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プロダクト イノベーション - J-Stage

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(1)

プロダクト イノベーション

夢のエイズ薬?  EFdA 4′-C-Ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadenosine )の創製

新しい概念による抗ウイルスヌクレオシド薬の創製研究 横浜薬科大学

大類 洋

はじめに

エイズ,インフルエンザ,エボラ,MERS,SARS,

ジカなどのウイルスが世界中で人命を脅かしている.さ らに恐ろしいウイルスが出現するかもしれない.これか らは ウイルスとの戦い の世紀である.

1980年代の初頭エイズが発生し,現代の黒死病では と世界を震撼させた.エイズがHIV感染症と分りHIV のライフサイクルが解明され始めると逆転写酵素阻害薬 が開発された.しかし,変異により薬剤耐性HIVが容 易に出現しその治療の難しさを知らされた.その後,イ ンテグラーゼ阻害薬やプロテアーゼ阻害薬が開発され,

耐性HIVの出現に対してはこれら作用機序が異なる複 数の薬を併用するHAART(カクテル療法)が開発され た.しかし依然として 薬剤耐性HIVの出現 と 薬 剤の副作用 がHIV感染化学療法において解決すべき 重要な問題である.

筆者は,有機化学の基本とポリオキシンの合成をきっ かけに始めた,ヌクレオシドの化学的研究の経験を礎に これらの問題の解決に挑んだ.ウイルスの変異と感染治 療に関して従来とは異なる新しい概念を提案し,さらに 薬剤耐性HIVを出現させない方法 , 薬剤の副作用を 低減する方法 および 薬剤の活性を生体中で長時間持 続させる方法 など,これらの問題の解決を目指してい くつかの作業仮説を立てて研究を行った.本稿では,

HIVの感染治療のみならず感染防御にも極めて有効で あり, 夢のエイズ薬となる可能性があるEFdA(4′- - ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadenosine) の創製研究(1, 2)を 紹介させていただく.

新しい概念: ウイルスの突然変異は自然がわれわれに 与えた抗ウイルスヌクレオシド薬創製のための事象で ある

ウイルスは変異して環境の変化に適応する.これは 自然がウイルスに与えた生き残るための手段 である.

薬剤耐性もしかりである.この変異による薬剤耐性ウイ ルスの出現が,ウイルス感染の化学療法において最も解 決の難しい問題である.私は,ウイルスの変異は 自然 がわれわれに与えた抗ウイルスヌクレオシド薬創製のた めの事象である と考えている.何故ならば,変異とは ウイルスが遺伝子を変えることである.遺伝子を変える とは「ウイルスがA:T, G:Cの塩基対を無視して,異な るヌクレオシドを取り入れて新たな遺伝子を生合成す る」ことである.これはウイルスの核酸ポリメラーゼの 基質選択性が非常に甘いことを示唆している.一方ヒト ではA:T, G:C塩基対の読み間違いがほとんどない(間 違った場合は修復機構がある).これは,ヒトの核酸ポ リメラーゼの基質選択性がウイルスに比べてはるかに厳 密であることを示唆している.この基質選択性の違いを 利用することによって ウイルスの核酸ポリメラーゼに は取り込まれるためウイルスに対して活性をもつが,ヒ トの核酸ポリメラーゼには取り込まれず,ヒトに毒性が 低い修飾ヌクレオシドの創製が可能である との概念に 至った.この概念は,HIVのみならずほかのウイルスに 有効な修飾ヌクレオシド薬の創製にも適用できるものと 考えている.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(2)

作業仮説1:薬剤耐性HIVを出現させない方法:4-置 換-2-デオキシヌクレオシドは耐性HIVを出現させない 逆転写酵素阻害ヌクレオシドである

ヌクレオシドがHIVの逆転写酵素(RT)のチェイン ターミネーターとなるためには,2′,3′-ジデオキシヌク レオシド構造が必須であると考えられてきた.それ故い ろいろなジデオキシヌクレオシドおよびその類縁体が臨 床薬として開発されてきた.しかし,これらジデオキシ ヌクレオシド薬には容易に耐性HIVが出現する.

図1にジデオキシヌクレオシド薬[2′,3′-dideoxynu- cleoside(ddN)]とRTの生理的基質である2′-デオキシ ヌクレオシド[2′-deoxynucleoside(dN)]の構造式を 示す.筆者は,RTが,3′-OH基をもつか否かでddNと dNを識別するため,ddN薬に耐性HIVが出現すると考 えた.そこで, 耐性HIVを出現させないRT阻害ヌク レオシドは,RTによってdNと識別されてはならない,

それ故,dNと同様3′-OH基をもつ必要がある,しかも そのヌクレオシドは3′-OH基をもちながらRTのチェイ ンターミネーターとならなければならない と考えた.

これまでの常識では,RTのチェインターミネーターと なるためにはddN構造が必須であり,3′-OH基をもたせ ることはとても考えられないことであった.3′-OH基を もちながらRTのチェインターミネーターとするにはど

うすれば良いかが,この研究で一番重要な問題である.

筆者はその答えをdNの4′位に置換基を導入することで あると考えた.その理由は,4′位に置換基を導入すると 3′-OH基は反応性が非常に低いネオペンチル型二級ヒド ロキシ基となる.この3′-OH基はRTが4′SdNをdNと して認識するためには使えてもDNA鎖の伸長反応には 使えない,すなわちチェインターミネーターになる,と 考えたからである.それ故,4′-置換-2′-デオキシヌクレ オ シ ド(4′- -substituted-2′-deoxynucleoside,4′SdN,

図1)を耐性HIVを出現させないRT阻害ヌクレオシド として設計した.4′SdNの5′-OH基はネオペンチル型一 級ヒドロキシ基となり反応性が低くなるので,キナーゼ によるリン酸化を受けるか否かが問題であるが,研究を 進めることとした.ネオペンチルアルコールの構造式と その性状を図2に示す.

しかし,ヒトのDNAポリメラーゼがRTと同様4′ 図1耐性HIVを出現させない抗HIVヌクレオシド の設計

図2ネオペンチルアルコールは一級アルコールであるが,ヒ ドロキシメチル基が三級炭素に結合しているため,立体障害に より反応性が著しく低下している

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(3)

SdNを基質として受け入れれば,4′SdNは毒性が高い と考えられる.次はヌクレオシドの毒性を低減させる方 法である.

作業仮説2: 修飾ヌクレオシドの毒性はさらに修飾する ことによって低減できる

天然から単離されたヌクレオシド系抗生物質の構造式 を図3に示す.これらのほとんどが生理的ヌクレオシド の1カ所が修飾されたものであり,抗菌活性や抗腫瘍活 性は高いが毒性も高く,臨床薬にはなりえなかった.そ れ故1960〜1970年代,ヌクレオシド化学者たちは,よ り優れた生物活性をもつヌクレオシドを得ようとして,

これら1カ所が修飾された抗生物質をさらに化学修飾し た.しかし,修飾するといずれの場合も活性が失われ た.

合成ヌクレオシドにおいても結果は同じだった.1カ 所が修飾されたヌクレオシドは抗菌活性や抗腫瘍活性が 高いが毒性も高く,それらをさらに修飾すると活性が失 われた.それ故,当時多くの研究者が「ヌクレオシド化 学には将来の展望がない」とヌクレオシド化学から去っ て行った(特にアメリカでは研究費の獲得が難しくなり その動きが速かった).しかし,私は「活性が失われる ことは毒性もなくなることである」と考えた.そこで,

生理的ヌクレオシドの1カ所が修飾された4′SdNの毒性 が高ければそれをさらに修飾することによって毒性を低 減できると考えた(図3).これは,ヒトの核酸ポリメ

ラーゼは1カ所修飾されたヌクレオシドを基質として認 識しDNAやRNAに取り込むが,2カ所以上修飾された ヌクレオシドなら基質として認識しなくなるのではと期 待したからである.

作業仮説3: RTと人のDNAポリメラーゼは基質選択性 が異なる.その違いを利用して高い抗HIV活性をもち 毒性が低い修飾ヌクレオシドの創製が可能である

DNA-sequencingのSanger法はジデオキシ法とも呼 ばれ,ジデオキシヌクレオシドがDNAポリメラーゼの チェインターミネーターであることを利用している.す なわちSanger法はジデオキシヌクレオシド薬(ddN,

図1)が重い副作用をもつことを示唆している.それ故 ddNはその毒性のため使用量をコントロールしながら 臨床に用いられている.これはddNのRTに対する活性 とDNAポリメラーゼに対する活性が異なる(RTはこ れら臨床薬を容易に取り入れるがヒトのDNAポリメ ラーゼはなかなか取り入れない)こと,すなわちRTと DNAポリメラーゼの基質選択性が異なることを示して いる.それ故, RTには現在の臨床薬より取り込まれ やすく高い抗HIV活性をもち,ヒトのDNAポリメラー ゼにはより取り込まれにくくさらに低毒性な,修飾ヌク レオシドの創製が可能である と考えた.この作業仮説 はHIVが変異して薬剤耐性を獲得することからも支持 される.

図3天然から単離されたヌクレオシド系抗生物 質と毒性を下げるアイデア

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● 化学 と 生物 

(4)

作業仮説4: 2-デオキシヌクレオシドの4′位への置換基 の導入は,ヌクレオシドを酵素分解や酸分解を受けに くくし,生体中で長時間活性を持続させる

ヌクレオシドのグリコリシス(核酸塩基の脱離分解)

が起こると,ヌクレオシドの生物活性が失われるととも に,時として遊離した塩基が毒性を示すことがある(ソ リブジン事件が代表例).それ故,ヌクレオシド薬のグ リコシル結合は生体中で安定であることが望まれる.

ヌクレオシドのグリコリシスは,図4に示すように,

環酸素の関与によって平面構造をもつオキソカルベニウ ムイオンを形成して進む.4′位に置換基を導入すると,

4′位の置換基と3′-OH基との立体反発によって,フラ ノース環のコンフォメーションがN-型に変化する.こ のN-型のコンフォメーションからは,環酸素が関与し てオキソカルベニウムイオンを形成しようとしても,平 面構造をとることが難しくなる.それ故,4′SdNのグリ コシル結合は,dNと比べると酵素分解や酸分解に対し て安定となる.すなわち,4′SdNは生体中安定で長時間 活性が持続すると期待できる.

新概念と作業仮説1〜4に基づいて4′SdNの合成と生 物学的評価研究を行った.

新概念および作業仮説の検証

はじめに4′-メチル体(4′MdN,図5, R: CH3)の合成 と生物学的評価研究を行った.3′-OH基をもつシチジン 体(4′MdC)とアラC体(4′MaraC)が高い抗HIV活 性と毒性を示した.他の塩基をもつ4′MdNが高い活性 を示さなかったことから,塩基によって5′-OH基のキ ナーゼによるリン酸化の程度が違うと推測した.4′ MdCと4′MaraCが共に抗HIV活性と毒性を示したこと は,RTもDNAポリメラーゼもこれらを基質として取 り入れたことを示している.山口らとの共同研究によ り,4′MdCが核酸ポリメラーゼのチェインターミネー ターであることを証明した.

次にいろいろな置換基を4′位にもつ, -体,2′,3′-  dideoxy-体( ),2′,3′-didehydrodideoxy-体( ),2′-  deoxy-体(4′SdN)を合成し,その抗HIV活性を調べた

(図5).4′位に置換基をもつ -体は全く生物活性を示 さなかった.これは5′-OH基がキナーゼによって全くリ ン酸化されないためと考えた.4′位に置換基をもつ , 

も 高 い 抗HIV活 性 を 示 さ な か っ た.こ の 結 果 も 5′-OH基がキナーゼによってリン酸化され難いためと考 えた.4′位に置換基をもたない ,  は抗HIV活性を示 図44′位への置換基の導入は,グリコシル結合を酵 素分解や酸分解に対して安定化させ,体内で長時間 活性を持続させる

図54SNの抗HIV活性と4MaraCの構造式

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● 化学 と 生物 

(5)

すことから,この結果は4′位への置換基の導入が5′-OH 基をネオペンチル型ヒドロキシ基に変えたためと考えて いる.しかし3′-OH基をもつ4′SdNは非常に高い抗HIV 活性を示した.この結果は3′-OH基がキナーゼによる5

′-OH基のリン酸化に非常に役立っていることを示すも のである(これは予期していなかった大きな幸運であ る).総じて4′位の置換基は立体的に小さいものが高い 活性をもつ傾向が見られたが,エチニル基(アセチレ ン)が最も優れた抗HIV活性を示した.以後,化合物 はすべて4′位置換であるので4′を略して記述する.ピリ ミジン塩基をもつエチニル体でもメチル体と同様,シチ ジン体(EdC)およびアラビノ体(EaraC)が高い抗 HIV活性を示したが,やはり毒性も高かった.EdCを さらに修飾した5-フルオロ体(EFdC,5, 4′の2カ所修 飾)では,予期どおり毒性が激減した.しかし,ヤマサ 醤油(株)よりEFdCはほかの細胞に毒性を示したとの報 告があったので,EFdCに関する研究をこれ以上行わな いことにした.一方,プリン体はすべて優れた抗HIV 活性と好ましい選択性指数(SI=EC50/CC50)を与えた.

4SdNは耐性HIVにも高い効力をもつが毒性も高い 期待どおり4′SdNは現存するすべての耐性HIVに強 い活性を示した.なかでもエチニルプリン体が特に優れ た活性を示した.しかし,イノシン体はDNAの構成成 分でないため高い活性を示さなかった.

次にエチニルプリン体(EdP)のマウス毒性試験を 行った(図6.2-アミノアデニン体(EAdA),グアニ ン体(EdG)は非常に毒性が高かった.アデニン体

(EdA),イノシン体(EdI)は100 mg/kgまで毒性を示

さなかった.これらの中でEdAが高活性・低毒性であ るので有望と思われた.しかし,この動物実験中,

EAdAおよびEdAはマウス体内のアデノシンデアミ ナーゼで容易にデアミノ化され,それぞれ毒性の高い EdGおよび活性も毒性も低いEdIに変化することがわ かった.この結果は動物試験ではEAdAとEdAの真の 毒性を知ることはできないこと,アデノシンデアミナー ゼによる分解は抗ウイルスヌクレオシド薬開発において 重大な問題であることを示している.

アデノシンデアミナーゼに対して安定で毒性が低いと 期待されるEFdAの創製

Montgomeryらにより,アデニンの2位にハロゲン原 子を導入するとアデノシンデアミナーゼの作用を受けに くくなることが,1969年に報告されている(3).そこで,

EdAの2位にフッ素原子(F)を導入した4′- -エチニ ル-2-フルオロ-2′-デオキシアデノシン(EFdA,図7)を 合成した.EFdAは,予期どおりアデノシンデアミナー

図6EdPのマウス毒性試験とアデノシンデアミ

ナーゼ

図7EFdA

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ゼの作用を受けず,胃酸のpH水中でも安定であった.

さらにホスホリラーゼによるグリコリシスに対しても安 定であった.EFdAはdAの2位と4′位の2カ所を修飾し たものであるので毒性が低いと考えられる.次はEFdA の抗HIV活性と毒性を調べる段階である.

4SdN3-OH基は毒性の原因であるから,4SdNは 毒性のためダメであるという2つの論文の出現

そうこうしている間に田中,原口,馬場らは,臨床薬 のd4Tの4′位にエチニル基を導入したエチニル-d4T

(Ed4T)を合成した(図8.彼らは,Ed4Tがd4Tより 活性が高くかつ毒性が低い,優れた抗HIVヌクレオシ ドであることを見いだした.彼らはこの結果と先の筆者 らの毒性に関する結果に基づいて「4′SdNの3′-OH基は 毒性の原因であり,Ed4Tは3′-OH基をもたないから毒 性が低いのである.4′SdNは3′-OH基による毒性のため ダメであろう」と主張した(4).田中博士は筆者に「大類 先生がずっと4′置換ヌクレオシドを研究されているのに Ed4Tを合成して申しわけありません」と言われたの で,筆者は「研究ですから仕方ないことですよ,Ed4T はd4Tをさらに修飾したものであるからd4Tより毒性 が低く,活性が高いのはエチニル基がRTと特別な親和 性をもっているからではないですか」と答えた.また,

私の共同研究者である満屋裕明先博士,Marquez, Sara- fianosらは,抗HIV活性がほとんどないと発表された4′- エチニル-2′,3′-ジデオキシシチジン(EddC)の5′- -ト リリン酸エステル(EddCtriP)を合成し,これが野生 株のHIVのRTに対してAZTtriPより活性が高いことを 見いだした.彼らはこの結果に基づいて「EddCの抗 HIV活性が非常に低い理由は,キナーゼによって5′-OH 基がリン酸化されないためであり,3′-OH基をもつEdC

が活性も毒性も高いのはキナーゼによって5′-OH基がリ ン酸化されるためである.3′-OH基はキナーゼによるリ ン酸化には役立っているが,毒性の原因であるので,4′ SdNはその毒性のため臨床薬には期待できない」と主 張した(5).これらの論文は世界をリードしている核酸化 学者とウイルス学者らによる共同研究の結果であるの で,多くの研究者が4′SdNはその毒性のためダメであ るとの認識をもつようになった.

しかし,筆者の研究では,耐性HIVを出現させない ために3′-OH基は必須である.さらに,EFdAはdAの 2カ所を修飾したものであるので,毒性が低いと期待で きる.そこでEFdAとその3′-OH基をもたない 誘導 体(EFddA)および 誘導体(EFd4A),さらに,F の代わりにClをもつ4′-エチニル-2-クロロ-2′-デオキシア デノシン(ECldA)の抗HIV活性を満屋博士に調べて もらった(表1

3′-OH基をもたないEFddA, EFd4AおよびEd4T, d4T は,野生のHIVには効くが耐性HIVに対して活性が低 下した.この結果は,3′-OH基をもたないヌクレオシド には耐性HIVが出現することを示唆している.一方,

3′-OH基をもつEFdA, ECldAは,野生HIVに対して極 めて優れた抗HIV活性を示すとともに,耐性HIVに対 しても高い活性を示した.しかも,これらの選択性指数

( )は100,000以上であった.この結果は,3′-OH基が あっても低毒性でありうることを示している.

EFdAに対して で耐性HIVを出現させる研究 が,満屋らによってこの十数年間行われている.3′-OH基 をもつEFdAには耐性HIVは出現していないが,3′-OH基 をもたないEd4Tには耐性HIVが出現している(6)

図8エチニル誘導体の構造

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● 化学 と 生物 

(7)

EFdAの安定性と毒性

EFdAはマウスや赤毛猿に対して急性毒性は全く示さ ない.EFdAtriPは,DNAポリメラーゼ

α

β

の基質とは ならないこと,ミトコンドリアDNAポリメラーゼ

γ

に 対してははじめIC50=10

μ

(注:マイクロ) Mとされた がその後本酵素の基質にならないことが明らかとなっ た.それ故,EFdAの毒性は非常に低いと考えられる.

EFdAtriPのプラズマ中での半減期は では17時 間ほどであったが,メルク社による臨床試験では100時 間を超えるものであり,EFdAtriPは生体中非常に安定 で活性が持続する(この結果は生体中ではRTだけが EFdAtriPを基質として使用していることを示してい る).

EFdAが高い抗HIV活性をもつ理由

Ed4Tがd4Tより高い抗HIV活性をもつこと,さら に,RTがEFdAを天然基質であるdAより2倍好んで取 り込むことは,4′位のエチニル基がRTと特別な親和性 をもつことを示唆している.4′位のエチニル基がRTと 特 別 な 親 和 性 を も つ こ と は,Wangら に よ りRTが Ed4Tを取り込んだ結晶のX線結晶解析によって RT

のアミノ酸残基が作る親油性のポケットに4′位のエチニ ル基が丁度入り込む形でEd4TがRTと結合する と証 明された(7).1年遅れでE. MichailidisらによりEFdAを 用いて全く同じことが証明された(8).さらに,Michaili- disらは EFdAは,その3′-OH基と4′-エチニル基によ るRTとの結合が非常に強いので,最初結合した位置か ら次の基質を受け入れるための位置まで移動することが できないTranslocation-Defective RT Inhibitorである としている(8)

このように,新概念とすべての作業仮説の正当性が証 明され,さらに,3′-OH基が5′-OH基のキナーゼによる リン酸化を促進すること,4′-エチニル基がRTと特別な 親和性をもつなどの大きな幸運に恵まれて(Chance fa- vors the prepared mind),①耐性HIVを出現させない,

②AZTの400倍以上,ほかのRT疎外臨床薬の数万倍と いう極めて高い抗HIV活性をもつ,③毒性が低い,④ 生体中安定で長時間活性が持続する,EFdAを創製する ことができた.

メルク社によるEFdAの臨床試験結果

米国メルク社(MSD)はヤマサ醤油(株)とライセン ス契約を締結し,EFdAをMK-8591として臨床試験を 表14-エチニル-2-ハロアデノシン誘導体の抗HIV活性

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行っている.そのPhase 1, Phase 1bの結果がCROI2016 とIAS2017で報告されたので紹介する.

CROI2016での報告:MK-8591(EFdA)は経口投与 で速やかに体内に吸収されて,活性本体のトリリン酸

(TP)に変換される.TPの体内での半減期は約103時 間,10 mg一回の投与で10日間以上活性が持続する.臨 床薬であるTDF毎日300 mg, TAF毎日25 mgの経口投 与より,MK-8591一回10 mgの経口投与のほうがはるか に抗HIV活性が高い.TDFは約11日,TAFは約14日 で 耐 性HIVが 出 現 す る がMK-8591に は 出 現 し な い.

10 mgではほとんど副作用が見られなかった.固体状態 で投与する方法では1年に一回の投与で済むという結果 を得た.感染防御(prophylaxis)にも使用が期待でき る.

ISA2017での報告:IAS2017でlate-breaking abstract として発表された.MK-8591の最低使用可能量の研究 が行われ0.5 mgは一度の経口投与で少なくとも7日間活 性が持続する,MK-8591の優れた諸性質はHIV感染の 治療および防御にパラダイムシフトを起こす可能性があ る,との報告である.

おわりに

本研究は畑辻明東工大教授が代表の科研費重点研究

「核酸の構造と機能の有機化学的展開(1992〜1994)」の 金子主税東北大教授班の班員として,また生物学的評価 をアサヒビール(株)に依頼し共同研究として始めまし た.抗HIV活性試験は実吉峯朗教授(帝京科学大)を 通して馬場昌範先生(県立福島医大,現鹿児島大教授)

にお願いいたしました.しかし,数年でアサヒビール

(株)が医薬品開発事業から撤退したので共同研究が終わ り,次にヤマサ醤油(株)に生物学的評価を依頼しまし た.ヤマサ醤油(株)が抗HIV活性試験を満屋弘明教授

(熊本大,NIH)にお願いしましたので,筆者,満屋先

生,ヤマサ醤油(株)の共同研究が始まりました.

ヤマサ醤油(株)が私達共同研究者を発明者として EFdAの特許を取得しました.本研究は上記の先生方,

会社の皆様,私の研究室の学生諸君と多くの方々の協力 を得ることができここまできました.皆様に心から感謝 申し上げます.新概念と作業仮説が抗ウイルス薬の開発 に,EFdAが世の役に立つことを願っております.

文献

  1)  H. Ohrui:  , 6, 133 (2006). doi: 10.1002/tcr.20078

  2)  H. Ohrui:  , 87, 53 (2011).

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Matsuoka,  K.  A.  Kirby,  E.  M.  Ryan,  A.  M.  Sawai,  E. 

Nagy, N. Ashida  :  , 18, 35681 (2009). 

doi: 10.1074/jbc.M109.036616 プロフィール

大 類  洋(Hiroshi OHRUI)

<略歴>1965東京大学卒業/同年宇部興 産株式会社入社/1966年理化学研究所入 所/1971年農学博士(東京大学)/1981年 東北大学農学部食料化学科助教授/1997 年同大学大学院農学研究科教授/2001年 同大学大学院生命科学研究科教授/2008 年横浜薬科大学教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>抗ウイルスヌクレオシド薬 の創製<趣味>ゴルフ,テニス

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.833

日本農芸化学会

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参照

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