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結晶構造から見る古細菌tRNAIle2 のアグマチニル化反応

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化学と生物 Vol. 50, No. 7, 2012 481

今日の話題

結晶構造から見る古細菌 tRNA Ile2 のアグマチニル化反応

新しい tRNA アンチコドン修飾メカニズムの解明

遺伝暗号が正確に翻訳されるには,リボソームにおい てmRNA上のコドンとtRNA上のアンチコドンが正確 に対合することが必要不可欠である.このコドン‒アン チコドンの正確な対応は,リボソームの機能によって保 証されるだけでなく,アンチコドンの塩基修飾によって も制御されている.

原核生物において,イソロイシンコドンAUAに対応 するtRNAIle2のアンチコドンはCAUである.しかし,

このアンチコドンと配列上相補的な関係にあるコドンは メチオニンコドンAUGであり,このままではコドン認 識の点で重大な問題を引き起こす.そこで,原核生物は tRNAIle2のアンチコドン一文字目のシチジン (C34) を 化学修飾することで,tRNAIle2がイソロイシンAUAコ ドンのみを認識できるような仕組みを備えている.原核 生物におけるC34修飾形態は生物界によって異なり,真 正細菌ではライシジン (L)(1),古細菌ではアグマチジン 

(agm2C)(2, 3)である(図1A).ライシジンに関しては,

これまでその合成酵素TilSによる反応機構について詳 細な研究がなされており,多くの知見が得られてい

(4〜7).一方で,古細菌におけるC34の修飾形態は最近

になって明らかにされ,その修飾反応を触媒する酵素  TiaS (tRNAIle-agm2C synthetase) が同定されたばかり で あ る(2, 3).TiaSは マ グ ネ シ ウ ム イ オ ン 存 在 下 で,

ATPとアグマチンを利用してtRNAIle2のC34を修飾す る.この修飾反応は3段階で進行し(図1B)(8),まず ATPがAMPとピロリン酸に加水分解され,次に

γ

リン 酸によってC34の2位が活性化される.C34リン酸化中 間体はアグマチンによって2位炭素への求核攻撃を受 け,agm2Cに変換される.一連の反応スキームは明ら かであるが,どのような分子基盤によってそれが支えら れているかはよくわかっていなかった.本稿では

  由来TiaS‒tRNAIle2‒ATP三者複合 体,TiaS‒tRNAIle2‒AMPCPP(非加水分解性ATPアナ ログ)‒アグマチン四者複合体の構造・機能解析を通して 明らかとなったユニークなagm2C合成反応機構の分子 基盤,特に (i) 「TiaSにおけるリン酸化スレオニンの役 割」と (ii) 「アグマチン依存的なtRNAアンチコドン領 域の構造変化」を中心に紹介する.

TiaSは4つのドメイン (TCKD, FLD, OBD, ZRD) か ら構成され,tRNAのアクセプターアームとアンチコド ンアームを認識する形でtRNAと結合していた(9) (図 2A).TCKDにはATP(またはAMPCPP)が結合して おり,特徴的な2本のループ(P1とP2)がATPの三リ ン酸を認識していた(図2B).特にP1ループは酸性残 基であるアスパラギン酸に富んでおり,ATP加水分解 の際,これら残基が酵素反応に必要なマグネシウムイオ ンを配位すると考えられる.実際,このループ上の残基 の多くが,アラニン置換によってATP加水分解活性を

失った(8, 9).また,驚いたのは,ATP三リン酸近傍にあ

るThr18がリン酸化されていたことである(8, 9).このス レオニン残基のリン酸化はTiaS自身の活性によるもの であり,スレオニン残基を他のアミノ酸に置換すると TiaSはagm2C合成活性を失う(8, 9).つまり,TiaSはタ ンパク質(TiaS自身)と RNA (tRNAIle2) の両方に対 するリン酸化活性を有する非常に珍しい酵素なのであ る.では,リン酸化された Thr18 (pThr18) がどのよ うな役割をもつのか? これに対して明確な解答を得る に至っていないが,次のようなことが考えられる.一つ は,pThr18はP1ループのアスパラギン酸やATP三リ ン酸と非常に近く,それらと協同してマグネシウムイオ ン配位に関与している可能性である.もう一つは,反応 中間体であるリン酸化C34のリン酸基とpThr18のリン 酸基間に発生する電荷的反発を構造変化に利用している 可能性である.四者複合体において,C34はリン酸化を 受けるために

γ

リン酸近傍に位置している一方で,アグ マチンと反応できる位置関係にはない(図2C右).つま り,C34はリン酸化を受けたあと,アグマチンと反応す るためにはその位置を大きく移動させる必要があるので ある.その際,上記のリン酸基同士の電荷的な反発に よって,リン酸化C34はその場にとどまることが難しく なり,速やかにアグマチンと反応できる位置に移動でき るようになると考えられる.

スレオニン残基のリン酸化に加えて,結晶構造解析か ら明らかになったことの一つに「アグマチン依存的な tRNAアンチコドン領域の構造変化」がある.アグマチ ンがない状態である三者複合体構造において,C34は

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化学と生物 Vol. 50, No. 7, 2012

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今日の話題

図1TiaSによるagm2C合成反応

(A) ライシジンとアグマチジンの構 造.(B) TiaSはATPとアグマチンを 利用してC34を修飾する.その過程 で,C34の2位がリン酸化を受けて活 性化される.

図2TiaS‒tRNAIle2複合体の結晶 構造

(A) TiaS‒tRNAIle2‒ATP三者複合体 の全体構造.TiaSは4つのドメイン から構成され,主にtRNAIle2のアク セプターアームとアンチコドンアー ムを認識することでtRNAIle2と結合 し て い る.(B) TCKDに 結 合 し た ATP.2本のループ (P1, P2) がATP 三リン酸を挟み込んでいる.ATP三 リン酸の近傍に位置するThr18はリ ン酸化を受けている.(C) 三者複合 体 と 四 者 複 合 体 に お け るATP 

(AMPCPP) γリン酸とC34の位置関 係.左図はアグマチンのないときの C34の位置,右図はアグマチン存在 下でのC34の位置.アグマチンの結 合によってC34がγリン酸近傍に配置 されている.また,最終的なアグマ チンとの反応のためにC34はさらに 位置を変える必要がある.

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今日の話題

FLDに形成されたポケットに結合していた.このポ ケットに結合したC34とATP 

γ

リン酸の距離は10Åも 離れており,C34のリン酸化が起こりえない位置関係に あった(9) (図2C左).一方で,アグマチンを含む四者複 合体構造では,FLDのポケットにC34の代わりにアグ マチンが結合しており,C34は

γ

リン酸から3.1Åの距離 に配置されていた(9) (図2C右).これはアグマチンの TiaSへの結合の有無が,C34リン酸化中間体生成を制 御していることを示唆している.それでは,これがどの ような意味をもつのであろうか? アグマチンがTiaS に結合するのに時間がかかる場合,C34をATPから遠 ざけておく機構がなければ,ATPとtRNAがTiaSに結 合した時点でC34リン酸化反応が即座に起きてしまい,

リン酸化を受けた中間体が蓄積していくことになる.こ れでは,翻訳の正確性を保証できないうえに,エネル ギー的な無駄を生みだすだけである.つまり,ATP,

tRNA,アグマチンという3つの基質が結合したときの み,C34リン酸化反応がスタートするこのメカニズムは

極めて巧妙であるといえるだろう.

結晶構造解析は「分子を見る」という点で非常に優れ た手法である.一見すると単純な現象に思えても,実際 分子を見てみるとそこには想像もしていなかったメカニ ズムが存在して,我々を驚かせてくれることがある.今 後も,生体分子を見ることによって,そこに隠されてい る面白い現象を明らかにすることに我々の興味は尽きな い.

  1)  T. Muramatsu  : , 263, 9261 (1988).

  2)  Y. Ikeuchi  : , 6, 277 (2010).

  3)  D. Mandal  : , 107, 2872 

(2010).

  4)  A. Soma  : , 12, 689 (2003).

  5)  Y. Ikeuchi  : , 19, 235 (2005).

  6)  K. Nakanishi  : , 102, 7487 

(2005).

  7)  K. Nakanishi  : , 461, 1144 (2009).

  8)  N.  Terasaka  : , 18,  1268 

(2011).

  9)  T. Osawa  : , 18, 1275 (2011).

(大澤拓生,沼田倫征,産業技術総合研究所)

稲葉 謙次(Kenji Inaba) <略歴>1993 年京都大学理学部化学科卒業/1998年京 都大学工学研究科分子工学専攻博士課程修 了/同年英国MRC博士研究員/2000年京 都大学ウイルス研究所博士研究員/2002 年JSTさ き が け21専 任 研 究 員 /2005年 JST CREST専任研究員/2006年九州大学 生体防御医学研究所特任准教授/2011年 同大学生体防御医学研究所准教授,現在に いたる<研究テーマと抱負>タンパク質品 質管理に関わるジスルフィド結合形成開裂 システムについて様々なアプローチ法から 研究してます<趣味>スポーツ(観るの も,やるのも,記事を読むのも)

磯  部   稔(Minoru Isobe) 略 歴1967年名古屋大学農学部農芸化学科卒 業/1969年同大学大学院修士課程修了/

1973年同大学農学博士/同年Columbia大 学博士研究員/1975年名古屋大学農学部 助教授/1991年同教授/2004 〜 2009年同 大学高等研究員教授(併任)/2008年同大 学名誉教授/同年國立清華大學教授,現在 にいたる.この間,2004 〜2007年IUPAC  Division President (Organic and Biomo- lecular Chemistry)/平成18年度日本学術 会議第20期・連携会員(化学)<受賞(学 会賞・その他)>昭和55年4月昭和55年度 日本農芸化学会・農芸化学奨励賞 複雑な 生物活性天然有機化合物の立体制御合 成 /平成8年2月1995年度有機合成化学 協会賞(学術的) 多不斉中心生理活性物 質の立体制御合成研究 /平成12年3月 2000年度日本農芸化学会賞 生物の信号 伝達に関する生物有機化学的研究 /紫綬 褒章 (2008.5.16)<研究テーマと抱負>主

な研究:生物発光,昆虫休眠,タンパク脱 燐酸酵素阻害剤の研究,天然物合成<趣 味>旅行・音楽鑑賞・山歩き・お酒 浦  島   匡(Tadasu Urashima)  歴>1980年東京農工大学農学部農芸化学 科卒業/ 1986年東北大学大学院農学研究 科博士後期課程修了/同年帯広畜産大学畜 産学部助手/ 1994年同助教授/ 2003年同 大学大学院畜産学研究科教授,現在にいた る<研究テーマと抱負>ミルクオリゴ糖の 構造,生理的意義,進化に関する研究.広 範囲な動物種のミルクオリゴ糖を観察する ことで,糖鎖の進化に関する法則性に迫っ てみたい<趣味>出張中の食べ歩き,週末 の読書

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参照

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