付帯決議がある。したがって、重複保険契約の短期集中 加入に加えて、保険契約者側のどのような行為が保険者の信頼を破壊する重大事由に該当 し、それはいつ生じたのかを、これまで以上に慎重に判断する必要がある(榊(保険法改正の論 点)367頁、370頁)

・他保険契約の告知義務が問題となった裁判例との比較

<著しい重複保険>

【5】が入院日額237,600円(13件。これ以外に、生命保険会社8社との間で15件の生 命保険契約、各共済および簡易保険にも加入している)で必要以上の長期入院をしている。

【10】は入院日額80,000円(5件)でモラル疑惑のある入院をしている。

【15】は入院日額116,200円、通院日額63,800円(12件)で中央分離帯に衝突し、入院 3日間、通院285日間の事案である。

【22】が通院日額52,000円(7件)で108日間通院している。

【23】が入院日額65,000円、通院日額25,000円(4件)で、交通事故により入院72日 間(入院必要日数は28日間)、通院79日間の事案である。

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<短期集中加入>

【5】平成3年6月27日~平成5年2月19日

【10】平成4年12月2日~平成5年1月13日

【15】平成元年1月23日~平成12年6月1日(判決文からの判明分のみ。自動継続を 含む)

【20】平成13年7月2日~同11日

【23】平成8年2月1日~平成10年1月26日(自動継続を含む)

・【23】の評釈において、被保険者が大手生保勤務の後、代理店を開業した保険の専門家で あるという属性に加え、保険契約の重複・保険金額・保険金の過大請求から、重大事由解 除が肯定されると主張されている(勝野義孝「判批」金商1386号124頁)。

→【10】被保険者が保険外務員として23年以上勤務しており、保険契約の件数も入院日額 も【23】より大きいことから、重大事由解除が肯定されると考えられる。

→【5】被保険者は個人商店を営んでおり、過去2回の事故で約1400万円を受領しており、

借財もある。

→【15】被保険者の職業は明確に認定されていないが、普通貨物自動車を運転中の事故で あることから、運送業と推認される。ここでは、普通貨物自動車を中央分離帯に衝突させ る交通事故で、平成12年10月28日から同月30日までの3日間入院し、同月31日から平 成14年3月2日までの間に285日間通院している。自賠責保険14級10号(局部に神経症 状を残すもの)と認定されている。また、不正請求の疑いはないと認定されている。

→【23】被保険者はソーラー温水器の訪問販売や生命保険商品のチラシを配布していたが、

チラシの配布中に何者かに殴打されたと主張した。この点について、裁判所は認定してい ない。ただし、被保険者は飛び込みで保険契約を締結しており、死亡・高度障害補償のな い入通院のみの保険を希望していた。

⇒これらの事情を、著しい重複保険契約・短期集中加入・信頼関係を破壊する事情という 要素や、【23】との対比から考慮すると、【5】は金銭面で窮乏していたこと、【22】は事故 態様や契約締結過程の事情から、重大事由解除が肯定されるものと考える。しかし、【15】 において、285 日間の通院をもって直ちに信頼関係を破壊すると認められるのか否か、疑 問である。また、上記5件以外の事例は、保険金額の観点からも、バスケット条項による 重大事由解除は認められないものと考えられる。

③ 保険法下における他保険契約の告知義務

・他保険契約の存在は告知事項に含まれない:大審院判例は告知事項を物理的危険に限定 していること、英国と異なり日本の告知義務は保険契約者側にのみ課されていること、告 知事項に道徳的危険を含めると告知義務を規律する他の規定と整合性がとれないこと、そ して保険事故と関係のない質問をすべきでないこと。

・保険金請求への対応は重大事由解除に委ねる。また、重大事由解除がもともと道徳的危 険に対処するための制度であることから、著しい重複保険の短期集中加入に加えて信頼関 係を破壊する要素を必要と解すべきである。

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・立案担当者の主張する著しい重複保険契約の短期集中加入(学説はこれらに信頼関係を 破壊する要素を必要とする)の要件自体が厳しいものであり、従来、他保険契約の告知義 務が担ってきた役割が十分に果たせるかは疑問に思われるかもしれない。しかし、他保険 契約の告知義務も重大事由解除も、その制度趣旨は道徳的危険への対処であることから、

重大事由解除ができない事案は道徳的危険が認められないということなので、問題ない。

4 おわりに

本稿は、保険法が改正前商法に比して告知義務の範囲を明確化したことから再検討が求 められる他保険契約の告知義務について考察した。

保険法における告知義務は、大審院判例、英国法との対比、告知義務を規律する他の規 定との関係、保険事故と関係のない質問をすべきでないことの諸点から、保険契約者・被 保険者の危険の測定に必要な物理的危険を収集するための制度として解すべきである。そ うだとすると、道徳的危険に対処するための他保険契約の告知義務はこれに含まれない。

そして、他保険契約の状態における保険金請求は重大事由解除によるべきであるが、そ こでは著しい重複保険の短期集中加入に加え、信頼関係を破壊する要素を必要と解すべき である。そして、免責が認められない場合は、そもそも道徳的危険が存在しない。

以 上

本稿は、「2014年度 全労済 給付奨学生」の研究成果の一部である。

参照

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